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第172話 騒動の予感を感じる吸血姫。


「「「あっぶなかったぁ〜」」」


 甲板上にて突っ伏すルーとコウとルイはヒヤヒヤした素振りで声を揃えていた。眠っていると思ったけど、なにやら意味ありげな言葉を発したわね? 隣ではキョウとリョウとゴウが怒ったような視線を向けている。ゴウは妹に対して一言注意したいという雰囲気を醸し出していた。

 ルーは三人の視線に気づき──


「そ、そんなに睨まなくても・・・」


 怯えたように呟いた。

 今回の海賊船騒動の要因は有翼族(ハーピー)達にあるようだ。一々怒っても仕方ないので私は静観あるのみね? 彼らの記憶をわざわざ読みにいくのも面倒くさいし。


「睨まなくてもって・・・ルー達が魚の群れを追っていって、前方から来た海賊達に危うく捕まりそうになったからでしょう?」

「そうそう。連中は銀色の珍しい魔物が居るって騒いで、猟銃をこちらに向けたんだからね? 〈獣化〉した状態の私達って驚くほど目立つんだから少しは自覚を持ってよ。そうでなくても普通の鳥よりは大きすぎるんだからさ〜」


 そう、ぶつくさと理由を語るのはリョウとキョウだった。目立つねぇ・・・従来の魔物的な見た目を命じるしかないかしら? というか全員〈希薄〉してなかったのね。これも自由気ままに飛びたいとする本能が勝っただけなのでしょうけど。

 するとゴウがコウに向かって──


「そうだぞ。終いには海賊に水弾を撃ち込んだだろ? ああいう手合いは反撃したらダメだ」


 怒り心頭というよりは諭すように怒鳴った。

 コウはブー垂れながらそっぽを向いた。


「撃ってきた方が悪いじゃん! 積層結界で守ったとしても連射してきたんだよ。そんなに死にたいならって反撃した事のなにが悪いの?」


 コウはマジ切れの様相で反論した。これはいつもの間延びが消えた本来の喋り方である。ゴウだけに向ける喋り方でもあるが、ともあれ。


「悪いに決まってるだろ!! 心配させるな」


 それで追いかけるように向かってきたのね。

 私達が隷属させた鳥だと思って。あわよくば鹵獲というのはそういう事だったらしい。

 リョウは〈獣化〉を解き、ゴウ達を諭す。


「ゴウも落ち着け。反撃するのはいいが魔法が使える魔物という情報を相手に与えるのはかなり不味い。今回は主様が迎撃して完全に滅して下さったから良かったものの、私達だけでは執拗に狙われる事だってあり得るぞ?」


 その言葉を受けて三人は思い至ったらしい。


「「「あっ!」」」

「ようやく危険性に気づいたわね・・・」

「三人が強者であるのは分かるけど・・・」

「足下をすくわれる事だってあるからな? 慢心は命取りだと思え。不死者だからこそ捕まったらなにをされるか知れたものじゃない!」

「「「はい。すみませんでした〜」」」


 こうして三人は危険性を理解し〈獣化〉を解いた。キョウとゴウも〈獣化〉を解き、本来の姿に戻る。ルー達は上部監視台に居たはずだが迎撃前に降りてきたのだろう。鳥の姿だったからか焦ったようには見えなかったが。

 でも、危険ではあるわね? 全て滅してしまえば収まる話だが一人でも生き残りを残すとのちのち危険に晒される事になる。相手が悪人ならまだしも善人という対処に困る輩が「危険種が居る!」と報告でも上げた日には目も当てられないだろう。善意という名の余計なお世話で私達が危険に晒されれば最終手段を講じるしかない。あれだけは余り使いたくないけれど。

 私はトボトボと船内に入る三人と甲板上で打ち合わせを行う三人を眺めながら思案する。


(これは・・・今後の事も踏まえてなんらかの対処を施すしかないわね?〈獣化〉スキルを使う時は魔法禁止でも追加する? いえ、それをすると余計危険な目に遭うわ。それなら対人魔具を)


 これも一種の身を守る術よね。

 首へのチョーカーでも良いだろう。

 ナディとショウもあれからずっと着けっぱなしだし、同じ仕組みの魔具を全員に手渡しても良いかもしれない。主に〈獣化〉を多用する者達のみを優先して。首を狙われないように積層結界を魔具の周囲に展開させるようにして。

 私はその場で人数分のチョーカーを作った。

 ナディとショウは後ほど付け替えるよう指示すれば良いだろう。今は釣りに夢中だし。


「全属性の対人魔具を全員の亜空間庫へ送って。使い方はスマホに()せておけばいいわね」


 するとシオンに水着を着せ終えたマキナが私の隣に戻ってくる。先ほどまでは素っ裸のシオンに全身スーツの赤色横縞水着を着せていた。

 やりきったとでもいう表情のマキナが問う。


「お母様? なにを用意したの?」

「ん? 有翼族(ハーピー)達への小道具ね。先ほどの会話にあった魔法を使う魔物に関して魔具で行った風に偽装しようと思ってね」

「あぁ。先ほどの騒ぎってそうだったの?」

「ええ。〈希薄〉無しで飛ぶ者が居るみたいだからね・・・一種の自己顕示欲が出たのかもしれないわ。ルーとルイは元々レイヤーだもの」

「そういえばそうだった! ニーナやレリィに意識が向いてしまいがちだったけど・・・」

「今は自身がコスプレしたような姿だもの。他の方面に認識が向いても仕方ないわ」


 いや、ホント。忘れてしまっている者が多いが、ルーとルイはニーナとニナ、レリィとレイ同様にコスプレを行う者達だった。今でこそ〈変化(へんげ)〉で色々な姿に変じているが服装は個々の創造物であり〈獣化〉時以外は異世界の様々な服装で闊歩しているのだ。

 外に出る時はもの凄く目立つため、あえて町娘か魔導士の姿で出歩くよう指示しているが。

 私は全員分の魔具を用意したのち寛ぎの時間に戻った。


「今回はそれが原因だったらしいしね」


 マキナも寝転ぶシオンを眺めつつ応じる。


「ああ。海賊船がこちらに気づいたという訳では無かったのね。おかしいと思ったんだよ」

「こちらから視認するのは可能でも、あちらは近づくまで気づきもしなかったもの。探索魔法も変化無しで返ってくるから」

「六人が帰還した事で気づいたって事か」


 私はデッキチェアに座りながら隣に寝転ぶシオンの尻を軽く揉む。モチモチしてるわ〜。


「もし、今後も敵対してくるような輩がいれば滅すればいいわ。警戒して近づかない者は放置ね。友好を結ぼうと思う商人は甲板上で話し合いをすればいいでしょう。中に入れる事は出来ないけど」


 マキナもデッキチェアに座り、問い掛けた。


「そういえば一番船は甲板上に結界を張ってたけど、こちらは張らないの?」

「雨や嵐の日以外は張らないわ。前のような措置を執ると風を感じたくても感じられないし」

「ああ。もしかしてミズキの件もあるから?」

「それもあるわね。今は泳ごうとは思ってなくても、発作のように飛び込むから、あの子」

「可能性は無きにしも非ずだね・・・」

「しばらく嵐に出くわす事はないけど用心に越した事はないわ。それ以外で結界を張らないのも白兵戦を行い易くするためでもあるし。今回は一隻しかいなかったから消したけど追々数隻で迫ってきた場合は乗せる事も止むなしね?」

「・・・経験値稼ぎって事?」

「ええ。海上戦闘ってなに気に経験値が多いからね。足下が不安定だからこそって事よ」


 私はそうマキナに語り船橋窓の下で地平線の海を静かに眺めた。今はまだ小国連合へと向かう途上。そこに向かうには先が長く・・・定期的に襲い来るであろう海賊退治で暇潰しを行うしかないのだから。


「ホント、地平線しかないわね・・・西側は直ぐに陸地が見えたのに東側は陸地が少ないのかしら?」

「確かに少ないね。一度、南下して西側に戻った方が早かったかも・・・」

「そうなのね。でも・・・ミアンス達の触ってた魔道具には東側に大きな大陸があったような」

「え? それってどういう事?」

「実はね?」


 私はマキナに思い当たる節の理由を語る。

 それは先日の会合で知った世界の実情だ。

 その時には合国のある大陸から南東側に大きな大陸が存在していた。今は地平線しか見えないけれど。だから私は疑問に思ったのだ。

 実際に見た光景と管理魔道具との違いに。

 するとマキナはポンッと手を打ち付ける。


「あ! もしかしてマグナ楼国(ろうこく)と同じなのでは?」

「・・・そういう事? ということは結界で覆われている隠れダンジョンって事なの?」

「そうとしか考えられないよ? 魔族の国は他にもあるって聞いたし」


 私はマキナの問いを受け、ニナンスと共に訪れたユランスから頂いた船籍の一つを改めて選ぶ事にした。二番船の存在はその時点で気づいていたようだから。まだ竜骨段階だったのに。

 それは専用港に停泊させた一番船では賄いきれなかったため、船員の部屋をどうするべきかと思案していた時の事だったから。

 結果的に完成させて今に至るのだけど。


「なるほどね。それなら船籍変更してみようかしら。今は人族国家の船籍だから」


 今は合国船籍のままだ。

 一番船と同じ船籍が一つ。

 もう一つはマグナ楼国(ろうこく)船籍だ。

 マグナ楼国(ろうこく)も細い街道を南下すれば大きな交易港が存在している。途中には大きな跨線橋が存在し、その下を人族達に歩ませており、未だに気づかれていないらしい。

 肝心の港街は淫魔族達の住まう街だそうだ。

 私は船橋に戻り、船籍変更を指示した。


「合国船籍から楼国(ろうこく)船籍に切り替えて」

「どういう事でしょうか、主様?」

「少し気になる事があるからよ」

「はぁ? 分かりました。船籍変更急げ!」

「りょ、了解!」


 私は変更を見届ける事もないままマキナ達の待つデッキに戻る。それからしばらくして船体の船籍変更がなされた。

 直後、私とマキナはあまりの出来事に呆気にとられた。それは蜃気楼のように周囲の風景がジワジワと変化したからだ。


「これはまた・・・」

「はへぇ〜」


 シオンは妙に騒がしいためか起き上がり──


「どうしたのよ・・・はぁ!?」


 目を見開いて驚いた。

 そこには数多くの船舶が行き交い、こちらに気づいていた有翼族(ハーピー)達が複数飛び交っていた。すごい速さで飛ぶ怪鳥が素っ裸の同族となった事にも驚いていたようだが。

 この騒がしさも船籍を条件とし音封じがされていたからだろう。今は周囲が騒々しいもの。


「どこから見てもでっかい船だぁ〜」

「背後で猫と狐が棒きれ持ってなにかしてた」

「海賊船をやっつけた方法はなんだったんだ」

「あの人達・・・もの凄い魔力を秘めてる?」

「さっきまで人族船だったよな?」

「いや、天辺に魔神像があるから違うぞ」

「ほんとだ・・・一人は吸血鬼? 日中に吸血鬼が日の当たる場所に居る? どういう事だ?」

「あちらもこちらに気づいた?」

「これは・・・領主様に報告だ!」


 地平線と思われたのは全て大規模結界。

 人族船は結界を避けて通るように仕向けられていた。これも魔族国家の船籍としない限り見つける事の出来ない大陸なのだろう。

 その大陸の名は〈ニーユ大陸〉という。

 主権国家の名は〈ニーユ魔王国〉らしい。

 名称の由来を紐解けば二人の女神の名を冠したとあった。ニナンスとユランスかしら?

 姉神が後回しとされるのはダンジョン国家だから? いえ、色々と変遷があったようね。

 船橋でも同じ光景を目撃し──


「そういう事だったのですか」


 ナギサが唖然(あぜん)としていた。

 他の者達も同じであり、上部監視台に戻ったルー達は真っ赤な顔でポカーンだった。


「もしかして見られてた?」

「素っ裸を見られてた〜?」

「は、恥ずかしい!」


 三人は解除した後にそのままの格好で船内に戻っていたものね。キョウ達は即座に私服へと換装していたけれど。これも・・・どこに他人の耳目があるか分からないって事かもね?





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