第141話 吸血姫は事後処理で多忙。
それはカノン達が王都で元正妃と王太子を助けている最中の事。
東部に陣取るタツト達はというと──、
⦅合国軍まで出張るなんて聞いてないわよ〜⦆
⦅というか大野とか島田まで戻ってるなんて聞いてないぞ!?⦆
⦅今更勇者達がどうなろうが知った事ではないけど〜目先の軍勢に意識を向けてよコウシ〜⦆
⦅レリィも戦いながら俺に殺気を飛ばすなよ⦆
⦅飛ばしてないけど〜戦いながら私のお尻に目を向ける余裕があるみたいだし〜⦆
⦅すまん! 柔らかそうだったから、つい⦆
⦅気にしてないわよ〜あとで好きなだけ揉めばいいから〜⦆
⦅!? おっしゃー! やったるでー!⦆
魔族軍と共に参戦し国境東部にて元仲間達と戦っていた。戦いながら念話をする辺り・・・周囲の魔族軍やら人族軍とは異なり余裕が感じられる姿だった。レリィは大鉈を振り回し、時折守りに入る盾職のコウシと口喧嘩していた。
それもレリィによる一方的な口喧嘩だが戦闘中のレリィは間延びする喋り方になるようだ。
一方、タツトはクルルに背中を預けながら徒手空拳で敵対者を殴り殺していた。クルルは慣れた手つきでタツトに強化を施し、タツトの背後で棍棒を振り回して敵対者を殺していた。
⦅特権使いまくり勢が寄越された感じか?⦆
⦅多分ね〜。樋山君も居るし⦆
当然、殺す直前に〈無色の魔力糸〉を伸ばし経験値やらなにやらの一切合切を戴いていたが。
これも〈真偽鑑定〉スキルが勝手に行う物らしいので、彼らは突如襲い来る風味に意識を持って行かれないよう気を張っていたようだ。それでも使えるのはクルルとコウシ以外だが。
ただ、これが出来るのもレベル100以上の猛者達だからだろう。敵軍は50前後だから。
補佐役で手伝っているユーマとニーナも遊撃として乱戦となっている戦場を駆け巡る。
⦅シロの彼女は・・・居ないみたいですね?⦆
⦅あの子が居たら私が真っ先に確保するわよ⦆
⦅それもそうですね。居なくて正解だったか⦆
⦅それはどういう意味?⦆
ユーマは駆け抜けながら敵兵の首を焼き斬り、物言わぬ彫像を増やしていく。ニーナは槍を振り回しながら、一瞬で敵兵の四肢を斬り落としダルマ状態へと変えていく。それは兵の乗る馬もそうであり砲弾すらも切り裂いていた。
返り血を浴びる前に避けていく姿は圧巻だ。
獣人姿のままとてつもない速度で駆け抜けて。兎獣人の可能性を見た私であった。
⦅いえ。脱がすんですよね? 戦場で?⦆
⦅そうね。戦場で洗浄したうえで確保するわね。あの子のプルプルおっぱいを外で晒して⦆
⦅やっぱり・・・⦆
⦅流石に汚い雪は持ち帰れないでしょう? シロ専用となる子なんだし〜⦆
ちなみに、ニーナの持つ槍はカノンが拵えた〈白夜槍〉という名を持つ。これもミーアのフライパン同様の素材でありドラゴンのブレスでさえ切り刻む神器の類いである。
⦅それなら・・・シロに聞いてみます?⦆
⦅ノープロブレム! 洗ってから回収して!⦆
⦅ほらね? シロもお望みだし〜⦆
⦅彼氏がこれなら苦労しそうだな・・・⦆
それからしばらくして、戦闘は膠着状態となり、合国軍は一時後退した。それは予想外に兵の損耗が激しいからだ。肝心の勇者達を弾け飛ばせば魔族軍の損耗を稼げるだろうが、今回は予定外の進軍のため、流石の合国といえども無闇矢鱈な実行は行えないでいた。
現状、勇者の生き残りは男五名、女二名だ。
男五名の一名は船上に、二名は海上を漂う。
残り二名は片腕をユーマやレリィに切り取られて敗走し、今は治療中である。
女二名は帝国に居る話題にあった者達だ。
なお、本来ならこの場に男は三名居たが──
「このダルマ、樋山じゃねーか?」
一名は戦場にてニーナに瞬殺され、ダルマ状態の遺体が戦場に放置されていた。
今はタツト達がお片付けと称した後始末を行っていた。魔力還元による遺体処理である。
「ホントだわ。いつのまに倒したのかしら?」
「樋山塊という名だけに亡くなる時は塊と化したのね・・・南無」
「魂が半分近く無いけどニーナさん食べました?」
「多分?」
「味見している風にしか見えないですよ?」
「ごめんなさい! 大変不味かったです!」
「道理で・・・それでどんな味だったんです?」
「極限まで煮詰めた・・・酸辣湯みたいな?」
「酸っぱいって意味ね。腐ってたかぁ・・・」
東部魔族軍の損耗はこの六名が居た事で激減したらしい。他はトントンのようだが。
ユーマは腐った魂の樋山塊を戴く事なく、そのまま魔力として還元した。ユーマ達四名は事もなげに次々と処理を進めていく。
クルルは呆然としたままタツトの横を歩き、コウシは消えていく樋山塊を眺めながら手を合わせた。レリィも手を合わせていたため、似た者夫婦だろう。その後の話題は、この場に居ないナギサの事だった。
ニーナはタツトと片付けながら──、
「というかナギサさんも誤った感じかな〜」
「誰であれ判断ミスはあるさ。予想外の行動に出るのが人族という輩なのだろうな」
「ホント、予想外以上の行動力よね?」
ユーマに話し掛ける。
ユーマはレリィと左右のゴミ掃除を行い、ニーナに応じた。
「結果、カノンさんの想定通りこちらも動いていたと・・・合国軍は敗走ののち攻め倦ねている感じですね。勝てないって怯えも見えますが」
「それで・・・ナギサさんはなんて?」
「申し訳ないって感じ? 誰であれ想定外は起こりうるって、カノンさんが慰めてる」
「は?」
カノンが慰める事が余程ショックだったのだろう。ニーナは絶句ののち話題を変えた。
「カノンが・・・それでシオンさんは?」
ユーマは苦笑しつつ応じた。
「リンスさんと元正妃のご機嫌とり」
「真祖相手によーやるわ」
最後はタツトが元正妃に対してツッコミを入れた。その後、今回の戦闘で合国軍は撤退を表明し東部戦域から離脱した。勇者達は一人の戦死を受け意気消沈した。粒魔石もユーマの還元魔法を浴びて完全消滅し、還元魔力はスキルの使い方を知らないクルルとコウシを除いて、四名が全て戴いたらしい。
ちなみに、勇者ではないが異世界人の生き残りは存在している。それは奴隷の五名であり、男の二名は強制労働へ、女の三名は慰み者として売りに出されている。
それでも生き延びているのだから幸せではあるだろう。消え去る運命から逃れたのだから。
§
一方、王都を掃討中の面々は満足気な表情で寛いでいた。ユーコとニナとハルミは北門から王城までの間に一千二百名もの人族を戴き、一人あたまで四百名の命を刈り取った。
その内、十二名が指揮官だったため──
「ユウカから煮込んでる〜って念話がきた〜」
尋問班の結果待ちをしていた三名だった。
ハルミからの気の抜けた言葉を聞いたユーコは、興味深げな表情で寛ぐニナに問う。
「どんな味になるんだろう? カレーって言ってたわよね?」
「カレー・・・姉様の手作りカレーが懐かしい」
「それは・・・自分の手作りカレーでしょう?」
「この姿で言えばそうですけど・・・」
「確かに見た目的な意味だとそうなる?」
三名はまだかまだかと待ちぼうけを食らっていた。実はこの三名は一号車からログハウスに戻り、風呂に浸かったのだ。すると、後続のサーヤとレイとミズキが風呂に入ってきた。
「「「疲れた〜」」」
「「「おつかれ〜」」」
「そうそう。片付いたら今晩はカレーだって」
「ミズキ・・・それは風味のカレーじゃない?」
「それもあるけど・・・料理のカレーだよ?」
「ユーコ、聞いて! カノンがスパイスを報酬で貰ったそうだよ?」
「姉様が戻り次第、調合したルーで作るって」
「ルーがルーを煮詰める・・・?」
「そんな事を言うハルミには、ルーの産みたて〈生魔卵〉を載せられるけどいいの?」
「うっ・・・そ、それは・・・それで! 疲れた身体にはそれが一番だもの! それに辛みを抑えてくれるなら問題ないわ!」
「開き直ったわね・・・でも、コウとキョウの産みたて〈生魔卵〉なら・・・有りね!」
「サーヤったら。そんな事を言うと、ルーが怒るよ?」
「呼んだ?」
「呼んでない!」×6
話題はカレーなる食べ物の会話だった。
私もご相伴に預かりましょうかね?
ニナンスも気になるようですし。
一方、掃討では東南に各三千八百名の雑兵が居たようだ。今回は北西のみ精鋭が集まり他は雑兵だった。そして総勢二十六名の指揮官が集められ、他は全員の経験値と成り果てた。
総勢一万の軍勢が〈マグナ楼国〉に侵入していた事を知った──
「これは・・・リンス様御提案の方法を採るか」
「はい。お父様・・・それが無難でしょう」
先々代魔王と先代魔王は頭を抱えていた。
「まさか記憶が消えていないとはな・・・」
「この地の特性は上と異なるという事ですね」
「失念していた我の責任であろうな・・・」
「・・・こればかりは致し方ありません」
今後採る方法は犯罪者向けの入れ墨だろう。
それはイカ墨とスライム液を混ぜた物を背中に塗りつけるのだ。カノンはこの場だけの売り物と称し〈ステンシル板〉と〈魔力インク〉を用意して記憶消去魔法陣を背中に記す手法を示していた。リンスの提案の背後で捕まえた人族相手に行っていたから。それも当人の魔力を最大限使うというえげつない仕様の魔法陣だ。
なお、監視に動いていた有翼族達は先んじて風呂に入り、今はログハウスのダイニングにて寛いでいる。羽休めとでもいうのか、本来の姿で横になる者が多数だった。
ルーだけは呼ばれたので風呂に来ていたが。
一方、ミーアとルイ、サヤカとナツミ、アナとフーコは風呂には行かず別件で大立ち回りを繰り返している。
それは撤退した東を除く西南北の参戦だ。
北部はミーアとルイ、西部はサヤカとナツミが殲滅戦を繰り出していた。
なお、フーコだけは女性騎士の多い南を希望し、〈希薄〉したままの一騎当千で女性騎士を剥いては痛めつけていた。アナはフーコの暴走を支援しつつも何度もため息を吐いていた。
「かっこいい女の子がいっぱいだ〜!」
「フーコって残念女子だったっけ?」
「今なんか言った?」
「なんでもないです(フーコもドS?)」
アナは、いとも容易く行われるえげつない行為を、引き攣った表情で眺めていた。
(生成した岩石を穴という穴から転送で送り込んで動かしまくるってどうなんだろ? 外は奇麗なままなのに中をグチャグチャに潰すって。私でもこれは引く。姉さんはどうだろう? 怒られるからやらない。可能ならやるんだ・・・)
最後は姉の仮定にも若干引いていたが。




