第116話 吸血姫はドM増加に引く。
その後のミーアは目覚めと同時にアルミ箔のロールへと飛びつき掛けたという。
一応、レリィが飛びつく前に羽交い締めとしマキナに聞いていたミーアの弱点をログハウス外でアンディに突いて貰った事でミーアは真っ赤に染まったまま外に放置されたようだ。
ちなみにアンディは弱点を突く前に自身の白衣を脱いで、フルプレートアーマーに換装しミーアを素っ裸に剥いたのち、宙に投げ飛ばしたミーアを槍で貫いたらしい。
どこを貫いたのかは知らないが、元より未使用のため周囲は汚れなかった。逆にミーアの身体は落ちた衝撃で土が身体中に付いたらしい。
今は全裸のままログハウス外で泣いていた。
刺し貫いた傷は神速再生があるから穂先を引き抜く段階で勝手に治ったけどね? その光景を見ることがなかったアキとアナは相当に悔しがっていたが見せなくて良かったとも思った私である・・・それこそ同じ事を求められそうで。
ともあれ、その後の私とマキナは申し訳なさげのレリィの報告で事態を知り、外警備で目覚めたナディとショウに変わってもらい、ログハウスまで移動してきた。処罰に動いたアンディは現在風呂に入らされており調理には参加していない。
「それでヘソを突かれて・・・死に掛けたと?」
「うぅ・・・酷いんですよ? アンディさん私が止めてって言っても槍を止めてくれなかったんです。お腹の中を穂先が突き抜ける感覚は・・・ヤバいです」
弱点を突く、確かに弱点ではあっただろう。
だが、これは弱点を突くという状況を軽く凌駕していた事態だった。
不死者でなければ確実に死んでる事案ね?
背骨も完全に砕けていたらしいから。
というかヘソを貫くために槍を持ちだした理由が謎である。だから私は困ったようにミーアに対してアンディという者を改めて教えた。
「アンディには自我が無くて命令通りにしか動かないロボットみたいな物だからね。ただ、程度の問題で言えば人外だから死ぬ事はないって扱いなのかもしれないけど」
だが、ミーアが言葉を返すよりも前にマキナが本質を突き私は申し訳ない気分に苛まれる。
「というかアンディの分離体はお母様そのものだから?」
「ドSが表に出たという事?」
「多分・・・」
私はシクシク泣くミーアの本体を一度隔離して、新しい身体を用意させる事とした。
一応、本人の気持ちが落ち着くまでは黙っておいたが・・・マキナからは気づかれたらしい。
「お母様?」
冷ややかな視線をマキナから向けられた私は困ったように返した。
「つ、通過儀礼という事で」
マキナは溜息を吐きながら受け流した。
「そういう事にしておきましょうか? 今のままだと余計な感覚が残ってるし」
私はマキナの対応に安堵を示し、この場に顔を出し掛けた者の名あえて出した。
「ええ。このまま放置するとアキが増えるだけだわ」
するとミーアは「アキ」の名を聞ききょとんと問い掛ける。辛い表情が抜け落ちるほどに。
「アキが増える・・・どういう事?」
私とマキナは目配せし、あっけらかんとアキの性癖を暴露した。
「「ドMになるという事」」
ミーアはアキの性癖を知り、ボソっと呟く。
その表情は意味あり気な微笑みを湛え俯いていたが。
「アキはドM」
私はその表情を不審に思い、ミーアに問い掛ける。
「どうしたの?」
するとミーアは満面の笑みで返してきた。
顔も若干火照ったように赤みを帯び、私が亜空間に用意した土は少しだけ湿っていた。
「ごめんなさい。既に手遅れです」
私はミーアの反応に呆ける。
「は? (て、手遅れ?)」
その意味に気づく前に──、
「もしかして、ミーアって、同志?」
マキナがあえて問い掛けた。
これは親として記憶が伝わったともいうが。
ミーアはマキナに応じ同類だと告げた。
「マキナちゃんも?」
マキナは(類は友を呼ぶ・・・)という思考の元、絶句した。
「マジか・・・」
私は元一組の女子達良識派が変態だらけと知り、唖然となった。
「良識派ってドMしか居ないの? あぁ、ミズキは特定条件下でドMだったわね」
「海に飛び込んで溺れる・・・ね?」
「今は嵐の海には飛び込めないけどね? 飛び込んだら壁に激突するから」
「だね・・・」
ともあれ、その後の私はミーアの認識が正常と知り、新しい肉体を用意させた。
貫かれた時の感覚は消え失せるが、ミーア自身は内側の痛みがダメらしく、新しい肉体が用意出来た事で安堵していたようである。その点でいえばアキと同類でも程度の違いがあるが。
私は古い身体から〈スマホ〉とチョーカーを外すミーアに対し一つの願いを口走る。
「それはそうと・・・ミーアにお願いしていい?」
ミーアは〈スマホ〉を胸の谷間に押し込み、首にチョーカーを巻きつつ答えた。
「なんでしょう?」
私はこの場に居ないが欲する者の名を挙げてみた。
「この古い身体・・・フーコに差し上げていい?」
マキナはその時点で(あちゃー)と空を見上げていたが・・・つまりはそういう事である。
ミーアはなにがなにやらという様子で呆けた。
「ふぇ?」
私は肉体の崩壊が始まる前にミーアの古い肉体に分離体を流し込む。そしてアンディ同様の自我無し人形を用意した。
肉体内のマキナの血は分離体をスムーズに受け入れ、別の心核を作り出したようだ。
今は自我の無いただの愛玩人形と化すが、これはこれで仕方ない。フーコという百合っ子が暴走気味になっているのだから。
するとミーアが不安気なまま問い掛ける。
「あ、あの? 私の前の身体・・・どうなるんです?」
マキナは古い肉体の傍で自身との繋がり具合を調べていたが、私はマキナの様子を眺めながら、一つの例を挙げた。
「アンディ化した感じ? 一応・・・フーコに開発を委ねるけど」
ミーアは素っ裸のままだが、その大きな胸を両腕で潰しながら不安気に問い掛ける。
「私の前の身体・・・別物になるんです?」
ミーアにとって愛着のある昔の肉体だ。
転化して新しく用意した今の肉体ではなく十八年を共に歩んだ肉体なのだ。
不安が残るのも確かだろう。
私は肉体面ではない事をミーアに告げた。
「ああ、開発って言っても人格面ね? 幸い転化後だから生理も起きないし、スムーズに人格形成が済めばニナやレイ、ルイ達のように心が芽生えるから」
だが、反応が返ってきたのはソング下着を穿かせた元肉体を連れたマキナだった。
「え? あの三人ってそういう?」
ミーアも元肉体の傍に立ち、下着を引っ張ったりして眺めていたが。
「マキナには一応教えてたでしょう?」
「うん。でもまさか分離体を使ってたとは思って無かったから。ほら? ナツミ達の件もあるし」
「ナツミ達も分離体を使ってるわよ? アナの時に見たでしょう?」
「うん。確かに・・・」
「一応、元となった姉達が居るし、個々に違う者と意識させるにはこの方法しかないの。使わなければ人格崩壊だってあり得るからね? 私同様に分割した存在だから」
マキナはそれだけで納得したようだ。
無言のまま何度も頷き理解を示していた。
ミーアはきょとんとしていたが余り詳しく話す事でもないため、マキナもそれ以上問い掛ける事は無かった。
私は元肉体にブラを着けさせ、カジュアルパンツとTシャツを着せてフーコの元へと送る用意を終わらせた。
ただ、ミーアの手前嗜好が変わる事だけは告げた。
「まぁ無事に自我が目覚めたら、腐女子というより百合っ子になってると思うけど」
ミーアはドMである前に腐女子だ。
百合っ子とは相容れぬ存在だったため、顔面蒼白でブルブルと震えていた。
いや、全裸のままだから、違う自分を想像して感じているともいうが。
「・・・私が百合好きに? 想像できない・・・」
マキナはすかさずミーアにオムツを強制転送で穿かせて対処を聞いてくる。
「それはフーコの手腕次第だと思うよ? とりあえず名前は?」
私はたちまちの名前を簡単に決めて、ミーアの妹という扱いにした。
「アイミ・ツカイとしましょうか・・・こっちにはミーアが居るし」
「腐女子の姉と百合の妹ね・・・」
マキナの言い分も判るが私は未だに素っ裸のドM美少女へと命じる。腐女子でドMというミキの同類が増えたようだ。
「とりあえず、ミーア? 貴女は服を着なさい」
「あっ! はい・・・オムツ? いつの間に?」
§
私はフーコの自室にアイミを送り届けた。
人格開発の旨を伝えると満面の笑みで大喜びの言葉を戴いた私とミーアであった。
「ありがとう! 頑張って育てるよ〜!」
「そ、そう。一応、ミーアの妹だから大事に・・・って聞いてないわね」
フーコは戴いたアイミを早速剥き、自身のベッドへと投げ込んだ。
「あぁ〜、この柔らかな胸、大きなお尻、ツンツルリンな・・・肌触りいいわ〜」
そのうえでアチコチ触りまくり、ミーアを別の意味で悶絶させていた。私達はフーコの部屋から即座に出たのだが、ミーアは悶えたまま身体を震えさせていた。
「なにかモゾモゾする・・・ゾワゾワ感?」
私はミーアの感想を苦笑しつつ問い掛ける。
一応、視線はカジュアルパンツの股間付近に向けているが。
「ドM的にはアリなんでしょうけど・・・感じてる?」
しかし、ミーアは首を横に振る。
「微妙な心境です・・・元々宿ってた肉体ですし」
ちなみに今のミーアはカジュアルパンツとポロシャツを着た格好だった。オムツは早々にマキナに脱がせてもらいソング下着を穿かせて貰っていたが、ミーアはアキほど酷いドMではないと改めて認識した私である。
ただ、胸が大きすぎてポロシャツに入りきらないでいた。その状態で震えるからポロシャツのボタンが弾け飛びそうな状態になっていた。
私は別の服を用意すべきか改めて思案するも、たちまちはこちらの服に着替えなければならないため後回しとし淡々とミーアに予定を告げる。
「まぁそれは追々慣れるわよ。それよりも朝の内に上に行くから、準備だけしておいてね?」
それはミーアの種族登録だった。
今日の出発はルルイアの混乱が落ち着く頃の昼前とし、それまでの間に色々出来る事を片付けるつもりである。ミーアは上と聞き、きょとんと天井を見上げる。
「上ですか?」
私は〈タブレット〉片手に一括送信で予定を送りつけ、あっけらかんと場所を告げた。
「ええ。貴女が欲しがってたアルミニウムを保管してる場所に向かうのよ」
ミーアは「アルミニウム」と聞き、くい気味で問い掛けてきた。肝心の視線は〈タブレット〉にも注がれていたが。おそらくミーアはガジェッターなのかもしれない。
「!? どこなんですか!?」
私はくい気味のミーアを抑えながら簡潔に本拠地の名称を口にする。
「浮遊大陸」
「へ?」




