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第133話 吸血姫は王妃を助ける。


 私はユランスから望まれた通り〈マグナ楼国(ろうこく)〉王妃の治療にあたっていた。

 言葉に出すと不味いので念話を用いながら。


⦅・・・これは少々不味いわね⦆


 だが、ユウカや私が調合したヒーリング・ポーションであっても一向に治る気配が見えず、私は彼女の器を詳細鑑定したのだ。

 その結果は──、


⦅魔力の器が完全破壊寸前ね。これ以上の刺激は逆に危険だわ⦆


 魔力を蓄える器。肉体と魂との間にある精神がボロボロになっていたのだ。これではいくら治療しようにも治る事はなく、最後の頼みの綱は私達の手段に依るしかなかった。

 ユウカは尽力したにも関わらず、結果が思わしくないとして元気を無くしつつ問い掛ける。

 もちろん耐え忍ぶ王妃に配慮し、うしろを向いているユウカ達だった。宣告にもなるしね。


⦅そんな・・・治る治らないというレベルを軽く超えていたの?⦆

⦅ええ。もう少し早く到着出来ていれば間に合ったのかもしれないけど・・・⦆

⦅それって橋を壊した者達が原因なの?⦆

⦅アキも憶測で考えない方がいいわ。ただ一つ言える事は外から治療者が来る事が判っていたか、あるいは・・・⦆

⦅それを踏まえてなにか意図が動いている?⦆

⦅結果はまだ判らないわね。怪しいのは宮廷医師だから。シオンたちの方で動きはあった?⦆

⦅ナディ達がようやく魔王城に侵入出来たと報告があったわ。結構ガチガチにかためてあって経路を探す方が大変だったそうよ・・・〈希薄〉してても相手の警戒感が強くて油断すると気づかれるって言ってたわ・・・⦆

⦅本丸そのものだものそれは仕方ないわ⦆


 一方、ユランスは静かに王妃をみつめ続けていたがこうなる事が予見出来たのだろう。表情はどこか暗く心配している風でもあったから。

 私はマキナの右肩に左手を()せ──


⦅最終手段に出るわよ・・・王都にあの子達が侵入したから⦆

⦅うん。判った・・・⦆


 マキナに再誕の指示を出した。

 それは治療者としてクリス達が来たからだ。

 今は余計な刺激は与えられない。

 王妃の器はヒビが入ったガラスの器と称せば良いだろう。あとひと突きで崩壊するのだ。

 それが起きたら最後、魔力は王妃の肉体から拡散し、肉体は血液を撒き散らして崩壊する。

 魔力暴走に似た症状で死を迎えるのだから。

 するとマキナの準備が整った。


⦅いつでもいけます!⦆

⦅了解よ。ユウカとアキは空間清浄魔法を行使して御祓を行って!⦆

⦅⦅了解!⦆⦆


 一方の私は無詠唱で周囲の結界を時間停止結界へと変え段取りを始める。この時点でユランスは依り代から追い出され私の隣に立った。

 時間停止中は宿れないという事だろう。

 その間のマキナは血塊を両掌で握る。


「ふぅ〜。施術開始しますっ!」


 王妃の心臓を意識し魔法陣を表出させる。

 直後、魔法陣の中心部から光り輝く魂が放出され、マキナの血塊へと吸い込まれた。

 マキナは血塊に再誕の魔法陣をあてがい──


「私の因子とダークエルフの肉体情報を追加! 本人の望む姿へと・・・設定完了! 肉体生成開始!」


 真剣な表情で一つ一つの作業を熟していく。

 それは昔、私が行った施術法と同じだ。

 唯一違うのは魔術が魔法に変わっている事くらいだろう。マキナは間違えないよう慎重に術式を選び必須スキルと耐性を複製していった。

 そして作業を最終段階へと移行させた。


「無事に心臓になったわね・・・後は自動的に肉体が作り出されるわ。マキナお疲れさま」

「緊張しました〜。命を扱うのはホント大変ですね・・・油断すると不必要なスキルが入りそうになりますし」

「回数を熟せば直ぐよ。今回の事で得られなかった各種耐性も入れたから、この子も無事に不老不死になったでしょ。ま、直接的な眷属(けんぞく)ではないけれど」


 すると先ほどまで黙って見ていたユランスが感嘆の声をあげる。


「驚きました。今までと違うのですね?」

「心臓を構築するまではね? 今までは水晶で代用していたけど、これが本来の方法なのよ」

「お母様に感謝ですね」

「ホント。それだけは感謝しかないわね」


 なお、ユウカ達にはユランスの姿が見えていないため、私が独り言を言っているように見えたようだ。二人はきょとんとこちらを見てるから。その間も王妃の肉体は臓器と筋肉が発生し、胸へと膨大な量の脂肪が発生していく。

 私とユランスは唖然(あぜん)としつつ王妃をみつめる。マキナ達も呆然とした表情だ。


「これはまた・・・大きさ的にG?」

「いえ、Hはありますね」

「もしかして私の胸を参考にした?」

「可能性は無きにしも非ずですが・・・」


 その後、奇麗な褐色の肌が整い、銀髪が元々の長さまで伸びきった。そして古い肉体の隣に着陸するかのように、横たわる王妃だった。

 私は古い肉体から宝飾品を取り外して魔力還元した。ただ、宝飾品の一つが──


「これは・・・弱体化の付与がされてるわね」


 なんらかの呪具となっており、私は鑑定ののち付与だけ消し去った。そして強化の付与を与え、新しい肉体の方へと着けていった。ユランスは付与を聞き怪訝となりつつ思案する。


「弱体化? 確かその指輪は宮廷医師が子宝に恵まれるという言い伝えで手渡していたはず。なのに弱体化とは?」

「やっぱり宮廷医師が黒みたいね。上界と同様に悪い事を行う医師が居るのね」


 その直後、シオンを経由して情報が私に伝わった。それはナディ達から報告が入ったのだ。


「へぇ〜。ナディ達の頑張りが出たわね・・・」

「なにか判りました?」

「真っ黒よ。というより・・・」

「酷い話もあったものだ〜」


 マキナは頭が痛いという表情だった。

 ユウカ達もナディ達が得た情報を知ってやりきれなさが先立っていた。救う側が殺す側になっていればそうなるのは必定だろう。

 私はきょとん顔のユランスに報告する。


「ミアンスの依頼が確定した瞬間ね」

「姉上の・・・はっ! まさか?」

「そのまさかね? 今はナディが捕縛して亜空間に浮かせているわ。ショウの方では本来の宮廷医師の・・・ミイラを発見したそうよ」

「なりすましですか・・・」

「ええ。ただ・・・人族がダークエルフの王妃を殺したとして得があるとは思えないのだけど」


 私はそう考えた。

 しかし答えは真剣な表情のユランスから──


「いえ。それはありますね。実はダークエルフの集落は金の採掘が可能な場所なのです。おそらく過去に追放した人族。それが記憶を保持したままマギナス王国に助けられたのでしょう」

「だから執拗に求めていたと・・・毒霧も?」

「ええ。姉上に聞いてみない事にはなんとも言えな・・・いえ、当たりですね。これはレナンスからの情報です」


 (もたら)された。そのうえ姉からも情報が降りてきた事で主犯が判明した。レナンスというと勇者召喚を行った女神だろう。

 ユランスは苛立ち気に知り得た情報を吐露する。


「事の発端は人族の難民・・・人族の子供を救ったダークエルフの商人が、己が責任でもって育てていたのですが流行病で亡くなり、孤児となった子供があちこちの金鉱山で盗みを働いていたそうです。それを見つけた衛兵が捕まえ、記憶消去術で追放しマギナス王国に流れ着いた。そしてどのような意図があったか不明ですが〈マグナ楼国(ろうこく)〉という国が砂漠地帯にある事を伝えたようです」


 それは正に恩を仇で返すやり口だった。

 生きるためとはいえ、追い出されたから奪う側に回るのは、なんとも言えない話だった。

 そもそも人族を自らの集落に連れて帰るというのは・・・信仰の教義に反すると思うのだが?

 それすら判らない者が居たという事だろう。

 ユランスも度し難いと思っているしね?

 亡くなって転生した者だから、今更文句の言いようがないけれど。


 ともあれ、今はそんな事を話し合っている場合ではないため、私は時間停止結界を解除し、ユランスは枢機卿へと宿り直した。

 王妃は無事に呼吸を始め、先ほどとは打って変わって元気になっていた。胸が育っているのは置いといて・・・Iカップはありそうね?

 私は王妃が素っ裸のままだったので、その場で下着を作り出し、マキナ達と協力して着せていった。異世界式のブラとパンツだが、機会があれば必要数だけ販売しても良いだろう。

 その後、私は王妃の身体を浮かせたのち、バスローブを着せてあげた。今はまだ眠っているが追々目覚める事だろう。


「後は経過観察ね。黒銀のバレッタも追加しておきましょうか。奇麗な銀髪に合うと思うし」


 私は即座に作り出したバレッタを浮かせた王妃の後頭部に着けてあげた。するとユランスが興味深げに質問してくる。


「それはなにを付与したのですか?」

「転生後の属性を誤魔化す偽装ね」

「というと・・・なるほど。確かに必要ですね」


 ユランスはニコニコとした様子だった。

 それはマキナが与えた属性の増加だ。

 彼女は元々光属性のみだった。そこにマキナが闇属性を追加し毒の効果を無効化したのだ。

 そのうえ毒無効を与えて、始祖化した。

 まぁそれくらいしか与えてないけどね?

 あとは本来持っていたスキル群をカンストさせたくらいだし。彼女は魔王の奥方だもの。

 一緒に強くならないとね?

 一生共に生きていくのだもの。

 立場上、第二王妃(・・・・)の方が上になるけれど。混ざり者の正妃と異なる意味で。

 私は浮かせていた王妃を元のベッドに戻す。


「もし仮に・・・って、ちょうどよいところで到着したわね」


 そして今後の事を話そうとしていたところ、例の勇者達が神殿を訪れた。魔王城へと訪れないあたり、その商人も怪しいかもしれない。

 私はユウカ達と目配せし〈希薄〉で隠れる。

 外で待つタツト達も同様に。

 ユランスは宿ったままその場で待機した。

 すると、枢機卿と王妃が待つ部屋に──


「失礼します! 治癒士の方がお越しになりました!」


 例の商人が現れた・・・のだが。

 格好こそ商人だけど、どこで入れ替わった?

 勇者様と言ってたのに今は治癒士と言う。

 ユランスも知らない?

 ユランスはきょとん顔のままだった。

 あの時は正真正銘のダークエルフだった。

 今は人族が商人の格好で現れている。

 私は商人の右手薬指に指輪がある事に気づき、仕方なく商人の指輪を消し去った。

 もちろん勇者達の指輪は残してあるけど。


「こちらの方々が治癒士です」

「「失礼します!」」


 ユランスは勇者達を一瞥しつつ商人に物申す。今は主導権を枢機卿に戻したようだが。


「あの? 申し訳ないのですが・・・」

「なんでしょう? ああ。御心配なのですね。こちらの治癒士に任せておけば問題はありません。奇麗に治してくださいますから」

「いえ・・・話になりませんね。衛兵! 侵入者です! 即刻捕縛なさい!」

「「は!」」

「は? 誰が侵入者・・・え? わ、私じゃない! どういう事だ!? やめ、やめろ!」


 枢機卿はヤレヤレという様子で連れて行かれる者を無視した。そして勇者達が聞けば震えあがるこの国の法律を口走った。


「困ったものですね〜。王都への不法侵入は死罪だというのに。国外追放で許されるのは周辺の集落までですよ」

「「!!?」」


 これもこの場の責任者だからだろう。

 自身の責任問題に発展するから。

 案の定・・・勇者達はガクガクブルブルの様相に変化したが、おそらく国外追放で済むと思っていたらしい。そんなに甘いものじゃないわ。

 すると枢機卿は居住まいを正し──、


「それと・・・申し訳ないのですが、王妃様は完治されておりますので、お引き取りください」

「「え?」」


 勇者達に退室を命じた。

 勇者達は呆然と立ち尽くし動けないでいた。


「どうしたのですか? 私は完治したと申しましたが?」

「ほ、本当に?」

「ええ。問題なく。血色もよいですしね」

「マジで・・・」


 それを聞いた勇者達は呆気にとられ、その場にへたり込む。私はタツト達に目配せし移動を促した。タツトはクリスの背後から近づき、慣れた手つきで抱きかかえる。


「!!? え? 浮いてる」


 それは慈しむように。レリィは光家(みつや)の首根っこを片手で持ち上げる。


「うぐぅ! 痛い、痛い、痛い!」


 そして二人はその場で〈希薄〉を解き──


「「御退出を願います」」


 困り顔のまま願った。

 抱きかかえられたクリスは目を白黒させる。


「え? え? え? こ、この感触覚えが?」

「それはあるだろう。頭・・・大丈夫か?」

「えぇ・・・タツヤ君?」

「・・・」


 光家(みつや)は聞き覚えのある声音に驚きを示していた。


「この声!? まさか・・・嘘だろ!?」

「嘘かどうかは後で判断する事ね?」

「マジでレイだと。こんな力持ちだったか?」

「驚き過ぎて痛みが無くなったみたいね?」

「あっ」


 私はその間に粒魔石を一時的に封じた。

 この場で動かれても迷惑だから。

 なお、ナディ達が確保したという宮廷医師も勇者だった。こちらは隅田隠子(すみだいんこ)という根暗女子が変じていた。

 この件に関わっている勇者は八人だった。

 ただ・・・まだどこかに潜んでいるとも限らないため、私達は継続警戒した。





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