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第135話 吸血姫は魔王を助ける。


 完全に元の調子を取り戻した王妃は、魔神殿から魔王城へと戻った。これから歓待パーティーを開く準備を行うと呟きながら。

 私達はそれまでの間、迎賓館ではなく魔神殿で待ちぼうけをくらう。私達の中で迎賓館を使う立場はリンスとリリナ達だけになるものね。

 パッと見、今の姿はエルフ族であり、吸血鬼族には見えないから。というより銀髪の吸血鬼族が下界に居ないので疑われる事を避けたの。

 銀髪エルフかダークエルフしか居ないから。

 それ以外は人族の中に少し居るくらいね。

 私達は待ちぼうけの間──、


「パーティーか・・・ドレスを作っておいて正解だったわね。マキナ?」

「そうですね。まぁ・・・この世界のドレスではないですが。ねぇ? ユウカ」

「うん。フォーマルドレスを見たらどう反応するかな? アキ?」

「欲する者が増えるんじゃない? 生地は例の反物だけど」

「「着てるだけで刃物を通さないドレス」」

「過剰装備でも、なにが紛れ込んでいるか不明だから必要不可欠でしょう? 私達は死なないけど」

「死なない代わりにバレまくるけどね?」

「不死者って事だけがね〜」

「そこから先は大騒ぎだ〜」

「その前に〈希薄〉で姿を消すわよ」

「騒ぎの収拾がつかなくなりますが」


 口々に騒いだ。私達の待機する場所は王妃が眠っていた医療区画ではなく神殿奥の客間だ。

 ユランスは安堵したのか神界に帰った。

 枢機卿は満面の笑みで私達を案内したが。

 彼女は某神殿が出来上がると同時に改宗するのだろう。いや、魔王が改宗の神託を得て任命するのだろう。それくらいはやりそうだ。

 ユランスならば・・・当たり前に。

 そこには当然、シンやケンも居り──


「フォーマルスーツ貰ったけど」

「雰囲気が違くね?」


 ボソッと呟いていた。

 私はそんな彼らに笑顔の一言を告げる。


「それなら制服を着たらいいじゃない」


 だが、その変化は想像以上に現れた。


「「!? そ、それは流石に・・・」」

「あれは無理だと思う。勇者だってバレるし」

「そうそう。召喚直後に制服姿を晒したから」

「魔人族の密偵にバレてるしね〜」

「派手だから奪われて、勇者の私物として王族達が着て歩いたし」


 マキナを含む四人から拒絶の一言が降り注いだ。私は例えで言っただけだが──、


「それなら文句を言わず与えられた物を着る事ね」

「「はい・・・」」


 シンとケンに苦言だけ呈した。

 それ以外になにがあるの?

 という表情はユウカだけである。

 しばらくすると、タツト達が戻ってきた。


「「ただいま戻りました」」


 どうも話が無事に決着したようだ。

 きょとん顔の二人を伴って戻ってきた。

 クリスはタツトのお姫様抱っこで。

 光家(みつや)は首に縄を付けられて。


「「黙り姫!?」」


 いえ、言われると思ったけどやっぱりクルものがあるわね。消え去った車バカを再現したくなるわ〜。何度も再現しては殺しを行いたくなる程度に。肉体情報と魂の欠片はあるし後日用意しようかしら? スパーリング相手として。

 私は怒りを抑えたまま二人に応じる。


「その呼び名で呼んだら・・・次はないわよ?」

「「ヒッ!?」」


 あらあら。殺気を飛ばしたら粗相したわね。

 タツトは致し方ないという素振りで清浄魔法を行使する。レリィも嫌な目を光家(みつや)に向けて清浄魔法を行使した。


「言葉には気をつけろよ」

「う、うん」

「アンタ、バカなの?」

「ヒッ!?」


 タツトとクリスの関係は良好のようだが、光家(みつや)はレリィの尻に敷かれているらしい。これは良い意味で相性が良さそうね?

 私はこの場に来た意味を改めて問い掛ける。

 笑顔ではなく真剣に。大事な事だから。


「それで・・・二人から聞いたのよね?」

「「はい」」

「それで・・・どうしたいの?」

「タ、タツト君と一緒に居たいです!」

「俺はレリィさんが居れば問題ない」


 私は光家(みつや)の返答を受け頭痛がした。

 私はこめかみを押さえ──、


光家(みつや)は少々・・・いえ、愛情が溢れている事は判ったわ。では、少し恥ずかしい事になるけど、我慢してね? クリスだけは」


 頭痛のする素振りのまま二人の装備をその場で魔力還元した。


「「え?」」


 まぁクリスはタツトに抱かれたまま素っ裸となり、レリィの背後にはそこそこ鍛えられた素っ裸の光家(みつや)が立っていた。


「「きゃあ!」」


 私は即座に胸と下半身を隠すクリスと光家(みつや)を眺めつつ──男がその反応ってどうなのよ──二人の身体を浮かせて横たえた。


「だから言ったでしょう? 少し恥ずかしいって。タツト! シンとケンの目潰しを許すわ」

「よっしゃ! 覚悟しろ二人とも!」

「「そ、そんな、理不尽な〜! ギャー!」」


 私は阿鼻叫喚となるエルフ達を放置し、三人を防音隔離結界で覆う。流石にうるさいから。

 そして素っ裸のまま横たわる二人を相手に一言添える。


「とりあえず・・・一瞬で終わるから」

「「え?」」


 二人のきょとんを受けつつ周囲を時間停止結界で覆った。今回はマキナではなく私が行う。

 空間の御祓はユウカとアキが行い、レリィとマキナが固まる二人の腕を動かした。


「まぁ時間停止結界内であれば一瞬よね〜」

「クリスっておっぱいデカ!」

「着痩せってレベルではないわね」

「くすんだ金髪はハーフ故かしら? ロングのポニーテールは解いておきましょうか」

「名前からしてそうだしね・・・母方が英国人みたいだよ?」

「だからオッドアイなのね・・・特徴的な見た目だわ」


 そしてクリスの隅々を全員で確認した。

 一応、イメージとして焼き付けないと顔立ちが同じになるか不明だもの。

 一方、光家(みつや)の方は──、


光家(みつや)は・・・かわいそうに」

「それは言わないで・・・次は大きく育ってね」


 レリィとアキが同情していた。

 まぁ待機状態と活動状態は異なるし。

 ユーマのような例外は置いといて。

 私はイメージが固まったと同時に、身振りで全員を黙らせる。マキナの時とは手順そのものが異なっているが。


「二つ同時・・・!?」

「これが本来のやり方ね。以前見せたのは大まかな段取りを示す方法だったのよ」

「なるほど。血塊を胸の上の魔法陣に乗せて」

「多重陣を血塊に保持させてるでしょ? 勇者の場合、念話完全防御結界もこの時点で付与するの」

「ホントだ。もしかして最初に?」

「本体で与えてるのよ。準備はイメージの段階で終わっていると言っても過言ではないわ」

「べ、勉強になります」

「数を熟していけば直ぐだから。さて、心臓が出来上がったわね」


 それはマキナの時とは異なり一瞬だった。

 血塊が現れた直後、二人の魂は一瞬で吸い出され、蠢くように心臓を形成したのだ。

 残りは自動的に魔力路や骨格が──、


「クリスのおっぱいが前以上に育ってる!」

「みっくんも大きく育ってる・・・!?」


 古い肉体の上に新しい肉体が重なったままなので比較しやすいのだろう。骨格が出来た段階でクリスの頭には一本の角が、光家(みつや)の頭には二本の角が生えた。

 オーガ族は男が二本角、女が一本角だ。

 銀髪も生えそろい、クリスのオッドアイは右眼だけを魔眼という形で残した。

 それは人物鑑定スキルを活かす魔眼だ。

 私とシオンとマキナ、女神が宿った依り代だけは鑑定不可となるが。


「さて、肉体まで出来上がったし・・・聞こえていると思うけど、今は身体を動かさないようにね? 最終検査中だから」

「「・・・」」

「その間に・・・ユウカとアキがクリス・・・いえ、クルルの下着を着せて」

「「了解!」」

「レリィが光家(みつや)・・・いえ、コウシの下着を穿()かせて」

「わかったわ!」

「それぞれの家名はクルルがタツトと同じ、コウシがレリィと同じとしましょうか。婚姻関係になるけど構わないわね? コウシには嫁が二人居るけど」

「「!!」」

「それしかないでしょうね・・・タツトも頷いてるし。元よりそのつもりでしたし」


 結果、枢木クリス(くるるぎくりす)はクルル・ノーゴとしてオーガ族の女に、光家光史(みつやこうじ)はコウシ・アヤノとしてオーガ族の男に再誕した。レリィはレイに念話を飛ばし、今晩は楽しみましょうと言っていた。

 朝昼晩の食事さえ蔑ろにしなければ好きなだけ愛し合えばいいでしょう。不死者だから子供を求めない限り、神速再生で元に戻るけれど。

 なお、二人のレベルは101で止めておいた。あとは定期的に経験値を得て自力で這い上がるでしょう? 上界に連れていくのは(つがい)である二人に委ねますか。

 下着と装備品を着けられた二人は目覚め──


「凄い・・・力が漲ってくる・・・」

「力の使い方はあとで教えるわ。とりあえず今は・・・そっちを収めてね? 皆が見てるから」

「おぅ・・・こっちも元気になってしまった」

「えぇ! 視界にステータスが見える。マキナさんは鑑定不可?」

「私はしょうがない。お母様と一緒だから」

「お母様?」

「うん。お母様・・・」

「主様がお母様・・・?」


 人族との違いに戸惑っていた。

 私とマキナの関係にも戸惑っていたけど。

 私は問題がない事を把握し古い肉体だけ時間停止結界で覆ったまま結界を解いた。

 そして困り顔で古い肉体の処遇に悩む。


「あとは・・・これの処置をどうするかよね?」


 それは粒魔石を封印した状態の物だ。

 解放した途端、弾け飛ぶ事が確定している。

 古い肉体の周囲に呪文の魔力が纏わり付いているから。呪文と成せば拡散はしないようだ。

 するとクルル達が他人事のように──


「あ、私の身体・・・丸見えなのに恥ずかしくない?」

「そうだな・・・なんでだ?」


 自分達の前の裸体をみつめていた。

 それに応じたのはきょとん顔のアキだった。


「人族の身体だもの。今の身体に意識が傾いているって事でしょ? 私なんて生きながら」

「そういえばアキナ? あんた居たの?」

「今頃気づくって・・・濡れるからやめて!」

「そういえばドMだったわね・・・そそるわ」

「そういえばドSだったのね・・・類友かしら」

「ユウカも?」

「もちろん!」


 タツトの目潰し地獄から解放されたシンとケンがぼやきながらタツトと共に現れた。


「酷い目に遭った・・・」

「目が何度も酷い事になった」

「クルルの裸を見たら同じ事になるからな?」

「「絶対見ないよ!!」」


 私は全員が勢揃いした事で──


「これは送りつけますか・・・」


 一時的に神位解放を行い、クルル達の古い肉体をマギナス王国の謁見室に強制転移させた。

 時間停止結界を即座に解除したうえで。

 するとマキナが興味深げに聞いてくる。


「どこに送りつけたの?」

「マギナス王国の謁見室よ。宰相の目前にコウシの古い肉体を。国王の前にクルルの古い肉体をね。今回の依頼者そのものだから、理解は容易いでしょう。作戦は失敗したという意味で。届いた直後に血液と肉片塗れになったわね・・・謁見室は阿鼻叫喚という感じかしら? 指輪も壊れ易いよう形状変化を与えていたから、宰相と国王は目玉に欠片が突き刺さったけど」


 私の実況中継を聞いたクルル達は怯えながらも私に問い掛ける。古い肉体をあっという間に敵国の中枢へと届ければ必定だろうが。


「「さ、作戦?」」

「二人は良いように利用されただけね。王妃を癒やすと見せかけて、悪化するようにもっていき、最後は魔王の前で装備品毎、証拠隠滅を図ろうとしたのよ。なに気に殺傷力のある装備品を与えられてなかったかしら?」

「そ、そういえば・・・」

「ロ、ローブの下に世紀末かって見た目の」

「悪趣味な装備があったわね。トゲだらけの。それを用いて魔王を瀕死の重傷に追いやりたかったのでしょう。宮廷医師(隅田)の手で瀕死の魔王を暗殺するという複合的な手段を構築してね?」

「それであの子も居たのね・・・」

「あっさりと処分されたけどね。なりすました商人が処刑される前に、証拠隠滅を図ったのでしょう。なにかしらの意図で」

「なりすまし? え? あの人・・・」

「いつのまに?」

「移動中に離れる事はなかった?」

「あ、トイレで・・・」

「俺達が用を足しに向かった時・・・」

「その時に殺されて入れ替わったのね」


 いやはや本当に度し難い国家だわ。

 そのためなら勇者達も使う。元々が殺す名目で呼び寄せていたからだろうが。

 そういう意味ではあの五人も同じなのかもしれない。今は・・・奴隷に落ちているけど。

 勇者の地位は剥奪され魔力も微々たる量しかないもの。これを見る限り平定後は同じ行いをするつもりなのだろう。異世界人は不要だと。





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