第81話 メイド長アンの憂鬱 ⑤
倉庫前の廊下。
メイド長が、本館への通路に向かって放ちます。
「えいっ!『綺麗になあれ!』」
たちまち、見える範囲の通路が光り輝きます。
手に持ったペン先からの、光の奔流。
その先に、映ったモノは………………
光が散ったあとに残されたのは、新築同様になった通路。いえ、新築そのものかも?
くたびれた絨毯も、壁紙も、窓枠やヒビの入ったガラスも、切れかかって点滅していた照明も……………………
「……………あの〜、メイド長?」
茫然自失のメイド長に、声をかけたものの、返事がありません。
しかし、驚きです!
私の『お掃除魔法』?よりも、範囲も効果も段違いです。
魔力の大きさの違いが、これ程の効果の違いを生み出すとは!
「……………あの〜、メイド長?」
もう一度、声をかけますが、やはり返事がありません。
どうしましょうか?この状況を!
思案していると、突然、異様な雰囲気を感じました。
何かが来ます。
余りよろしくないことだけは解ります。
刹那、目の前の壁が轟音と共に砕け散りました。
砕けると共に舞い上がった埃が徐々に収まってくると、私達の目の前に異形の何かが蠢いていました。
「っ!メイド長、下がってください!」
とっさに、メイド長の前に出て、その異形の怪物を睨みつけますが恐ろしさに足が震えます。
正直、逃げ出したい気持ちで一杯です。
でも、そうはいきません。メイド長には大恩が有ります。
役立たずの私を見捨てずにいてくれたのですから。
「………メアリー、下がっていなさい。」
気が付くと、メイド長が静かに落ち着いて声をかけられてから私の前に進み出ました。
「あっ、メイド長危ない!」
「……………よくも!よくも許しません、『エイッ!』」
ペン先を魔物に向かって振り下げたメイド長。
信じられない物を見ました。
メイド長には、二度と逆らわないことを心の中で誓いました。
私達の目の前には、砕け散った?異形の怪物が倒れていたのでした。




