第162話 異世界の戦術を扱う吸血姫。
一方、カノンがナディ達と妹分の教育を施している最中、シオンの方でも動きがあった。どうも、お久しぶりのミアンスです。実はカノンからのツッコミを戴き知らないと返したのは訳がありました。それはアインス達と交代する形で下界の管理を行っていたのです。ユランスもニナンスの元に出突っ張りですしね?
以前、契約魔法を作るとアインスは言ってましたが、あれって結構大変なんですよね。完全に穴を埋めないと埋めきれていない穴で悪用されるから。その穴に私が埋められるというオチもありましたし・・・。
コホン! それはともかく!
シオンはナギサと共に監視室から外を覗き見る。これは使い魔でも飛ばしているのかしら?
「ようやく双方の衝突が始まったわね!」
「ショウさん達の策略が無事に機能したようですね。勇者達の亡骸を相手の陣地に送りつけるとは。しかも気づかれるタイミングを予見して、それまでは隠蔽結界で隠して」
「狐達の化かし合いはホント油断ならないわ」
一方、二人の目前に座るニナとレイ、ルイとマリーが忙しなく黒いレバーを動かしていた。
彼女達の目前には水晶板があり各地の映像が映っていた。遠方に人員を数名配置してる?
「ドローンからの詳細映像がきました!」
「双方の指揮官を拡大しなさい」
「「はい!」」
ドローン? 使い魔ではないの?
それは風と浮遊魔法で動く四角い箱だった。
色は黒。夜に紛れるには丁度良い見た目だ。
ニナとレイは〈支援〉と書かれた画面を動かし、ルイとマリーは〈偵察〉と書かれた画面を動かしていた。そこには敵兵の指揮官達の怒り狂う姿が映し出されていた。
ニナとレイは俯瞰の映像を表示させる。
シオンは沈黙しナギサは神妙な様子でみつめる。
「・・・交互に砲撃戦を行うみたいですね」
「ターン制のルールでもあるのでしょうか?」
「マリーさんの疑問は最もなのですが・・・」
するとナギサは憤りのある顔になる。
マリーは沈黙し続きの言葉が出るのを待つ。
「私はこれをこちらでも見る事になるとは思いもよりませんでした。召喚時には剣と魔法の世界と聞いていたので少しガッカリですね?」
「・・・そういえば異世界と大差ないですね。戦地でも最低限の砲弾以外は剣や魔法が飛び交ってましたが」
「そうです。ですが・・・今の彼らは完全に砲弾ありきの戦闘を行うようですね。抜剣せず杖も持たない。どこに飛ぶかも分からない鉛弾の撃ち合いです。それこそ照準を定める気がない広範囲爆撃の様相が始まるようです」
そう、ナギサは残念そうな表情に変わる。
確かに剣と魔法の世界だと定型文で言ってた気がする・・・姉上は。私は言ってないけど。
すると沈黙していたシオンが口を開く。
「これは過去の武装そのものだわ」
「やはり二千年前も?」
「ええ、これに撃ち抜かれて亡くなった者が沢山だったわ」
シオンは沈痛な面持ちで画面をジッと見る。
ナギサは残念そうな表情から真顔に戻る。
「そうでしたか・・・二千年間変化なしと。それなら今回は丁度良いお披露目ですね?」
突如、微笑みをシオンに向けて問い掛けた。
カノンが居る!?
ナギサの奥にカノンの顔が!!
⦅居ないわよ!? バカ言ってないで監視しなさい!⦆
おっと、カノンからツッコミが。
シオンはきょとん顔でオウム返しした。
「おひ、ろめ?」
シオンはなにも知らされていないらしい。
水晶板には数多くのリアルタイム映像が映し出される。これは姉上が用意した記録水晶と同じ物が使われているわね?
今回は誰もが〈遠視〉スキルを用いる事がないまま個々に黒い特殊な道具を持ち込んでいた。
これはかなり興味深いわね? 他意はなく。
そのドローンなる箱の下にはシンとケンが迷彩柄の服を着て木々の中に隠れていた。
「目標は残り10メートルで射程に侵入する」
『了解! 遠距離砲撃用意!』
これはエルフだからこそ出来る姿ね?
普段は昼行灯のごとくのほほんとしている二人だけど、今日はいつもよりかっこいいわね?
「つか、ここに来て現代戦を始めるってどうなんだ? 〈遠視〉スキルがあるのに双眼鏡を使うなんて?」
「俺達は観測員だから黙って仕事するだけさ」
「そ、それはそうだが・・・」
「本国を想定しているだけだろう? 無駄に近代化している割にあちこちに魔法やスキルを妨害する結界だらけだ。どこからそれだけの魔力を得ているのか不明だが、内部でスキル使って蜂の巣なんて事もあり得るからな?」
「だからあえて異世界の戦術を持ち込んだと」
「これも演習なんだろ。本番前のな〜」
「俺達の主人は用意周到だわ〜」
なにかしらの意味深な言葉を口走ったわね?
一方、マキナ達は彼らとは別に拠点近くの森に待機していた。街道上には荷馬車がスッポリ入る大きな箱がところ狭しと配置されていた。
「用意の指示が出たね?」
マキナは念話を受け取ったのか箱の側面に触れ箱の魔法陣を起動させる。すると箱の上部が持ち上がり回転するように細長い箱が展開された。これってあれよね? 姉上が作ってた?
その箱を見たシロは呆気にとられていた。
「まさかミサイルランチャーが現れるとは」
「今回は移動しながら砲撃戦を行う者達を遠距離から狙い撃って死滅させる作戦だもの〜。仲裁すら聞かない分からず屋にはこれが丁度良いでしょう?」
「た、確かにそうだが・・・照準は?」
「上空をドローンが飛んでるでしょう?」
「ああ! そういう事か! じゃあ、遠距離から局所的な砲撃をすると?」
「そ。今回は都を相対するときの演習だね。あの都はスキル封じと魔法封じの結界が常時展開されているでしょう? 許可を出した者以外は魔法行使すら許されていない。例外はギルド本部と騎士団の詰め所の演習場とレベル220以上の者だけね。その要となる結界石を遠距離から狙い撃って破壊する事が最初の目的ってわけ」
「確かに、そんな物があったな・・・位置は?」
「おおよその位置は私が調べてるよ。移動の利くような代物じゃないから、それそのものは動かない的だね〜」
そう、マキナはあっけらかんと語る。
今回は演習であると。掃討戦とも言っていたが本来は練習代わりとしたようだ。
確か、あの都は地下神殿の結界に護られているのよね。下限レベルが220縛りの。
召喚当時、本体だけが250だったマキナは当たり前に魔法行使していたけれど、それ以外の者は行使すら不可能な都市だった。
結界石を破壊する・・・か。今回はニナンスの許可を得てるのね。納得だわ。肝心の修復はカノンが行うのでしょうね。
「外側なら問題にならないんだけどね? レベル30制限があるだけだから。それに反して都はガチガチの結界に固められたダンジョンそのものだから、全員で侵入してシッチャカメッチャカするには、影響を受ける者が多数いるでしょう? 目的のための陽動が動かないと侵入すら叶わないからね。今回は奴らの要を破壊する事にあるから」
「要か・・・それが本来の目的だったな」
その間もマキナは次々と箱を起動させる。
全部で六箱。中身は三百発もの円柱形が入っていた。シロは背部にある蓋と繋がるレバーを下げる。それは安全装置なのだろう。
マキナは全ての箱に杭を打ち込み、シロと共に街道脇に設置した塹壕へと入る。
「うん。本来の目的はそれね。魔力ありきになってレベルアップしないバカ達への罰。お?」
するとマキナはなにかに気づく。
シロは〈魔力感知〉スキルで魔力充填率を把握しつつ応じる。
「どうした?」
やはり姉上が用意した代物と同じ部類ね。
弾頭は・・・還元弾頭じゃない!?
姉上ってば、まさか・・・教えてたの!?
コホン、失礼。これは後で説教だわ。
マキナは苦笑しつつもシロに応じる。
「ナディとショウが・・・冗談抜きでレベルアップしてる」
「は? レベルアップだって?」
「うん。きっちり30も増えてるね? 上でなにか美味しい事でもあったのかな?」
「マジか・・・突き放される感がしてくるぞ。俺等のパーティー、女性陣が強すぎる・・・」
「筆頭がお母様だからってのもあるけどね?」
その直後、監視室から指示が飛ぶ。
『全目標が射程に侵入! 照準合わせ』
マキナ達は魔力膜越しに照準を指定する。
「照準合わせ・・・うへぇ。広範囲〜」
「数で物を言わすってか・・・発射準備完了!」
『了解! 別命あるまで待機!』
マキナは塹壕内でへたり込む。
そして胸を弾ませシロと共に夜空を見上げる。
「残りは監視室がトリガーを引くだけだね」
「実に呆気ないな。ここが一番の安全圏か?」
「そうでもないよ? 失敗して迎撃されたら」
「そうだった!? 一番危険じゃねーか!」
「でもその前に・・・粉塵に紛れて〈無色の魔力糸〉で手当たり次第戴く事になってるから。迎撃以前の話だと思う。それに爆心地の数10キロ先に陣取るミズカ達やユーコ達が経験値稼ぎで出向いているしタツト達も後詰めだし」
「そ、それって、俺等は?」
「数が数だから全員で戴けってさ!」
マキナの一言を受けたシロは大喜びで立ち上がる。
「おっしゃあ!」
その直後!
『発射!』
監視室からの命令が飛び──
「わぁ!? 危ない!」
マキナは慌ててシロを押し倒す。
塹壕の外では魔力爆発かという程の暴風が吹き荒れていた。
「おぉう!? スマン! つか柔らけぇ・・・」
「あん! ど、どこを揉んでるの!?」
「マ、マキナのおっぱい?」
そう言いつつ、シロはのそのそと後退する。
マキナは胸を抱き、恥ずかし気に宣言する。
「もう! 今回限りだからね? 次揉んだら雪に告げ口するから!」
「!!? す、すみませんでした!?」
事故からのラッキースケベ。
最後は彼女の名前を出され、その場で土下座したシロだった。この時のマキナは逆に嬉しそうだった。嫌々感が無いのは戯れ程度でも触って欲しかったのかしら? とはいえ、あの憑依体でシロが無事なのは良かったわね?
本来なら消し飛んでもおかしくないもの。
その後、一千八百発もの円柱形は暗闇を進み、見事・・・合国軍の只中へと落ちていった。
兵士達は目に見えない暴風に晒され、装備やら武器が消え去る様を見せつけられる。そして不意打ちの酩酊感に襲われ幸せの渦中に居ながら眠るように死亡した。肉体は魂が消え去ると同時に魔力還元され、その魔力も吸われるように消え去った。
そんな死刑を執り行ったミズカとマーヤ、ルミナとフーコ、ユーコとユーマは〈希薄〉したまま大興奮だった。
「「「あまーい!」」」
「今回も経験値ごちそうさま!」
「やっとレベルアップした!」
「女の子の経験値うまー! レベルアップうまー! 180に上がってうまー!」
「フーコもたまには男を食べればいいのに。女性騎士って、そんなに経験値ないでしょう?」
「それは嫌! 私のポリシーに反する!」
「じゃあ、身体的には? 真剣な顔のリョウをみつめてる事が最近多いでしょう? 異性に興味があるんじゃないの? リョウは元々女の子だけど」
「そ、それは、その、あの・・・あ、あるよ?」
「変なところで乙女にならないでよ〜。モジモジフーコとか気持ち悪い〜」
「乙女だよ! 気持ち悪いって言わないで!」
「おっさん女子がなにか言ってる・・・」
「ユーマも!? おっさん女子じゃないもん!」
フーコって百合に逃げてるだけかしら?
完全な百合と思ったら興味はあるらしい。
やはり本能には逆らえないのだろう。
どうもカノンの眷属で完全なのはカノンとユウカだけのようだ。
⦅百合で悪かったわね!⦆




