第16話 魔法陣 その5
「五月には見えるようだが、書き写す事は可能か?」
あ、やっぱり、いいお声だわ〜。
「許可頂けるのでしたら。あと、立体も有るのでその部分に関しては私の絵画センス次第でご満足いただけないかもしれませんが。それなりにお時間はいただきます。私は学生ですので、それに差し支えない範囲でお願いします。あと、全部記憶したので、資料はお持ち帰りいただいて結構です。」
一気に、英語で、言い切った。
予想の範囲内だったので。
伯爵様、ハンサムなお顔が台無しです。
その大きくあいたお口、閉じたほうがよろしくてよ。
隣りでキャシーが頭を抱えながら「ワカッテタツモリダッタケドココマデトハ」などとブツブツつぶやいているようだ。
「封印された部分に関してだが、」
復活した伯爵様が口を開く。
「先程のお言葉を頂いた時点で、許可を頂いたと判断させていただきました。もう、全部記憶しました。」
伯爵様もキャシーも、こんなお顔は二度としないだろうな〜という感じのなんとも言えないような、まるでのっぺらぼうのようなお顔だった。
今度は、復活するのにかなりかかった。
「書き写す用紙についてだが、」
先に復活した伯爵様が尋ねる。
キャシーは、まだ頭を抱えながら何やらブツブツ呟いている。
「どれぐらいのページ数が要る?専用の用紙を準備する。」
「それぞれ、1,000ページくらいかと。」
もう、何を言われても驚かないぞと身構えていたと思われる伯爵様は、なんとも言えないような雰囲気のまま、絶句されたのだった
私は、一番肝心な事を、伯爵様に、伝えなかった。
そう、その、2冊に、それぞれに、なにかが、存在することを。
だって、伝えたら、ここから、帰れなく、なりそうな、予感が、したから。