第36話 リムジンドライバー兼護衛少女の事情 その1
一番古い記憶は、誰かわからないけど女性に抱きあげられている暖かい記憶。
それ以来、この記憶以上の良い出来事は私には無かった。
気がついたら、孤児院にいた。誰が連れてきたのかどうしてなのかは、私には解らなかった。
もしかして、何らかの記録が有るのかもしれないが、敢えて知ろうとは思わなかった。
連れられてくる直前の、寒くて飢い記憶から比べると、暖かいスープと一枚の毛布が有ることが幸せだったから。
15歳になった時に、孤児院を出る事になった。
私が出ることで、代わりに幼い誰かが入ることが出来るから。
幸いな事に、ある貴族家の下働きの仕事を与えられた。それまでの孤児院からの就職実績としては、破格だったそうだ。
何故かわからないけど、私が指名されたようだ。
掃除洗濯から始まり、一月毎に違う仕事を与えられた。合間に訓練と称してトレーニングと剣技をさせられ、座学一ヶ月なんてこともあった。
勉強は、読み書きは出来たものの、身体を動かすことよりも辛かった。
それでも、何より嬉しかったのは、個室と食事が十分に与えられ、給金まで頂けた事だった。
最初の一年は、給金の大部分を幼い子供達の為に孤児院に送金した。ニ年目に入った頃、送金に気がついた執事長が伯爵様にお話になったようで、同じ金額を孤児院に毎月寄付するから給金は自分の為に使いなさいと、暖かいお言葉を伯爵様から頂いた。
泣いた。初めて、嬉しくて泣いた。
17歳で運転免許を取らせて頂くと、広大な敷地内の送迎が仕事に加わった。
大型のワゴンからリムジンまで、取得した免許で運転出来る車種は全て動かした。
運転に慣れ、ひとりで運転できる資格が取れた頃、外で送迎する為には護衛が出来なければいけないと、武術が訓練に加わった。
運転と武術に自信がついた頃、空港までキャサリン様をお迎えに行くよう指示された。
初めての任務。
帰り道、何があってもキャサリン様とお連れの方を護らなければならない。
護衛に必要な道具を身に纏い、空港の待機場所で連絡を待った。