第129話 吸血姫は謎配布を楽しむ。
マグナ楼国に入国して三日目の夜。
全荷馬車の合流も滞りなく済み、その間の私は集めるだけ集めた情報を整理した。合流中であろうとも内部での行き来は可能なのでナギサは頻繁に一号車へと来ていたが。
私とナギサは監視室で情報を纏めていく。
「相場観は人族国家と変わらず。ギルドの代わりに種族毎で担当部門があると・・・」
「国内の商いはエルフ族主体のようですね。獣人族が国外との交易を行っているようですが」
「主な国防はオーガ族。偵察と伝令兵が有翼族。外部での簒奪・・・いえ、回収が淫魔族と夢魔族ね。無駄に多いゴブリン族はホブゴブリン以上が傭兵で、残りは雑兵ね」
「魔人族という者達も居ますね。普段は人に化けて密偵を行っているようですが」
今は会話にあるとおり、この国の主なる人材関連を整理していた。下界に降りてきて直ぐの戦闘では淫魔族を滅してしまった私だったが、彼女達も元より国の命令で動いていたようだ。
そして、その命令を発した者が──、
「そうね。後は同族が・・・」
「ええ。王族・・・魔王ですね」
同族と知って私達はなんともいえない気分に陥った。降りてきてまで同類と出くわすとは。
私は纏めた情報を眺め、頂点に立つ者の統率力に驚きを示した。
「この国は吸血鬼国家という体裁よりも、多種族国家という体裁で成り立っているという事ね。それでも王族は建国以降、変化無しと」
吸血鬼族だけならば直系から傍系までの統率も可能だろうが、そこに多種族を含んで纏める手腕だけは驚きを隠せなかった。
しかも法律的な物も用意し処罰などもキッチリしているのだ。まぁ記憶消去魔法が適用出来ていない事は考えものだけど。
するとナギサは興味深げに質問する。
「彼らの場合、どういう扱いなのですか?」
「扱いって?」
「眷属的なものですね?」
私はナギサの質問を受け、二号車プールに浮かぶ土左衛門・・・シオンの経路を調べる。あの子ってば今度は両足を天井に向けているわね。
土左衛門より〇〇家という感じかしら?
「ん〜? シオンからの繋がりを手繰る限り、薄いけど関係はあるみたい。おそらく前大戦時に連れていかれた者の子孫である事は確かね」
「という事は・・・ダンジョン内に逃げ延びて国家を立ち上げたと?」
「おそらくね? オーガ族と有翼族が国防を担っている事を考えると、魔人族は各種魔族と人族のハーフのようね。上界にも居るには居るけど肩身が狭い扱いだから」
「下界では魔人族という扱いとしていると?」
「ええ。その可能性が高いわね?」
色々と調べて纏めると治政に尽力する人物だという事が判った。薄いのは眷属ではあるが完全ではないという事だろう。
私は薄くなった関係から魔王と呼ばれる者のスキルやレベルを調べる。それは係累を含め、先祖と呼ばれる者の繋がりを洗っていく。
その間のナギサは情報を記録していたが。
(・・・途切れているわけではないわね。命令・・・受諾の反応は遅いけど、人族に血を分け与えた事で純粋な吸血鬼が少ない印象があるわ。魔王の先代と先々代・・・生き延びては居る? 耐性の有無は出会った当初のリンスと同等? 下界に居た関係で渡っていないという事ね・・・)
結果、各種耐性の適用外だという事が判明した。それは結局、血が薄くなっている事が要因だろう。私は係累まで及ぶか不明だが──、
「試しに・・・魔王達に全無効系を配布してみたわ。スキルだけは渡せないけど、反応がどうなるか見物よね?」
てへぺろっと試験的なイタズラを実行した。
するとナギサは手に持った書類をテーブルに落としながら唖然としつつも問い掛ける。
「それは一体?(あ、また整理しないと)」
「少し思う事があってね? 配布状況は今代までがギリギリってところね。王太子にあたる者は混ざり者の影響で無効ではなくただの耐性になった・・・わね」
やはり混ざり者が悪影響を与えていたようだ。仮に今代の魔王が新たに子作りを行った場合、与えた耐性は引き継がれていくだろう。
なお、王太子という身分となった者は完全ではないにせよ、陽光の中を歩ける事だけが判明した。これも将来的に新たな火種にはなるだろうが、そこは魔王達が考える事である。
私は引き続き配布状況を見守る。
「先々代は・・・なぜか寝込んでいたけど無効系を得た事で驚いているわね。これは水銀を服用させられていたのかしら? 今は銀無効を得てポージングしているわ。タツトのように・・・」
ナギサは書類を纏め直していたが──
「それはなんというか・・・強化したのでは?」
先々代・・・建国王の状況を知った事で呆然としていた。私としても驚きしかないけどね?
私は先ほど「少し思う事が」としたが簡単に事情を打ち明けた。
「そうなるわね。これが仮に人族国家へと攻め入るつもりなら渡さなかったけど、専守防衛が主体みたいだから問題は無いでしょう。現に先代と先々代の弱体化が目に見えて明らかだったし、国力維持のために・・・ね? 多種族国家として統治に成功している褒美ともいうけど」
「なるほど。それで、あちらからの反応は?」
「唐突に上流から流れてきた物だから驚きはしているけど・・・いえ、ユランスに拝んでいるわ。神から賜ったとして」
「それは神様違いですが・・・いえ」
「いいのよ、気にしてないから。それこそユランスに身代わりになってもらうとするわ。彼らの主祭神は後にも先にもユランスだしね?」
そう、ユランスが聞けば苦笑いする事が確定している事案である。ユランスが神託を発したならばその限りではないけれど。
§
それは深夜。
魔族・亜人であれ寝静まった頃合いの事。
偶発的な耐性配布を行ったあとの私は──、
「アキとアナ、ミキとコノリで橋の再開通を行うわよ!」
合流した者達に対して指示を飛ばした。
それは勇者達が爆破させた橋の修理だ。
現状のまま残り続けると間に合わないため、工房作業を行う彼女達の元へと向かったのだ。
「アキとアナは橋桁を、ミキとコノリは橋脚を。最後の補強は私が行うわ」
するとアキがアナと目配せし、アキが──
「それで使う素材はなんですか?」
代表して手前に置いたインゴットをみつめつつも質問した。
私は従来の橋を簡単にホワイトボードへと記し出来上がりイメージを〈相互念話〉で共有した。
「・・・旧来が大理石と木材が中心だったから、ジュラルミンを使った鉄橋としましょうか。出来上がるのはミーアの装備仕様となるけど」
「鈍器にもなる鉄橋・・・」
「ドラゴンを誘導しただけで倒せそう・・・」
まぁコノリとミキからボソッとしたツッコミを頂いたが、爆薬を使って破壊を試みる者が居るのだ。それならば簡単には破壊できない代物を用意する方が良いだろう。この街と王都、各地を結ぶ全ての橋が破壊されているのだから。
全七本の街道。各集落へと向かう者まで足止めをくらい、全てがこの街に留まっている。
各街道に繋がる主要種族は以下である。
北の一・・・ダークエルフ族・狐獣人。
北の二・・・ドワーフ族・犬獣人。
北の三・・・フォレストエルフ族。
東の一・・・吸血鬼族・王都。
南の一・・・オーガ族・馬獣人。
南の二・・・ゴブリン族・淫魔族・夢魔族。
南の三・・・有翼族・猫獣人。
その中で土台の修理が始まっているのは北の二だけだった。私達は北の二も含めて修理する事にした。どれか一つでも放置すると治政に影響が出てくるからだ。
私はインゴットの準備を行いつつ──、
「それと用意する部品はそれぞれ一組だけでいいから」
図面を眺めながら数を記していくミキ達に指示を出す。それは時間的猶予がなく現地での組み立てまで考慮すると無駄な魔力拡散が出来ないからだ。するとミキはきょとんとし、コノリと共に目を白黒させていた。
「え? 一組だけでいいんですか?」
「でも直すのは七基ですよね?」
私は指示通りに作業を進めるアキ達を一瞥しつつ、指をさして二人に示した。
「そこは複製するからね?」
「「ふくせい!?」」
ミキ達は視線の先、アキとアナが真剣な表情で金具を複製している姿に驚愕した。
実はこの複製スキルはマキナを始め、アキとアナだけがカンスト状態で所持している。
それは一つずつ造るという時間の無駄を回避するために与えたのだ。まぁ鋳造ならともかく鍛造には不向きのため、ミキ達には配っていなかった。
だから私は仕方なしで二人だけに配った。
「今・・・気づいたと思うけど」
「「!!? これが!!」」
「ええ。この場でしか使えないのは従来の創造スキルと同じだけど・・・って聞いてないわね」
二人は大喜びの素振りで橋桁の部品を作り出していた。元々私が全てを複製する予定だったが、これ幸いと苦笑しつつも眺めた私だった。
「金具が百個・・・出来た!」
「ボルトは一千個・・・出来た!」
「凄い凄い! 次は鉄板を〜」
「作業効率が全然違う!」




