第112話 最後の良識派を救い出す吸血姫。
『いただきま〜す!!!』×10
それからしばらくして、各眷属達はそれぞれの持ち場から〈無色の魔力糸〉を伸ばし、街道の別れ道付近に陣取る斥候部隊を戴いた。
それは私とナギサ、マキナとアキが監視室で見ている間の出来事だ。ユーコとフーコは二号車・屋内プールに浮かび、ハルミとサーヤは三号車の車庫内から、ナツミとサヤカも同じく車庫内の自動二輪に跨がり、ミズキとユーマは一号車・屋内プールに漂いながら戴いていた。ちなみに今は各人の〈スマホ〉越しで音声を拾っている状態である。
『あっま〜い!』×10
『魔物は芳醇な葡萄ジュースを飲んでるみたい! ね? フーコ』
『うん! 甘さと渋みが均一になってて生命力と共に魔力もウマァ〜』
『兵達も美味しい経験値を蓄えてる〜ぅ』
『保有魔力も大量だぁ! 出力上限値様々ねぇ〜』
『経験値を反映したら、そこそこ使えるようになるのにバカよねぇ〜』
『溜まりに溜まった経験値いただきま〜す!』
『使われてない魔力もすごい美味しい!』
『いろいろな意味で美味しいですね!』
というように様々な反応が監視室内に聞こえてきた。ユウカとニーナは二号車の監視室から戴いていたようで詳細情報を一号車と共有しつつ一番経験値を蓄えていそうな者を選択していたようだ。
『護衛兵ウマァ! 車バカの不味い魔力とは大違いだわ!』
『槍術の知識ごちそうさま! 騎士でも槍使いを選んだ甲斐があったわ〜!』
それを見た私とナギサは苦笑しつつも様子を眺め続ける。
「ユウカ達ったら・・・」
「これは監視室に詰めてる恩恵でしょうね。他は手当たり次第ですけど。二人に限っては翠岾君の周囲に警護する騎士を選択したようですし」
アキは〈遠視〉と〈魔力感知〉で処刑人達を眺め、感嘆の声をあげる。
「す、すごい・・・遠距離だというのに皆の指先から何本もの糸が・・・」
同じく苦笑するマキナはアキの感嘆を隣で聞きつつ、一本だけ〈無色の魔力糸〉を伸ばす素振りを行う。
「これが戴くという事だよ? 高度な〈隠形〉の護衛兵ごちそうさま!」
ユウカ達が見逃した者をその場で戴いていた。これは私と同じ仕様の〈スマホ〉を持つマキナだから検出出来た人員ね?
私はマキナの早業を眺めながらもバタバタと倒れる兵達を場所毎の強制転移で〈還元転換炉〉の予備タンクに集めていった。
その間も護衛兵達は一人倒れ、二人倒れと・・・最後は翠岾刑士の周囲に居る護衛兵まで倒れる始末であり、バタバタ音が響く前に都度回収していった。
私は翠岾刑士の呆然な素振りを眺めながらもアキに指示を出す。
「翠岾のみが残る形となったわね? アキ・・・〈遠視〉して翠岾のどこでもいいから糸を伸ばしなさい」
「はい! えっと・・・あ! 一瞬で繋がった!!」
アキは最初恐る恐るという様子だった。
だが、差し込む場所を視認した瞬間に繋がって驚いた。これはスキルレベルをカンストしているからこそ出来る芸当ね。カンストさせてない面々は自身で魔力糸を誘導しているもの。
そして、次に扱うスキルを指定する。
「次は・・・〈隷殺〉と〈触飲〉を意識下で選択して」
「はい! !? う、薄い海水みたいな味が口の中に拡がった? 若干甘みもあるけど・・・」
アキは選択直後に自動で吸引された生命力の味に困惑したようだ。マキナはその言葉を聞き困ったように思い当たる物を例にあげる。
「翠岾って経口補水液かなにかかな?」
「それなりに正義感のある男だからね。でも甘みがあるという事は正義のためなら悪行すらも行えるという事でしょう・・・」
私はマキナの言葉に応じつつも、徐々に倒れようとしている者へと最後の引導を渡す。
それは翠岾が救援念話を行おうとしていたので、周囲を念話完全防御結界で覆い勇者達への連絡を妨害した。
「あとは死亡認定が確定するまで・・・いま、したわね?」
倒れた事を把握した私の隣で最後まで戴いていたアキは手をあわせて拝む。
「翠岾君、君の経験値は有効活用するね・・・南無」
私は拝むアキの様子を眺めつつ翠岾の居場所を改めた。
「次は遺体の場所を街道とすると魔物が寄りつくから、ランイル王太子が消えたとする湯殿に強制転移っと! あら? 第三王妃が湯船に浸かってるけど・・・まぁいいわね。第三王妃の周囲に時間遅延結界を張って」
マキナは転移場所を知ったのち〈遠視〉後に大笑いした。
「大慌てだぁ!? 空中に裸の男が乱入したって!!」
するとナギサだけはなにかに気づき──、
「主様? 装備品・・・剥ぎました?」
苦笑しつつも私に問い掛ける。
私は応じつつ砕ける時間を把握した。
「強制転移中にささっとね? 砕ける瞬間に周囲を壊すから」
直後、湯殿にて水面落下中の翠岾の遺体が見事に砕け散った。
それは──パッシャン!──と大きな音をさせたのち湯船を血の色で染めあげた。
なお、第三王妃が見た光景は絶句と呼べる物となった。それは私がわざと時間遅延を起こさせ、王妃を対象に一瞬を長く引き延ばし、砕ける様を示したのだ。
最初に首が落ち、粒魔石から細切れの魔法陣が瞬時展開され、水面に落ちている最中の頭を砕き、脳漿と頭蓋骨と眼球、皮膚と筋肉、神経と骨、臓器と汚物が抉れるように削られるように中身を噴き出させ、大きな肉塊が王妃の顔面に吹き飛び、当たった瞬間に砕け散った。
血液と肉片をぶっかけられた王妃は唖然としつつ、顔面で砕け散った物がなになのか理解する事を拒絶していた。
最後は残りの肉片も血液も汚物も骨粉も周囲を巻き込んで贅沢の限りを尽くした湯殿は人体崩壊の汚物等に染め上げられ、紅い湯に浸かる血だらけの王妃だけが残った。
私は突然の事で呆然となる王妃を眺めつつ、呆れた様子で嫌悪感マシマシのナギサに問い掛ける。
「自分達が願った勇者の爆散がどういうものか知らなかったのかしら? 歳の頃では三十代半ばくらいだけど」
「知らなかったでしょうね。殺すためだけに呼んだとしても様子までは知らされませんから」
するとアキがなにかに気づいたのかマキナに質問する。その表情は戦慄で彩られていたが。
「もしかして・・・他の子達も?」
「うん。一組の男女、計四十四名全員施されてるよ? ナギサさん達は実行された後で再誕したし、私は実行される前に先日のアキ同様、肉体を再構成したし。ミズキも実行前にお母様が取り出したからね?」
マキナはあっけらかんと施された者を明かす。アキに関しては既に事情を打ち明けていたため、アキとアナ自身から許しを得ている。
それは生存を知っていながら殺した事に関してだが、お詫びとして色々痛め付けて欲しいという願いをアキとアナから請われた私である。
それもあってアキとアナは今現在も下着の替わりに特殊水着を着ているからね。マキナを除くシオン達ドM勢がオススメした電撃水着を。
アキはそれを踏まえて少しピンク色に染まった自身を流しつつ、誰かの事を思い出す。
「私の事はいいとして・・・そうなると愛海が心配かも」
それは、最後の良識派の一人だった。
マキナとナギサもアキの心配に理解を示し、五十川の事情を語る。
「たちまち・・・愛海は戦力外となってるからルンライが手放さない限り問題ないと思うよ? 持ってる魔力量も一番少ないし」
「そうですね。五十川さんは例外で護られているでしょうから、異世界料理のレシピが完全に流れ出ない限り、放り出される事はないでしょう」
それは心配無用という雰囲気だった。
だが私は出来る者が二人いるため、程度が気になり一同に問い掛けた。
「ところで五十川ってどんな料理を作れるの? レリィ達と比べて・・・」
「う〜ん? レリィさん達と比べて、ですか」
「確か家庭料理全般だったから・・・レリィ達よりは作れないはずだよ?」
「うん。レリィやレイの料理と比べると雲泥の差はあるかも・・・料理人という職業というだけで出来る者と認識されているみたいだから」
私は三人の答えを聞き少々不味いと思ってしまった。レリィとレイは料亭の娘として、それなりに教えられているのだ。
そのうえレリィの料理はリンスやリリナ達王女の舌を唸らせる物でもあるため、アキから聞いた「雲泥の差」という言葉から、私はルンライ王城を〈遠視〉した。
「これは・・・確保しましょうか」
「「「え?」」」
私は周囲の反応を余所に〈遠視〉を用いた強制転移で亜空間庫内へと五十川愛海をご案内した。
五十川愛海は黒髪ボブカットの美少女で胸はFカップあり、椅子に座った体勢のまま回収した。
その尻はサーヤに匹敵する大きさであり、お腹周りも細く腐女子でなければモテたであろう容姿の持ち主だった。
私はご案内前に厨房の様子を見たが、男共の視線は彼女の各部位のみであり、気持ち悪いの一言を危うく呟きかけた私である。
人族国家はどこもかしこも自分勝手ね。
〈料理〉というスキルはカンストされているけど、彼女が持つレシピは王侯貴族の舌を唸らせるほどの物ではないため、下働きでジャガイモの皮むきをさせられていたの。
それも永遠に終わらない物量の皮むきであり勇者でありながら戦力外とされた事と相まって不要品扱いをうけていたのだ。
しかも彼女は特権を一切使わず例の王太子であれ裁く事が不可能という扱いだった。
だからだろう、今度は彼女が耐えかねて自殺するようなイジメを行っていた。
私は呆ける者達に回収した事を告げつつ、次に行う滅却の準備を始めた。
「一応、座った状態で回収したけど白衣が汚かったから回収と同時に剥いたわよ。マキナみたいに」
「へ? お母様? まさか愛海もツンツルリンに?」
「ええ。アキ達と同じくツンツルリンね?」
「私ってこんな軽い感じで永久処理されたの」
「ま、まぁ・・・料理人として清潔でいなさいという事としましょうか。レリィ達も同じだし」
「レリィ達はコスプレ的なものだと思うけど」
「無駄毛処理が面倒って奴よね?」
マキナやアキから困惑の表情を私は戴いたが、ナギサが空気を読んで各員に通知を行っていた。
「はいはい。それよりも時間ですよ」
「コホン! 五十川の処置は後にするわよ。どのみち、こちらを片付けないと話が進まないからね! まずランイルの処置は・・・」
ということで滅殺を行う者達を以下のように割り当てた。
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・ランイル王国
カノン、ユーコ、リンス、ユーマ
ナギサ、ミズキ、ルイ、リリカ、レイ
・ルルイア王国
シオン、マキナ、フーコ、ハルミ
サーヤ、ニナ、アナ、ナツミ、サヤカ
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ランイル王国は勝手知ったる者とした。
ルルイア王国にはこの国に関わった者を組み込んだ。どちらも元勇者として一時的に関わっていた者を中心とした。
上界から関与した私達は鑑定で一括りするが、元勇者達はパーティなどで会った者を中心で吸い出しを行ってもらう事とした。




