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第145話 吸血姫は女神と交渉する。


 マグナ楼国(ろうこく)王都での片付けを終えた後の私達は東門近隣にて食事休憩をとった。今は王都を出たばかりだが、このまま真面目にアイネア合国本国へと向かう必要はないと思ったのよね。

 それは今のまま進むと先の戦闘で敗走中の軍隊に追いつくから。合国軍は四頭立ての馬で引くボロボロの戦車と騎馬隊、オマケの勇者達が牛歩の歩みで帰国中なのだ。

 わざわざ出くわすように進む必要はない。

 確かに好機ではあるのだけど、現段階で余計な茶々を入れて、警戒心を煽って面倒事を増やす必要はないもの。それに人員が増え過ぎている関係上、統率が取れなくなると大変だしね?

 眷属(けんぞく)達の指揮を行うナギサが。

 ともあれ、そんな理由の元──


「全員、(いただ)いちゃって!」


 待ちに待ったカレータイムと相成った。

 今回は野営地とした一角で、各荷馬車(拠点)の外屋根を張り出して車座となりながら、各車輌班毎に食事を(いただ)いた。

 カレーを用意したのは四号車の面々ね。

 カレールーはルーが・・・ではなくルイとミキが一生懸命練ったそうだ。時間加速結界の中で交互に入れ替わりながら練り込んだらしい。

 なお、今回の人員増加に際して各車輌内で人員の入れ替わりが行われた。


 ───────────────────

 一号車:カノン、ナディ、マキナ、リンス

 計七名:リリナ、ミズキ、アナ


 二号車:ナギサ、フーコ、ユウカ、シオン

 計八名:キョウ、リリカ、アキ、アイミ


 三号車:ユーマ、ユーコ、ルー、ハルミ

 計七名:コノリ、ココ、ミーア


 四号車:サーヤ、ミキ、ショウ、レリィ

 計八名:コウシ、レイ、ルイ、ナツミ


 五号車:サヤカ、コウ、アコ、リョウ

 計七名:マサキ、ニーナ、ニナ


 六号車:タツト、クルル、シロ、ゴウ

 計七名:シン、ケン、アンディ


 オマケ:ナツ、サヤ、アンコ、コウコ

 オマケ:ナギ、タツヤ、シロウ、シンゴ

 オマケ:ケンゴ、ソージ、マリー

 ───────────────────


 変化があったのは三号車から六号車のみだが、これも夫婦となった者が増えたため必要な措置だった。

 一号車と二号車は対した変化はないけどね。


 この時、人族班で見覚えのある者が多数居たためか例外として記憶と感情を残されたマリーは呆然と座りつつ声を掛けていた。復元組は基本、各自の亜空間庫で過ごしているもの。

 滞在中は人族である事から表には出していない。王都で捕獲したマリーだけが例外だった。

 彼女も行方不明に含まれるが、こればかりは仕方ない措置だった。フーコの愛玩物だもの。


「えぇ? どういうこと? あっちにも居てこっちにも居る? こっちは人だけど、あっちは亜人や魔族?」

「・・・」×10


 黙々とカレーを(いただ)く十名の復元組。風味を味わう感情は皆無だが懐かしいと思う者が現れるといいわね?

 流石に反応しないとあってカレーを手渡していたユウカに問い掛けた。


「それに・・・車バカがなんで? 行方不明だったはずだけど」


 ユウカはどう返答してよいものか悩んでいたが、有りの儘にソージの扱いを答えた。


「あ? あー? サンドバッグ?」

「サンドバッグ?」


 それしか言えないわね。異世界教育を施していないマリーには明確に情報を渡してよいものか判断に困るから。これもフーコの開発度合いで教える事になるだろう。ニナ達のように・・・。


「それよりも冷めるから食べたら?」

「え、えぇ。いただきま・・・!! !? お米! この世界にもあったんだ・・・」


 一応、ソージの件は全員に伝えてある。

 それを聞いたタツトは本当の意味でのサンドバッグに使うと言い出したので、それなりの防具を耐えられる物へと変えた私だった。

 オーガ族の本気殴りが相手ではHPが過去最大であっても数発で轟沈するからね?

 あくまでソージは人族の肉体だから。


「味わって食べてね? しばらくして媚薬の効果が現れると思うけど。私の一存で貴女のカレーだけに特別なスパイスを足してあげたから」

「!? そ、それで・・・妙に身体が熱いの?」

「フーコのお気に入りだもの〜。スパイスだけじゃ物足りないでしょう? このあとフーコと寝るのだし」

「くぅ(ユウカがドSだったの忘れてた)」


 この二人も既知の仲なのね・・・。

 ユウカが本領発揮している件は置いといて。

 それからほどなくして私達の食事休憩は終わり眷属(けんぞく)達は後片付けを始めた。

 フーコはマリーを連れて自室に戻ったが。

 すると満足気な私の元に──


「「どうもお久しぶりです〜」」


 人族の双子に宿ったユランス達が現れた。

 片方は迷宮神よね? ユランスの妹の。

 ユランス達はカレーが気になったのか訪れたらしい。彼女達が宿る肉体も興味津々だった。


「「私達の物もあります?」」


 服装は僧衣よね? どこかの巫女かしら?

 金髪碧瞳って人族としては珍しくないけど。

 私はレリィと目配せし、事前に残しておいたカレーを取り出した。


「あ・・・あぁ。保温庫に残しているわよ?」


 これは他の面々が食べる前に残しておいた物だ。女神が来ると事前に伝えていたから。

 来るかどうかは流石に不明だったけどね?

 ユランスはどこから取り出したのかテーブルと椅子を地面に据え、ニナンスと待っていた。

 そしてナプキンを身につけながら私達にお願いしてきた。


「それは良かった。では(いただ)けますか? それと良かったら、レシピも(いただ)けると助かります・・・作り方が広まればこの国の特産にもなりますので」

「あー。そういう事? スパイスが沢山あるけど食用としていない件は?」

「ええ。(ほとん)どが腐敗防止の薬に使われてますから。食べられる物と知れば他国からでも同族が集まり易くなるでしょう? 他国にも魔族国家が複数ありますから」

「魔族国家はここだけじゃなかったのね・・・」

「上界と同じですよ。では、いただきます」

「いただきます」

「え、ええ、召し上がって」


 私は少しばかり甘い見通しだった事に気がついた。魔族国家が他にもある。確かにそれであるならば、ユランスが自身の信徒を私達に譲渡する理由も理解出来た。

 魔族や亜人の方が人族達よりも多いのだ。

 するとユランスは満足気に応じた。

 

「合国は人族国家だけでなく魔族国家も潰し、魔力を捻出する事に躍起になっているようですね。今でこそ自国の兵がその魔力そのものになっているというのに。気づいた時には遅かったという事も起こりえますね。ジャガイモを潰すとトロミが増しますね〜」


 しかも食べながら、ジャガイモを魔族や人族に、潰した物を魔力に見なしていた。

 確かに例えとしては丁度良いけどね?

 今回の件はユランスとしても腹に据えかねる行いだったようだ。美味しそうに(いただ)きながら腹黒い物を吐き出していたから。

 一方のニナンスは黙々と食べていた。

 時折、大粒の涙を流し汗を流していたから。

 少しばかり辛かったかしら?

 すると片付けを行っていたクルルが──


「「アリスとエリス!?」」


 驚きながらこちらに向かってきた。

 どうも顔見知りのようだ。身体の主に。

 ユランスとニナンスは驚きながら、ドカドカと向かってくるクルルに応じた。

 あら? 中身に主導権を譲り渡した?


「「姉さん!?」」


 今、姉さんって言った?

 クルルは〈変化(へんげ)〉し角を隠した。

 そのままだと二人に刺さると思ったようだ。

 そして懐かしそうに双子を抱きしめた。

 カレーを(いただ)いている途中だが、背後から抱きしめられればどうしようもない。


「「姉さん苦しい・・・」」

「あ、ごめんなさい・・・生きていたのね。あの時、崖から落ちて亡くなったとばかり」

「う、うん。気づいたら神殿内に居たの」

「うん。聖女だかなんだか言われてて」

「それで・・・この世界で過ごしていたの?」

「「うん」」


 なんという事だろう?

 私はレリィ達と顔を見合わせた。

 勇者だけでなく聖女としても召喚する。

 その経緯はどうであれ今は懐かしの再会が叶ったようだ。クルルは涙を拭いつつ彼女達を解放する。オーガ族が抱きしめると壊れるから。

 しかし、その直後──、


「この子達も突然舞い込んだ者だったのです」

「小国連合が地下神殿に。使い魔召喚陣の改良物を利用して。この子達も本来であれば〈魔力循環路〉を封じる核にされるところでした。それを地上の本神殿に匿い巫女としております」


 主導権がユランス達に戻る。

 だがこの時、ニナンスの発した暴露がクルルの耳に入り怒髪天を衝く鬼が現れた。

 元々オーガ族だから鬼そのものだけど。


「なんですってぇ!?」


 私は掴みかかるクルルを空間捕縛する。

 相手は女神だ。流石に手を出す相手が悪い。

 するとニナンスは空間捕縛を少し緩める。

 神妙な表情で右手を空間にあてがっていた。

 力加減を間違えてクルルの胸が潰れてたわ。


「お怒りになるのはごもっともです。ですから私の判断で、代わりとなる人形と入れ替えました。本来であれば封じそのものも止めさせる必要があるのですが、直接干渉出来たものが彼女達だけでした。そして、私が気づいた時には」

「〈魔力循環路〉が封じられていたのね。それっていつぐらいの話なの?」

「こちらの時間軸で十年前ですね。彼女達が召喚されてきた当時は六才の子供でしたから」

「それでなのね・・・クルルに似てたのは」

「元々姉妹だったのでしょうね・・・」


 私とニナンスは可哀想な目でクルルをみつめる。クルルは苛立ち気に声を荒げ涙で濡れる。


「元々姉妹よ!? 三年前のキャンプ中に死んだものと思って・・・でも生きてて・・・それがこの屑みたいな世界で利用されて」


 クルルは完全に泣いてしまった。

 タツトは空気を読んで沈黙していた。

 肝心の怨嗟の類いはシオンが美味しそうに召し上がっているけれど。油断ならない妹だわ。

 私は困り顔のままニナンスに問う。


「屑って・・・まぁ人族が総じて屑なのは置いといて。この子達をこの場に連れてきたのは?」


 ニナンスは申し訳ないという素振りで応じた。姉が泣きじゃくる姿は辛いものがあるのだろう。それは身体の持ち主の表情だった。


「そうですね。この子達の欲する食品の名称が出てきましたので。今までは存在すらしていませんでしたから。調合物と知ったのはつい最近ですね」

「なるほどね。それでこの場に連れてきたと」

「はい。それと心苦しいのですが、この子達も今や立場が御座いますので、おいそれと連れ出す事が出来ないのです。今回は私達の一存で神官達を説き伏せて連れてきました。本来ならもう少し早い段階で来る予定でしたけど」

「それが聖女という扱いね・・・?」

「そうですね。我が素神殿・・・世界の食物は我が神殿が発祥ですから。異世界人である彼女達の知識は大変貴重なのです」

「貴重・・・ね?」


 私は子供舌でも貴重と知り思案した。

 この世界には異世界の素材こそ存在するが、使い道が不明な物が(ほとん)どだった。

 いつぞやのアップルパイ事案もそうだろう。

 使い道が別物だった事で菓子になるとは思われてもいなかったから。そして肝心の情報源が子供だったなら出来上がった物が(ほとん)どで自分達で作る手段は講じないだろう。

 私はその場でレリィ達と念話し──、


「それならこの辞典は垂涎ものじゃない?」


 記憶融通と共に食材辞典を作り出した。

 異世界の食材やら調理法を記したものだ。

 コウシやミーアの知識も含んでおり役立つ物として提案した。家庭用はミーアの知識だが。


「!? それはもしや?」

「叶うならね? クルルも再会したばかりなのに離れ離れになるのは悲しいでしょう?」

「うむ・・・悩みどころですね」


 ニナンスは本気で悩んでいた。

 解放するのは簡単だが神官達にどう話せばよいか悩んでいた。自身への信仰を途絶えさせるわけにはいかず、中身とも相談していた。

 するとユランスが私と車内から顔を出すマキナに視線を送り、ニコニコ顔で突拍子もない提案を行った。


「それなら別物にすればいいじゃないですか。(すで)に何度も行っているでしょう?」





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