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第102話 女神の問い疲れ果てた吸血姫。


 それからしばらくして。

 私達の居る場所の時刻は深夜となった。

 私とマキナは交代で風呂に入りテント内で眠るミズキの目覚めを待った。マキナが風呂の間は、私が下着を作って着せたり長い髪を結って編み込んだりしていた。


 私が風呂の間のマキナは部屋着や普段着を用意しており、戻ってきた時には寝間着を着せながら様子を見守っていたらしい。シオンも気になって様子を見ていたようで、今は影ながら隣のベッドで眠っている。ただ目覚めの兆候は親にしか判らないため、私は経験則からマキナに教えてはいたけどね? しばらくするとミズキが身じろぎし、どこか苦しそうだった。


「う、うぅ、ん」

「あら? 目覚めそうね?」

「ん・・・」

「まだみたいだよ?」

「寝言かしら?」

「夢を見てるのかもね?」

「苦しい夢?」

「奴隷商に売り渡された時の記憶が(よみがえ)っているみたい」

「それは・・・消すわけにもいかない記憶ね?」

「うん。報復に関する記憶だし・・・でも」

「辛そうではあるわね?」


 それは夢。私達は久しく見ていない夢だ。

 私が最後に見たのは明晰夢だったが、あれはユランスに呼ばれた時の夢だから、夢と呼んでいいかは謎だったが、大半の夢は記憶整理であり、今回の場合はこの国家を滅する大義名分となるため消すわけにはいかなかった。

 これが偶然なのか必然なのかは判らない。

 アインスからの命で消しても良いとした事案に関連するかすら判らない。


 当人からすれば勝手に呼んでおいて弱音を吐いたから要らないと、奴隷商へと売りに出されればトラウマとなっても仕方ないだろう。

 勇者という立場すら不要とするのだ。

 推進派やらなにやらが如何(いか)に御題目だけの存在か理解出来る話である。

 私は辛そうな表情を眺めて嗜虐心に狩られそうになるも、マキナの手前我慢し、思いついた事を口走る。


「強制的に目覚めさせるしかないかしら?」

「出来るの?」

「ええ。ただし、マキナに出来るかどうか・・・だけどね?」

「私は無理なの?」

「例えるなら私がマキナを撫でる時の(てのひら)を思い出してみて」

「え〜っと、あぁ! そういう事?」

「そういう事ね? それで胸を撫でてみて」

「ははははは・・・判った。やってみる」


 という事で乾いた笑いのマキナは私が教えたやり方で起こすこととしたらしい。

 このやり方は私がリンスの頭を撫でる時と同じである。一応、強制転送で下着だけはオムツと差し替えたが。


「ん・・・ひゃうん!」

「これは、イッたね」

「イッちゃったわね」


 直後、あまりの刺激にミズキが目覚めた。

 胸の表面から膨大な量の魔力が流れるのだ。

 どんな者でも目覚めないわけがない。


「んん? 岳置(タケチ)さん?」

「おはよう? こんばんわ? かな?」

「え? 亡くなったんじゃ・・・」

「生きてました! キリッ」

「へ? それに隣の方は・・・確か・・・(だま)り、姫?」


 まぁ目覚めた。強制覚醒で目覚めた。

 下着は差し替えて正解だったけどね?

 そのかわり自身の状態がよく分かってないのかきょとん顔とアダ名を(いただ)いた。

 誰が考えたアダ名なのか知らないが苛立ちが心の内に占めた私である。


「そのアダ名。いい加減考えたヤツを消したいわね・・・」


 私がそう発した矢先──、


「まぁまぁ。お母様、落ち着いて・・・考えた主なら車バカですけどね」


 マキナからの情報提供を受け、車バカの最期は決定した。


「ほほう。それなら車バカらしく燃料にしましょうか。車のために命を張れるというし」


 すると、私達親子の会話を聞きミズキがきょとんと問い掛ける。


「あ、あの?」


 私とマキナは終始苦笑いであっけらかんと応じる。


「ごめんなさいね?」

「あの? 私は一体? ここはどこですか?」

「ここ? ランイル郊外の森林地帯にある野営地だけど?」

「ランイル郊外? 私は確か・・・売られて」

「ええ。買った主は掃除したから安心していいわよ?」

「掃除?」

「うん。ぶっ殺した・・・お母様が」

「お母様? (だま)り姫が?」

「うん。私の実の母親なのね?」

「へ? 女子高生でしたよね?」

「色々理由があるのよ。それと現実感がないかもしれないけど」

「単刀直入に言うね? ミズキは生まれ変わったから、人間を完全に辞めて吸血鬼に」

「ふぇ?」

「現実感がないかもって言ったけど、全て事実よ? 分類上は魔族だけどね?」

「? わ、私が魔族?」

「うん。ちなみに私も魔族・・・というより仲間達にも魔族と亜人しか居ないけどね?」

「仲間達?」

「うん。(すで)に亡くなったとされる、九人も居るよ?」

「九人・・・コウコも?」

「居るね? コウコからワンコになったけど」

「アンコもワンコになったわね?」


 偶然か必然か?

 アコとココの前世名が最後に〈◯◯コ〉となるため、ワンコと返すと余計混乱したらしい。


「ワ、ワンコ?」


 すると今度は話題の中心となっているメイド服を着たワンコ達が顔を出す。


「「ワンコで〜す」」

「!? コウコ!? アンコも!!」

「まぁ昔の名で言うとそうなるわね?」

「今は別の名だから違和感があるけどね」

「別の名?」

「うん。私がアコで、こっちが」

「ココね? 見たら判るけど犬耳と尻尾があるでしょう?」

「ホントだ。作り物じゃなくて?」

「うん。ほら、フリフリってね?」

「すごい! フサフサしてる」

「あん! 静かに触ってね? 敏感だから」

「いいなぁ〜、触るなら私の尻尾にして?」

「うん。アコは・・・モコモコしてる」

「クーン」


 テント内は一種の同窓会の様相(ようそう)(てい)していたが、マキナは空気を読まず更に踏み込んだ事情を告げた。


「それでね? ミズキが望むならだけど・・・報復しない?」

「報復? 誰に?」


 ここから先・・・私は空気に徹した。

 それは元勇者が説得を行う方が早いからだ。


合国(ごうこく)の王族」

「へ? 王族というと・・・王太子殿下?」

「それも含むよ。実は勇者ってね? その身体は不要とされてたの。必要なのは内に秘めた魔力だけだったんだ」

「魔力? 身体が不要って」

「不要も不要だったわよ? 粉微塵(こなみじん)で殺されたもの」

「うん。私達は素っ裸だったから余計酷い目にあったよね〜」

「素っ裸で粉微塵(こなみじん)?」

「うん。私は直前で回避出来たけど九人に至っては船上で粉微塵(こなみじん)だったらしいよ?」

「痛かったわ〜」

「感じる間もなく激痛が来たわ〜」

「で、でも、今は?」

「ええ。カノンさんのお陰で生まれ変わる事が出来たの。ねぇココ?」

「流石に種族は人族ではないけどね? ハルミとサーヤ・・・じゃなかった。ナツとサヤも吸血鬼だし男子達もそれなりの種族に変わったわよ? ナギ先生なんて女性だしね?」

「え? 女性?」


 ミズキは終始大混乱であった。

 一度に打ち明けるとこうなる事が必然であるかのように。すると、女性となった者の代表としてナギサ自身がテント内に顔を出す。


「呼びました? お目覚めになったのですね」

「ナギ・・・先生? え? ホントに女性?」

「ええ。証拠見ます?」

「いえ、身体付きで判りますから大丈夫です」

「こういう理由でね? 今は合都(ごうと)ネイリアに向けて侵攻中という感じ」

「本題は別にありますけどね? 王族の滅却はついで・・・ですから」

「直ぐに直ぐ決まる話でもないしね? ゆっくり考えたらいいよ? しばらく夜が続くし」

「う、うん。少し整理したいから・・・後で、ね?」


 という事で一旦はお開きとなり、マキナを除く元勇者達の面々はトレーラーへと戻った。

 私とマキナとシオンは〈希薄〉したまま、テントに残って様子を見守った。




  §




 誰も居なくなったとされるテント内。

 残されたミズキは沈黙を続けるかと思ったら素を出した。ミズキは悶々(もんもん)と怒りをぶちまける。


「拉致って要らないからって消す? 勝てなかった・・・ただ、自分自身の心に打ち勝てなかっただけなのに? それを勝手に弱音とみて不要と奴隷商に売り払っただけでなく、私の肉体そのものを粉微塵(こなみじん)に? 鍛え抜いた肉体を壊す? 許せない! まずは謝罪が先でしょう? あちらの世界の人間達よりも身勝手が過ぎるわね! なによりコウコの綺麗な肉体を壊した罪、絶対(あがな)って貰わないと!」


 怒りの言葉は支離滅裂だった。

 それこそ思った事をそのままぶちまけているかのようであった。そんなミズキを眺めるシオンは足下からミズキの身体に〈無色(むしき)魔力糸(まりょくし)〉を伸ばしていたようで頃合いを見て頂くようである。

 私はそんなシオンの満足顔を眺めつつもマキナと話す。私自身、困惑が主に出ていたけど。


「もしかして、ココに恋してる?」

「違うよ。ココ自身が水泳部員だったからね。コウコの肉体を見たら判ると思うけど・・・綺麗だったのは本当だし」

「なるほど。という事は・・・愛でる要素って事?」

「うん。ミズキ自身は百合でもBLでもなくてノンケなんだけど肉体美に惚れてる子でね?」

「まるでタツトのような?」

「うん。実際にドSでタツトの女性版だね?」

「だからマキナと仲いいと?」

「性癖はバレてないから違うと思う。元々、私を年下として愛でていたらしいから」

「実年齢は絶対に話せないわね? 再誕前を含めると一千五百才だもの」

「うん。それは私でも思う・・・というか、八十三才まで生きた事は含めないで〜!?」


 愛でる要素。タツト自身も普段から(ふんどし)姿となり、肉体美というボディビルダーのような行動を起こしているが、ミズキがそれの女性版と知り・・・私は唯々(ただただ)、人の趣向は奥深いと思った。

 流石にマキナの実年齢を知ると、どんな化学変化が起こるか不明なため、しばらくは言わないでおくという方針が決まった。


「うんうん、マキナちゃんはいつまでも可愛いわ〜。処女で八十三才、良くやった!」

「もう! お母様!?」


 オチは私がマキナをいじって終わったが、シオンも程よく満足したのか私達を見て呟く。


「私も母親なんだけど?」

「そうだったわね?」

「忘れてました、すみません!」

「酷い・・・姉と娘が酷い・・・」


 という事でマキナだけは姿を現し──、


「まぁそれよりも!」

「!? い、居たの?」


 ミズキを驚かせる事に成功した!


「ずっと居た! こんな感じでね? 無意識下に隠れて滅殺も出来るんだよ?」

「え? ズボンが勝手に落ちる!? オムツ!? えぇ・・・あ、下着? 肌触りが」

「ね? 実際には近くに居るんだけど、意識しても姿は見えないでしょ?」


 それは私とシオンが〈希薄〉したままタオルを(めく)り、ゴソゴソとミズキに新しい下着を穿()かせたのだ。

 そしてマキナにお任せして私達は外に出た。


「うん。でも・・・なんで?」

「力の使い途を教えただけね? 今のもスキルだから」

「スキルだったの!?」

「スキルだね〜。今から詳しく話すからキチンと聞いてね?」

「う、うん」


 マキナは告げる。私が他の再誕者へと告げるように淡々と。いつものおちゃらけはなく真剣な表情のまま。途中でミズキの質問も飛ぶが、あとに回すとして(まく)し立てるように告げるのだ。ユウカが言った「似てる」ってこういう事かもね? 改めて自覚した私である。

 最後はマキナも怒りに打ち震えて語り出す。


「ミズキにも怒りがある。でもね? 今回の勇者召喚はね、誰であれ怒りがあるの。お母様なら私を壊そうとした者への報復を誓ってるし、他の面々もそう。なにより、私自身も友達を人間爆弾としようとしたやり口には腹に据えかねる思いなんだよ。奴隷商を()るだけのために。それに他の勇者達もそう・・・特権に踊らされ、それが身体を失わせるための方便とも知らずにね?」

「へ? 方便なの?」

「うん。方便なんだよ。石頭の例は特に判りやすいけど・・・元々が選民思想だからこそ操りやすく特権を与えて好き放題した結果、石頭だけは島流しだよね?」

「そうね・・・コウコ達が巻き込まれたけど、帰ってくると思ってたし」

「実際は違った。石頭だけでは放出された魔力が足りないからって全員の死亡を望んだの」

「!?」

「驚くよね? その結果が・・・九人の転生なんだけどね。ただね? この裏には王太子達の勘違いがあって・・・」

「か、勘違い?」

「うん。仮に勇者を殺したからといって、奴らが求める魔力は手に入らないの」

「え?」

「さっき言ったよね? 借り物の魔力って。この魔力は女神様に完全回収されるらしくてね? 勇者達は死に損なんだよ。平定後も魔力は回収される。だから最後まで生き延びたければ経験を積み、レベルアップして、なおかつ魔力操作を覚える事にあるの」

「うそ・・・」

「ホントだよ。この事実は国王のみが知ってるの。王太子は知らずに勝手な事をしてるだけで国王は・・・お母様が現れた事で穴蔵(あなぐら)で毎日震えてるらしいよ? 逃げても無駄なのにね? そのうえ、平定とは名ばかりの戦争継続を望み・・・本当の目的は」

「も、目的は?」

「他国の滅亡」

「!?」

「増えすぎた人族を勇者達によって滅ぼして、放出された魔力を蓄える事にあるの。その魔力は何に使うかと言えば二組から十四組が呼び出された北極への侵攻にあるそうだよ」

「え? 他の組も召喚されたの?」

「うん。ただね? あちらの人族達は勇者達を洗脳して、スキルの宿る肉体を奪う事に尽力しているらしいよ?」

「!!?」

「どっちの人族も度し難い強欲さだけど、お母様曰く・・・北極はひとまず片付いたそうだから、次はこちらの片付けを行うそうだよ」

「お、お母様って何者?」

「女神様の御遣いという立場だね? 異世界風に言うと死神が判りやすいかな? 女神が消せと命じた者を一通り殺す事にあるから。稀に救う者も居るから怒りを買わない事が延命ルートだね? (すで)に三人ほど勇者だった者がこの世から魂ごと消えてるけど」

「じゃ、じゃあマキナは?」

「私? 死神見習い。実際には全盛期の・・・おっと、今のお母様と似た事は出来るかな?」


 全盛期とか失礼ね?

 危うく大量の魔力を送りそうになったわ。

 マキナも気配に気づいて言い直したが。

 私とシオンはマキナ達の会話をテント外で聞きつつ──、


「神罰代行者を死神とした例えは上出来ね?」

「マキナも〈生死を(つかさど)る〉から立場上は私達と同じなんだけどね・・・あ!?」


 自分達に存在する概念を軽く流した。

 その所為(せい)かアインス達が『なに〜ぃ!?』叫びながら、この場に顕れた。


「どういう事なの! 聞いてないんだけど!」

「姉上と頻繁に言っててそこは知らないの?」

「性質までは聞いてません!」

 

 それは言ってないし、言う必要もないし。

 ともあれ、マキナの講習は朝まで続いた。

 その間の私達は顕現した七女神からの質問攻めに遭いタジタジであった。


「〈転生の(うず)〉の代替者が遊んでるからこの地に呼ぶってそういう事なの? シオンだけだと不十分だから?」

「「!?」」





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