第142話 珍しく脇役の吸血姫。
何はともあれ、マギナス王国発起の魔王城簒奪未遂事案は、魔族軍の勝利で終わった。
戦地に赴いていた魔王と現正妃は勝利ののちに魔王城へと転移門で戻り、残りの兵達は国境沿いにて、引き続き警戒していたようである。
そして今は──、
「我らの勝利を祝して!」
「カンパーイ!」
休止となっていた歓待パーティーと共に勝利の宴と相成った。元々は身内だけのパーティーだったが、魔王と共に戻ってきた有力貴族達が先勝パーティーを開くというので合同で行う事になったのだ。
ひな壇には当然、義勇軍として参戦していた十二人も居り、会場隅に陣取る他の面々に笑われていた。私達も魔王達の隣に立ってるけど。
そして軍関係者やら貴族達に褒められ・・・ある意味での勧誘合戦が繰り広げられていた。
それこそ単騎で数千の人族を屠る者など滅多にいないから。特に兎獣人姿で狩りまくったニーナだけは押し合いへし合いで貴族達の列が出来ていた。
「是非にとも息子の嫁に〜」
「いやいや、我が息子の嫁に!」
「そこは我が娘の嫁に!」
「今、娘と言ったか!?」
「それがどうした!」
「・・・(あ〜、うっさい!)」
ニーナは耳を畳み聞く気はないようだ。
ニーナにはあとで蘇らせる相手が居るもの。
魔族の貴族には興味すらないのだろう。
一方、コウシの元にはオーガの長が大笑いしながら威圧していた。列は出来ていないが責任者が率先して対応に出る事にしたのだろう。
「それほどの技量、我が軍に入らないか?」
「私達は旅の途中ですので・・・この酒うま!」
「ユウカ作のお酒よ。ユーコ達がベロベロに酔った酒とは別だけど。こちらのミリン干しと一緒に食べてみて?」
「うまっ! 久しぶりに魚を食べた気がする」
「感動で涙が出てるじゃない」
「感動した! 煮魚も食べたいかも」
「あとで作りましょう?」
「おう!」
コウシはオーガの長を去なしながら、隣に立つ笑顔のレリィとの食事を楽しんでいた。
興味無しを地で行う姿には天晴れだったが。
それは二人の世界を作り無視していたから。
オーガの長は相手にされていないとして──
「そこをなんとか。是非にでも入らないか?」
タツトとクルルに問い掛けていた。
だが、タツト達もどこ吹く風で去なした。
「私達に決定権は御座いませんので」
「やっと干物が食べられる〜」
「これもナディが釣ったんだと」
「へぇ〜。それなら刺身も?」
「おう! 海鮮丼やら寿司も出たぞ?」
「!? 凄い楽しみ〜! やっぱり好きな物を味わえる場所こそ私達の居場所よね!」
やはりこの場にも魚を欲する者が居た。
元勇者達は大概魚介類を欲するものね。
ちなみに、オーガ族は酒精に強く滅多な事では酔わない。例外はユーコ達のように限度を知らずに飲む者達だけだ。あれも本来なら毒無効で効果が切れるはずなんだけどね? 毒無効よりも飲むスピードが異常だった事が、主な原因らしい。なお、この世界は成人が十五才との事だが、それは人族のみの慣習であり魔族や亜人は適用外となる。魔族や亜人は長命種なので成人という概念が元々存在しないのだ。
するとオーガの長は二人の興味を察し──、
「そ、それだけで良いのなら、我らも提供を惜しまないぞ!」
ごそごそとなにかを取り出し両手に持った。
クルルはタツトの腕に抱きつき、しれっと応じた。オーガの長が持つ物を一瞥しながら。
「貴方方は生で魚は食べないでしょう?」
「それは食べないが・・・生で食べられるものでもないだろ? だ、だが、それに似た物なら用意出来るぞ? この干し肉とか」
「まったく、お話になりませんね」
すると、クルルは別の箸を持ってオーガの長の口に、ミリン干しの一欠片を放り込んだ。
「腕の良い調理者を用意してから仰有って下さい。お酒もどうぞ〜」
「うぐぅ!? う、うまい! 酒もなんという辛みだ。だが、後からくる風味がなんとも」
時折、私達に視線を向けユウカが魔王達に提供した米酒に舌鼓をうっていた。
酒の肴はナディ提供のミリン干しである。
それでも執拗に勧誘を繰り返すオーガの長。
「・・・おっと。だが、聞くまでもないであろう? 必要とあらば腕の良い調理者とやらを用意しよう! どうだ? 入る気になったか?」
「それは主様に伺って下さい」
「うむ・・・ではその主様と決闘して決めるとしようか。見たところ弱そうな女性のようだが」
「そんなに即死したいのなら、是非どうぞ」
「そ、即死? なにをバカな事を?」
私が弱そうね〜? 魔王にもてなされている様子からそれを発するのは不敬だと思うけど?
それこそ私達を相手に平身低頭な姿を魔王達が晒している状態を見て判断して欲しいわね?
オーガ族も一般的な者は脳筋のようだ。
そして、唯一の吸血鬼族であるユーマと手伝いに向かった六人は引き攣り顔のまま長蛇の列に辟易していた。
それは各種族の長が挨拶に訪れていたのだ。
主な順番は・・・有翼族、各エルフ族、ドワーフ族、各獣人族、魔人族、淫魔族、夢魔族などが列をなしていた。
「そのお姿! 魔王様の御親類でしょうか?」
なお、オーガの長は軍部を預かる者でもあるため、初回のみ頭を下げただけで今はタツト達に掛かりきりだ。七人に問い掛けているのは有翼族の長であり、かつて連れ去られた者の一人である。
「く、詳しくは主様に伺って下さい」
「主様? というと・・・あの魔王様が応対しておられる方々ですか?」
「そうなりますね」
「お一人は・・・いえ、お二人? そういえば・・・片方は見覚えがあるような?」
「片方は元々こちらに居ましたから、ご存じなのは当然だと思いますよ? 真祖姫ですし」
「!? そ、そ、それは魔神様から唯一の加護を得たという!!?」
有翼族の長はユーマの返答を受け、おったまげという様相に変わる。その驚きの声は周囲に伝播し、私ではなくシオンに視線が注がれた。魔神様・・・ユランスの加護を受けた者として名前が知れ渡っているようだ。
その一言により、長達の列はユーマ達からシオンの前に変化した。魔神を祀る者からすれば蔑ろに出来ないという理由が主だろう。
直後、オーガの長は最前列に加わった。
「お久しゅう御座います!」
シオンの顔を思い出したようで顔面蒼白だったから。彼もシオンと顔見知りのようだ。
シオンは引き攣った顔で応対した。
「そ、そうね? 二千年ぶり?」
「は、はいぃぃぃぃ!」
「貴方も長生きね・・・?」
「な、なんとか生き延びました!」
私とマキナは見事な掌返しで苦笑したが。
「シオンは大人気ね?」
「お母様、私達は魔王の相手を行いましょう」
「そうね。元正妃は腰を抜かしたけど」
「リンスの立場を思えばそうなるのは必然でしょう? 祖国の姫君とシオンお母様を顎で使えば。そもそも、傍系であるこの国とは国力に差が有りすぎますし」
「魔力的な意味でも」
「レベル的な意味でも」
そう、あれから機嫌を損ねた元正妃はリンスとシオンを相手にワガママを貫き通した。しかし戦場から戻ってきた今代魔王に諭され、腰を抜かしたのち平身低頭で謝ったそうな。
それは立場違いを明確に示されたともいう。
眷属でありながら今の地位に就いた者と、元々が吸血鬼族の王族として生まれた者の差だ。かつて人族の王族だった者であろうとも、その力量差は埋められないだろう。
シオンへは詫びと称して自身の裸体を差し出していた。不機嫌はどこへやらという有様だ。
一方、気絶から回復した王太子は「お母様が悪い」と逆に嗜めていた。今代魔王がそれを見て苦笑する程の掌返しを示していた。




