第46話 大樹さんの使い魔 しろ様の事情
彼と出会ったのは、私達の群れが森の外れの僅かに開けた地に落ち着いた頃だった。
見たこともない布を纏い、聞いたこともない言葉で話しかけて来た。
敵意は感じられなかったものの、大人たちは近づくことすらしなかった。
怖いもの知らずのまだ子供だった私は、彼、今は大樹と名乗る男の後を着いて歩いた。
すぐに私達の言葉を話し始めた彼は、私を通して大人たちと取引を始めた。
彼の求めたものは、『情報』という私達にはよくわからないものだった。何度か知りたい事を尋ね、価値の有無に関わらず食料や道具を渡してくれた。
収穫の時期を迎えたある日、それは起こった。
明らかに我々の群れとは異なる顔付き身体付きの男たちから襲われたのだ。
戦ったり抵抗した者たちは皆殺され、女は私も幼子も含め犯され連れ去られた。
隙をみて逃げ出せた私は、傷ついた身体を庇いながら歩き続け元の住処に辿り着いた。
そこには、焼け野原だけが残されていた。
絶望した私に声を掛けてきたのが、大樹様だった。
『もし、良ければ、私と一緒に来るか?』
既に選択肢などなかった私は、頷いて大樹様と共に旅をする事になった。
そんなある日、具合の悪くなった私が伏せっていると、大樹様から尋ねられた。
『流行り病で、このままでは助からない。私がお前に名前を付ければまだ旅を続けることが出来る。』
まだ死にたくない。大樹様と共に在りたい。
そう願った私に、
『お前は、たった今から、「しろ」だ!』
と伝えた。
気がつくと、身体が軽い。視界も低くなり何かが変わったのが感じられた。
立ち上がろうとして、身体が変わっているのが解った。私は小動物に変わっていたのだ。
『これで、お前は私の使い魔になった。私が死ぬまで一緒だ。』
………それから、二千年余りが過ぎ、私は猫カフェの主となった。




