第114話 良識を持つ仲間達を得た吸血姫。
「総勢数万体の燃料確保っと!」
それは滅亡戦終了後。
私は〈還元転換炉〉の予備タンクの内訳を把握し、余剰燃料を手に入れた事に安堵した。
普通ならば死者は弔うべきなのだが、この者達は居なくなった事としているため、男であろうが女であろうが、中間の者であろうが、大人であろうが子供であろうが、人族である以上は不要物として世界の礎となって貰う事としたのだ。
合国の王太子と言い分的には似てるかもしれないが、あちらは世界中の国家の滅亡と浮遊大陸の侵略という自己中心的な動機なのに反し、こちらも消費はするが結果的に世界中の魔力循環へと還元させるため、礎の意味合いからして異なるのだ。
滅亡させる国家も、大きな大陸の一国家より一つの大陸の大量国家群の方が滅ぼすべき国家となるのは仕方ないだろう。
ともあれ、そんな大容量の燃料を確保した私はシオンと共に再誕工房へと訪れ最後の良識派の処置を行う事としたが──、
「とりあえず、余剰魔力を使って先に装備品を作りだしますか」
私は処置より前にやることを思い出しシオンの目の前で〈無色の魔力糸〉を伸ばし〈還元転換炉〉からの余剰分を〈魔力触飲〉した。
「装備品が先なの? 処置は?」
「それもするわよ。でもね? 私達って多すぎるくらいに女所帯じゃない? 流石に下着が真っ白のままだと変わり映えしないし誰が誰の物か判別も難しいからね。今でこそ洗濯は各自が手洗いして乾かしているけど、同じタイミングで洗濯するとログハウスの物干し場に似たような下着が入り乱れるからね?」
「これから色違いの下着類を用意するの??」
「そうなるわね。あとは特殊な物とか誰が誰の物か判別しやすいように下着だけじゃなく装備品としての洋服とか、礼服も用意するつもりでいるのよ。ドレスだって用意しないと」
「あぁ、上での社交シーズンが始まるわね?」
「そういう事よ。有翼族やオーガ族は例外としてもエルフ族や吸血鬼族に関してはパーティーが頻発するから。それに・・・」
「獣人族の方も祭りの時期よね?」
「ええ。この時期は下界ありきってわけにはいかないから上で活動する者もそれなりに多くなると思うのよ」
私は五十川の処置を後回しとし、フーコ達の下着や礼服などをその場で作り出した。一応、旧ログハウスの工房では錬金術士が総出で同じような作業を行っている。
アキとアナが各種ポーションやローブを用意し、鍛冶工房ではミキとコノリが武器や杖を用意しているの。
すると、シオンがテーブル上に置いた丈の短い赤いタータンチェックのプリーツスカートを両手に取り、自身の腰にあてがった。
「この・・・水色と白と緑の服とスカートは?」
「あぁ、シオンは知らないんだっけ」
私はシオンには不釣り合いと思いながら、私のデイパックから丈の長いスカートを取り出して、手渡した。シオンは短いスカートをテーブルに戻しながら受け取ったスカートを腰にあてがい・・・なぜかきょとんとした。
「? どういう事?」
私は長い方が似合うと思いながら、短い方の持ち主を明かす。というより私と同じ容姿のシオンだから似合うのは当たり前なのだけど。
「それはマキナの制服よ。もっともこれは王侯貴族に奪われた召喚当初の物じゃなく私の制服を元にサイズを小さく作り替えた物だけどね」
「そういえばカノンも制服を持っていたのね」
「一応、女子高生をしてたからね。それ、私のよ?」
「そうなのね・・・丈が長すぎない?」
「真面目を演じていたもの。マキナのも長いと言えば長いわよ? あの子は小柄でしょう?」
シオンは制服の持ち主を知り納得した。
「なるほど。私が履けば短いけどマキナなら長いわね」
なぜ今になって制服が必要かと言えば、それには理由があるのだ。それは上界の人族国家以外の国家元首が話し合い、異世界の勇者像を記録で残そうと決めたからだ。そのうえ当時の姿に〈変化〉してもらい、一人ずつ姿絵として描くという要望が持ち上がった。
しかも勇者として呼ばれていない私と下界の勇者だった者達も含まれているため制服が残っていない者のために用意しているに過ぎない。
私以外は全員奪われているため、等しく残っていないが。ナギサも昔の姿にならねばならず自身でお気に入りのスーツを用意していたほどである。
前準備としての作業を終えた私は〈スマホ〉を持つ者達へと連絡を入れた。下着と制服が出来上がった事を知らせるために。
その間の私は自身の制服を片付け、オマケでシオンの制服も用意してあげた。シオンはその場で制服に着替えて満足していたが。
すると、私が連絡を入れてから数分後にマキナだけがルンルンでやってきた。マキナはこの後の処置に関わるから訪れたのだが。
「あとは処置後にでも取りに来るのを待つばかりね・・・って、マキナはきたわね」
「出来たの〜? わぁ〜懐かしい! 私の制服だぁ!!」
「記憶にある制服を用意したけど、大丈夫だった?」
私から制服を手渡されたマキナは、その場で亜空間庫内に制服を保管し換装魔法で懐かしの制服姿へと着替えた。
「うん! 問題ないよ!」
マキナの姿は馬子にも衣装と言うと怒るので言わないが、制服を着るというより着せられてる感じがした私であった。
やはり120センチの今の見た目が高校生というより小学生と思うのは仕方ないだろう。
その直後、アキとアナ、ミキとコノリも再誕工房を訪れ各々に制服を手に取り着替え、レリィ達、ナディも人族に〈変化〉した状態で訪れ制服に着替えていった。
ミキは男装ではなく女子制服を着ていた。
リョウとユーマに関してはTSした手前、今更男子制服と女子制服に手を伸ばす事を躊躇していたが〈変化〉すると身体の形状も昔に戻るので、それはそれと受け入れたらしい。
ちなみに男子達のトランクスや褌、セーターとネクタイ、ワイシャツとブレザー、ズボンとベルト、ローファーは個々に転送しているため、取りに来る事はない。
これは後に・・・女子一名を処置する必要があるため、この場を男子禁制としているからだ。
私は二十六名の女性と二名の男性に〈変化〉した者達を見て呆気にとられてしまう。現状、私とリョウを含めて女性は二十七名・男性は二名だが〈変化〉前の男性は一人だけなのでTS恐るべしと思った。
するとナディがユウカを見つつ呟いた。
「というかエロフの制服姿、違和感が仕事してないわね?」
それに応じたのは満足気なショウだった。
「そうね・・・流石はユウカだわ」
エロフにエルフと言うと、否・・・エルフにエロフというと怒るのは必定のため、案の定というか、ユウカは二人の隠れた尻尾に指輪をあてがい悶絶させた。
「エロフって呼ばないで!!」
「「!!?」」
尻尾の位置は判別が難しいはずなのだが、ユウカは的確にあてがい床に突っ伏す獣人達を作り上げていた。
ちなみにこの場にはもう一人のエロフが居るが誰も彼もが忘れていたようだ。
アキはユウカの怒鳴り声を聞き──
「エロフって呼んだ?」
トコトコとユウカの隣に立った。
「呼んでないから!!」
ちなみに、この場は常時土足厳禁としているため全員は素足のままである。
それは工房が神聖な場という扱いのためだ。
制服と共に手渡したローファーや靴下も個々に亜空間庫へと片付けていたしね?
その間の私は空間内の御祓を済ませた。この後行う・・・処置のために。
§
ともあれ、そんな制服試着会の最中ではあったが、私はシオンやマキナと共に背後のキャッキャウフフを一瞥しながら五十川愛海の処置を開始した。
リョウとキョウ、ミキは私の右隣に立って様子見していた。この三人も腐女子として愛海と面識があるそうだ。
「一時的に積層結界内だけ時間を等速化して」
私が時間を等速化した直後──、
『痛っ!?』
空気椅子で止まっていた愛海はバランスを崩し、大きな尻が大理石の水場に激突し、四つん這いで突っ伏して尻を押さえた。
私は回収時を思い出し唖然としつつも尻を治療した。
「椅子を用意してなかったから尻餅ついたわ」
流石の光景にドMのミキを除くリョウとキョウだけは愛海を同情していた。
「生尻で尻餅とか痛そう」
「大理石だから冷たさもあって辛そうね?」
「羨ましい・・・」
「「おいおい」」
愛海は尻の痛みが消えた直後にこちらへと意識を割き、周囲をキョロキョロと見回した。
『あれ? ここどこ? なにかの結界?』
元々持っていた〈魔力感知〉スキルの恩恵なのか結界に覆われてる事に気づいた愛海は状況が読めないでいた。
するとリョウが女子の姿のまま愛海に声を掛ける。
「やっほ〜! 愛海!」
『えぇ!? リョウコ!?』
「久しぶりね?」
以降は腐女子達が互いに久しぶりという話をしていたが愛海は自身の格好に気づく前に三人の姿を見て訝しみつつも問い掛ける。
『ところで・・・なんで三人は制服姿なの?』
するとミキが代表して愛海に応じた。
「これ? カナデさんの手作りだよ。私達も召喚直後に奪われたらしいから」
流石に他の召喚云々を伝えると愛海はきょとんとしたが、私の名前を聞いて再度、問い掛ける。
『カナデさん? 枝葉の方? 佐藤の方?』
するとナディが呼ばれたと思いながら顔を出し、違うという意味で私の偽名を提示した。
「タツミの方よ?」
愛海は目前にナディが居る事に気がつかず、またも例のアダ名を口走る。
『えっと・・・黙り姫?』
流石にこの一言を聞かされたミキは困ったように私をみつめ、私は頷くだけに留めた。
怒れる気持ちは既になく呆れ半分という苦笑で応じたのだ。ドMのナディは無視された事で放置の余韻に浸っていたが。
「そ、そうね・・・うん」
車バカを処断しても残る、悪しきアダ名。
私は今後も元一組と出くわすと同時に言われるだろうと覚悟した。直後、ミキは視線を彷徨わせ愛海の下半身から視線をそらす。
『どうしたの? ? そういえば少し涼しいよう・・・な!? 無い・・・』
愛海は視線移動に気づき、涼しさから違和感に気づいたらしい。全裸という点にはさほど驚いて居ないが、反応の面ではアキやアナと同じであった。するとミキが意を決して愛海に告げる。
「ところでさ? 愛海? おそらくだけど・・・このままだと」
『え? なに? ミズキどうしたのよ? そんな辛そうな顔をして?』
愛海はミキに表情から心配そうな表情を浮かべる。
「うん。えっとね? 愛海は生き続けたい?」
『へ? どういう事よ?』
その後はミキが真剣な表情で語る。
勇者の行く末と身体に仕込まれた爆弾を。
『嘘・・・ここに? 爆弾?』
愛海は爆弾の仕様を知り、首の表面を撫でる。一応、愛海の粒魔石は時間等速化の前に回収してて、例の魔導士長の片玉に追加分を送り届けたけどね? 前回は動物だったが今回は半魚人の要素を追加した。
それと、アキと同様に他の粒魔石の有無を〈鑑定〉したが一つだけだったので錬金術士としてのアキだけが例外だったようだ。
その後もミキは話を続け──、
「うん。首の後ろにね? 現に島流し勢がね? それで殺されてて・・・」
背後からハルミとサーヤ、アコとココが〈希薄〉状態で歩みより、一斉に愛海へと生存を明かした。
「「「「島流し勢で〜す!」」」」
『へ? ナツ? サヤ? アンコとコウコも?』
「「「「私達、転生したよ?」」」」
『てん、せい?』
というきょとんとした顔を浮かべた直後、この場に居る者全員が変化を解き、きょとんとした愛海の前で本来の姿を示した。
それはマキナを始め、男性へとTSしたリョウも女子制服のまま腕の羽根を消した本来の姿に戻り、男子制服を着たユーマやスーツ姿のナギサまでも戻ったのだから愛海は茫然自失となった。
『え? ミズキ? アキナ? マキナちゃんまで? 他の面々・・・え? カナデ居たの?』
「目の前に居たわよ!!」
『じゃ、じゃあ、念話の死亡通知は?』
「実際に死んだよ? だから転生したの」
「うん。首の爆弾で見事に木っ端微塵だったね〜」
「最新の木っ端微塵勢は翠岾だけだけどね〜」
「あとの面々も追々木っ端微塵になるんじゃない?」
「別の意味で小山も木っ端微塵になったけどね? ついさっき」
それを聞いた愛海は大混乱である。
ハルミとサーヤ、マキナとミズキとアキの発言を聞き、消えた者の名まで出た事で更に混乱となったようだ。
翠岾死亡時には念話完全防御結界のお陰で愛海には伝わっておらず、小山に至っては回収後のため、死んだという事が信じられないという状況であった。
そして混乱中の愛海の──
『じゃ、じゃあ、残りのメンバーって?』
問い掛けにはハルミとサーヤが答えた。
「誰が残ってるっけ?」
「ナギサさんは例外だけど教師陣は全滅だし」
「外道二号と狂爺は?」
「それも居たね〜。あのバカ達はどこに居るっけ・・・なんか小国連合で漂流中みたいね〜」
「なにしたんだろ?」
「さぁ? また船で暴れたんじゃない?」
次いでマキナとアキが答えた。
「車バカは消滅したし、調巡りんはダンジョンボスで生き延びてるけど、勇者という扱いじゃないかも」
「残りは小国連合やら帝国領に居たりするから、大まかな人数は判らないかも」
「なんか・・・歌奈と雪は単独行動中みたいだね。帝国の王城で高価な洋服を見繕ってる。あれは不法侵入かな?」
「相変わらずレイヤーに命張ってるわ〜。え? ニーナ達の仲間なの? レイヤー仲間かぁ〜」
途中、ニーナ達が困り顔で反応を示したが。
シメはミズキが笑いながら愛海に返した。
「ま、勇者と名が付いてても主な行動は蛮族となんら変わらないから、勇者として求められてない事がその証拠だよね〜」
返された愛海は困惑を浮かべながら、結界外で騒ぐ六名に問い掛ける。
『わ、私達ってなんのために?』
すると、問い掛けられた六名は目配せし、マキナの合図でもって同じ言葉を返した。
「女神に与えられた魔力を得るために呼ばれただけだよ?」×6
『ただの魔力目当て?』
「うん」×6
『戻る事って?』
「不可能」×6
異世界に戻る事は不可能なのよね。
一応、例外もあるけど・・・それは私とシオンとマキナしか出来ない事だから。
愛海は六名の言葉を聞き水場にへたり込む。
『私は一体どうすれば・・・』
すると、マキナがレリィに視線を向けながら愛海に提案した。
この後の処置もマキナが行う事だからだ。
「ま、ミズキ同様に死せず転化してレイの元で修行すればいいんじゃない?」
『レイっていうと・・・』
「「呼んだ?」」
レリィ達は呼ばれたとして顔を出す。
レイも一緒だったため愛海は混乱していた。
『綾小路さん!? あの、有名料亭の!? って! 二人居る!?』
「「うん。それが?」」
『???』
だが、修行先として申し分ないためか、混乱から回復した愛海は素直に受け入れマキナの眷属となる事を了承した。ただ愛海はマキナの眷属と聞いて一瞬躊躇したが、マキナの実年齢を聞いて青ざめながらも同意した。
以降は時間等速を解除し停止した愛海の口にマキナが血液を飲ませた。飲ませる前の愛海には目と口を開けた状態で立ったまま待機して貰ったため、ミズキの時よりもスムーズに肉体変化が見てとれた。
ちなみに名前はミーア・ツカイと変えレベルも元々の11に90を足した101とした。
「あれ? 私、今・・・え?」
ミーアは目覚めて直ぐ、揺れる胸に驚く。
腰回りの成長も目覚めた直後に起きたため、尻も同じくブルルンと震えていた。
「!? えぇーっ!?」
マキナは育った胸に驚きハルミとサーヤに問い掛ける。
「うぉ!? ミーアの胸が急に育った!! これって、H?」
「Hね・・・元々大きかったお尻も育ったね? サーヤと同じくらいじゃない?」
「うん。私と同じかも・・・胸は負けたけど」
マキナはミーアの胸から視線を下げ、左隣に立つ私に視線を移す。
「まぁ・・・お母様のイタズラでツンツルリンは変わらずだけど、そこは仕方ないよね?」
ミーアはマキナの視線の先を追い、ようやく私に気づいた。表情は青ざめていたが。
「あ、無いままだ・・・ん? お母様? へ? カ、カナデさん、居たの?」
私はようやく気づかれたとして溜息を吐きながら、シオンに話し掛ける。
「やっと気づいたの? 最初から傍に居たのに? シオンと違って放置プレイは苦手だわ」
「カノン、ドンマイ」
シオンは私を慰めたが、実のところミーアからはそれほどの恨み辛みが無かったため、しょんぼりしているシオンだった。




