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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第六章・砂上の魔楼閣。

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第126話 想定外の出会いと吸血姫。


 そして翌朝。

 昨晩は引き続き警戒したが魔族側からのアクションは一切なく徒労に終わった。おそらく人族との諍いは頻繁に起きていて、外周警戒のみに尽力したようだ。これも下手をうって捕まりでもしたら弱みを見せる事になるからだろう。

 私達は早々に朝食を(いただ)き〈マグナ楼国(ろうこく)〉近隣まで移動を開始した。これは前日にも示した通り、この日の人員は必要最低限とした。それは魔族に対して多勢ではないと事を示すためだ。

 それは害意がない。敵対する意思が無い。

 ただの行商であると偽装幌に〈イリスティア商会〉と記したうえで近づく私達だった。

 これも本来の目的とは異なるが、相手の出方が判らない以上はどうしようもないのだ。

 現に私達が近づくにつれ、目前の兵達はピリピリしたような雰囲気を宿していた。

 昨日の毒霧騒ぎ。その毒を噴霧した国家側から向かってくれば仕方ないのかもしれないが。


「うまく入国出来ればよいのですが」


 それは隣で運転するナディの心配だった。

 御者として残るナディ達も普段の風体からエルフ族に〈変化(へんげ)〉している。

 私はナディの心配を余所に〈マグナ楼国(ろうこく)〉外周結界を〈鑑定〉していた。


「なるようにしかならないわよ。それよりも、あの国の外周結界は人避け結界と偽装結界で覆われているわね。遠くからだと空間のブレが見えたけど近づくにつれて視認出来るみたいね」

「この結界ってどのあたりから影響圏内なんですか?」

「マギナス王国の国境付近みたいね。そこから該当者だけが避けて通る幻惑が与えられるみたい。人族の格好なら近づく事もままならないでしょうけど」


 そう、私は結論づけた。

 現に人族姿の者は迂回するように街道を進み、私達の前を進む行商人(エルフ)はそのまま進んでいたからだ。行商人は王国内を通らず迂回する形でこちらの街道に進んできたようだ。

 すると、私達の会話を聞いていたマキナがひょこっと顔を出しつつ質問してきた。


「それって・・・見た目で判別していると?」


 それは背後の幌から顔を出した風であった。

 もちろん外から見れば・・・だが。


「おそらくね。ただまぁ・・・結界がどれだけあろうが周囲を魔族兵がうろついていれば国がありますって言っているようなものだけど」

「お母様? この国の魔族達って予想以上に頭が弱いのでしょうか?」

「それは入国審査次第で判明するでしょうね。〈魔導書(アーカイヴス)〉曰く、入国審査は無いとあるけど・・・」

「けど? なにかあるのですか?」

「戦える手合いなら門外で一戦を望むそうよ」

「それはまた・・・」

「迫害を受けてきた者は戦えて当然と思っていそうよね。とりあえず結界は抜けたから・・・」


 会話を行いつつも荷馬車(拠点)は結界を素通りし、目前に想像以上の景色を示した。

 それは砂上国家とは思えない程の──


「凄い・・・なんでここだけ草原が?」

『確かにこれを知れば欲するのは判りますね』

『隠すのは当然だな。人族に示した暁には』

『奪いに来る者が多数よねぇ』

『温かそう〜。外で服脱いで寝転んでいい?』

「フーコは男子達の前で全裸罰をお望みと?」

『う、嘘です! ナディ様、ごめんなさい!』

『フーコは私と全裸で草原放置っと・・・』

『シオンさ〜ん。ごめんなさ〜い!』

『『それよりも段ボールソリで滑りたい!』』


 大草原が広がっていた。運転している者達は口々に驚愕を示し、大はしゃぎのフーコがナディとシオンに揶揄われていた。そして、ミラー姉妹に至っては遊びたい盛りの様相を呈した。

 私も外の風景を見回しながら遠方に聳え立つ大きな塔に気づいた。おそらくそこが魔族国家の中枢である魔王城なのだろう。

 私は停車可能地点を見つけ出し──、


「右手奥の野営地に止めて・・・相手の本拠地は更に遠方だけど、たちまちは国境門を抜けた先の街に入って情報収集するしかないわね。人族国家とは違う常識があるだろうし」

「『了解!』」


 ナディ達に停車地点を同行者達には方針を指示する。するとマキナが心配気に声を掛ける。


「でも・・・お母様? 装備品はどうするの?」

「そうね。全員〈短杖(スタッフ)〉を腰に差しておきましょうか。手荷物は〈亡者(もうじゃ)のローブ〉で隠す事になるけど・・・」

「いや。砂漠仕様のまま入らないと不味くない? 直前までは砂漠地帯だったし」

「そ、そうね。外套も羽織っておきましょうか。荷馬車といえども砂を浴びる事もあるし」


 私はマキナの提案により、装備品を改めた。

 少しばかり過ごしやすい車内に居たためか、私の認識が少々甘かったようだ。外は暑く日差しが照りつけているのに反し、車内は暑さや埃っぽさとは無縁の涼しい環境だったのだから。

 私達は時間が押している事もあり──


「それでは今から向かうわよ」


 関係者を荷馬車(拠点)の陰に集め、外套を被ったのち門前まで歩いた。

 門前まで向かう順番はタツトを先頭に、私とマキナ、ユウカとアキ、シンとケンが続く。

 殿(しんがり)はレリィが行い、パッと見は使節団に見えるような体裁を採った。




  §




「次の者、前へ!」


 門前に着くと魔族国家と国交を結んでいる種族達の列が出来ていた。それはエルフから始まり、オーガ族、獣人族となっていた。

 獣人族は犬獣人が(ほとん)どであり、私達が並んだ瞬間、きょとんとした顔でみつめていた。匂いがしない者という感じだろうか?

 彼らも直前までは居なかったはずだが私達が準備中の間に並んだのかもしれない。

 この〈マグナ楼国(ろうこく)〉の結界内には複数の街道が張り巡らせてあったから。

 通常ならば砂漠地帯。砂蜘蛛と砂ムカデが出没するという危険地帯だ。それもこの結界の範囲内のみに出没する魔物との事で〈マグナ楼国(ろうこく)〉の国土は別空間にあるように思えた。その証拠に例の毒霧の侵入が少量という結果になっていたから。これは前に立つ犬獣人達の会話で知った事ね?

 私は聞き耳を立てながら思案する。


(そうなると・・・毒霧を警戒した理由って? あぁ結界石を崩壊させるつもりだったとか?)


 これほど大規模の結界を運用するにはなにかしらの触媒が無いと維持出来ない。ただでさえ魔力拡散の酷い下界だ。拡散現象の中、維持する手法が存在していても不思議ではない。


(それか結界石の術陣を欲していても・・・)


 というところで私達が呼ばれた。

 私達が外套から顔を覗かせると──


「見ない顔だな? 所属はどこだ?」


 怪訝な視線と共に問い詰められた。

 問い詰める者は明らかにオーガ族だ。

 彼らは銀髪のタツトとレリィを不思議そうにみつめ返答を待つ。私はタツトの脇から前に出て、ありのままに伝える事にした。


「私達は旅の行商人です。所属と仰有(おっしゃ)いましても答えられる者では御座いません」

「なるほど、流浪民か・・・で、あれば・・・技量を示して貰おうか? ここ最近は国内も少々物騒でな。自分の身を自分で守れる者以外は受け入れていないのだ」


 が、予想通りの返答をいただき、私達は困ったように互いの顔を見た。門兵は私達の困り顔を怪訝なままみつめて、鼻を鳴らす。


「どうした? 怖いのならやめるか? どのみち、そのような者なら入国は認められないが」


 私は嘲笑と受け取り、挑発する言葉を選ぶ。


「いえ。誤って殺してしまう可能性が高いので・・・手加減が出来る者を選んでいただけですが?」

「!? ほう・・・それほどの強者には見えないが?」

「見たところ若すぎるように思える。彼なんて私の倅と同じ世代だろう?」


 私の挑発は見事にヒットするが、冷静さを装った門兵は逆に煽ってきた。しかもタツトをみつめつつ不敵な笑みを浮かべていた。

 私はこれ以上の問答は時間の無駄と思い──


「貴殿の御子息がお幾つなのか存じませんが、見た目ありきで判断するのは甘いと思いますよ・・・ね? 奇麗さっぱり崩れました」


 満面の笑みで取り出した鉄鉱石を片手で握りしめ彼らの目前で握り潰した。マキナを除く、タツト達からも呆然という視線を頂いたが。


「「!!?」」


 私はくずくずとなって消えた鉄鉱石の滓を払い落とし、笑顔のまま驚く門兵に問い掛ける。


「私と同じ事はこの子も出来ますが、他の者達も武芸に秀でておりますので問題はないと思いますよ?」


 ユウカ達は武芸よりも知略が主だが。

 四人は後方支援が主体だしね。

 前衛は私とタツト。中衛はレリィとマキナ。

 それがこの場での私達の配置だった。

 門兵達はぐうの音も出ない様相に変わり──


「うむ。それほどの者なら問題はあるまい」

「そ、そうだな。では一人頭・・・銀貨五枚を頂こうか」


 その後は従来の者達同様に入国税を求めた。

 私達は手元から必要数の貨幣を革袋に入れて手渡し入国だけは済ませた。

 するとマキナが安堵した表情で問い掛ける。


「ヒヤヒヤしましたけど無事に入れましたね」

「そうね。それと一応〈鑑定〉だけはしておくわ。外とやりとりが可能か知っておかないと」

「そうですね。スキルでの念話は可能でした」

「外は・・・問題ないみたいね。魔法的な物は封じられているけど」


 外で待つ者達に問い合わせを行い私達は安堵した。私が〈鑑定〉した結果、念話完全防御結界が国土全体に覆われていたのだ。

 外界との魔法的な連絡を絶つ。

 そのためだけに用意されているようだ。

 私とユウカは門前から遠のきつつ地図魔法を展開しこの国の情報を得る。アキとレリィは周囲を見回し、食物が無いか〈鑑定〉していた。

 そして周囲を警戒する男子達とマキナは──


「ホント、一触即発だったな。ところでマキナ様も同じ事が出来るの?」

「・・・ケンさ? 様付けしたし玉潰そうか? こう、ゴリゴリっと?」

「ご、ごめんなさい!」

「「やっぱり、お前アホだろ?」」


 ケンとマキナがじゃれていた。

 警戒しているはずが、そこだけ空気が弛緩していた。私は門前で一時的でも緊迫したため多少は気が緩んでも仕方ないと受け流した。

 すると、その直後──、


「あれ? 起矢(タツヤ)君?」

「は? その図体は起矢(タツヤ)?」


 私達は予想外の人物達と出会った。

 そこに居たのは明らかに人族だった。

 この場にどうやって入ったのか?

 しかもタツトの前を知っていた。


「え? (なんで居るの?)」

「は? (マ、マジかよ・・・)」

「「はぁ?(はぁ〜!?)」」


 マキナとケンは(ほう)け、タツトとシンは唖然(あぜん)としていた。

 そしてアキだけが驚きのまま声をあげる。


「クリス、ピカ!?」


 そこに居たのは元一組のクラス委員だった。

 働かない車バカの陰で実務を行う者だった。

 その名は枢木クリス(くるるぎくりす)・一七才。

 もう一人は光家光史(みつやこうじ)・一八才。

 ピカというアダ名で呼ばれる光属性を主とする光に愛された勇者だった。中身はともかく。


「なんで私の名前を知ってるの? というかその顔、見覚えがあるわね? エルフなのに?」

「見覚えはあるが、身体が育ちすぎじゃね?」

「そうよね・・・あの子ならもう少し小さいし」


 アキは狼狽しながら顔をそらした。


「な、なんでもないです(胸が小さくて悪かったな!)」


 そう、アキは行方不明者だったのだ。

 だからこそ、死亡認定を受けた者達と認識が異なるのは仕方ないのかもしれない。

 幸い、同じ行方不明者のミーアが居なかった事だけが救いだろう。

 即座にバレるという事も起こりえたから。





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