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隠形吸血姫、クラス転移で勇者達の敵になる?〜いえ、戦力差が過ぎるので私は旅に出ます!〜  作者: 白ゐ眠子
第五章・異世界殺戮紀行。

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第100話 血の匂いに感化された吸血姫。


 そして夕方。カノン達が早朝に上陸した砂浜では問題の剥奪者が一人で彷徨(さまよ)っていた。


「酷い目にあった・・・ん? この模様は? !? タ、タイヤ痕だと!? な、なんで、こんな物がこの砂浜に!? この太さと大きさは・・・オフロードか? いや、見た事のない形状だ・・・これはなんの意図で?」


 すると、ここでカノンの置き土産が見つかり、剥奪者は大興奮となった。

 一方、その様子を見ていた近衛兵達は──、


「勇者様が砂浜でベッタリ張り付いてるぞ?」

「頭がついにイカれたか?」

「イヤイヤあれは元からイカれてるって」

「そういや、鉄の馬車を用意するとか言って全然開発が進んでないらしいな? 鉄鉱石を集めるだけ集めたのに製鉄技術の知識すら無いから言葉であーだこーだ文句言うって技術屋が(なげ)いてるって話だぞ」

「だいたい、ドークツだかなんだかの素材はないのかとか騒いでるが、そんな素材あるわけないだろ?」

「殿下が言うには妄言だから気にするなだとさ。今はとりあえず集めるだけ集めて武器に使えって言ってるしな」

「それじゃあなにか? アレの言ってる事案って」

「完全無視だ。集める権限だけ使わせて実質我が国の戦力増強にしか使われてないからな。大体使えるかどうかも判らん代物に金を注げるわけがないだろ?」


 イライラの宿る表情のまま砂浜に張り付く剥奪者への罵詈雑言を行う始末である。

 なお「ドークツだかなんだか」という言葉はコークスの事だと思うが、彼が欲している物はボーキサイトで俗に言うアルミニウムを求めているようだ。

 一応、その手の素材もあるにはあるが、この国では絶対に手に入らない素材のため、この国内で集める事は確実に不可能である。

 唯一手に入れる事の出来る場所は全浮遊大陸のみであり、カノンも依頼の(かたわ)ら未開大陸の開拓で拾ってきたらしい。

 各車輌の一部にそれを利用しているから。

 すると砂浜で謎の決意をした剥奪者は叫ぶ。


「この痕を今すぐ追うぞ!」

「は? 勇者様、視察が先ですのでそれは後日と致しましょう」

「そんな事では雨で流れてしまうじゃないか!?」

「知りませんよ。そんな事・・・先方がお待ちです。移動を再開しますよ」

「ちょ!? 俺、勇者だぞ!!」

「はいはい。勇者様行きますよ〜」

「お、おい! 俺の命令が聞けないのか!?」

「特権は一人一つまでです〜。勇者様は(すで)によくわからない命令を下してますので、対応範囲外でーす(棒)」

「なんだと!? そ、それ、それは知らないぞ!?」

「最初に説明しましたよ〜(棒)」


 だが、誰も彼の言い分に対して取り合う事なくズルズルと引っ張って連行した。なお、この言い分は彼の方が正しく、人族の兵達は理路整然と嘘を発しているため、如何(いか)に悪意に満ちているかが判るであろう。

 我が妹神が許すなら、この〈ランイル〉そのものを一度滅ぼしても良いとさえ思えるほどの悪意である・・・否、妹神曰く、この国の王族は消してもいいらしい。

 あとでカノンに指示を出しますか。

 民達を主とする国民国家となす時期が来たという事だろうから。それは不必要な武装を持ち他国を侵略するという内戦を回避するために。




  §




「あら? 女神様から追加がきたわ・・・」


 私は休憩の(かたわ)ら運転席でボーッとしていた。ずっと走り続ける事も出来るのだが、生理現象だけは不死者といえど現れるので定期的にトイレ休憩を行っている。トイレ自体はトレーラーの中にあるため、野原で致さずともよいが、外の空気を吸いたいとする者も中には居るので最低限の自由を与えていた。

 それはともかく、女神様の追加依頼は「〈ランイル〉に滅亡を」との意味不明な言葉であり、私は唯々(ただただ)絶句した。

 意図はなんとなく分かるけどね?

 神罰と関連するかどうかは謎であった。

 一方、外に居る眷属(けんぞく)達はというと──


(もよお)しても外でお尻(さら)さなくて助かったぁ〜」

「サーヤ、言葉選ぼう? 男子達も居るんだよ?」

「でもさ? 勇者だった時って基本外だけだったじゃない? 野郎共はいいよ? 私達は常に外でお尻を(さら)す事が多かったから」

「イヤイヤ、それは判るけどね? マキナもなんか言ってよ?」

「ん? 私は別に恥ずかしくないよ?〈希薄〉してたら判らないし、変に意識して漏らしてもねぇ? 余計な恥を喰らうだけだし漏らして恥か、漏らさず恥かって話だね〜」

「そうだった・・・元々そっち側だったんだ」

「アコを見てる? それはどういう意味かな? ハルミちゃ〜ん?」

「な、なんでもないですよ? ホントだよ?」

「はいはい。そこの元勇者共、下ネタはいいから薬草拾いなさい!」

「「「はーい」」」


 元勇者勢のハルミとサーヤ、マキナがユウカからの説教を食らっていた。

 なんでもこの〈ランイル〉郊外には野生のポーション素材がゴロゴロしているらしい。それをユウカが気づいて採取休憩を提案したのだ。

 あとは・・・あれね?

 車内の空気を入れ換える理由もあるわね?

 清浄魔法ですら取り切れなかった異臭をイライラ顔のフーコが風魔法で拭っているから。

 それは六号車とて同じであり、シロがイライラ顔で清浄化を進めていた。魔物が来てもその場で滅殺している事から魔核を拾い集めるには丁度良いともいうが。

 すると、マキナがなにか思い出したかのように話題を提供した。


「そういえば、水着・・・あれから大人しくなったって」

「水着?」

「サーヤ、多分水喜(ミズキ)の事でしょ? どういう事?」

「先ほどの近衛兵達が話題にしてたんだよ。海中から拾い上げた直後から(だんま)りだって。それで侍女が不審に思って問うたら『勝てなかった』とだけ発したらしくてね? 嵐に負けたのかリリナ達に負けたのか謎だけど、なりを潜める事にはなるんじゃないかな?」

「へぇ〜。水喜(ミズキ)でも反省出来るんだ・・・」

「サーヤ・・・。まぁ水喜(ミズキ)自身も普段は大人しいからね? 嵐の前では血湧き肉躍るという姿に変態するけど、その実・・・」

「哀しいかな。私と同じ良識派だものなぁ。海沿いに連れて行かなければだけど」

「というかさ? あの子って良識を持つだけあって普段の羞恥心も人並みだから」

「あぁ・・・リリナに水着を溶かされて胸とツンツルリンを多くの兵達に見られた・・・か?」

「リリナ様達は羞恥心が皆無だからね・・・人族の羞恥心? なにそれ美味しいの? だから」

「ハルミ? それは流石に本人達に聞こえたら面倒よ?」

「大丈夫だよ、サーヤ? 二人は屋内プールでお休み中だから」


 その話題は海で溺れた勇者の事だった。

 薬草採取しながらの話題としては少々微妙な感じだが、あの水泳バカも良識派と知り、私からすれば(良識とはなんなのか?)という疑問に狩られたが。


 ちなみにカナヅチの宝庫である一組では、この水着と後一人が唯一の水泳部員であり、マキナを除くと大半が泳げないらしい。

 今でこそハルミとサーヤ達も泳ごうと思えば泳げるが、泳ぎたくない事が本音だ。


 前世のリリナを助けた時も命綱を巻いたうえで潜っていたのだから。シロが海中ドボンした時も慌てて転移したそうで〈潜水〉スキルが生えなかった代わりに〈思考加速〉が生えたというから、緊急時に意識をどちらに向けたかが鍵という事なのだろう。


 ハルミとサーヤも大慌てで念話するだけに(とど)(そく)溺れたから〈潜水〉スキルが生えたのだろうが。それはともかく、そうこうしている内に時刻は夕刻となった。

 私は目的地からは少し早いが野営する事にした。現在地は一応、野営地として使われる場所でもあるため丁度良いとも言うが。


「今日はここでそのまま野営するわよ。各員は決められた担当場所で野営準備ね!」

「承知致しました。主様」

「レリィ、各種調理はログハウスで行ってきて。この車内に本格的な調理場は無いから」

「判りました。レイ、ニナ、アンディ、上に行くよ」

「「は〜い」」

「・・・コクリ・・・」


 そう、このキャンピングトレーラー内には紅茶を()れるための簡易キッチンは存在しているが、レリィ達の技量をフルに使うための設備は整っていない。それはキャンピングトレーラー自体の用途が関係しているからだ。

 一つは寝るための場所。

 一つは(くつろ)ぎの場所。

 一つは緊急避難の場所。

 という(てい)で存在しているため、食事を行うダイニングはあっても調理場という大きな空間は用意していないのだ。

 各員に対して指示を飛ばした私はマキナと共に周囲を見回した。


「それと、周囲のゴミ掃除も行わないとね?」

「この地が野営地だから?」

「でしょうね。気づいてた?」

「到着直後に」

「常時嗅覚を維持する必要はないわ。採取時から周囲をウロウロしてたから」

「やっぱり身体狙い?」

「ええ。見るからに奴隷商という感じだから」


 周囲に居た。奴隷商と盗賊団が。

 実はこの場に着いた時から血の匂いが漂っていたのだ。詳細は不明だが、この場が奴らの狩り場だと判る話でもあった。私は他の眷属(けんぞく)達がトレーラー内に居る事を把握しつつマキナと話す。


「マキナは周囲を警戒しつつ、野営地の警備を行って」

「え!? お母様!! ま、まさか?」


 たまには親としての仕事をしないとね?

 愛娘が見てる前で張り切っていいと思うし。

 マキナは私とシオンに似て、とても可愛らしい姿なのだから。忘れてた事は問わないでね?

 一応、ユーコ達と元勇者組、ショウとルイと有翼族(ハーピー)組も待機しているけど。


「ふふっ。愛娘の成長に感化されたのよ〜。私も腕が鈍るから・・・これで片付けてくるわ!」


 私はそう言って新品(・・)の〈黒銀のローブ〉を羽織り、大太刀を抜刀しつつ、この場から飛び出した。呆然と(たたず)むマキナ達を放置して。車内にはシオンも居るし、私が遅れをとるなんて事はないと思うけどね?


「お母様の戦闘狂が顔を出しちゃったかぁ。盗賊団よ・・・南無」

「主様、流石です」

「ユーコ? 相手の原型って残ってるかな?」

「残ってないでしょ? 残るとも思えないし。ドラゴンキラーが人族相手に・・・恐ろしや」

「ドラゴンキラー?」×14

「カノンってさ、大太刀だけでドラゴンを百体以上滅殺してるから。スキル外の抜刀術でね」

「!!?」×13

「ルーの言ってる言葉、まさか、あれはマジだったのか」

「お兄ちゃん、ドンマイ」

「ゴウさん。流石に視界内のスキルは信じましょう?」





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