第134話 吸血姫は番達を助ける。
ひとまず外に連れ出された勇者達に関してはタツト達に任せ、私は王妃の目覚めを待った。
しばらくすると──
「ん・・・んん。あら? 苦しくない・・・」
王妃が目覚め、枢機卿の介助で起き上がる。
私達は勇者達が出ていった直後より〈希薄〉を解いていたため、安心したように王妃をみつめる。
すると枢機卿が王妃に事情を打ち明けた。
「はい。王妃様。こちらの方々が治してくださいました」
「そうなの? 治ったというよりは違う私という感じがするのだけど?」
「まぁそうですね。ですが・・・今回の事で王妃様も死に怯えなくてよくなりました」
「え?」
「詳しくは申せませんが・・・魔王様と同じく死を超越した存在となったのです」
「え? あの方と同じ? でも私は吸血鬼族ではないわよ?」
流石に驚くわよね?
魔王自身は元々超越してないけれど。
それでも国民はそう思っているのだろう。
レベルが高いから死ににくいだけね?
流石の枢機卿も言葉に詰まり──、
「違います。そういう意味ではなく・・・貴女は生まれ変わったのですよ。ダークエルフでありながら吸血鬼族の長に。こちらの・・・生死神の力で」
途中からユランスに交代した。
というかユランスが表に出てきた感じね?
暴露をしたがるというが、あまりの一言に唖然とする王妃だった。
「え? 神様? というか魔王様と同じ?」
「そうです。実は先日・・・神託が降りました。生死を司る神が降臨したと。普段は吸血鬼族の長として世界中を旅していますが本来は神なのですよ。魔の女神様よりも位の高い」
「!? そ・・・そうなのですか? エレン枢機卿・・・それは魔の女神様に失礼なのでは?」
「私が失礼とは思っておりませんから、気にしないでください」
「私? え? もしかして・・・」
「これは内緒ですよ?」
「!!?」
ホント自身の事ですら暴露するのだから。
困った妹神である。それでも内緒とする辺りユランスなりの優しさなのかもしれないが。
その後は王妃も私達相手に謙る。
「ど、どうか、そちらにお掛け下さい。立ちっぱなしで、お疲れになったでしょう?」
「「・・・」」
ユウカ達は女神の御使いという扱いになり、女神という名称を聞いても驚いていなかった。
「だってね〜。私達もエルフに転生したし」
「うんうん。言われて納得って感じ?」
「主様に仕えているだけで幸せですって」
「ナギサさんが頻繁に言ってますよ?」
「お母様。素直に諦めましょう?」
「そ、そうね・・・うん」
流石に転生者を四十人近く用意すれば必然なのだろう。これでも少ない方だと思うけどね?
一方、外に出たタツト達はというと──
「ま、故あってオーガに転生したわけだ」
魔神殿の門前で捕縛状態の二人に対し簡単に事情を打ち明けた。今は商人を連れていった衛兵が戻ってくるのを待っている状態ね。
二人は引き渡さないだろうけど。
だがクリスは事情が読めていなかった。
転生したと言われても理解不能となるのは仕方ないだろう。
「どういう事?」
タツトは逡巡し、ナディと念話で会話した。
「今は、そうだな⦅情報は抜き出した? ナディ頼む⦆・・・そいつは不要だからいいだろう」
この時のタツトは魔族そのものの雰囲気を宿していた。クリスも「ヒッ」と怯えを示し、光家に至っては怯えまくっていた。
「なになになに? なにが始まるんだ?」
「黙って聞きなさい!」
「レ、レイが怖い・・・」
「は?」
「な、なんでもない」
その直後、四人の前に亜空間の門が開き、私が〈遠視〉ののち、空間的な結界で覆った。
取り出された宮廷医師は素っ裸に剥かれ、ガリガリの子供体型が仰向けで晒された。
「え? 隅田さん? まさか・・・この地に入っていたの」
「どういう事だ?」
「二人は知らなかったのか?」
「ああ。俺達は王妃を助けに向かえとだけ」
「ええ。そういう命令が入ったから」
二人は驚きのまま、気絶した隅田をみつめる。光家は素っ裸であろうとも興味無しだった。彼の好みはレリィのみなのだろう。レリィは微妙な表情だが。
するとタツトが訝しげに問い掛ける。
「それは誰の命令だ?」
「マギナス王国の宰相だったかしら?」
「ああ。宰相で合ってる」
「二人は命令主が明確なのね。この子は不明確だったようだけど。他の五人同様に」
「「五人?」」
「えっと誰だっけ?」
「山ズとチビ助だ」
「え? あの五人はアオリア洋上国に向かったと聞いたけど」
「ああ。俺もそう聞いた」
この二人と六人は別口の依頼者のようだ。
だが、おそらくは裏で繋がっているだろう。
捕まえた商人の記憶をすかさず頂いたが、思惑が思惑だったから。
上手いこと利用しようとしたのかもね?
全く人族国家は度し難い者達が多いようだ。
すると、その直後──パシャンという物音のあと隅田の肉体が消え失せた。
私は血溜まりが出来上がると結界を消す。
「えぇ!?」
「消えた・・・いや、あの血溜まりはなんだ?」
おそらく捕まった商人が呪文を唱えたのだろう。二人の場合は私が封じているから影響は出てないが。私は漂う隅田の魂を渦に送り込んだ。魂の保管庫が一杯で、たちまちは私の保管庫へと移動させたが。
タツト達はため息を吐きながら教える。
「あの血溜まりは隅田だ」
「「え?」」
「おそらく死亡通知が届いたと思うが?」
「うそ・・・」
「まさか?」
「そのまさかよ。私は違うけど・・・タツヤ。いえ、タツト達も同じように殺されたのよ。合国の思惑でね?」
「そ、それって・・・一体?」
「なにがあったんだ?」
二人は戦慄の表情だった。
仲間だと思っていた異世界人が瞬間的に消えたのだ。死亡通知が届けられ現実を思い知らされた。タツトは目の前の血溜まりを自身の手で魔力還元させつつ、詳細を明かす。
二人の表情は戦慄から段階的怒りに変わり、クリスに至っては泣いてしまった。
レリィの件は別口で殺された事を伝えると光家は怒り心頭となった。
レリィが抱きしめて落ち着かせたが。
「おそらくだが・・・二人も同じタイミングで亡くなっていただろうな」
「「!?」」
「詠唱発動・・・こんな手もあったのね」
そう、驚く二人を相手にしみじみと語り合うタツト達だった。だが、クリスは二人の言葉に気づきつつも否定したい気持ちで一杯だった。
「で、でも、今は生きてるし・・・」
「それは私達の主様が止めたのよ。一時的に封印していると言ってもいいけど」
「じゃ、じゃあ、私達も?」
「可能性としては高い」
「下手すると肉体が隅田と同じになるわね。それは世界中を駆け巡っている他のメンバーも同じね(山ズとチビ助は除く)」
「そ、そんな・・・」
「なんなんだよ!? 勝手に呼んで魔力目当てって・・・」
悲しみと憤りに暮れるクリスと光家。
現実が如何に非情であるか理解したようだ。
するとレリィがなにを思ったのか──、
「ところで二人は特権を使ってる?」
あっけらかんと問い掛ける。
それは問題児の烙印かどうかの確認だった。
クリスは涙を拭い、光家は苛立たし気に応じる。
「え? 使ってないけど?」
「あんなもん使ったところで馬鹿らしいぞ」
流石の返答にタツト達は互いに苦笑した。
ミーアと同じだったから。
「流石は生真面目の権化」
「やっぱり無関心男故かしら?」
「「バカにしてない(か)?」」
「「全然(棒)」」




