第155話 眷属に褒美を渡す吸血姫。
私は偵察に行って勇者を片付けていた眷属達に呆れていた。
「まったくあの子達は・・・」
馬の片付けが終わったあと警邏班と共に夜食を作っていたのだけど、突如勇者死亡の通知が転生の渦を経由して入ったのだ。
今はマキナもシオンも寝床につき、主なる転生作業は私が行っていた。それも警邏班、リョウとゴウ、アコとココの四人の目を盗みつつ。
空から警戒する二人と陸上で警戒する二人。
これも今回から〈獣化〉というスキルが付与されたお陰で必要最低限の人員で済んだのだ。
「まぁ意図せず邪魔者の総大将を消した件は不問としましょうか。結果的に疑心暗鬼となって自滅フラグを押っ立てたみたいだし」
私は魔力膜を展開させながら、亡くなった変態共を最初期に消え去った淫魔族として転生させた。あの者達も行方不明という扱いだったようだし丁度良いだろう。魔法が使えなくなっているが後遺症として判断されるだろう。
中身は別物だけど。その後の私は〈遠視〉しつつ夜食のスープにオマケを追加した。
「ナディ達はあと少しで戻ってくるわね。ショウ達は〈変化〉を駆使して欺瞞情報を撒き散らしていると・・・狐様々だわ。これは念話で褒美を伝えましょうかね〜」
オマケといっても、片付けの後に出てきた牛型の魔物肉よ? 体長が数100メートルはあろう大きな魔物。どこに隠れていたの? と思うほど大きな魔物だった。
おそらく近くに巣があったのだろう。
名称は〈ダーク・タウロス〉。
夜が深くなる頃合いに活動を活発化させる牛型の魔物らしい。闇色の体毛を纏い寝静まった人族を一瞬で屠る魔物だ。探索者および冒険者ギルドでの分類は〈討伐不可〉であり災害級のドラゴンに次いで天災級と認定される魔物だそうな。ドラゴン以上の魔物っていたのね?
陸上を支配する大型魔物という事だろう。
出くわしたら最後死あるのみという扱いだ。
それでも時折、死骸から獲れる熟成肉が出回って珍重されるそうで食材の分類は最上級となるらしい。誰を食べたか分からない牛肉を食う人族・・・実に野蛮極まりないわね〜。
これも近くに大群が留まっているため襲いに向かう途中だったのだろう。残念ながらそれは私達の餌なので討伐と称して極上肉と毛皮を戴いた。骨も素材に使えるしね?
今は牛肉が少なくなってるから大助かりね。
しかも二体も現れたから、しばらく牛肉には事欠かないわ。総重量が数百トン。臓物まで含めると相当数の肉が獲れた。当然、汚物もあったけどすべて魔力還元で消し去った。
肝心の風味は小型の牛型魔物よりも凝縮されて美味しかった。
解体途中で味見した限りの感想ね!
⦅ショウ達には褒美で牛肉ご馳走しちゃう!⦆
⦅⦅!?⦆⦆
⦅主様、私達は!?⦆
⦅ナディ達のもあるから安心なさい!⦆
⦅⦅やったぁ!⦆⦆
⦅しばらく牛肉には困らないから〜⦆
⦅頑張った甲斐があったぁ!⦆×4
私は帰還中の面々が戻ってくるまでの間に肉の下処理を済ませる。割り下を用意して野菜類を適当に刻んで・・・牛肉を薄切りに。
豆腐は無いからこれも追々作らないとね?
にがりが手に入ればいつか作る!
白い浅鍋に牛脂を塗りたくって・・・。
これは大鍋型の浅鍋を作る方がいいかもね。
今は少人数だから手持ちの鍋を使ったけど。
ルーとキョウの新鮮〈生魔卵〉を溶かして清浄魔法で浄めて・・・。
アコとココは待てをされた犬のごとく。
いや、今は〈獣化〉した犬なんだけど。
「「し、霜降り肉・・・」」
リョウとゴウは獲物を狙う猛禽類のごとく。
こちらも〈獣化〉した大鷹と大鷲だったわ。
「「ゴクリ・・・」」
これも警邏前の腹拵えには丁度良いだろう。
警邏の活力も漲るし。今後は夜限定で出すのもありだろう。人族が跋扈する〈常陽の刻〉の場合は少し趣向を凝らさないといけないが。奪われるからね?
なお、夜戦中のレリィにも念話したら──
⦅今はそれどころじゃない!⦆
⦅そう? 極上の牛肉要らないの?⦆
⦅!? 要る!! こうしちゃいられないわ! コウシ、ごめん!⦆
⦅ちょ、ま!⦆
快感よりも食欲が勝ったらしい。
これは食欲というより使命感かもね?
レイもオーガに〈変化〉して三人で致していたようだが、共に元気なコウシを放置して風呂場へと移動していた。
残ったコウシは行き場の無い状態で呆ける。
⦅主様? 俺はどう発散したら?⦆
私は仕方なく処理道具を与えた。
タイミングって大事だわ〜。
⦅ごめんごめん・・・コウシだけ特別よ?⦆
⦅えぇ!? 素っ裸のレリィが増えた!?⦆
⦅!? 私が増えたって、なに!?⦆
⦅おっと・・・この念話は油断出来ない・・・⦆
コウシは使い慣れてないのか念話の特性に怯えをみせた。この時のレリィは、以前フーコから食らった時と同じ状態で食らったようだ。
風呂に入って身体を洗っている最中に。
⦅増えたってどういう事!?⦆
私は仕方なく主なる仕様だけ明かす。
⦅かつての人格の入ってないレイといえばいいかしら? 反応こそするけど無表情の人形そのものね。管理不要の身体ともいうけど・・・⦆
⦅そ、それって・・・まさか?⦆
⦅元々は子供が出来た時に用意する予定だった道具ね。子供は当然出来ない類いの物だけど⦆
⦅あぁ・・・そういう事⦆
レリィはそれだけで納得したらしい。
自身の複製体。つまりはそういう事である。
私は念のため注意点を伝えておいた。
⦅それと・・・フーコに見つからないよう管理は厳重にね? 速攻で取られちゃうから⦆
⦅そうだった! コウシ! 管理は私が行うから片付いたら速攻で転送して! フーコだけに見つかるのは勘弁だから!⦆
⦅は、はいぃぃぃぃ!⦆
案の定、フーコが反応してきたけれど。
⦅私がどうしたの〜?⦆
⦅フーコは呼んでない!⦆
レリィは大慌てで念話を遮断した。
ブロックこそしてないけどね?
⦅今のなんだったの?⦆
⦅気にしない方がいいわ⦆
これは個別念話出来るようスキル改変しておいた方が良さそうね? 誰でもかんでもグループ通話になるのは少し不便だし。
まぁ私とシオンとマキナには筒抜けだけど。
ただ、この時の私は──、
(というか同じ物をフーコに与えたらどうなるのかしら? 自身の身体をまさぐる? 少し面白そうだけど・・・いえ、変な気を起こして拗れてしまうわね? ナルシストになっても困るしやめておきましょうか)
フーコへと実験を試みようと思った。
結果的に止めて正解だと気づいた。
今はただの眷属だ。
だが、彼女達は追々だが王族として未開大陸を治める王となる。そこには当然、子孫繁栄も含まれるため、近い将来・・・フーコを正常化させる日が来るだろう。リンスも百合っ子だけど己が立場は理解しているしね?
というところで偵察組が戻ってきた。
「この香りは・・・すき焼きだぁ!」×4
四人で戻ってきたという事はショウ達は大急ぎで片付けたのだろう。それかナディ達も手伝ったのかもしれない。人海戦術のように・・・。
滅多に食べられない極上の牛肉を求めて。




