第119話 人族の頭疑う吸血姫。
それからしばらくして、ルルイアの旧王都である都へと到着した。私達は背後から追跡する者達に気づきつつも無視を決め込み街を進む。
都の目抜き通りを荷馬車の車列で通り抜け、探索者ギルドの支部へと向かった。
私の場合は国内の前後をよく知らないため、知っている者達に問い掛けた。
「こちらも変わらずかしら?」
『そうですね・・・どう思います? アキさん』
『城内は片付けした時に見ましたけど、外も様変わりしたように思えます。以前はまだそれなりに活気もあったので』
「王侯貴族も表向きはマトモだったという事かしら?」
「多分ね?」
『たちまちはミーアさんの新規登録を行いましょうか。支部が見えてきましたし』
という事でナギサの言葉を受けた私達は荷馬車を目抜き通りの脇に停車させ、私とミーアだけが降車し他の面々はその場で待機した。
「ミーアは元々がAランクだから変化は無いと思うけど・・・前よりは魔力が増えてるから安心なさい」
「はい! 非戦闘職は変わらずですが・・・戦おうと思えば戦えるようになったので安心はしています」
「経験不足を補う知識はマキナから与えられているから・・・って登録よりも前にお客様だわ」
すると、私達が支部に入る直前。
追跡してきた者達が私達を捕まえようと思ったのか私達を囲い抜剣した。
ちなみに荷馬車に残った者達は呆れたまま様子見していたが。
「物騒ねぇ・・・ま、弱い者ほど相手の技量を測れないのは、どの世界でも同じという事ね」
「ホントですね・・・精々、レベル50はあって欲しかったですが。総じて30未満というのはバカにされてるのでしょうか?」
「見た目からしか力量を判断出来ないだけでしょう? ねぇ、ダークエロフのお嬢さん方?」
「???」×8
「カノン様、エロフというと理解は難しいかと思いますが?」
「確かにそうね? 言葉はギリギリで通じてるようだから通じるように言いましょうか。ダークでエッチなエルフのお嬢さん方?」
「!? なんだと!?」
直後、私の煽りを受けた八名のダークエロフの内、リーダー格が驚きで目を見開き、怒りに打ち震えていた。私は(まだまだ若いな)と思いながらも更に煽る一言を与える。
「通じたみたいね? 年齢的に一番年上で二百九十八才ってところね。ただ、胸がエルフだからなのか平坦過ぎるけど」
ミーアも荷馬車内に控えるエロフ達を思い出して嘆息した。
「ユウカやアキに比べたら確かに小さいですね・・・珊瑚と同じくらい?」
するとダークエロフ達は意味を理解したのか知らないが、全員が魔力を練り始める。
「構え!」
出力制限の関係で一回に練り上げる魔力量が少なすぎて私としては頭痛のする思いだった。
私はローブの特性だけで返り討ちとするため自身の魔力だけは練らないでおいた。
練ったら確実に魔族だってバレるもの。
それはミーアも同様に。
「この程度で構えってね? ヒヨッコの魔法なんて怖くもなんともないから」
「カノン様? 聞こえてないみたいですよ?」
「逆上したままだもの・・・そんなに胸の小さい事が悩みなのかしら?」
「悩みなんじゃないですかね? 私達の胸に視線が集中してますから」
「エッチなお嬢さん方からすれば、お前に言われたくないって事かしら?」
「でしょうね? 構えたまま頷いてますから」
ミーアが頷きを確認し苦笑したまま答えた直後、リーダー格が手振りで指示を出し魔法が放たれた。それは捕縛魔法だった・・・だが、ローブの特性により見事に魔法が反射し、エロフ達のローブ越しに捕縛魔法が絡みつき、亀甲縛りの様相に成り果てた。
「!?」×8
私はソレ等を見て呆れたまま問い掛ける。
「本当にエロフになったわね・・・」
ミーアはエロフよりもローブの機能性に驚いていた。
「このローブは凄いですね・・・本当に魔法が反射されました!」
私はミーアの驚きを余所にリーダー格から剣を拝借して実演した。
「それだけじゃないけどね。抜剣したとしても剣が刃こぼれ起こすから・・・こんな感じで」
それはローブの裾を左手で持ち右手で切りつけた。その直後、剣の刃はボロボロと崩れ落ちエロフ達は驚愕の表情を浮かべた。
「!!?」×8
ミーアも同様に驚きを示した。
「!? ホントだ!」
流石の私も借り物を壊すのは忍びないため、剣を一瞬の内に修復して本人に戻してあげた。
元々が安物の剣だったのか修復直後より真っ白な剣に早変わりしたが。
「!?」
すると持ち主であるリーダー格は目を見開いて気絶した。〈鑑定〉スキルはなに気にあるらしい。カンストはしてないが使えてはいた。
ただ、私達の鑑定偽装を見破れる技量は持ち得ていないようだったが。私は騒ぎを聞きつけて人が集まり始めたため──
「ま、イザコザはこの辺で。貴女達の居場所はこの国じゃないわね・・・早急にお引き取りを」
周囲を時間加速結界で覆い「お引き取り」の段階で強制転移魔法を実行した。
エロフ達は〈魔力感知〉を持つため練り上げる魔力量に驚き、そのままどこぞに転移していった。
「!!」×7
場所の指定はしてなかったがユランスが勝手に干渉するだろう事が読めたので女神様に丸投げした私である。
「掃除も済ませたし新規登録しましょうか」
「そうですね・・・敵対すべき相手ではないと判ればいいですが」
「それは気絶したリーダー格次第ね」
§
ひとまずミーアの新規登録は無事済んだ。
ただ、勇者に関する情報は集まっておらず、外で見つけた香椎珊瑚から得た情報以外は間諜対策で伏せられている事が判ったくらいだ。そして荷馬車に戻る最中。
ユランスからメッセージが飛んで来てエロフ達の理由を知った。私は周囲に聞かれないよう日本語でミーアに伝える。
「エロフの干渉理由が分かったわ」
「なんだったんです?」
「暴殺嵐を通り抜けた事で不審に思ったみたい。あれも仲間を捕らえられた事に対する報復行動だったらしいわ」
「捕らえられた?」
「ええ。正しくは・・・次に向かう〈マギナス王国〉への報復ね。なんでもエロフ達の血液と人魚族の血液を混ぜて噴霧毒を作るとあるわね」
「噴霧毒?」
「人魚族の血液は・・・リリナ達に聞けば判るけど腐敗した血液は猛毒なのよ。それと同時にエロフ達の血液は、空気中に拡散しやすいらしいわ。魔力が血中に宿るから余計そういう扱いを受けるみたいだけどね?」
そして荷馬車に乗り込みながら車内に居るエロフ達やエルフ達にもメッセージを飛ばし、注意するよう伝えた。
眷属達の中で捕縛されるドジを踏むバカはアキ以外は居ないけど。余程の状態になったら霧化して出てくればいいとか言いそうだが。
すると、それを聞いたミーアは混乱したように問い掛ける。
「じゃ、じゃあ、その毒をなにに使うつもりなんですか?」
私も詳しく知るわけではなかったが、ユランスから続報が届いたためミーアに伝える。
「それは明確に・・・あ、砂漠地帯に噴霧するとかあるわね。これは・・・合国諸共滅ぼす気なの? 気流操作に失敗すれば毒霧で合国全土が満たされるのに・・・民達の事は度外視なのね・・・」
気流操作は魔力消費の多いこの下界で行えるものではない。気流操作は空間全体を把握し緻密な制御が求められる魔法だ。
魔力保有量が多いから可能という理屈は通らず、出力上限が三千万MP必要だった。それは魔力保有量が三千万MPあるから実行出来る魔法ではない。
〈マギナス王国〉はそういう点を完全無視して、なにかを滅ぼす事に躍起になっているようだ。私の言葉を聞いたミーアは絶句する。
「!?」
私は運転席に戻りながら、早急に〈マギナス王国〉に向かう必要があると指示を飛ばす。
「休息はとれたわね? 緊急事態になる前に出るわよ!」
ナギサにはメッセージで事態を伝えていたので即座に準備に取りかかる。
『しょ、承知!』
すると、マキナが疑問気に質問するので──
「お母様? 緊急事態って?」
私は切羽詰まった表情でユランスから得た情報をマキナに伝えた。
「〈マギナス王国〉が自国で回収不可能な自滅フラグをおっ立てたわ!」
「え? えーっ!?」




