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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第八章・制空権を奪取しよう。

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第173話 騒動を鎮圧していく吸血姫。


 二番船の船籍を変更して一週間が過ぎた。

 その間はこれといって大した変化もなく日がな一日が漠然と過ぎていった。異世界の感覚で言えば二週間が無為に過ぎ去った感じとなる。

 私は船橋に控えつつ紅茶で口を潤していた。


「今日も暇ね」

「そうですね」


 ナギサは苦笑しつつも応じるが実際に暇なのだ。船籍を変更して二週間。船は相変わらず微速のままゆったりと進み今の場所でいえば騒ぎのあった地点と大して変化が無い海域を進んでいた。この大陸を知るリリナ曰く、現地の領主が少々変わり者との事で下手に刺激しない方が良いと提案され、速度を上げず帆船と同程度で進む事になった。

 結果、もの凄く暇であり、変わり栄えしない景色もいい加減見飽きた私だった。周囲では領主に命じられたのか知らないが、有翼族(ハーピー)達が引っ切りなしで監視しており、流石に面倒だったので夜時間の内に〈希薄〉して戦闘船速で逃げてしまおうかと思ったほどである。ただ、それをすると追いかけてくるとリリナから諭されたので出来なかった。この国の有翼族(ハーピー)達は無駄に速いらしいから。

 私とナギサは上部の監視映像を眺める。


「とはいえ、他国の船を無期限に監視するってどういう気持ちかしら?」

「警戒しているのでしょう。金属船はどこの国にもありませんから」

「そういうものなのね・・・それなら、最後尾から突いてくるアレらもそういう手合いなの?」

「かもしれませんね」

(もり)を引っ切りなしで撃っては跳ね返ってを繰り返しているけど」

「これは強度を測っているのかもしれませんね」


 ナギサは困った顔でそう応じた。

 それらは何度も種々の(もり)を放っては突いてくる。それでも跳ね返ってくるため最後は意地でも埋め込んでやるという表情が見てとれた。

 種族的には有翼族(ハーピー)よね。

 低高度しか飛べない者のようだけど。

 そんな(もり)に狙われる壁面上では──


「ていうか、手すりに飛ばせばいいのにね?」

「手すりが見えていないだけでしょう?」

「そんなに見えないものかしら?」

「鳥目って事じゃない。高すぎて見えていないだけかもしれないけど」

「これで高すぎたら船橋なんて見えてないのでは?」

「見えてないかもね〜。鳥頭だし」


 ナディとショウが呆れながら釣り糸を垂らしていた。するとルーが甲板上から顔を出した。


「呼んだ?」


 上は上で滑空大会に興じているようだ。

 軽く走って飛びチキンレースの要領で着陸するという有翼族(ハーピー)の遊びである。

 これも縦に長い甲板だから出来る事よね。

 他の者達も賭け事をしてるみたいだし。

 今はマキナの一人勝ちだけど。

 ナディとショウは呼んでいない者が来たとして揃ってツッコミを入れた。


「「ルーの事じゃないわよ!」」


 そんな甲板上下のやりとりはともかく。

 釣り糸が降りている下で(もり)を突く馬鹿共。

 釣り糸すら見えていない姿は滑稽だった。


「強度ねぇ。積層結界で防御されている事にいつになったら気づけるのかしら?」

「気づけないでしょうね」


 いやはや本当に面倒な領主だと思った。

 リリナが提案する理由が分かった気がする。

 延々と監視する。こちらの戦力を測るためか知らないが死角と思い込んで背後からちょっかいをかけてくるのだ。それこそ引き波で溺れさせてやりたくなるほどの低空飛行だから。

 この低空飛行を〈希薄〉したルー達が近くで眺め、新しい遊びを設けたのは複雑だったが。

 ただ、この動きを一週間も続けられるとこちらの苛立ちを誘っているように見えるのよね?


「これってもしかして」

「ですね。挑発のつもりでしょう」


 私はその繰り返しの行動から察した。

 ナギサもそれが思い至ったようである。

 私はやられっぱなしも癪だったため──、


「ナディ! ショウ!」


 最後尾で待機していた。

 もとい釣りをしていた二人に命じた。


『『は、はい!』』

「〈真偽鑑定〉併用で相手の思惑を盗み見なさい。悪人なら帰らぬ者とすればいいわ。善人なら記憶だけ奪って放置よ。どうせ疲れてボロボロだし勝手に帰るでしょう」

『『りょ、了解!』』


 二人は私に命じられた通り〈真偽鑑定〉スキルを用いて考えの読めない有翼族(ハーピー)達の思考を読み取った。これはまた・・・。

 善悪の分類は悪に傾き、ルー達を奪い取ろうという思考が見てとれた。リリナが言う面倒な手合いというのは領主が有翼族(ハーピー)だからだろう。人魚族の天敵そのものだものね。

 これにはユランスもお怒りのようで──


「ある意味で召し上がってくださいだって」

「魔の女神様も頭痛の種なのでしょうね」


 神罰という念話が私の元に届いた。

 私はそのうえで最後尾に魔力での文字を刻んであげた。ナディとショウが魂を頂く前に。


〈死して悔やみなさい─魔の女神─〉


 今回はユランスの名を借りる形とした。

 神罰の後に「神に弓引く愚か者」という言葉が届いたから。船名からしてユランスだもの。

 名前が出たとしても不思議ではない。


「あらら。あっさりと沈んだわね」

「体力も残ってなかったみたいね・・・経験値はそこそこだけど低空飛行系だからルー達にお裾分けしましょうか?」

「ええ。私達だと役に立たないし。こういうのは飛べる者に融通した方がいいし」


 ナディとショウはあっさりと己が得た経験値を手放し私を経由してルー達に分け与えた。

 ルー達は低空飛行中に分け与えられた事でスムーズに飛べるようになっていたが。

 一方、周囲で監視していた者達は文字列を読み上げたのち、戦々恐々で全員が飛び去った。

 私は〈遠視〉を併用しつつ相手の口を読む。


「原因不明の墜落。それと魔の女神様がお怒りだって・・・」

「本当は生死の女神様・・・いえ」

「いいのよ。どのみち喧嘩を売った相手が誰か理解すればいいから」


 するとリリナがようやく口を開く。

 先ほどまでは眠っていたようだ。暇すぎて。


「理解しますかね?」

「こればかりは領主次第ね? ただ、銀翼の同胞を奪う・・・か。明らかにルー達の事よね」

「どのような意図でそのような事を?」

「さぁ? 命じられた者は知らないようね。ただ、そういう風に命じていた記憶のみが残っていたから」

「領主は雄ですし、もしかすると嫁候補では」

「ルーにも選ぶ権利があると思うのよね・・・それにリョウは雄よ? 見た目は雌っぽいけど」

「元雌ですけどね。ゴウ君は?」

「自身の護衛に命じるとかあったわ。ルイは吸血鬼だから奴隷に落とせばいいとかね・・・」

「それはまた・・・」

「呆れてものが言えないとはこの事ですか」


 私とナギサとリリナはどうしたものかと話し合った。思惑が思惑だけに、もの凄い執拗に追いかけてくる事が読めたのよね。

 だから私は意を決した。


「幸い、監視網が破れたみたいだし」

「そうですね。この海域にも飽きましたし」

「走らせますか?」

「ええ。面倒事だという事は理解出来ているけど、これ以上絡まれるのもやりきれないからね。総員通達!」

「は! 総員通達!」

『現時刻をもって帆船偽装は中止とする。人員は本来の持ち場に戻り、戦闘加速に備えよ!』

「『了解!』」


 現状の見た目では足の遅い大きな鉄船だったが、この時より本領発揮とでもいうような魔力循環が船体各所で巻き起こり、灰色だった船体が完全なる銀色に染め上げられた。

 これも二番船から導入した硬度強化の結界が作用したためだ。今まで以上に高強度となるのはそれだけ船の速度が増したからでもある。


「硬度強化最大。いつでもいけます!」

「では一時的に嵐が起きるでしょうが・・・加速開始!」

「了解! 加速開始! 水流操作陣、五パーセントから五十パーセントに引き上げ!」


 直後、変わり栄えしない景色が一転した。

 ナディとショウは釣り糸を回収しつつ──


「みるみるうちに離れていく〜」

「これでも五十パーセントって事は」

「この倍は速度が出せるって事よね」

「それこそ外に居たんじゃ危ないから中に入った方が良さそうな速さよね?」


 甲板下から船内に入ろうとした。

 背後の景色を眺めながら。

 するとショウがなにかに気づく。


「これも周囲が積層結界で覆われてなければ落ちてたわね。確実に・・・あら?」

「気づいて一人で追いかけてきたわね・・・」


 それは最後尾から10メートル先だろうか?

 私達の船を追尾するように飛んできていた。

 これがリリナの言う面倒事そのものだろう。

 私が監視しつつ呆気にとられていると──


「あらら。一瞬で焼き鳥だわ」

「光線銃の使い方が雑ね? 誰が打ったの?」

『ルーだよ〜』


 指揮所に居るルーがぶち込んだらしい。

 加速中は監視台も封鎖だものね。


『雑で結構! 私達のお尻を追ってきたんだもん! ルイちゃんを奴隷に落とすというなら高熱で焼かれてしまえ!』


 そう、激怒したルーが使ったらしい。

 今は戦闘船速で兵装も全解除してるものね。

 攻撃の意思はなくとも害意を示されたから。

 ただね? ルーは少々やり過ぎた。


「光線銃を領主館にまで落とさなくても」

「あらら。火の手が上がって雷が落ちたって騒いでるわ。あそこが領主館だったのね・・・」


 怒りたい気持ちは分かるけどね?

 今日はお風呂で説教かしら?

 私は頭痛のする素振りのまま指揮所に居るルーに聞こえるよう一言添える。


「今日は羽根を全て(むし)ってあげましょうか」

『え?』

「頭以外はツンツルテンって事でいいわね?」

『あっ・・・す、すみませんでしたぁ!!』

「まずは怒りを抑える方法を学びなさい! 席を明け渡したフーコも同罪ね! フーコは頭を含めて全て除毛しちゃうから!」

『えぇ〜!? そんなぁ!』

きれいさっぱり(・・・・・・・)になって反省なさい!」

『『は、はい・・・』』


 最後は怯えた二人が現れたが、私は仕方なく自身の立場を燃え広がる領主館の空に示した。


〈生死の女神の御使いを奪おうとした者を此処に処す。転生は出来ないものと思え〉


 これを示さないとマグナ楼国(ろうこく)との戦争に発展するもの。それがあるから手出ししないよう気をつけていたのだけどね。船籍を与えてくれた国家に迷惑を与えてはダメね。

 それもあって領主館の下では騒ぎが起きた。


「せ、せ、生死の女神の御船ですとぉ!?」

「連れ去ろうとした者達は御使いだって・・・モテないからって余所から奪おうなんて死んで正解だったわね。低空族の馬鹿共が戻ってこないのはその所為(せい)ね」

「全く馬鹿な事をした領主だった」

「あんただって監視していたでしょう!?」

「お、おれは今日、ひ、非番だったし」

「非番だったから救われたわね?」

「ど、どういう事だ?」

「ミミィの旦那が目の前で黒焦げとなったわ。私と一緒に陸地で見てたから間違いないわ」

「うへぇ。俺は間一髪か・・・」

「あんたねぇ! 他人事のように・・・子供が幼いのに未亡人となった者の気持ちを!」

「す、すまん」


 あら? 今度は妻子持ち? 私は仕方なく黒焦げ魂を拾い上げ、元の身体を再生したのち魂を宿して、海岸で泣きわめく妻の元に返した。

 黒焦げ肉体は海の藻屑となって消えたけど。

 すると黒焦げだった者の妻が大慌てで──、


「か、帰ってきた!」


 領主館の側に走ってきた。

 喧嘩していた夫婦はきょとんとなる。


「ミミィどうしたのよ? 涙なんか流して?」

「か、帰ってきたの!?」

「「誰が?」」

「ライドが帰ってきたのよ! 目の前で黒焦げだったのに五体満足で砂浜に打ち上げられて」

「「はぁ!?」」

「救って頂いたのね。馬鹿な領主に使われたあの人を・・・私、改宗するわ! それと祖国にも帰る!」

「そ、祖国って・・・改宗って言われてもねぇ」

「確か、マグナ楼国(ろうこく)だったか?」

「ええそうよ! 風の噂で神殿が出来たそうだもの!」

「神殿って・・・まさか?」

「そのまさかよ! あの人の羽根を(むし)ってでも連れていくわ! 救われた命だもの使うなら神官にならなくちゃ!」

「おかーさん、とーさんは?」

「砂浜でおねんねしてるから起こしておいで」

「はーい!」


 結果的に信徒が増えたが、これはこれで仕方ないだろう。マグナ楼国(ろうこく)と戦争を押っ始められるよりはマシである。




  §




 その後のルーとフーコは見事なまでに涼しい見た目に変じ、いろんな意味で反省していた。

 私は風呂場で後始末をしていたが。


「スースーする・・・」

「羽根が無くなっちゃった・・・」

「フーコがつるっぱげになった! あははは」

「ユーコは笑い過ぎ!!」

「ルーも全身がツルツルだねぇ〜」

「あん! そこは感じるからやめて〜!」

「これに懲りたら余計な事をしない事ね?」

「「は、はい・・・」」

「ところでその毛と羽根はどうするの?」

「フーコの毛は筆でも作るわ。きれいな直毛だし。羽根は羽毛布団の中身にするわ。弾力があって暖かそうだもの」

「こういう時、フーコの直毛が役立つかぁ。一筆書きに向きそうな髪質だものね?」

「ルーの羽根が羽毛布団〜! 暖かそう〜」


 私は片付けを終えたあと、素っ裸のまましょんぼりする二人をみつめる。ユーコとコウは道具の使い道について話していたが。


「どのみち、あと数秒もすれば・・・」

「「あ!」」


 そう、神速再生のお陰で二人のツンツルテンが一瞬のうちに回復したのだ。ユーコ達は余りの出来事に唖然(あぜん)となる。

 フーコ達は(いぶか)しげに問い返す。


「な、なに?」

「どうしたの?」

「どれだけ剃ろうが(むし)ろうが、数秒足らずで元に戻るからね・・・。私の方で無効化したうえで処置したけど、有効化した途端にこれよ」

「すごい。これってみんなも?」

「そうよ。ユーコでも同じ事が起きるわ」

「前よりきれいな髪の毛と羽根が生えた〜」

「「え? どういう事?」」

「鏡見て驚きなさい。きれいになってるから」

「「? !!? な、なんで!?」」





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