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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第五章・異世界殺戮紀行。

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第110話 吸血姫は愛玩欲を知る。


 ひとまず、アキに〈スマホ〉を手渡した私は催していた者を一号車内へと連れ立って、出入口近くのトイレに放り込んだ。

 これは説明中のお漏らし回避の処置であり、絶望を与えるための措置でもある。


「えぇぇぇぇ!?」


 私はアキの絶望を(いただ)いた。

 共用トイレの中、四つん這いで床に沈み、想定通りの絶望を発していた。


「最上級の絶望、(いただ)きました! さっさと出しなさいね。漏れるわよ?」

「あ、はい」


 その後のアキはトイレ内で嬌声を響かせ、外に出てくるまで数分の時間を要した。おそらく興味本位でシオンスイッチを押したのだろう。

 なんのスイッチか言及しないが。

 私は真っ赤な顔で出て来たアキを(あき)れた顔のまま(なじ)った。


「やっと出てきたわね?」

「申し訳ございませんでした」

「まぁいいわ・・・付いてきて」

「はい」


 先ずは一号車内の設備やら居室を案内し、二号車、三号車と順次巡っていく。この移動も各車に設けた専用扉で行き来するため、アキは終始呆然であった。最後、六号車からログハウス内に移動した私はアキに示した。


「それで、こちらが私達の拠点ね?」

「え? 扉の先に・・・ログハウス?」

「ええ。このログハウスの場所は明確に教えられないけど、下界の旅が終わったらこの地に戻ってくる予定なのよ」

「この地?」

「そうね・・・アナも含めて他の者達も総じて驚いているけど・・・付いてきて」

「へ?」


 私は浮遊大陸をアキに示した。

 今が〈常陽(じょうよう)(こく)〉ともあって夜だというのに明るいのは置いといて。

 私はアキを連れて第一浮遊大陸・ルティルファ〈ユルーヌ王国〉へと転移してきた。

 ちなみにアナとミズキも〈ティシア王国〉の国籍を得るために第二十二浮遊大陸・ルティアへとリンスと共に訪れている。

 これはナギサ等の面々も同様であり、例外なのはリリカの立場だった。一応、吸血鬼族にあてはまるが人魚族という地上種族だったため、内密に国籍を与えた。

 それと共にマキナも別の意味で驚かれた。

 案の定というか「カノン様の娘!?」と陛下が出張ってくる始末となったらしい。

 そのため、立場上はマキナも私とシオン同様〈永久枠〉になってしまった。マキナ本人の意思に寄らずとも・・・それはともかく。

 私と共に転移したアキは第一浮遊大陸から見える第零浮遊大陸・ルティルフェの大きさに圧倒されていた。


「えぇ、浮いてる? 大陸が浮いてる?」

「実は浮遊大陸の方が私達の本拠地ね。それとアキにはこちらの国籍をとって貰うから」


 私は驚くアキの背後で〈変化(へんげ)〉した。私の姿は懐かしの我が身という感じだ。

 姿の理由は伏せるけど。

 アキは驚愕のまま隣に並び立つ私に問い掛ける。


「国籍?」


 私はアキを抱き寄せながら、使者が現れるのを待った。


「貴女は・・・エルフだもの。地上のエルフ族との関係はまだ確立してないから行うならこの場ってね?」

「え? カノン様までエルフに?」

「これは〈変化(へんげ)〉スキルで変わっただけよ。さて・・・来たわね」

「ふぇ?」


 アキはなにがなにやらという状態だったが、私は振り返りつつ使者を眺める。


「お待ちしておりました。準備は整っておりますので、こちらへどうぞ」


 そう、私が転移した場所は〈ユルーヌ王国〉王城の屋外庭園だ。この場に来たのは使者というより、国王の側近・・・宰相だった。

 今回はシロとケン以来の来訪であり、快く受け入れて貰えたので安堵した私だ。

 私達は宰相の案内で王城内を移動した。

 アキは不安気なまま日本語で問い掛ける。


「カノン様? エルフ族の国籍ですか?」

「ええ。転生して生まれ変わったとはいえ野良エルフはこちらでも狙われるからね? 特にユウカ達同様にエルフ族として重要な立場に立つ者は・・・ね?」

「???」

「詳しくは後でマキナが(・・・・)教えるわ」


 こうしてアキは無事に〈ユルーヌ王国〉の民となった。




  §




 王城を出た私はアキを連れ立って〈ユルーヌ王国〉の冒険者ギルドを訪れた。


「次は冒険者ギルドね」

「へ? 探索者ではなく」

「あれは下界だけの組織よ。上界は冒険者ギルドだけになるの」

「もしかして、こちらも魔力量ですか?」

「こちらはレベルだから安心しなさい」

「レベル?」


 国籍だけの身分保障はあくまでエルフであるという保障だけなので、私は他の者達同様に冒険者登録を済ませる事にした。

 それは結局、平定旅が済んだら私達の(ほとん)どの生活が地上ではなく浮遊大陸に移動するためであり、暇潰し以外で降りる事がなくなるためでもあるのだ・・・ともあれ。

 私に言われるがまま登録を終えたアキは驚愕のまま目を見開いて固まっていた。私は固まったアキを心配しつつも問い掛ける。


「どうしたの?」

「わ、わ、わた、わた、私、Sランクになってしまいました」


 アキは動揺したままだが、なんとか私の問い掛けに答えた。私は周囲を見回して問題ない事を把握しアキの耳元で囁いた。

 それは非公開案件だから。


「まぁ順当よね。受付でも説明された通り、レベルが101もあれば当然でしょう。他の面々も公開はしてないけど100超えしたSランクが(ほとん)どだもの」

「へ?」

「私やシオン、マキナは言うに及ばずだから気にする必要はないけど、全員がこちらでの活動と未開地の開拓を並行しててね? あちらでの移動中はこちらで活動している者が(ほとん)どなの。まぁあちらでのダンジョン攻略が入れば、こちらでのレベルアップが滞るけど私達には裏技があるから、経験値取得という点では他よりも優れているけどね」

「そうなんですか?」

「戻り次第、マキナに聞くといいわよ? あの子も帝国戦でレベルアップしたらしいから」

「!? 一人で戦地に赴いて怪我一つなく帰ってきた理由って・・・」

「そういう事ね?」


 私とアキは冒険者ギルドを出て〈ユルーヌ王国〉王都を闊歩(かっぽ)する。周囲には数多くのエルフが行き交っているが私達が歩くと不思議と振り返る者が多数であった。

 私は周囲を無視し、アキに下界と上界の違いを日本語で示していく。

 話題の中心は出力上限値に関する物ね。

 今までのアキ達は一日の出力上限値が十二万MPしか無かったのだもの。それは錬金術士としてアレコレ作るには最低以下の出力上限値のため、アキが願った物を作るには足りなかった。私は冷たいようだがアキに突きつける。


「例えるなら、石頭くらいのレベルになってないとキツかったかもね。あれもなぜだか知らないけどレベル50だったから」

「え? 変態がレベル50? 変態でレベル50・・・変態・・・」


 私は話をまとめようとしたが、アキはブツブツと聞いていなかった。


「今も出力上限値こそ、レベル1に付き一万MPは変わらないけど、保有量と上限値が同じだから錬金術士としてアレコレ作るにはもってこいかもね・・・って、聞いてる?」


 どうも石頭のレベルが衝撃的だったらしい。


「あ、あぁ・・・はい。聞いてま・・・せん、でした」


 私は仕方ないと苦笑し、忘れていた件を思い出しながらアキに告げた。

 今は第一浮遊大陸・ルティルファの端。

 港の路地裏に入った直後に私はアキに告げつつログハウスへと転移した。


「変態の事が気がかりだったのね。それならあとで返さないとね?」

「へ? 返す?」

「石頭が所持していたアキ達の使用済み下着」


 ログハウスに転移した直後──、


「え? !? イヤーッ!?」


 アキは嫌悪のままに大絶叫した。

 肝心の下着はアキを含めた元一組の女子全員が〈スマホ〉経由で不要としたため、燃料と化した車バカの頭上へと全てぶちまけた。

 マキナも汚染された下着は要らないと言ってたしね? 残り十二名の女子の下着も不要とされ、総じて車バカの頭上に落とした私だった。




  § 




 その後の私は絶叫疲れのアキを伴ってログハウスの風呂場へと移動した。私達が上界にあがってアレコレしている間も外の複合結界は維持されており、誰も外には出ず一号車や二号車の屋内プールで時間を潰していたようだ。


 なお、ナギサとマキナだけは監視室から定期的に外の様子を把握していたらしい。

 マキナ曰く、途中ですれ違った近衛兵からの報告で報復がくる可能性を考慮したそうだ。

 私はその報告を受けたあと、不意に魔力残量が気がかりとなったため〈遠視〉で〈還元転換炉〉の中身を把握した。


「車バカは血液と神経と眼球が消えて、残りは筋肉と臓器、魂と骨だけね。下着の総量から察するに、維持するには少しばかり燃料が足りないかしら? 排水した風呂の湯を加えたとしても微々たる変化だし、代わりになる燃料ってあったかしら?」


 把握したのだが、想定以上に魔力消費が高かったようで私は代替品を思案していた。これも複合結界の余剰魔力を周辺監視に使っていた弊害であろう。

 すると、湯船に浸かって気持ち良さげなアキが、きょとんとなりつつ質問してくる。


「へ? い、一体なんの事です?」


 私は徐々に消えゆく者の状態を把握しながらアキの言葉に応じた。聞いている最中のアキは終始困惑しているが。


「ん? 車舎総次(くるまやそうじ)が複合結界と監視魔法の魔力に変わってると言えばいいかしら?」

「く、車舎(くるまや)君が?」

「このお風呂もそうだけどキャンピングトレーラー内の風呂場や排水口の先に〈還元転換炉〉っていう不要品を魔力還元させるタンクが存在するのよ」

「〈還元転換炉〉?」

「で、その中には先ほど要らないって言った下着類、トイレの中身やら残飯が入っててね?」

「お、汚物処理場?」

「扱いとしてはそれね。現物は汚物を安全な魔力へと浄化して再利用する設備なのだけど、その中に車舎総次(くるまやそうじ)を汚物として放り込んでいるのよ」

「どうしてそんな事に?」

「放り込んだ理由は鉄鉱石集めの邪魔をされた事とかユウカの報復とかアダ名の事もあるわ」

「鉄鉱石集め・・・なるほど。ユウカさんの報復というと御実家の事ですね。ナディ姉様から事情は伺っておりますが・・・でも、アダ名は?」

(だま)り姫」

「あ〜。はいはい・・・最初に発したのは確かに彼ですね」

「ね? まぁアキも一緒になって言ってたのは不問とするけど。七不思議の発端もね?」

「え・・・なぜそれを?」

眷属(けんぞく)の考えてる事とか記憶とか判るからね? 隠しても無駄だから」

「あ、すみませんでした! 七不思議にしてすみませんでした!」

「気にしなくていいわ。アキも嫌々言わされていた・・・みたいだしね?」

「あー、はい。そうですね・・・調(しらべ)さんから強制されてましたので、七不思議も元を辿れば」

「それも知ってるから大丈夫よ。ま、発端の調(しらべ)も人形となったけど」

「???」

「・・・あとは勇者特権で大型四輪駆動車を奪う事も想定出来た、から?」

「あぁ・・・それはあり得ますね」

「ええ。それがあるから積もりに積もった報復を汚物処理場に入れる事で償って貰おうと思ったのだけど・・・臓器やら魂が完全に消化されて骨だけになったわね」

「クラスの嫌われ者、車舎(くるまや)君・・・南無」


 風呂場でアキと会話している間、車舎総次(くるまやそうじ)は勇者としての地位も名誉も魔力でさえも物理的に掃除され骨もあと少しで消えるところであった。

 酷い話ではあるがこれもまた権力に溺れた勇者とは名ばかりの者となった事が一つの原因であろう。仮に生き残ったとしても近い将来、合国(ごうこく)・王太子の命で粉微塵の肉片とされ、意図せず不遇の死を迎える事だって起こりえたのだ。

 それを思えば痛みなく消滅するのだから、これほど有り難い事もないだろう。魂ごと魔力に還元されるから転生すら出来ないけれど。

 私から結果を聞いたアキは裸のまま消えていく者を拝んだ。私は消えた者の事は忘れ、結界維持の方法を模索する。

 今はアキと共に風呂から出て脱衣所で身体を拭いている最中だが。


「代替品が無い以上、適当な魔物放り込むしかないわね」

「代替品ですか?」

「このままだと複合結界が解けちゃうからね」

「でしたら、ルルイア王太子とランイル王太子はどうですか?」

「王太子?」

「ええ。どちらも筋肉ダルマのようにムキムキでして脳筋と呼べばいいでしょうか? 私が疲れていようが無理矢理作らせようとしましたので。それと・・・ランイル王太子はムアレ島まで船を出す事を拒否してきましたから」


 そう、燃料の融通で悩んでいた矢先、アキから御提案を(いただ)いた私。アキに嫌悪感を持たせるに至った者を〈遠視〉し、過去の行いを読み込んだ。


(ほう? この者が水晶化の粒魔石を指示したのね。亡くなった後に愛でるために・・・確かに見た目も筋肉ダルマだわ。まぁタツトよりは痩身だけど・・・ランイル王太子も使える?)


 ということで行方不明という扱いになるだろうが、湯殿で多数の女を侍らせているルルイア王太子をそのままの状態で処理場へと御案内した私である。侍らせている女達と共に。

 この時、ボロボロに変化した車舎総次(くるまやそうじ)の骨は筋肉ダルマの王太子が乗る事で無残にも魔力として砕け散った。

 あとは王太子も順次燃料へと変わるだろう。


 元より滅亡指定の国家なのだ。

 王侯貴族が消え去ろうとも問題はない。

 私は〈とある策〉を講じるためランイル王太子も汚物処理場へと御案内した。ランイル王太子もアキの言うように重量過多な容姿だった。

 私は筋肉ダルマに筋肉ダルマを重ねるように強制転移を行った。あの国の転移送禁止結界は内側から内側と、内側から外側に向かう転移送だけを阻むものらしく外側から呼び出したり送ったりするものは例外なく素通りだった。


 それとこちらも湯浴み中らしく腐女子達が喜ぶ結果となった。下半身の元気な筋肉ダルマが下で愉悦(ゆえつ)を浮かべた筋肉ダルマが上に座った形となった。

 これをミキとリョウに伝えたところ〈遠視〉で〈還元転換炉〉を覗き込み、二人から歓喜の声を(いただ)いた私である。


「アキの願い通り、ルルイア王太子とランイル王太子を重ねてみたわ。〈遠視〉スキルで見ると・・・かなり酷な光景が見えるけどね?」

「へ? !? これはまた・・・愛海(アミ)が見たら喜びそうな光景ですね?」

愛海(アミ)というと・・・五十川(イソカワ)愛海(アミ)かしら? 最後の良識派で腐女子の?」

「そうですね? 今は東方国家ルンライで料理長をしてますが・・・」

「勇者なのに料理長?」

「ええ。勇者としての戦力より、後方支援で呼び出されたようですね。私と同じで職業的な扱い・・・料理人というレア職業を得たからだそうですが」

「この国にとって勇者は必要ないみたいね」

「私もそんな気が薄々してました・・・」


 最後はアキとしても苦笑していたが。

 いや・・・ホントになんで呼んだの?

 そう思える行為が各国で乱立していた国家群だった。結局、欲したのは魔力だけだろう。

 許されるなら・・・同時に消してしまってもいいわよね? 魔力を欲するだけだもの。





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