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第166話 作戦準備と吸血姫。


 その後、朝食を終えた私達は合国内を突き進む。途中に国境門もあったが街道脇から亜空間の門を開け入税を支払わず不法入国した。

 これから滅ぼす予定の国家に払う必要はないでしょう? 余計な軍資金を与えるだけだし。

 私はハンドルを握りつつボソッと呟く。


「最初からこの方法を採れば良かったわね?」

『そうですね。とはいえ国境沿いに近付かない事には判別出来なかった事も確かですし』


 それに応じたのは二号車のナギサだった。

 今日は全員が一回ずつ運転を行う事になっている。それは一人運転で進めない距離だから。

 いつもなら上界に上がる者達もキャンピングトレーラー内で待機している。一号車なら私、マキナ、ナディ、ミズキ、アナ、ミズカというようにローテーションを組んで走り、二号車ならナギサ、フーコ、ユウカ、キョウ、アキ、アイミの順番で交代するのだ。それは他も同様に運転可能な者がハンドルを握る事になる。

 助手席には次の運転者が待機しており──


「完全に安全かどうか判断出来ないと無理だったかもよ?」


 マキナが困り顔でナギサの次に応じた。

 後部座席にはナディとミズキ、アナとミズカが座り、前方の車窓をジッとみつめていた。

 なお、ルミナは尻尾が邪魔で運転が出来ないので今はリリナ達と共にプールに浮いている。

 尻尾の浮き輪でプカプカと。私は前方を歩く商人達を避けながらマキナに応じた。


「それもそうね」


 この挙動は全て同じという訳ではなく途中で悪徳商人や貴族が居たらバンパーに新規設置した〈指向性魔力還元陣〉で召し上がったりした。避けるのは面倒だもの。

 そう、背後から追突して消し去ったのだ。


「あっ! さっき合国の姫の背骨が見えた!」

「あら? 気づかない内に消しちゃったわね」

『意図せず滅してしまいましたね〜』


 するとサーヤが思い出しつつ応じる。


『クルルの紫ブラをティアラにしてた子?』


 次いでサヤカが同じように思い出す。


『制服を奪って魔改造してた子だっけ?』


 姉妹揃ってボケなくてもいいのに。

 これも元々が同じ人物だからだろうけど。


『そうそう。そうだった!』


 マキナはボケた二人にツッコミを入れる。


「残念。ブラティアラの第二王女だよ〜」

『あぁ・・・制服の方じゃなかったのぉ』

『サ、サヤカ、ドンマイ』


 オチはクルルが苦笑しつつ慰めた。

 クルルは自身の事がネタなのに。

 これは紫ブラを贈ってあげましょうか。

 紫ブラはタツトの好みかしら?

 それからしばらく走ると今度は前方から大仰な馬車が向かってくる。


「と、止まれぇ! そこの荷馬車止まれぇ!」


 と、言われて止まる訳がなく──、


「「「ぎゃー!?」」」

「ひ、姫様達が消えた!?」

「こ、こっちに来るぞぉ!?」


 次から次へと消していった。

 逃げ惑う衛兵は別途展開した広範囲還元陣で。

 迎撃中の魔導士は空間圧縮で滅した。

 この国には民草を消されているからね。

 これは過去から続く弔い合戦でもあるのだ。


「あ! 今度は第一王女の乗った馬車と衛兵達が消えてった。一緒に第二王子も居たみたい」

「王宮のゴミ掃除第二弾ね!」

『カノンさんぱねぇ!』×5

「掃除出来る時に掃除しておかないと。後から襲ってくる事もあるからね?」

『このまま勢力図を塗り替えましょう!』


 というように街道を進む大仰な馬車群を消し去っていった。この時期は社交界シーズンなのだろう。城に留まって居ればいいものを他領に出向いて政治ゲームをやっているのだから。

 国王が地下に雲隠れし、王太子が好き勝手行っているのだろう。それこそ王太子が消えて居なくなれとでもいうように、あちこちの勢力の元へと馳せ参じていた王女達だった。

 私は蛇行運転を繰り返しながら呟く。


「今までの経過で知ったけど・・・代行者を知らない国王達も居たのね?」


 それは消していった中に他の国王が居たからだ。無駄に多い国家群。そのどれもが異様な光景であろうとも屈しず、立ち向かってきた。立ち向かった矢先に消えていれば世話無いが。


『そうですね。あれらは元々公爵位だった者達が興した国だそうで、知っているのは極少数のようですよ。合国では本国の国王と教皇のみのようですが。他国なら皇帝なども雲隠れしているようですね』

「なるほどね。隠れるなら隠れるで伝えておけば良いものを・・・それで魔導士長などは?」

『存じてないですね。中枢を担う者のみに伝えられる伝記のようなものですから』


 ナギサはアインス達から聞いたであろう情報を明かす。私が聞かない限り言わない辺り、そういう風に指示されているのだろう。これも〈魔導書(アーカイヴス)〉と同じで、知りたいと思わない限り分からない物らしい。

 それは興味津々時のミアンスを参考にしないとダメなのだろう。


⦅悪かったわね!⦆


 おっと、ミアンスからツッコミが入った。

 私は運転しながらだが、スイートポテトのレシピをユランスの元に転送した。

 それを受けたミアンスは感激の念話をした。


⦅お芋料理!! ありがとう、姉上!⦆


 全く現金な事で。この時の私は運転しながら代わり映えしない光景を眺め、並行して色々作った。消したとはいえそれは肉体だけだ。

 それらの魂は回収済みであり──、


「お、お母様? 背後から来るスケルトン軍団はなんですか?」


 マキナだけがその存在に気づいたらしい。

 頬を引き()らせ唖然(あぜん)としていた。

 私はサイドミラー越しに軍団を眺める。


「ああ。消した王族やら衛兵のアンデッドね。魂を転生させないで、王太子や魔導士長の提案に乗っかった事を後悔させるように仕向けて、王宮のみをぶっ壊せと命じたのよ。存在しないダンジョンへと向かう妄言のために各国を滅ぼそうとしている現実を伝えてね? 端から見たら私達が追われてるようにも見えるけど・・・」

「た、確かに・・・」

「今が夜時間だからこそ異様な光景よね?」


 そう、ガシャガシャと足音をさせつつ私達を一生懸命、追いかけてくるスケルトン軍団。

 その実、骨は白色に塗ったアルミニウムだ。

 カルシウムの塊と思うなかれね?

 馬もスケルトン、国王の乗る馬車も骨製だ。

 これも王宮破壊後はダンジョンの徘徊モンスターに早変わりさせる予定である。


⦅モンスターの提供ありがとうございます!⦆


 ニナンスからも感謝された件。

 すると後続の面々も驚いたように──


『先頭に居るのは第二王女ですね・・・』

『私のブラがティアラになってるぅ!?』

『き、消えたはずなのにどうして?』


 それが誰なのか気がついた。

 先ほども話題に出てたしね?

 ただ、この時のタツトが青白い顔になってるのが不可解だったのよね。だから私は・・・。


「あえて頭に乗せてみた!」

『わざとなのぉ!?』

「知ってる者が見たら一目瞭然でしょう? 普通に見たらドレスを着た骸骨そのものだから」

『あ、そういう事・・・?』

「ええ。クルルのブラは別に作って贈ってあげたわ。上下のソング下着で!」

『あ、ありが・・・って、なにそのマニアックな下着はぁ!?』

「それでタツトを元気にしてあげなさい。彼ってスケルトンが苦手だったのね・・・」

『あっ! 大丈夫?』

『な、なんとか・・・あ、あとで・・・』

『ええ。癒やしてあげる。新しい下着で』


 これもなにかトラウマがあるのだろう。

 クルルは知っているようで運転しながらではあるが、後部座席のタツトを慰めていた。

 それからしばらくして──


「全車〈希薄〉準備!」

『了解!』

「3、2、1、今!」


 休憩に入る前にスケルトン軍団と別れる事にした。あれらは隷属が効かないモンスターだ。

 今は生死神の命令のみを聞く死の軍団ね?

 このまま先んじて合都に入ってもらい阿鼻叫喚の坩堝に変えてもらう予定である。

 たちまちは王族以外の骸骨はスキルと魔法が使えないだろうけど、それは追々という事で。

 私達は車を降りて一旦休憩に入る。


「おー、離れていく〜」

「総数はざっと千は居るでしょうか?」


 タツトとクルルはログハウスに戻った。

 これから新しい下着で添い寝するのだろう。

 運転はシロが交代しゴウが助手席に座った。


「大まかに見てそれくらいは用意したわね。骨格は男女別に用意したものだけど、顔の作りだけは自分で弄ってと命じたわ。私が元の顔を知らないから」

「「なるほど」」


 休憩を終えると再出発する私達だった。

 そして今度は助手席に座るナディが気づく。


「あ、主様? 後ろから来るのって、まさか」


 私は後部座席にてニコニコと微笑む。

 言わずとも分かるでしょう?

 マキナも苦笑しつつサイドミラーを見た。


「今度はドリュアスですか・・・」

「そうよ。元魔導士の魂を分割した人格無き木の魔物ね? 魔法に長けた者達で火耐性を与えているから簡単には燃えないわよ?」


 そう、根っこをズリュズリュと引きずりながら背後から向かってくる千体の魔物。炎を与えられると反撃してくる手合いの魔物だ。水と土の魔法を加えると身体だけが増殖する。

 弱点は酸と風と乾燥攻撃ね?

 なお、先ほどの骸骨も弱点は打撃である。

 アルミニウムだから簡単に折れ曲がるのよね。その代わり燃やそうものならドロドロに溶けて神官達に纏わり付いて一緒に灰になるの。

 これがダンジョンなら魂と身体が保管されるから復活するけどね?

 そんなやりとりはその後も何度も続き、合都の周囲に着いた頃合いには、疲弊したかのような正規兵達が複数の魔物軍と相対していた。

 私達は〈希薄〉したままその様子を眺める。


「総数一万の魔物軍。(すで)に入ったスケルトンが王宮で戦闘しているようですね。ちらほらと骸骨と戦う兵が見えます」


 ナギサはそう言いつつ、目元から双眼鏡を外す。今は〈遠視〉スキルすら使えないのだ。

 合都の周囲・・・15キロ前から結界の範囲に入っており、ナギサ以外のレベル220以下の者達はログハウスで待機していた。

 そして220を少しでも超えた者はその場で待機している。リンスとユウカもね?

 なお、私達の〈希薄〉はこの世界のスキルと見做されておらずそのまま使う事が可能だ。


「壮観ね・・・」

「ですね。人族があれだけの建物を用意するとは」


 リンスは王城を見てウットリしていた。

 私が言うのは埋め尽くす魔物の事だけど。

 私はスマホの時計をみつめつつ──


「あと数刻したら発射しましょう」


 車輌の最後尾で待つマキナに指示を出す。

 マキナは(すで)にミサイルランチャーを展開済みであり、今か今かと待っていた。


「各結界石への照準、魔力充填完了! いつでも撃てるよ〜!」

明空(あけそら)から日付が変わったら発射して。人族共の目覚まし時計にするから!」

「りょうかい!」


 今回の移動は実質二日ほどかかっている。

 あれからそれだけの距離があった。

 異世界なら数時間で到着する距離なのだけど舗装されていない道や、途中にある貴族街を迂回せねばならず無駄に時間が掛かった。

 あまり飛ばしすぎても怪しまれるしね?

 それまでの間に結構な貴族が死亡したが。

 途中からはトレインと思われていたかもしれないが魔物の軍勢は合都に一直線だった。





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