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第146話 吸血姫は提案に逡巡する。


 ユランスからの提案は分割案だった。

 私はひょっこりと顔を出すアキ達をみつめつつユランスに問い掛ける。


「た、確かにそうだけど・・・本気なの?」

「それしか手はないじゃないですか? ニナンスの立場とその品物を天秤に掛けるなら。互いにとっての妥協点は問題ないと思いますよ?」


 私はアキとマキナをみつめながら思案する。

 確かに妥協するならそれがベストだ。

 ただねぇ? 生きている人間を姉が可哀想だから分割するというのは少々微妙なのよね。

 アキの事は放置すれば私達の身バレとアキに対する拷問が待っていた。元々消すつもりの人間だった事も要因よね。拷問上等なドMだったから今にして思えば微妙な話だけども。

 ミーアは回収せねば危険と判断した。

 アイミの件は事故そのものだったが、今では自我が目覚め、喜怒哀楽を表しているけれど。

 私はこの際だからと当事者達に聞いてみる事にした。


「それで本人達はなんて?」


 外野があーだこーだ言っても意味ないしね。

 するとユランス達は苦笑しつつ応じた。


「少々微妙ではありますね。怖いという気持ちが先でしょうか?」

「そうですね。身体を別ける行為そのものに恐怖心があるようです。治るとはいっても」

「でしょうね。意図せず切り取られた者の意見を聞くならば・・・」


 というところで切り取られた者ことハルミ達が顔を出した。初っぱなはこの二人だものね?

 胸をもがれ、尻をゴッソリと削られたから。


「「超微妙」」


 二人も本心的には微妙のようだ。アキとアナは苦笑いである。二人もナツミとサヤカという妹達が出来たから答え辛いようだが。

 他の人族達も基本は散らばった肉片から蘇らせた者だ。回収した本人の肉体であるマリーと新規で生み出したソージは除くとしても。私は判断に困り、泣きじゃくる姉に問い掛ける。


「クルルはどうしたい?」

「ふぇ? ど、どうしたいとは? グスッ」

「妹達と離れるか、一緒に居たいかって事」


 クルルは逡巡しつつも自身の考えを語る。

 涙を拭い不安気な妹達をみつめながら。


「それは・・・一緒に居たいです。でも、この子達も今は立場があるのですよね? 小国連合でしたか・・・私はまだ行った事はないですが」

「クルルとしても迷いがあるのね?」

「そうですね・・・迷いが無いとは言い切れません。折角会えたのに次に会えるのは数ヶ月以上も先になりそうですし」

「実質、一年以上は掛かりますね。普通に進めば・・・という距離感ですが」

「そうね。東側から一周すればそうなるわね」

「一年以上・・・」

「まぁ寿命の無いクルルと、寿命がある二人でいえば、そのまま別れるという話も起こりえるわね。この先・・・合国の思惑がどう作用するか不明だし」


 するとユランス達は主導権を二人に戻す。


「「え?」」


 唐突過ぎるでしょう?

 それだけ私の発した言葉に驚いたともいう。

 私は改めてクルルの妹達に事情を打ち明ける。姉が死んだも同然である事を。


「クルル・・・クリスはね、勇者として召喚されてきて、肉体に〈細切れ魔法陣〉が埋め込まれていたの」

「「!!?」」

「それはこの場に居る元勇者勢も同じね。地上の主な人員は細切れとなった者が(ほとん)どよ。クリス達は直前で実行されて魂以外の回収が不可能だった(アキ達は別だけど)」

「じゃ、じゃあ、姉さんは?」

「死んでいるんですか?」

「クリスとしては死んだも同然ね。クルルというオーガ族で生まれ変わってはいるけど」

「「オーガ族!?」」

「今は〈変化(へんげ)〉を解いてるから見えると思うけど印象がガラリと違うでしょう?」

「あっ・・・角が」

「銀髪だ・・・オッドアイは変わらない?」


 妹達は涙目のクルルを見て驚きを示す。

 実の姉が魔族に転じていても、恐怖心はないみたいね。肉体面は脱がないと判らないけど。

 私は実行するかどうかよりも──、


「それをね・・・魔の女神が同族という立場で近くに置けばいいって提案したのよ。立場上は貴女達に妹達が出来ると言えばいいかしら? 双子の双子という感じになるけど、今の意識と記憶は貴女達が受け継いで、別の者として聖女で居て貰うの。記憶を若干改ざんするけどね?」


 ユランスの提案を噛み砕いて伝えた。

 ハルミ達は微妙な顔をしているけれど。

 ミーアも微妙な顔でこちらを見ている。

 アキ達はきょとん顔のままマキナとなにか話し合っているわね。この場に残るかどうかの選択肢を示しているだけだけど。

 それを聞いた姉妹は互いに顔を見合わせる。

 双子姉妹はクルルをみつめ、クルルは双子姉妹をみつめる。互いに意思疎通が出来ているわけではないが・・・決意したように見える。


「「「お願いします!」」」


 私は願われたため時間停止結界で双子を覆い、宿る女神達を追い出した。


「「わぁ!?」」


 私は背中から飛び出した女神達をみつめる。


「見える者が私達だけというのもあれだけど」


 マキナも車内から降りてきて、決意の表情で固まる双子姉妹と困り顔の女神達を苦笑しつつみつめる。


「生者に宿る女神というのも微妙ですね。依り代ではなく憑依体はないのですか?」

「憑依体もあるにはありますが、私以外は表立って出歩けませんから」

「見た目が完全にエルフですしね・・・魔族や亜人の神である姉上はともかく、私や他の姉上達は人族達の主祭神ですから」

「そういえばそうでしたね」


 マキナは独り言を喋ってる風に見えるわね。

 私には三人の会話が聞こえているけど眷属(けんぞく)達には居るかどうかも判らない。

 今まででアインスくらいだろう。

 眷属(けんぞく)の前で姿を晒した者は。

 私はきょとんと固まるクルルに問い掛ける。


「それでどこを使う?」


 クルルのきょとんはマキナに対してだろうが。クルルは私の問い掛けを受けて──


「どことは?」


 逆に問い返したので、私は彼女達の僧衣を脱がして素肌を晒す。手っ取り早いのはサヤのパターンだろう。


「ノーブラだし丁度良いわよね?」


 サーヤは超微妙な顔になったが。


「もしかして・・・サヤと同じ事をするの?」

「それしか手はないわよ。近い位置で魂を複製するのだから。アナのように腕を切り落とすというわけにはいかないしね?」

「確かに・・・猛烈な流血沙汰を行えばクルルが直ぐにでも暴れそうだわ」

「暴れないわよ!? サーヤは私をなんだと思ってるのよ!」

「シスコンな姉?」

「ぐぬぬ・・・言い返せない」


 私はサーヤとクルルのコントをみせられながら双子姉妹の一部を切り取った。そして最上級ヒーリング・ポーションで両者の傷を癒やす。

 切り取った物は浮かせるように漂わせ同じく最上級ヒーリング・ポーションで肉体を再構成させた。同じ肉体がこの場に四つ。

 対となる者でいえば二つずつだが。

 私は横たえた肉体の記憶を末妹としての記憶に改ざんした。分離体を宿すと女神達が宿れなくなるので、今回は純粋な人族のままとした。


「とりあえず、クルルは二人の装備を妹達に変えてあげて。今はノーブラだから必要数の下着を手荷物に入れておきましょうか」

「わかりました!」


 私はクルルが妹達を裸にしている間に、女神達と会話しているマキナを手招きで呼んだ。


「お母様・・・どうかしたのですか?」

「マキナも手伝って。私が姉をマキナは妹を」

「え? どういう事です?」

「回数を熟す必要もあるんだけど・・・いえ、あれをこの子達で行うのは・・・気が引けるわね」


 しかし私は直前で逡巡してしまう。

 シオンは苦笑しているけどね?

 判ってて黙っている駄妹である。


「え? 他の手順もあったのですか?」

「ええ。あるにはあるの。今の肉体から別の種族に変えるからね。スプラッタになるけど」

「スプッ・・・どういう事ですか?」

「どういえばいいかしら? この姉妹の場合、クルル達の時と違って魂からの再構成ではないの。その手段は少々・・・私でも迷うやり方なのよ。相手が悪人なら別に構わないけどね?」

「ふぇ? 悪人なら問題ないやり方ですか?」

「まぁね? 吸血鬼族なら血液を与えればいいけど、今回は種族そのものがオーガ族となるからね。まぁ今まで通り魂を抜きだして肉体を魔力還元させる方が無難ではあるか・・・」


 そう、人族から種族を変えるには構成そのものを変換させないといけない。この場に居る眷属(けんぞく)達は魂からの再構成が(ほとん)どだ。アナとかアイミはニナ達と同じ吸血鬼族だから構成そのものが異なるしね?

 するとユランスが怪訝になりつつ質問した。


「別の方法があったのですか?」

「正直に言えば悪人向けの方法なのよ。悪人を球状に固めてゴブリン族に変換する的な」

「!? それは・・・」

「完全に人の尊厳を踏みにじるやり方ね。私も善人に行うのは少々・・・気が引けるのよ」


 ユランス達も絶句よね。

 私もマキナを呼んだ手前・・・悩んだ。

 その直後──


「そうね・・・マキナ!」

「はい?」


 私達の近くを丁度良い者達が通り掛かる。

 私は戸惑うマキナの名を呼び、指をさす。


「そこに隠れた人族達! 隠形がうまくいっているように思っているバカ達が居るから、よく見ておいてね?」

「は、はい!」


 私は隠形のまま王都に侵入しようとした合国兵達の時間的に止め、装備品を一時的に剥がしたのち、マキナに主な手順を示した。


「うげぇ・・・」


 流石のマキナも怖気と共に引いていた。

 周囲の眷属(けんぞく)達も、割とまともな再誕方法で良かったと思っているようだ。


「おぅ・・・なんだこれ」

「まじで・・・」

「よかったぁ〜」

「「これは私でもイヤー!」」

「アキとアナうるさい!」

「赤い球が三つ・・・これは強烈ですね」

「ですね・・・」


 女神達ですら凄絶と思う光景だ。

 それは魂を中心に空間的な圧縮が行われ、人体が赤い球体に変化した。骨も粉々で臓物も細胞レベルに分解されている。私はそこにゴブリンの因子を宿してスキルの一切を奪った。

 その後は心臓が完成し、徐々に緑色の肉体が形成されていった。私は装備を元に戻し、止まったままのゴブリン達を合国本国へと強制転移させた。転移魔法の除外があって助かったわ。


「これが悪人向けの転生方法ね。不死の因子も組み込んだから殺しても殺しても蘇るゴブリンの完成ね。隷属も効かないから阿鼻叫喚間違いなしでしょうね・・・案の定、敗走中の合国軍が大混乱しているわ。自国兵の装備をゴブリンが着ているから」

「お、覚えましたが使い道がなさそうですね」

「今のところはね? 今後の王族達がどう出るかで使う事もあるわ」


 こうして、唐突に行われた姉妹達の再誕は従来の方法で行う事になった私達であった。

 種族はオーガ族、姉は〈アルル・キキ〉妹は〈エルル・キキ〉と名を変え、年は十六才で止まった。名付けはクルルを参考としたけれど。

 残りの妹達は四姉妹という記憶の改ざんを行った事で姉達を別の意味でうらやんでいた。


「「寿命から解放されたいですぅ〜」」

「神官・・・いえ、聖女としての仕事を全うすれば再誕させるわよ。貴女達もそれでいいわね」

「私は構いませんよ」

「私もそれで問題ありません」


 妹達は私と女神達の約束を得て仕事に邁進するぞと決意を(あら)わにした。その後は女神達が二人に宿り直し、辞典片手に元の国へと戻ったようだ。

 一方、再誕した三姉妹は楽しげな雰囲気で六号車に乗り込んだ。クルルの妹達は〈スマホ〉を受け取って唖然(あぜん)としていたけれど。





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