第139話 吸血姫は元正妃を助ける。
ひとまず掃討の方は眷属達に任せ私はマキナと元正妃捜しに向かった。
シオン達には王太子捜しを指示し──
「おそらく衰弱していると思うから」
「ええ。ヒーリング・ポーションで癒やしたのち、一号車の貴賓室に放り込んでおくわ・・・といっても確実に止まってしまうでしょうけど」
「それは仕方ないわよ。弱り過ぎて直接血液を与えない限り各属性が完全有効化しないもの。一応、複製こそ出来ても耐性のみが変化したようなものだしね。血の濃さと弱体化の影響はどうにも出来ないわ。それこそ一時期のリンスみたいにね?」
「あはははは・・・そうですね〜」
「それとリンスを見て惚れると思うから・・・」
「あー、拒絶すればいいんですね?」
「ええ。それでお願い。本国の姫君を嫁になんて抜かせば、先々代が確実に腰を抜かすから」
「「「あー、想像出来 (るかも)ますね」」」
「さて、ゴミ掃除も始まったし、私達も捜索に向かうわよ!」
「「「はい!(ええ!)」」」
私とマキナは一路、北部貴族街へ向かった。
私達はそれぞれに〈希薄〉し民達の間をすり抜ける。ユーコ達とも時折すれ違うけれど・・・。
この王都は南部に平民街、西部に商業街、東部に工業街が存在し、それぞれで生活を営めるよう配慮が成されている。
各街の行き来は中心部の王城外壁を挟んでいるため直接干渉出来ず、王城外壁と内壁の間に存在するロータリーを介する必要がある。
当然、このロータリーにも通用門が存在し、通用審査を受けない限り他の街には行けない。
この通用審査も適用外なら内側には行けず壁が出来て通れない。元々、この場がダンジョンである事から審査も専用魔具が行っているようだ。これは王城内にあるダンジョンコア・・・そこで対応すべき不審物を除外するそうだ。
例えるなら毒やら危険物であろう。
それでも王族と軍関係は除外されているため、なんからの裏道から持ち込まれるのだが。
当然ながら私達の〈希薄〉も審査対象外となり、スムーズに行き来出来た。
するとマキナが、北部通用門を抜けつつ疑問気に問い掛ける。
「それはそうと・・・お母様? 通用審査があるならそこで人族を除外すれば良いのでは?」
「それが早いのだけどね〜。チラッと〈鑑定〉した限り、魔人族を人族として捉えるようでね? 改良を行わない限り除外が出来ないみたい。変装でもスルーだから・・・ね?」
「割と融通が利かないんですね」
「元々魔人族という種族が居ないからでしょう。ハーフという者も進化の過程で出てきた者達だから。先の勇者達は変装していたしね」
「すんなり、すり抜けたという事ですか」
「先に改良すべきとも思ったけど、ダンジョンコアを触らないといけないから・・・追々になるでしょうね」
誰が設置したか不明な門。
それは迷宮神と呼ばれる者が行っているのだろうが、もう少し融通を持たせてもいい気がするのよね? 誰とは言わないけど、誰とは。
という私の独白にユランスが反応した。
「〈スマホ〉にメッセージ? ニナンスが怯えてますので・・・ほどほどに? あぁ迷宮神って、そういう事?」
「それって先日会った・・・緑金髪紫瞳の?」
「ええ。顔立ちは似てるけど、それぞれに色合いが異なる世界の女神達ね」
それは世界のダンジョンを守護する妹神を守るためのユランスからの要望だった。
怯えるって申し訳ない気分なのかしら?
ちなみに以前・・・魔の女神の姉妹達を眷属達に紹介した事があるが、主なる関係は以下である。
───────────────────
続:種:神 名:容 姿:属:別名
───────────────────
長:調:アインス:赤金髪銀瞳:火:炎熱
次:伝:ユーンス:白銀髪金瞳:水:水脈
三:促:レナンス:茶金髪緑瞳:光:医療
四:知:ミアンス:白金髪碧瞳:金:錬金
五:魔:ユランス:紫銀髪赤瞳:空:魔法
六:素:ニナンス:緑金髪紫瞳:闇:迷宮
七:予:ミカンス:青銀髪茶瞳:土:土壌
───────────────────
つまりこの場は六女が管理する場所なのだろう。そこに五女を祀る種族が住み着いた事で例外的に五女へと管理を委ねているようだ。
そういえば他のダンジョンでも長女だったり三女だったりが管理していたりするから、女神は女神で大変なのだろうと思った私である。
ともあれ、私はマキナとの話に戻す。
「女神達の事はこの際・・・置いといて、見えて来たわよ。元正妃が捕らわれている廃墟が」
「こんなところに・・・?」
「ええ。元々宮廷医師の住んでいた建物みたいね。ミイラもこの近くで見つかったそうだから。元正妃までは・・・幾重にも感知罠が沢山だったからショウも躊躇したようね?」
「これは・・・また。アナログな・・・」
私は唖然とするマキナと廃墟内に入ったのだが、どこで得た情報なのか知らないが建物内に細いワイヤーが張り巡らされていた。それに触れると建物内に設置した鳴子が音響増幅魔法陣を介して内部に響くという罠ね。
ショウも捕まる事は無いだろうが、侵入があったとして警戒される事を回避したのだろう。
前回は調査のみだった。救出は指示に含まれていないからショウも手出ししなかった。
なお、肝心の侵入経路は存在していない。
最初から殺す名目で放置していたようだ。
捕まえて罠を設置してそのままという事ね。
生き延びさせるつもりも一切無いようだ。
果ては宮廷医師のようにミイラとなって発見されるという扱いだろう。あちらの罠はこちらほど酷く無かったようだ。
そして、探索にあたったショウ曰く──
『野犬が侵入していたようで、遺体がボロボロでした。しかもアンデッド対策なのか光の防御陣で封印されていました』
貴族達に気づかれないような手段を敵対者達が構築していた。あくまで侵入まで。内部に住まう者達に干渉させない思惑もあったようだ。
それでも最後は殺戮劇を行う者達なのにね?
私は建物全体を時間停止結界で覆い、ワイヤーと鳴子を魔力還元させた。
そしてマキナを引き連れて奥へと進む。
「時空系魔法を全員に覚えさせないといけませんね」
「いずれはそれも必要ね・・・」
というところで私達の目前にボロボロの麻服を着せられた色々と汚れた女性が倒れていた。
いわゆる垂れ流し状態。頬は痩せこけ胸が萎んで骨格が丸見えだった。全身の肉という肉が落ち、あと少しでミイラという状態だ。
魔力だけは微々たる量が供給されていることから直ぐに直ぐ死ぬ事はないが、身体を維持するだけの魔力が無いため、体組成を分解してなんとか生き延びていたようだ。
それこそ生に執着しているような姿ね?
私達は〈希薄〉を解きつつ処置を始めた。
「とりあえず・・・汚いから清浄魔法で清めて」
するとマキナが彼女に近づき様子を眺める。
「服はどうします? 貫頭衣みたいですけど」
年はリンスと同等だろうか?
若干、こちらの方が老け込んでいるが。
これも元々人族だった者を眷属化したのだろう。背格好は十四才前後だが。
私はなにが込められているか判らない貫頭衣を魔力還元させて、彼女を素っ裸に変えた。
胸が萎んでお年寄りっぽくなっているわね。
元々が大きな胸を持つ者なのだろう。
「王太子も収まる貴賓室に素っ裸というわけにはいかないから、最低限・・・身形の良い下着と服を着せましょうか」
「私達と同じ物を使うと欲すると思うよ?」
「必要とあらば販売してもいいわ」
私はマキナのツッコミを受けながらしれっと上下の下着と服を着せた。下着は自動でサイズ伸縮するから戻った時でも問題ないだろう。
マキナは呆れた視線を私に向ける。
「・・・お買い上げ前提なのね」
私はマキナの視線を受けながら彼女の口に血液を流し込む。口から入った血液はリンスを助けた時同様の変化を示す。
「そもそも下界の下着事情を知らないもの」
「そういえばそうだった・・・」
私達の会話の最中も種々の変化が現れる。
萎んでいた胸が血色を取り戻して徐々に大きく膨らんでいく。腰付きも変化し、黒髪に見えた青髪が青銀髪に変化した。青髪とか珍しいけど人族でも様々な種族があるようね?
金髪やら銀髪が多い中、青髪が居るというのは不思議だわ。これだと緑とか赤髪が居ても不思議ではないわね。それこそ女神みたいだわ。
マキナは私の驚きを一瞥しつつ──、
「これは・・・セオリア氷上国出身かな? あそこは青髪が多いから」
彼女の出身地を明かす。
マキナもあちこち飛んで世界を見てきたからだろう。私よりも知っている事が多かった。
普段は自身の中で伏している情報だけどね?
私はマキナの呟きを聞き流しつつ、彼女の意識の目覚めに気づく。
「寒々しい場所が出身なら、あの格好で放置されても寒くもなんともないわね。素っ裸としなかったのは?」
「それなりに敬意を表したとか?」
「腐っても正妃だから・・・か」
その直後、私の「腐っても正妃」という言葉を聞いた彼女はピクリと反応した。元だけど。
これはイラッとした風にも見えるわね?
元々が王族関係者かもしれないけど。
「い、今、なんと仰有いました?」
私は目覚めと同時に睨みつける彼女を白々しく眺めた。怖くもなんともないしね?
「あら? 初っぱなから元気いっぱいね」
「へぇ〜そこそこ魔力量があるね・・・レベルは雲泥の差という感じだけど」
マキナも同様に彼女を煽る。
だが、煽りながらも彼女から反撃が来ない事に怪訝となる。彼女も身体が動かないとしてアタフタしていたし。
「というか・・・制限掛けてるでしょう?」
「肉体連動だけはね。首から上だけ残したわ」
「それで怒り心頭なのに反撃出来なくて半泣きなんですね・・・よしよし可哀想に」
「な、なでるな! お主達は何者なの?」
マキナが慰めながら頭を撫でたのに反し、私は彼女の育ちに育った胸を鷲づかみで揉んだ。
一々誰何に答える必要はないしね?
「む、胸を揉むな!」
「結構柔らかいわね。経産婦とは思えないわ」
「お尻も結構柔らかいですよ?」
「どれどれ・・・へぇ〜。張りがあって良い肉付きね」
「こ、こら! 失礼よ!?」
彼女は私達に弄ばれながら何度も怒鳴る。
私達は無視して弄びながら検査を続けた。
この手法はあくまで検査だ。
結果、彼女の肉体に異常は無かった。
粒魔石の有無も調べたが問題無かった。
彼女は単純に放置の末、弱体化したようだ。
最後は息も絶え絶えで──、
「は、はぁ、い、い、一体、なん、なのよ」
涙目のまま満足気の私達をみつめていた。
反抗心をへし折った私は彼女を再度清める。
「助けに来たのよ。眷属化した経緯は知らないけど・・・相手は選ぶ事ね?」
そして、きょとんとする彼女を相手に満面の笑みで違いを示してあげた。
「え? 相手・・・ヒッ!?」
それはステータスを眼球に示したともいう。
私達の立場を伏せたまま称号だけを彼女に。




