第11話 同族と吸血姫。
「「またのお越しをお待ちしております〜」」
私は驚愕する問屋主を放置し従業員達の挨拶の中、店外へと出た。
(二度と来ないわよ〜)
すると問屋主同様に呆け顔だったリンスから私に対して質問が飛ぶ。
「カナデさん? 先ほどの魔法ですけど」
「ん? ああ。〈保管魔法〉のこと?」
「そちらではなく物理防御結界の方です。あんな使い方は初めて見ましたので」
「そっちか。まぁ、あれだけの分量が床に乗ると底抜けしそうだったからね……だから数メル程浮かせて破損避けを行ったのよ。それに絨毯が既にあったでしょう? それを破るわけにはいかないしね」
「なるほど。そのような意図があったのですね!」
だから主立った理由を述べてみた。
本来、衛生観念的な考え方だけど超越者に影響するのか?
という話に落ち着くので敷物を守るためという言い訳を選択しただけである。
魔法一つでも使いようだもの。
それこそ先に使った第十階梯魔法の〈調理魔法〉とか魔力量を抑えるだけで危険物が安心安全な魔法に早変わりしたのだから。
(あれも従来の魔力を込めたら大陸が消し炭だものね)
それはさておき、その後の私はリンスと共に魔法談義に話を咲かせた。
リンスも職業上は魔導士だからそれなりの知識を有しており、自身の持つ闇属性と金属性であれば倒せないものはないと豪語する始末であった。
どうも闇属性は隷属魔法を金属性は錬金魔法を扱う際に必要な属性だという。主に金属性は魔力を元にあれこれ作る時に必要な属性だった。
私も表立ってであれば空属性と金属性を見せているので他の火・水・土・光・闇を表沙汰にしなければ影響はないであろう。
ただ〈調理魔法〉は火属性で〈凍結魔法〉は水属性なのでいずれバレるだろうが。
土属性ならゴーレムを作ったり石礫を生成するとか。
あとは土壌改良も土属性ね。光属性なら治癒とか浄化で闇属性は言うに及ばずだ。
そんな話の合間に必要物を購入しまくった私は〈鑑定〉スキルの時間を把握しながらリンスに提案を持ち掛ける。
いえ、提案というより命令に近いわね。
「そろそろ時間もあれだから外に出ましょうか」
するとリンスはきょとんとしつつも商会近くの宿屋を指さし問いかけた。
「宿に泊まらないのですか?」
私はリンスの問いかけに対し背後から迫る者達を視界に収めながら──
「宿代は問題無いけど、安心とまではいかないからね?」
リンスを抱きかかえ砦の門前まで空間跳躍した。
§
流石にいきなり抱えて跳べばリンスも驚くとは思っていたけど案の定──、
「いきなり跳んだので、ビックリしました!」
私から離れつつも恥ずかしそうに問い質された。
私はそんなリンスに対して、てへぺろを敢行し軽い感じで謝った。
理由としては至極真っ当なのだけどね。
「塩問屋から付けられていたみたいでね。あれは貴族の使用人だったのかも」
「し、使用人ですか?」
「岩塩を大量購入したことと〈保管魔法〉でしょう? 有用性に気づく者が居ても不思議ではないからね。最悪、囲ってでも使い走りにしたい者ともとれるもの」
「なるほど。確かにあの魔法が使える者は商人やら貴族が欲する人材ですもんね」
「そういうことよ。さ、門が閉まる前に外へ出ましょう」
そう、欲する者達から逃げたとする理由にリンスが納得してくれたので私はリンスの左手を握り締めながら手を引いて門外へと移動した。
ちなみに「門が閉まる前」という言葉はある意味で門限なのだが、これは今から数時間後より〈常夜の刻〉に変わるという意味であり私達のような魔族が跋扈する時間帯ともいう。
そのため──、
「今から外に出るのかい? 危ないから止めといた方がいいぞ?」
「お気になさらず」
「いやいや、女の子達を外に放置とか流石に出来ない相談だぞ?」
「身一つを守るくらいの魔法は打てますから問題はないですよ?」
「守りは万全だったか。すまん」
出る前から衛兵との悶着が発生した。
危ないという意味はアンデッドやら吸血鬼族が出るという意味なのだが貴方の目前に居ますとは言えず仕方なく掌に聖魔法を見せると安堵してくれた。リンスからは唖然の表情を頂いたけれど。
だからだろう、門から離れ森の中に入るや否やリンスからの質問が飛んだ。
「あの! カナデさんはもしかしてですけど」
「ええ。全属性持ちよ」
私は観念したように打ち明けた。
それを聞いたリンスは安堵の表情を浮かべながら──
「やはり! おかしいと思ったのですよ。洞穴から出る時に見た火属性魔法とか洞穴を加工する時の土属性魔法とか空間跳躍もそうですけど〈保管魔法〉は空属性ですからね? 普通は多種属性でも二つが限度ですので」
私がウッカリ見せていた魔法で察していたことを打ち明けてくれた。
(あら、やだわ!)
隠すつもりが油断して見せていたらしい。
「その辺は色々事情があるから追々教えてあげるわね。リンスだってすべてを教えてくれている訳ではないでしょう?」
眷属として従者となっても、本人が教えても良いと思うまでは受け入れないと私が決めているから、リンスは打ち明けることが出来ないのだ。
実際に本人が構わないとするまでは私が拒否するからね?
するとリンスはバツの悪そうな表情になりそっぽを向いた。
「あっ。まぁ、はい」
ある程度は〈鑑定〉で把握しているが本人の言葉で聞きたいしね。
助けて欲しいという彼女の願いのままに。
私はリンスがそっぽを向いてる間に亜空間の扉を開け、手を引きながら中に入った。やはりというべきかリンスも眷属として超越者となっていたようで私が亜空間の扉を閉めて建物前で手を離すとリンスはまたも呆けた。
「さて、では私の家にご案内!」
「え? ログハウス?」
私は呆けるリンスに対してあっけらかんとタネあかしを行った。
「ここは亜空間の中よ。こちらが安全でしょう。魔物も出ないし雨にも困らない」
するとリンスは一瞬だけきょとんと呆け、大絶叫の驚愕を示した。
「亜空間の……なかぁ!? あ、亜空間って、せ、生者は入れないという、あ、あの?」
その後はアタフタする素振りでアウアウと問いかけるので私は首肯を示し、詳細を明かす。
「あの亜空間ね。死を超越した者だけが例外的に入れる空間ではあるけどね? 不老不死という意味で。従来の吸血鬼族は不老であっても不死ではないから」
「ということは、わ、私は」
「今後一切、死なないわね。病気にもかからないから」
まぁ判ってた。リンスは不老不死となったことに涙を流した。
その気持ちのほとんどは困惑の色を占めていたが自身の願いを叶える者ともとれたのである意味で嬉し泣きに思えた私であった。




