第131話 眷属の番を用意する吸血姫。
王都までの道中は邪魔もなく快調だった。
それは〈希薄〉状態での移動と共に、マギナス王国への道中と同じで盗賊や魔物を魔力還元やらなにやらで消し飛ばしていたからだが。
その道中、六号車から耳を疑う会話が聞こえてきた。それはシロが運転しつつ、助手席で茶を飲むタツトに話し掛けた事が始まりだった。
『そういやタツト?』
『なんだ?』
私とナディとマキナは一号車で段取りの話し合いを行っていたが、神妙な声音が聞こえてきたので黙って聞きに徹した。
シロは聞かれていると知りながら──、
『お前はクリスをどうするつもりだ?』
逡巡ののちタツトが咳き込む言葉をぶち込んだ。私達が沈黙すればそうなるのは必定よね。
先ほどまでは潜入の段取りを話し合い、どこで待機するか認識共有を行っていたから。
『ブホッ!? ご、ごっほ、ごっほ! い、いきなり、なんなんだ! 全員が聞いてる最中に聞くなよ!』
『お前が戸惑うなんて珍しいな?』
『と、戸惑っていないぞ?』
『戸惑ってないなら、顔を出したケンに茶をぶっかけるなよ?』
『ひ、酷い目に遭った・・・』
『おう。すまんすまん』
『それでどうなんだ? クリスは・・・お前だって認識していたぞ。俺が合流して街をうろついた時に単独行動中のクリスの呟きが聞こえたからな? 亡くなったなんて信じられないって』
『・・・』
私はその名を聞き事情を知っていそうな助手席のマキナをジト目でみつめる。ナディは耳だけがピクピクと動き、運転に集中していたが。
「どういう事なのかしら?」
するとマキナは男子達の会話を聞きつつ、こちらのマイクをオフに切り替え、後部座席に座る私に事情を話した。
「・・・わ、私もそこまで詳しくないよ?」
「詳しくなくていいわ。ある程度は調べる事も出来るし。分かる範囲でいいから言いなさい」
「う、うん・・・実はクリスとタツトは婚約者らしいよ。肉体関係は既にあったとも言ってたけど」
「婚約者ねぇ・・・タツト本人は完全に忘れていたようだけど? そういえば居たって感じね」
「・・・こちらに来て、余計なしがらみが消えたからじゃない? 爆散の事もそうだけど色々あったから。亡くなったと思わせて他の男に靡いてくれたら、それでいいとか思ってそうだし」
「確かに。思ってそうよね・・・?」
そう、私達が関係性を洗っている最中──
『俺の事はいいんだよ! それを言うならシロはどうなんだ?』
『お、俺か?』
『氷田との関係が進んで致したって』
六号車が一瞬だけふらついた。
シロがハンドルに頭をぶつけ怒鳴りつける。
『ガン! 運転中に余計な事を言うな!』
氷田というとニーナ達の仲間よね?
すると案の定、ニーナが会話に食いついた。
『雪との関係ですって!? くわしく!』
『ほらみろ! レイヤー仲間が絡んできた!』
『失礼ね〜。それはそうとクリスとの関係が先だわ! タツト教えなさい!』
『くっ・・・誘導したのに戻ってきた』
『そうは問屋が卸さないってこった』
タツトは話題転換を図ったが上手く躱されてしまったらしい。それだけ全員の興味は二人の関係なのだろう。私としても必要なら・・・ね?
だってレリィはノーマルだけど異性には興味が無く、同族であるタツトには靡かないもの。
『シロはあとでレリィと尋問するから〜』
『結局、聞くのかよ!?』
『当然でしょう? 仲間の恋だもの〜』
タツトと関係がある女子が居るなら、同族として用意するのも、やぶさかではないわね?
本人達の意思と今後の関係が作用する話ではあるけれど。
『そ、そりゃあ・・・生きててくれて良かったとは思うぞ? だが、いつまでも亡くなった男に固執するのも、未来に生きてないからな・・・』
『俺が聞きたいのは・・・そういう事じゃないんだよ! 終わった事にするのは簡単だがな?』
『はぁ? どういう事だよ?』
『お前はクリスをどうしたいんだ? 勇者の最後どうなる? 未来に生きろというが、土台無理な話だろう? 俺は経験者として言うが』
『最後・・・経験者・・・あっ!』
『だね〜。上界はともかく下界は爆散だし』
『最後が決まっているなら、どうしたい? 俺は決まってるがな? 雪を助けたいと思っている!』
ほほう。シロはなに気に男気があるわね?
氷田雪は・・・帝国をうろついているけど候補として粒魔石の封印をしておきましょうか。変なところで死なれても困るし。
そう、運転しながら男を示すシロに反し、タツトはクリスに対しては消極的のようだ。
それ以外は外道を表に出した脳筋だが。
シロも女が居るのに他の女に目を向けるが。
『で、出来るなら助けてやりたいとは思う。だが、クリス達はなんらかの隠密行動中だろ?』
『そうだな。人族の割に誰何が無いし、半裸で追い出された五人のようにバレたという様子もないからな』
『ああ。あれも主様が言う変装魔具のおかげだろう。俺達には人族の姿で見えたが』
『だな。俺が鑑定した限り・・・不死属性を持つ者には即バレする代物らしい』
『だから俺達には見えたのか・・・』
シロが鑑定した通り、あの魔具は生者のみを謀る魔具だ。不死者や女神の目を誤魔化す事は出来ない。それは私が各種耐性を配布した事で最強と化した魔王ですら通用しないのだ。
各種耐性には不死属性も含まれるから。
するとマキナがなにかに気づき──、
「ねえ? お母様?」
「どうしたの?」
きょとんとする私に問い掛ける。
「魔王を最強にした件で・・・クリス達が酷い目に遭わない? 変装バレがあるって事は・・・」
「あっ・・・」
私は失念していた。
マキナからの苦言で状況が悪い方へと転がっていると気づいたのだ。まぁ勇者が魔王と相対するという事では勇者の物語っぽいが。
それであっても彼らが勝てる相手ではない。
片やレベル40前後の勇者達。
片やレベル180の魔王が相手だ。
そこに私の不死属性が追加されたのだ。
以前のマキナが相手なら勝てただろうが。
彼女達は変装していてもただの人族だ。
「クリス達の即死は確定だよね?」
「ええ。到着したら魔神殿へ向かいましょうか。そこを経由して話を振って貰いましょう」
「治癒士として侵入するって事だね?」
「ええ。ナディ達は宮廷医師を調査してね」
『「承知しました」』
「今は彼女達がどう動くか不明だけど」
「それでも助けるという事は確定だね? それでピカはどうするの?」
「誰かが求めるなら・・・助けましょうか。不要ならそのまま渦に飲ませるわ」
すると私達の会話を聞いていたショウが──
『だって。レリィ?』
同じく四号車に乗るレリィに問い掛けた。
私は突然の事できょとんとなってしまう。
「へ?」
『あはははは。すみません。私の彼氏です』
「彼氏が居たの!?」
『私にだって居ますよ!! 居ないのはニーナだけです!』
『私にも居るわよ! まだ転生してないけど』
それは彼氏の暴露大会だった。
ノーマル勢には相手が居たらしい。
そういう意味ではルー達にも居そうだが。
コノリは鎚が彼氏と明かしていたが。
私はニーナの皮肉に戸惑ってしまう。
「だ、誰? 必要なら蘇らせるけど?」
それこそ居たの? という感じね。
するとニーナはモジモジと答える。
『八組のマー君・・・麻島将人君が相手・・・です』
「あーはいはい。例の小柄男子ね? 予定に入れておくわ。それは・・・事が済んでからね?」
『やったぁ!』
という事で、急遽ではあるがノーマルな眷属達の相手が発覚し、私はニーナの歓喜を聞き流しながらリマインドした。
但し、相手は同族とするのが無難であろう。
異種族交配は余計な差別を生みかねないし。




