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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第八章・制空権を奪取しよう。

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第170話 吸血姫は新造船で移動す。


 私達は叫び声のあがる本国を後にし──、


「適当なところで休息しましょうか・・・」


 東方国家ルンライの街中に入った。

 車列は元に戻し自動運転はそのままにした。

 幻惑で映し出す御者は適当な者としたけど。

 メンテナンス中のマキナは大活躍だった。

 それもあって盛大な褒美を与えた私だった。

 私とマキナはキャンピングトレーラーの天井に移動し、牛ステーキ肉を頬張っていた。


「うん・・・これ美味しい! もぐもぐ」

「そうね。素材の味が活きてるわ」


 ニンニク醤油が効いてて旨いわね〜。

 レリィにも褒美を与えないと!

 クルルと同じような下着がいいかしら?

 お尻に食い込・・・


⦅あんなエロい下着は要らないわよ!?⦆


 おっと、レリィからツッコミが入った。

 これは布生地だけとした方がいいわね。

 するとここでマキナがなにかに気づく。


「と、ところでお母様? あの人だかりは?」

「人だかり?」


 私は困り顔のマキナが指さす方をみつめる。


「王家は滅びた! 今こそ我らが国を動かす番だ!」


 大仰な素振りを示す神官が民草の前で宣言していた。巡教でもしていたのか隣には巫女っぽい人物が立っていた。あれはアインスかしら?

 私は神官の一言を受け、呆気にとられる。


(滅びた? クーデターでもあったのかしら)


 その後も彼の説法を聞いていると、私が想定外とする一言を発した。


「王家は勇者を利用し最後は罪を擦り付けた。そのうえ我らのクーデターを受け国外に逃亡しようとした。だが! 神は我らを見放さなかった! 我らが捕縛で追いかけた先、王族達が乗る船が港の奥底に沈んでいったのだ!」


 あらま? 結果を見ないとしていた船に乗っていたの? 罪を擦り付けたはいいが役立つとして壁役を願ったのね? だが、勇者は亡くなり勇者の肉体諸共船が砕けて沈んだ、か・・・。

 私は呆気にとられ、ステーキを皿に落とす。


「さ、先んじて片してしまっていたわね」

「お母様? なにをやったんです?」

「ルミナの彼氏を回収して」

打田流司(ウチダリュウジ)?」

「ええ。そのまま放置したら・・・ボカンと」

「あぁ! それで!?」

「あのタイミングでクーデターが起きていたのね。東西の国家が民主化か・・・」

「南北も滅びて共和制になるみたいですね?」

「あとは封建制を残した本国がどう動くかね」

「国力は低下してるし滅びるのでは?」

「それもそうね」


 やってしまった事は仕方ない。

 私達は神官達を見なかった事とし、そのまま海までの街道を進んだ。休息を入れるつもりだったが、自動運転が功を奏し予定よりも早く沿岸に着いた。東側は海が近かったのね・・・。

 というより海に近い街に向かったけど。

 私は沿岸に着くとイリスティア号を海に浮かべた。沿岸から甲板までは物理防御結界を張り巡らせ、一号車の上部に陣取り指示を出す。


「しばらくは海上よ。全員、乗船して!」


 そしてキャンピングトレーラー毎、甲板上部へと乗り入れ内部にある格納庫へと片付ける。


「な、なんか、様変わりしてないか?」

「大きさが前より・・・変化、してる?」

「というか・・・空母だよな、コレ?」

「船橋はどこいった?」

「端、端にあるぞ! 真ん中の端だ!」

「「マジで空母やんけ!?」」


 空母とか失礼ね? ただの揚陸船じゃない。

 たしかに形状こそ多少は変えたけど。

 というかこれは二番船なのよね?

 新規で建造した新造船ともいう。

 それは人員が増え過ぎて部屋が賄いきれなくなったから。当然、三胴船(さんどうせん)部分はそのままに横幅と前後を多めにとった。

 エレベーターはあっても、滑走する魔道具は鹵獲対策で用意していないけどね?

 ある程度、落ち着くまでは危険だし。

 私は甲板上で騒ぐ者達に違いだけ示す。


「船内はそのままよ。迷われても困るから。単に横幅が広くなって設備が増えただけだしね」


 他の面々は諦め半分の様相で船内に移動していた。騒ぐのは主に機械類の好きな男だけだ。

 元男のユーマはさっさと船内に入って各所を見学しているけど。困惑顔のユーコを伴って。


「そ、そのままって船橋部へはどう行けば?」

「メインシャフトを十字架状に伸ばしてるからそこを真横に突っ切ればいいわ。左右のフロート間を行き来するのは前と変わらないから」

「な、なるほど・・・というか十字架状って?」

「ああ。弾薬庫が前後にあるからね。前よりも長くなっているのはその所為(せい)よ」

「それって・・・?」

「だよな?」

「まぁ詳しく考えるより配置につこうぜ」

「「だ、だな」」


 三バカは思考停止を選択したようだ。

 今回の横断でかなりの人員も増えたが誰もかれもそんなものかと受け流していた。まぁ休暇として甲板上で自動二輪やら自転車が乗れるだけマシでしょう。上陸前から出してないし。

 それだけ多めに取った甲板だ。船橋部分も大まかな仕様に変化はなく、バラスト部も幅が拡がっただけで大差なかった。各部屋の位置も同じ、各設備も大体同じだ。唯一の違いは滑走路の前後左右に各五十個の蓋が備わり、落下防止の手すりで仕切られている事だけだ。これらも前後の弾薬庫から自動装填される特殊兵装だ。

 今は使う事が無い事を願いたいけどね?

 するとカナとソラは茫然自失となっていた。


「「こ、これをカノンの手で!?」」

「私も手伝ったよ?」

「「マキナも!?」」


 ナディとショウは妹達を放置し、そそくさと中に入ったらしい。妹達はマキナと共に甲板に設置したベンチに座った。今は出航準備に入っているものね。私とシオンもナギサと共に船橋に上がり、真新しい椅子の上で一息つく。


「まぁた、とんでもない物を用意したわね?」

「そう? 大まかには前と変わらないけど?」


 私達は船員達が各操作盤を触りながら準備するのを眺める。ミキは動力陣を操作し、コノリが探索陣を操作していた。上部監視台にはルー達が待機し、各甲板下や倉庫でも人員が行ったり来たりしていた。数人の非番員を除いて。

 船橋下にある指揮所の方も計器を眺めながらマリーだけがボケッとしたり、ハルミ達がリバーシーに興じたりしていた。

 厨房の方は施錠していた鍵を解錠し、以前と同じ調理具を取り出していた。大半は一番船と同じ仕組みだしね? 複製したような物だし。

 私は紅茶をナギサに淹れてもらいながら、呆れ顔のシオンの問い質しを聞く。


「変わらないって・・・結構変化があるわよ? そこの扉とか? 甲板上とか」

「そうね。船橋からデッキに出られるようにはなったわね。外階段で甲板にも降りられるし。甲板の下にも囲うように足場を設けているから、釣り糸を常時垂らす事が可能になったし」

「ナディさんが聞いたら喜びそうですね? はい紅茶です」


 私はナギサから紅茶を受け取りつつ、船体中に設置した監視カメラからの映像に気づく。

 船長や副長席。オブザーバー席の前方上部に設置した水晶板に各所の映像が映ったのだ。


「ありがとう・・・(すで)に釣り糸を垂らしているわ。釣り好き猫そのものね?」

「あらら。ショウも一緒に釣ってるわね」

「二人は非番ですからね・・・今回の功労者でもありますし」

「その妹達はマキナと談笑中だけどね・・・」


 私はあえて〈遠視〉せず数十秒単位で移り変わる監視映像のみに注視した。これも〈遠視〉ばかりを多用してもスキル封じを食らったらどうにもならないからね? そういう海域がこれから先・・・数カ所はあるそうだから。

 まるでそこがダンジョンであるかのように。

 その直後、各所の信号が青に変わる。

 船員の配置が完了したようだ。非番は除く。


「それでは出航しますか」

「ええ。次の寄港地は小国連合!」

「はっ! 微速前進!」

「微速前進・・・水流操作陣、五パーセントの出力で維持!」


 こうして我らがイリスティア号・二番船は処女航海と称して東側の小国連合へと向かった。

 一方、ベンチに座っていたマキナ達は──


「わわぁ!?」

「う、動き出した!?」

「スムーズな出航だよね〜」


 甲板上にて大騒ぎだった。

 未だに信じられないという素振りはカナ。


「ほ、本当に・・・」


 ソラも大差ない反応だった。


「動いた・・・」


 両者ともメイド服のままだが、尻尾が興奮したように揺れていた。


「ハリボテとでも思ったの?」

「だ、だってぇ」

「異世界の価値観がある以上は・・・ねぇ?」

「ええ。驚きの方が」

「まぁ誰でも一度は通った道だから、そのうち慣れるよ。お姉ちゃん達だって最後尾の脇にちらっと見えない? 釣り具の先端が」

「「え?」」


 そして姉達の行動を見て二人はきょとんとする。甲板隅に釣り具と糸がゆらゆらと揺れていたから。

 甲板下の椅子を取り出したナディ達は──


「走りだしがスムーズね?」

「釣り糸が絡まない配慮でもしてくれたのかしら?」

「そうかもしれないわね〜」

「あ! 漁民達がポカーンだわ!」


 のほほんと引き波の中、離れる大陸を眺めていた。この時点で船体の〈希薄〉は完全解除され灰色かつ巨大な船体が各所で目撃された。


「引き波で揺れ揺れね〜」

「暖機運転後はもっと引き波が出るけどね〜」

「あ、今度はルンライの沿岸警備が来たわ」

「クーデターがあっても活発なのね」


 こちらもイリスティア号同様、探索魔法には一切引っかからない最新鋭のステルス船だ。


「そ、そこの大型船! 即座に停船しろ!」


 視認されるまでは誰にも気づかれる事はなかった。視認した途端、停船勧告を突きつけてきたけど帆を張ってる船には見えないわよ?

 この船は幻惑魔法を一切使ってないもの。


「停船しろと言われて止まれる物でなし」

「引き波にあおられてアタフタしてる〜」

「でもこの二番船は大型船に入るのね?」

「前後に長くなったらしいからね。横幅も甲板の分だけ拡がったそうだし」


 ナディとショウはケラケラ笑いながら引き続き釣りに興じた。その背後では応援を受けた船艇が十隻に増えていた。


「止まれ! 止まらないと沈めるぞ!」


 ナディとショウは呆れた表情を示した。


「あれって私達に言ってる?」

「多分? 今は人化した状態だし・・・」

「この釣り糸が見えないのかしら?」

「この状態で操船してる風に見えるって・・・」

「「バカよねぇ」」


 その直後、沈めると発した船艇から火弾が撃ち出された。ナディ達は即座に釣り糸を回収する。そして積層結界を展開し黙って見守った。

 火弾は船体側面に当たり海に落ちる。

 私は命知らずが居たものだと思い甲板後部にある各五門の兵装にのみ魔力充填を開始する。

 火弾を撃つ魔導士達は船体が燃えないとして引き続き撃ち続ける。そんな火力じゃ穴も開かないわよ。ドラゴンのブレスでも耐えるのに。

 連撃が終わる頃合いで魔力充填が完了し十個の蓋が一瞬で開きミサイルが打ち上げられた。


「あらら・・・初っぱなから使った!」

「なにあれ!?」

「ミ、ミサイル?」

「積層結界を張る機能付けててよかった。そのままだと暴風で飛ばされて海に落ちてたよ〜」

「「は? なにそれ!?」」


 打ち終わった後は蓋を閉じ、次弾を装填しておいた。使わないで居たかったのに〜。


「喧嘩を売る相手を間違えた者の末路ね」

「見事に船が消えたわね〜。沈めると言った者が沈められれば世話無いわ〜」


 その後、船の船速が跳ね上がり小さかった引き波が大きくなった。海に投げ出された者達は大いに揺られ、漁民達に救い出されていた。


「な、なんだったんだ・・・」

「火弾は弾かれ、未知の弾幕を与える船?」

「なぁ? あんたら、あれは鉄でねぇか?」

「は? 鉄の船って聞いた事ないぞ?」

「いやだってなぁ? 帆が無いぞ? 真上が平らだ。尖った部分は不思議な膨らみがあるし」

「なんだあれ? あんな船、見たことないぞ」

「どうやって走ってるんだろうな? 帆船であったとしても今の風だけではあれだけの巨体は動かんぞ?」

「お、俺たちは夢でも見てるのか?」

「夢なら海で溺れてないだろ?」

「夢じゃない・・・だと」





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