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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第五章・異世界殺戮紀行。

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第101話 娘の思いに感化された吸血姫。


「ひぃふぅみぃ・・・全部で三十()か」


 私は一人で野営地を離れ森林地帯を颯爽(さっそう)と駆け抜ける。途中で盗賊団の斥候(せっこう)(ほふ)り、野営地周囲に陣取る人族達を魔物を狩るようにジワジワと追い詰め、残党を〈遠視〉と〈鑑定〉で把握し、隠れ潜む穴蔵(あなぐら)前にてユックリと歩み寄る。


「ここに隠れているのね・・・?」

「な、なんだ? お(かしら)! 野営地の上玉が現れました!!」

「なに!? 直ぐに隷属(れいぞく)させろ!」


 相手は私の姿を見るや否や勝てると踏んで、隷属(れいぞく)魔法を行使する。

 だが、私の得物が見えてないのか、誰も彼も視線を手元に向けていなかった。私は自身に向けられる魔力を見るや、大太刀で切り裂いた。


「汚い魔力ね・・・ふん!」

「な!? 魔法を切り裂いただと!? あれは魔剣か!?」

「魔剣でしょうな。あれを奪えば一山築けるのでは?」

「そうだな!! 者共奪え!! 今すぐ奪ってしまえ!」


 だが、私の大太刀を見てなにを思ったのか魔剣という。実際には魔刀でも魔剣でもないただの大太刀なのだが。単に高密度魔力を(まと)わせているだけで、魔力消費の激しいこの地上界では薄い魔力など紙くずに等しいのだ。


「自殺志願者乙。世界のための(いしずえ)となりなさい!」

「「「!!?」」」


 私は無駄に刃こぼれさせるのも性に合わないので、周囲の盗賊達を相手に魔力還元陣を行使した。それは途中で(ほふ)った斥候(せっこう)の遺体やら、今なお野営地に近づこうとする悪意ある人族達をこの手で魂ごと(いただ)きながら実行したのだ。




  §




 カノンが盗賊団の討伐に向かった直後の野営地では周囲を警戒しつつも待機していた人員達が〈遠視〉でカノンの様子を見守っていた。

 今はユーコとフーコ、ハルミとサーヤ、マキナだけが外で待機し、他の者達はトレーラー内で夕食を(いただ)いているようだ。


「あらら〜。すごい速度で斥候(せっこう)をバラバラに刻んだ〜、流石はお母様!!」

「〈遠視〉でも視認できない速さってなに!? 私達とカノンの差ってどれだけあるの?」

「サーヤの疑問は理解出来るけど・・・私のレベルが288だから、私より52は上だったはずだよ? なんか先日の依頼のあとに急上昇したって言ってたから」

「288から52・・・340だよね? ハルミ?」

「世界最強じゃん。パッと見は子女という(てい)があるから弱そうに見えるけど」

「その実、隠し持った技量と脚力があるからね〜。私でさえまだ勝てないと思うもの〜」

「も、もしかしてだけど、娘に追い抜かれないため?」

「う〜ん? 無きにしも非ず?」


 それは絶句する一同とあっけらかんな娘との対比であった。その直後、カノンの標的が盗賊団の残党に向けられた。


「あ、周囲は片付いたみたい。お母様も残党討伐に移行したみたいだね〜」


 しかし、この場には盗賊団とは別の勢力が囲っていたようでマキナを除く一同は警戒する。


「でも・・・他にもまた涌いてない? サーヤ」

「一体どれだけ隠れてるんだか? フーコ、判る?」

「見た限り、奴隷商の方だね〜。ね? ユーコ」

「飛んで火に入る夏の虫というか・・・自殺志願者乙って感じね?」

「まぁ放置すればいいでしょ? お母様が私達の空間に・・・ね?」

「あ! 多重結界を張った? 外側は魔法障壁?」

「そうみたい。魔法障壁と積層結界、時間遅延結界と時間停止結界の複合結界だね〜」

「時空系の大盤振る舞い・・・という事は?」

「魔力還元陣を使うみたい・・・周囲の自殺志願者を相手に〈無色(むしき)魔力糸(まりょくし)〉を伸ばしてるし」

「「いいなぁ〜」」


 途中よりお食事会の様相(ようそう)に変わり、ユーコ達は(よだれ)を垂らしそうな雰囲気であった。彼女達の警戒の意味が別物に変化したが・・・つまりはそういう事らしい。

 一方、マキナは母親との差が縮まるどころか開く事に脅威とは思っておらず、むしろ嬉しそうな表情で語っていた。


「味はともかく、この世界の人族達って経験値を無駄に蓄えてるよね?」

「確かに」×4

「でも、レベルの概念は存在するのに見なかった事にして経験値だけを蓄えてるの。それって結局のところ鑑定魔法での経験値統合・・・レベルに反映させる方法を知らないから放置してるって事でしょう? 鑑定魔法も初級・中級・上級とあるけど、大概は簡単な魔法だし、意識下で経験値統合を念じれば反映出来るのだもの」

「うん。上界はともかく、下界はそうだね? ユーコ?」

「ええ。こちらは魔力ありきだからね? レベルが低くとも魔力が多いとかザラだし」

「でもさ? 今から教える意味で(とら)えると、すごく美味しくなると思わない?」

「どういう事?」×4

「反映させない経験値って、頂いても問題ないという事でしょう? レベルアップさせるならまだしも、貯めるだけ貯めてなにに使うんだって事だから。普通ならレベルアップと共に魔力量と出力上限値も増えるけど、その概念すら無視してるんだよ? 魔力ありきなのに魔力と出力量が増える方法を(ないがし)ろにしてるなら、お母様みたく頂いても構わないって事にならない? 実際に私も帝国戦でレベルアップしたし、自身の苦労より他人の苦労でメシウマならどっちがいいと思う?」

「!!?」×4

「もし、お母様自身が同じ考えで行ってるとしたら・・・」

「・・・ということは・・・」

「うん。またレベルアップするんじゃない? 340から上にさ?」

「こ、今度から経験値も食べようか?」

「うん。死滅させる時に無駄になるなら、私達の糧としないと」

「レベルアップすれば魔力量も増えるし、魔力操作の向上にも繋がるし、一石二鳥よね?」

「一石三鳥とか四鳥とかもイケると思う」

「ね? 美味しいでしょう? 風味という意味ではないけど」

「うん!」×4


 そして、人族が無駄にする経験値を生かす手段を知ったようだ。なお、経験値を(いただ)く事が出来るのはカノンの眷属(けんぞく)のみだったが。

 ともあれ、この瞬間・・・この国に()くう奴隷商の一角が消え失せた。危険な者達に手出しして有無を言わせず消されれば世話ない話であろう。

 その後はユーコとフーコ、ハルミとサーヤも夕食に移動し、マキナだけが外で待機した。

 母親を待つ子供・・・そんな雰囲気を醸し出しながら。否、実の娘だから間違いないが。

 すると、狩りを終えたカノンが満足気に戻ってきた。その左手には首輪が付けられたローブをズルズルと引っ張りながら。


「狩った狩った〜、大満足ね。それと穴蔵(あなぐら)の中で、これも拾ったわ〜」


 カノンは大満足なまま、左手に持ったローブをドサッと地面に投げつける。ローブはその時点で破れ、全裸の中身が(あら)わとなった。

 中身を見たマキナは驚き過ぎて声を荒げた。


「水着!?」

「ええ。水喜(ミズキ)がなんでか知らないけど、穴蔵(あなぐら)に居たのよ」

「い、一体どういう事?」

「詳細は後で語るわ。とりあえず首輪を外して(くま)なく洗ってあげる事ね? 脚に粗相した形跡があるから。それと首の粒魔石は戻ってくる前に除去済みだから安心していいわ。現物は魔導士長の片玉の中にキメラ要素を追加したから」

「次はキメラアンデッドに変わるの? 片玉?」

「下半身が別の動物に変わるって事よ。それよりも先に夕食を食べたいわね」


 カノンはマキナの質問に対し、あっけらかんと答えるだけだった。嫌悪の象徴は取り払い、送りつけている時点で相当のものだが。


「う、うん。とりあえず水着は後でいいかな? 結界は維持するんだよね?」

「ええ。しばらくはこのままね。誰も外に居ないんじゃ警戒もなにもないからね?」


 たしかに警戒する意味はないだろう。

 人員の全てが夕食に向かったのなら。

 この場には最強の親子が居るだけだ。


「それと、経験値が無駄に貯まったから、マキナにもお裾分けしておいたわ」

「ふぇ? お母様? い、いつの間に?」

「ん? この子を拾った後で? 多分、300には上がってると思うわよ?」

「え? ホントだ・・・増えてる。ありがとうございます! お母様!!」

「愛娘のためだもの〜。さ? 夕食に向かいましょう?」

「はい!」


 こうして、カノンとマキナもトレーラーへと入り、夕食を共にした。車外に素っ裸の古柳水喜(コヤナギミズキ)を放置したまま。




  §




 夕食を終えた私は一旦外に出て、マキナとナギサに対して拾い物に関する事情を語る。

 一応、テントを用意して清浄魔法で浄め、素っ裸のまま簡易ベッドに寝かせてはいるが。


「というわけね。盗賊団・・・いえ、奴隷商の記憶から読み出せたのはそれくらいだったわ」

「酷い・・・使い物にならないからって売りに出すなんて」

「それが人族国家の手口なのでしょう。それと恐らく・・・」

「ええ。一網打尽という事でしょうね? あの奴隷商も国家を相手にあくどい事をしてたから本拠地に戻り次第、遠隔発動で水喜(ミズキ)の肉体毎破壊する予定だったのでしょうね? 勇者として最後の仕事を与える名目で」

「それなんて人間爆弾では?」

「この世界に、その概念があるとは言い難いですが、似たようなものでしょうね」


 マキナは終始嫌悪感を(にじ)ませ私の考察に問い掛けた。ナギサも嫌悪感こそあるが、冷静さを保ちながら応じていた。

 私もマキナに応じつつ今後を話し合う。


「丸っきりそういう物でしょうね? 今はこの子も眠ってるけど、このまま解放すると再度なにかされる恐れもあるから・・・どうする?」

「私に聞くの?」

「水着ってアダ名つけたのマキナだって聞いたけど? 他の面々は呼んでないらしいし」

「まぁ、うん、そうだけど」

「それに以前救ったのはマキナでしょう?」

「う、うん。本人は自力で泳ぎ切ったと思ってるけどね?」


 理由としては至極単純。

 本人の知らぬ間にマキナが泳いで助けた。

 亀の甲より年の功ともいうが、マキナ自身にも〈変化(へんげ)〉スキルが元々備わっているため、救う時には創作上の生き物である人魚として泳いだという。この世界には元々居る種族だが。すると、ナギサが思い出しながらマキナに問い掛ける。

 

「確か林間学校の時でしたか?」

「ええ。一組だけは海だったから・・・興奮し過ぎた彼女が嵐にドーンと」

二組以降()は山だったから、その時の事は知らないのよね」


 それは、私も知らない事実の一端(いったん)である。元々進学クラスという者は特別視された結果なのだ。

 修学旅行も他は教会巡りを行ったのに対し一組は豪華なホテルで勉強会だったそうだから。

 それだけ選ばれた者という面があれば気狂いする者が居ても不思議ではないが。

 但し、可愛らしいマキナは除く。


「このまま寝かし続けてもあれだし、死んだわけでもないから、対処に困ってるのよね?」

「でも結構ギリギリですよね? HPを見る限り二から一の量で生き延びてますが」

「昨日救い出されて弱音が伝わって直ぐに売りに出したとして、飲まず食わずを一日中・・・この世界は一日が四十八時間だから実質二日間、水も食料も与えられずという事でしょうね? 脱水症状となっても不思議ではないし、それでも下から漏れるから」

「いつ死んでもおかしくないという事?」


 私はナギサには伝えてなかったが事だが、マキナが不安気な顔で私を見続けるので、マキナ自身に(ほどこ)した(くさび)の一つを解放した。


「ええ。だから、マキナが親になるって手も、あるんじゃないか・・・ってね?」


 これは純粋に人を救いたいという感情の表れを私が感じたため行った措置だ。シオン自身も感じたから解放に至ったともいうが。


「私が!?」

「マキナさんは眷属(けんぞく)では?」

「実を言うとね? マキナにとっては眷属(けんぞく)とは建前に過ぎないの。この子は分裂前の私とシオンから産まれた・・・血と肉を分けた本当の意味の娘でね。だから真祖の子として同じ基礎能力を持っていても不思議ではないの。それはマキナ自身も知っている事で・・・私達に願って制限を与えていたのよ。反旗は(ひるがえ)したくないっていう、娘のままで居たいっていう甘えん坊な女の子としてね? でも、ギリギリで生きた人族を救う場合、私とシオンのように、歪な存在では手に負えなくてね。私達の場合は一度死ねば再誕可能なのよ。そういう意味で私も万能ではないって事ね? 一応、分離体という方法もあるけど、あれは魂を抜くか薄い魂でないと正常に混ざらないから」


 若干自嘲めいた表情になったが実際に私達でも難しいのだ。リンスの時のように元々が同族なら救う事も可能だった。

 ただ、同族以外を救うには私とシオンの血を飲ませるしか方法が無い。それも同じタイミングで同量という制限付きだ。

 しかも、失敗すれば歪な魔物へと変じるため、私はこの方法を好まないでいた。

 それは過去、シオンが行方不明となった直後にマキナと共に救った者も居たが、その時に事実を知ってマキナに急ぎ滅して貰った。

 それと以前〈人族なら確実に眷属(けんぞく)化する〉と言ったが、これは〈眷属(けんぞく)化する〉だけで姿形は人ではなくなるのだ。それは・・・私達が(つかさど)る概念が異なるからそうなるのだ。


 カノン()は生を(つかさど)る。

 シオン()は死を(つかさど)る。


 両者の血を飲ませねば、人格と理性、姿を維持出来ない。この世界の吸血鬼族はシオンの因子を持った同族が最初から生まれただけであり人族から転化したわけではない。

 この点は私よりもアインス達が詳しいので割愛するが、最初から種族として生まれた者である事から私の血だけでリンスが救い出せた。

 従来であれば片方のみの分け与えは不可だ。

 その時に思い知ったから人族へと血液を分け与える(すべ)を私は極力拒絶する。

 これは分離体でも同様で、与えられる側の魂が濃いまま分け与えると〈生の概念〉で細胞が増え続けるため形状維持が出来なくなるのだ。そこにシオンの〈死の概念〉があって初めて不必要な変化が起きないという理屈である。私達の概念を例えるなら骨芽細胞と破骨細胞といえば理解は容易いだろう。

 ナギサは私の表情から心情を汲み取ってくれたようだ。


「なるほど。そういう事でしたか」

「・・・でも、いいの?」

「母親が良いって言ってるの。制限の部分解除も済ませたから、変わってるはずよ?」

「え? あぁ・・・ホントだ。眷属枠が増えてる」

「今回解除したのは眷属(けんぞく)化だけの項目ね? 私達との同列は流石にマキナも早いと思ってるみたいだから、私との眷属(けんぞく)関係は残してるから。それに再誕させるにはあの人(・・・)の完全解除が必要だから、この場では出来ないしね?」

「お婆さまですか?」

「そういう事ね・・・それじゃあ、サッサと終わらせるわよ!」

「はい!」


 という事で、この場でサッサと古柳水喜(コヤナギミズキ)の吸血鬼化が実行された。

 マキナは左手を(きば)で傷つけ、寝かせた古柳水喜(コヤナギミズキ)の口を開き、流血を飲ませた。直後、古柳水喜(コヤナギミズキ)の黒髪ロングが銀髪ロングに変化し、まぶたを閉じてて見えないが、瞳も碧瞳へと変わっただろう。

 そして、Cカップの胸がボワンとEカップの胸に育ちプルプルと揺れていた。

 しかしこの後・・・更に驚く変化をみせた。

 それはナギサですら苦笑する驚きの変化だった。


「骨盤が大きくなってない?」

「うそぉ!? 子供体型から変わった!?」

「マキナの因子ゆえかしら?」

「お母様も因子ゆえでしょう?」

「いえ、これはどちらの因子も影響してるでしょうね?」


 こうして古柳水喜(コヤナギミズキ)は眠っている間に吸血鬼族へと変じた。今はまだ起きないので、私がマキナ経由で念話完全防御結界を魂に与え勇者には死亡認定を送りつけた。

 マキナの眷属(けんぞく)となったのだもの。

 不死者として再誕したも同然よね?

 ちなみにレベルはマキナの願いから、プラス86を足した98で私が複製しておいた。

 属性・スキル・耐性自体はマキナと同等だが、元々持っていたスキルも残っているため、そこそこ使える者となるだろう。

 嵐に飛び込む罰は残しておいたが。

 本人の意思はこの後聞くが、マキナとは仲が良かったみたいだし、なんとかなるでしょう?

 今は全裸のままなので私は静かにタオルを被せておいた。





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