第147話 吸血姫は女神達を案じる。
ともあれ、急遽女子の人員が増えた六号車は元々が男所帯だったためか、今現在は妙に色めきたっていた。主に独り身共の周囲でだが。
ケンは後部座席でクルルと話し込むアルル達をルームミラー越しに眺めていた。
「クルルの妹達・・・あんなだったっけ?」
「どしたケン?」
今日の運転はシンであり、ケンは助手席にて様子見していたらしい。本日は特に警戒していないため私達も音声通話を止めてそれぞれに会話していたのよね。タツトとシロは上界にて依頼を熟している最中で、この場に居ないが。
ケンはしみじみと過去を思い出す。
「いや、昔見た姿とかけ離れているからな」
シンは前方をみつめながらルームミラー越しで三姉妹を眺めた。そこには姦しい雰囲気を醸し出すクルルが〈スマホ〉に映った各種写真をみせていた。それは主に上界の景色ね。冒険者登録のあとに色々見て回ったらしいから。
「昔見たって・・・そりゃあ転生して今やオーガだし。俺らも〈鑑定〉以外で見分けるには髪型で判断するしかないし」
実際に髪型で判断するしかないでしょうね。
ハーフアップが次女。ハーフツインが三女。
ポニーテールが長女というオーガ三姉妹。
するとケンは運転中のシンをポカッと叩く。
「そういう意味じゃねーよ!? 育ち過ぎているって意味だ! 昔はこう、ぽっこりお腹が」
「お前、六才児に懸想してたのか? まさか・・・ロリコンか? それが本当ならクルルが記憶を消そうと・・・」
うん。クルルが気持ち悪げな顔で〈無色の魔力糸〉を伸ばしてたわね。不必要な記憶は戴きますって感じで。
ケンは即座に積層結界で壁を作り自衛した。
「んなわけあるか!? 単に妹の友達としてウチの風呂に入ってたんだよ! 雨に打たれて泥だらけだったから」
「あららそうだったのか。まぁ事故のあった日から十年は過ぎてるからな。あちらの時間では三年しか過ぎてないが」
シンは先ほどの会話を思い出し改めて双子姉妹を眺めた。時差というか不思議な感じよね。
するとケンは感慨深げに遠い目をした。
「その差が七才か・・・」
それは妹との差を思い出しているようだ。
九才の妹と十六才の双子の関係と共に。
シンはケンの記憶はともかく──、
「見た目はともかく種族的にかみ合わんからあきらめろ」
最後通告とでもいうように警告だけ行った。
「今の見た目はともかく妹の友達をそんな目で見てないわ!?」
「ロリコンじゃない発言はいいから余り見てやるなよ?」
「だから見てねぇだろう!?」
まぁエルフ族とオーガ族が結ばれる事なんてないものね。エルフ族は同族か人族としか結ばれないから。それは肉体的に明確な違いが存在するのだ。なにがとは言わないが、オーガ族は人族や亜人とは異なるとだけ言っておく。
§
それからしばらくして──、
「あれから数日と立たず・・・」
『ドワーフ、恐るべしね』
「流石に大きすぎません?」
「それが彼らの誠意でしょうね」
私達は東部の国境門近くの街に到着した。
到着したのだが門の側に絢爛豪華な大神殿が出来上がりつつあった。これは私達の神殿ね。
これも出来るだけ大陸中央に近い方が良いとの判断らしい。国家としては端っこだけど。
『大陸の端っこに据えるのは間違いだ!』
との先々代魔王の熱弁を思い出した私であった。
なんでもこの地には魔力循環路の要石が埋まっているとの事でそこを護る意味合いで設置を急いだらしい。指示を出したのはユランスね。
私は車内から建造中の神殿を〈鑑定〉する。
「神殿と要石を繋げたのね。魔力循環路には魔力だけでなく惑星の生命力も流れるから」
今は出国手続きの関係で停車中ね。
魔王から戴いた〈永年商業許可証〉を示しながら、ナギサが代表して手続きを行っている最中である。免税許可証でもあるわね。
するとマキナが生命力から察したようだ。
「となると、ここが生神殿になるの?」
「始発点といえばそうね。おそらく死神殿は」
『上界にあるでしょうね・・・第零の地下神殿を流用していると思うわ』
シオンは創世に関わっているため、どこになにがあるか知っていても不思議ではない。
私は鑑定結果とシオンの意味ありげな口調から、この先行うべき事案を改めて再確認した。
「ここから始まって上界で終わる・・・か。循環点の初めが封じられているから、順次解放していけば」
「魔力消費が改善される・・・と?」
「おそらくね」
現段階ではおそらくとしか言えない。
まずは一つ目を解放しないといけないのだ。
そこを解放したとしても、直ぐに改善が見込めるかどうかは・・・判らないのだから。
私はナギサが戻ってきた事を把握すると──
「出国後は・・・残存兵が居るだろうから、たちまちは様子見で進むしかないわね」
各車に繋がる通話機能を起動させた。
二号車だけは通話状態だったけど。
これからしばらくの間は速度が出せない。
前方に牛歩の歩みを行う者達が居るから。
マキナもその事を思い出したようだ。
「そういえばそれが居たんだ・・・」
そして他の面々も思い出し戦場に居た者達は口々に後悔を口走る。
『あのままダルマにしておけばよかった〜』
『ニーナの元には来なかったものね?』
『ユーマが首ちょんぱしていれば・・・』
『乱戦で狙い撃ちは流石に無理ですよ。盾職に護られてて奴等は腕だけ出してましたから』
『盾毎切ればよかったんじゃない?』
『流石に刃こぼれさせたくありませんよ。材質を〈鑑定〉する余裕はありませんでしたし』
『念話する余裕はあったけどね〜』
『ユウカは混ぜっ返ししないで!?』
私は大騒ぎする眷属達を無視しつつ、先々を思案する。
「たちまち、偵察を送り込めれば幸いだけど」
ナディは偵察と聞き、ビクッと震えた。
ナディも若干、不安があるようだ。
するとマキナがナディを心配しつつ──、
「猫さんやショウだけでは辛いものがあるよね? この国は同族が居るから入りやすかったけど、ここから先は・・・」
不安気に物申す。最後は尻すぼみとなったけど言いたいことは判るわね。二人は上界の者で下界は余り知らないから。
「ええ。この先を知る者の方が助かるわね。それこそ・・・もう三匹を用意しようかしら?」
「それって例の三人?」
「地上を知る者というと記憶の関係で難しいけど、奴隷として行き来した記憶があるから」
「もしかして・・・本国で奴隷化されたの?」
「むしろ本国に買われたみたいね。目を付けていた者が元々居たらしいから」
私が買われた相手を示さずマキナに伝えると、六号車のクルルから不安気な一声が入る。
『もしかして・・・宰相閣下じゃない? ずっと水夏のお尻ばかり見てたから?』
マキナもクルルの一言を聞き思い出す。
「あの爺か!? 確かに見てた! 視線がずっと水夏の下半身に・・・」
『あの爺、私のお尻以外にも目を向けてたの!?』
『サーヤのお尻は形が良かったものね〜』
『ミーアだって見られてたでしょ!?』
『そうだっけ? 気にしたことなかった』
『そういえば残念女子だったわ・・・この子』
『百合女子に言われたくない!』
私はその後に続くサーヤ達の文句を聞き流しながら本格的に滅ぼさねばと思ってしまった。
平定前は魔力目当て。平定後は身体目当て。
異世界人の召喚を願っておいてオチがソレ?
そんな事のために利用された女神が可哀想でしょう? 争いを鎮めたいと願いを聞いたのに嘘だったのだからやりきれないだろう。




