第152話 吸血姫は姦さに苦笑する。
またも番が居た事を知った私は東方国家ルンライの港に接岸する帆船から打田流司の魂を回収した。
(船はそのままでいいでしょう。装備品を着けたまま首輪をしている方が悪いもの。そのまま人員もろとも王族船と沈めばいいわ。飛空船でもあるみたいだし・・・)
そのうえでミーアの件で後始末を行う予定だった国に対し一時的な疲弊を与える事にした。
それは打田流司が乗った船が軍港の中心部、王族船の隣に停泊し一部を王族船と接合したのだ。
おそらく勇者が罪を犯したとして処罰する名目があるのだろう。そして王族船で裁判的な物を行うと予見できた私である。
私は〈遠視〉で結果を見るのをやめ、目の前に居るリス獣人に問い掛ける。
「とりあえず、ルミナ・・・」
「は、はい!」
モジモジと顔を上げるルミナ。
顔は赤く尻尾は震えたままだった。
隣に居るミズカ達がニヤけた顔でルミナを見続け、マキナとナディも微笑みを向けていた。
私は一人だけ真面目な顔だったが、あえて相貌を崩して微笑んだ。
「落ち着いたら助けるから、元気出しなさい」
ルミナは微笑まれた事できょとんとなる。
「え?」
というか失礼過ぎない?
ミズカ達もきょとん顔だし。
私だって笑顔になる事くらいあるわよ!
私は微笑みから真面目な顔に戻して告げる。
「今回、三人に願った経緯は教えたわよね?」
「はい。進路の先に居る邪魔者の情報収集でしたっけ? 進路妨害があって進めないから」
「そうよ。本来の目的の前に行う掃討戦の情報収集ね。それは主に隻腕勇者・・・大野駿輔と島田剛気の討伐にあるの。それが帰還を遅らせる原因だから」
そう、私は率直に相手の名称を告げた。
先ほどまでは伝えてなかったけれど。
本人達の混乱が落ち着かない限り伝えられるものでもないしね?
だが、驚きの声は隣から聞こえた。
「「えぇ!?」」
ルミナはミズカ達の驚愕にきょとんとする。
この場で彼氏持ちはルミナだけみたいね。
直後、二人は思い出すように大興奮となる。
「大野と島田!? そ、それって?」
「食い散らかしコンビだよね? 私の敵!」
「というより私達の敵でしょう? 付き合ったのに愛を育まず関係だけ結んで!」
「そうそう。交換だって何度も交互に!」
「体だけが目的か!?」
「って二人で怒ったら慰謝料だけ渡して」
「即座に別れたゲス共!」
思い出しの記憶が生々しいわね?
この二人は隻腕勇者の被害者のようだ。
というか被害者そのものね・・・。
それが敵対者として現れたものだから大興奮から怒れる女子へと早変わりした。
ルミナはきょとんとしたままだけど。
私は再度殺気をぶつけ二人を黙らせる。
「落ち着きなさい」
「「ひっ!?」」
二人が怯えたまま黙ったところで苦笑するマキナ達とルミナを連れて亜空間へと転移した。
あの場で話す内容でもないしね?
依頼して下さいとか勘違いされそうだし。
実際に討伐と言葉に出した直後、ギルド職員が中から顔を出したのよ。満面の笑みで。
日本語が自動翻訳されたからだろうけど。
私達は亜空間の四阿に移動し、三人に対してタブレット越しに指示を出す。マキナ達は先んじて下界に降りたが。
「とりあえず、討伐戦では先陣を切らせてあげるけど、まずは情報を集める事が先決よ?」
「というかこれ、どれだけ居るんです?」
「見たところ数千は居るようにみえますが」
「ストラテジーゲームの画面?」
タブレットの表示は男子達が時折遊んでいるシミュレーションゲームね。今は探索魔法で得たリアルタイム情報を表示してるけど。
「赤ピンは敵の指揮官ね。それ以外の菱形は雑兵となるわ。最後尾の黒ピンが隻腕勇者ね?」
「・・・指揮官で数千?」
「こ、これって正規軍?」
「山間部を迂回するか平野を抜けるか・・・この点線はなんですか?」
「ルミナの着眼点だけは脱帽だわ。ミズカとマーヤは少し落ち着きなさい」
「「は、はい!」」
私はミズカとマーヤが静かになると、レイヤーを選択し水色と黄色を平面表示に切り替える。
すると部分的に表示された点線が、合国本国を護るように展開された魔力の膜になった。
各ピンにもレベルと魔力量を表示させた。
「それは転移防止結界と魔族捕縛結界になるわ。といってもレベル30が上限の結界だから上位の者が相手だと機能しないけど」
「これが結界・・・ではこちらの紫ピンは?」
「隷属された魔物ね。今回も狼と大型犬を連れているわ。弾けた飛んだ翠岾の知識が活かされているのはやりきれないけど」
そう、ルミナは真剣にミズカ達もゲーマーの血が騒いだのか、楽しげな表情を浮かべる。
数として見たら相当なものだが、レベルを把握すると低レベルしかいないのだ。烏合の衆。
それが画面から判断出来る情報だった。
魔力量が多くとも判断基準はレベルだもの。
「となると・・・」
「調べるのは・・・」
「交代時間とか指揮系統?」
今回の調査はルミナの言う通り、指揮系統を念入りに調べる事にある。勇者特権が作用している以上、どこかしらで二手に分かれている可能性が高い。そこを隙として突き二派閥で争わせ、指揮系統をバラバラにする事が目的だ。
一網打尽でも良いがそれだと戦意喪失した関係上、敵軍の貯まった経験値が活かされない。
だからあえて乱戦とし仲間同士で争わせる事にした。私達としても経験値が得られるしね?
私はそのうえで必要不可欠な情報を与えた。
「それと勇者に囲われた被害者の居場所もね」
「「!?」」
それを聞いたミズカ達は怒りも露わな表情に変わり、ルミナは呆れ果てた顔で応じた。
「やっぱりこちらでも?」
「そうみたい。私達が野営に入って数時間経っているけど既に胸の大きな女性が数十名囚われているわ。今も荷車の上・・・各二名が相手をさせられているわね? 衆目に晒しながらよくやるわね・・・」
いや、ホントに。
今が暮金を抜けて夜の時間に入ったからなんだろうけど、人目も憚らず平然と裸になっていた。女性達も嫌々剥かれ、相手をさせられるのだからやりきれないだろう。
夜の時間・・・魔物や魔族が跋扈する時間に結界の無い緩衝地帯で全裸に剥かれるのだから。
体よく殺してくれと言ってるようなものね?
すべての装備を外して騒ぐとか。
するとミズカ達が怒りから声を荒げる。
「「やっぱり大きいおっぱいがいいんか!」」
「大きかった二人が言うと皮肉にしか聞こえないよ〜。トリプルAをなめないでほしいね!」
「大丈夫よ。ルミナも育つわ。胸が前以上にあるでしょう?」
私がそう慰めるとしょんぼり顔のルミナはローブの隙間から胸を見る。
「た、確かに・・・」
ミズカ達も両隣からルミナを覗き込む。
ルミナの胸と聞き、怒りは消失したようだ。
「Aは育ってる?」
「Bはあるかも? 谷間はもう少ししたら?」
「寄せてあげたらギリギリかな?」
「ブラが不要だったけど今後は必要かもね?」
すると、ここで──
「というか! ブラ! パンツもそうだけど」
マーヤがあっけらかんと発した事でミズカが思い出したように声を荒げた。
そのうえで周囲に見える下着群を指さした。
私は洗濯して乾かしている膨大な量の下着群に視線を向け、困ったように応じた。
「まぁ追々だけど・・・貴女達にも与えるわよ」
この四阿の周囲は洗濯干し場でもあるものね。今はシーツや毛布も干してるけど、大半は女性陣の下着だ。一応、端っこに男子達の褌も干しているが。
すると三人は真っ赤な顔で懇願した。
「「「是非!」」」
今は三人ともがノーブラノーパンだ。
今回は急ぎだったためローブを着せるだけだった。ローブの下が全裸。三人は獣人だから肝心な部分は獣毛で覆われているが、恥ずかしい気持ちがようやく目覚めたらしい。
先ほどまでは奴隷時の経験から肌を晒す事に忌避感が無かったようだけど・・・。




