9.収穫の季節
はい、進化してから1か月が経ちました。
この間私はまた思ってもみない行動を取ってしまわないように、得た能力の訓練を行っていた。あとさらなる強さを得るために森の魔物を狩りまくって、時々火山にも行って戦いを経験していた。
それにより判明したことがいくつかある。
まずは急加速。あれはどうやら魔力を溜めて引き起こすらしい。溜めた魔力をジェットエンジンのように進みたい方向と逆方向に噴射することであの速度を引き出している。最初に犬に対して使用した時は、身体に力を溜めていた。あの時に一緒に魔力も溜めていたみたいだ。かなり速度で移動できるが溜めが必要なのが弱点だ。
次にブレス。こちらも魔力を溜めて引き起こす。球状のエネルギー弾を撃ちだす技だ。ただの魔力の塊ではなく体内で、何か別の属性にでも変換してから放っているらしい。あれから何度か練習して任意で撃てるようになった。ただし、1日に放てるの2発が限界だ。それ以上は撃てる魔力量が在っても疲労で撃てない。威力は私が使える技の中で最強な切り札だ。
総じて魔力の扱いが上手になりできることが増えた感じであろうか。急加速もブレスも何度も練習している内に使用魔力が少なくなり威力も上がっていっているように感じる。このまま練度を上げていけば、もっと速くなったり、撃てる回数が増えたり、違う出し方でブレスを撃てるようになれないかと期待している。
進化をしてから単体で私に勝てる魔物は、火山にいるドラゴンを除いていなくなった。二首犬にだって身体能力のみで勝てる。ただこちらもそれなりにダメージを受けてしまうので、二首犬と戦うときはブレスが使えるなら使う。
厄介なのがまさかのうさぎで、1体1体の強さは大したことなく羽で殴れば死ぬのだが、とにかく数が多い。ぺちぺちしたダメージが積み重なっていき、気付けばそれなりに負傷していることもある。広範囲を攻撃する技が欲しいものだ。1番強いのが数も多く1体1体が強いリザードマンなのは当たり前なのでわざわざ説明しない。
かなりの数の魔物を狩ったから、かなり強くなることができた。進化直後と比べてもその差は明らかだ。力が大きくなったことに併せてまた身体も大きくなった。今は直径80cmくらいだ。以前は羽が増えたりしたが今の所その兆しはない。
しかし私だけがこんなに強くなることができるのは何故だろうか? 他の魔物だってたくさん食事をして他の魔物を狩っているはずだ。にも関わらず私のような成長を遂げている魔物は見ない。これは何故だろうか? うーん、上限値や成長率が低いのだろうか。だとしてそれは何故? 分からないことが多いな。女神が言っていた才能だろうか。そうだったとしたら嬉しいものだ。
私の変化はこれくらいだが、転生してからそれなりの日が過ぎ森の様子も変化を見せた。まず森の中の魔物の数が減った。転生した頃は少し歩けば何かしらの魔物に出会うことができたのに、今は探し回らないと精霊以外の魔物に出会うことができない。
この原因は私だろう。精霊には胃袋がなく食べられる量に限界が無かった。そのため早く強くなろうとした私は自分で獲物を狩れるようになってから、ひたすら狩りに没頭し他の魔物を襲った。おかげで今の強さを得ることができたが、魔物の繁殖が間に合わず自然発生する精霊以外の魔物の数が激減してしまった。
これは素直にやってしまった案件だ。何も考えず魔物を襲っていたら、魔物の供給が足りなくなるなんて思ってもみなかった。それ程の量の魔物を襲っても1回しか進化ができなかったことが残念だ。もうこの場所に留まっても進化は厳しいかもしれない。獲物が少なすぎる。そろそろ他の場所に移動することも考えなければいけない。だがもう少しだけここに留まりたい理由がある。その理由は次で説明する理由も少し関わるのでそこで話す。
別の変化であるが、森の中に木の実がたくさんなった。転生した直後にも木の実はあったが、収穫シーズンになったのか今は大量の木の実がなっている。食べてみたものの相変わらず味もしない上に経験値も少ないので私は興味ないが、他の生物は別だ。魔物が木の実を食べている光景を見かけるようになった。
そしてドワーフ達も木の実を収穫しに降りてきている。これがまだこの地域に残りたい理由だ。木の実を取りにくるドワーフ達は大抵女性で、以前戦っている姿を見たドワーフ達よりも明らかに弱い。おそらく町にいるドワーフが食材確保のために危険を覚悟の上で降りてきているのだろうが、彼女達は私にとってご馳走だ。彼女達を仕留めて食べることができれば、きっとまた進化できるだろう。
ドワーフが木の実を収穫していることに気付いたのが、ここ数日のことなのでまだ襲ってないが、今度見つけたら襲おうと思っていた。今なら例え戦士のドワーフであっても一方的にはやられはしないだろう。戦士でもない女性のドワーフに負けはしないだろう。
そして今私の視線の先には、まさに大人と子供のドワーフが2人いる。関係性は親子だろうか。前世の頃から人の顔の区別は苦手だったので、確信が持てない。ともかくあの親子を襲うことにしよう。
どちらから襲おうか? やはり子供か。子供が負傷すれば親は子を守ろうとする筈。そしたら親が無傷でも移動は遅くなるよな。
いやでも先に親を襲うのも良いかもしれない。子供の頭では咄嗟の出来事に混乱し対処できないまま獲物になってくれるかもしれないな。
しばしの間、どうやって襲うかの計画を考える。結論はすぐに出た。
よし、子供から襲おう。
子供に狙いを定めて、全身に魔力を溜め急加速の準備をする。
1,2,3,GO!!
カウントダウンの後、急加速で接近していく。狙いは一撃で仕留められるように首だ。はっとした顔で親が気付くがもう遅い。庇うことも回避も間に合いはしない。私はそのまま子供の首に噛り付く。
ガキン!
バリン!
固いものにぶつかる感触がして、弾き飛ばされる。首を噛みちぎるはずだった私の歯は何かに阻まれ届かなかった。視界には私の攻撃によって割れたと思われる青い光の結晶が移った。
何だ?
歯が痛い。何に阻まれた。あれは何だ?
疑問が頭に浮かぶ。見たことのないものによって私の攻撃が防がれた。魔法か?
ボッ!!
その直後、子供の服から何かが燃え上がった。札が燃え上がり灰となっていく。そして、その光景だけで先ほどの現象を推測することは簡単だった。
マジックアイテム。魔法が込められた道具か。
そうか危険だもんな。身を守るすべくらい持っていて当然か。
恐らく先ほど私の攻撃を防いだのはマジックアイテムによるものだろう。あの燃え上がった札、あれがそうだ。そして燃えたと言うことは、使用を終えたと言うこと。つまりあの札が何枚あるかは知らないが、無くなるまで攻撃すればいいだけだ。
私は逃げていく親子に向かって再び狙いを定め急加速を使用する。
バリン!
既に見つかっている状況だったので、今度は親によって子供が庇われる。盾が出現し攻撃を割れながらも攻撃を防ぎきる。だがその代償に親の札が燃え上がった。そして庇ったってことは、札は1人1枚しかなかったってことかな? 次の攻撃は防げない。三度子供に狙いを定める。この距離なら急加速を使うまでもない。
私は口を開け子供に襲い掛かった。速度は私の方が速い。もう追いつく。
ドン!!
もう少しで子供に追いつくというまさにその瞬間、横から伸びてきた手によって子供が弾き飛ぼされる。そして空いた隙間に別の影が入り込む。
ガブッ!!
「■ー---!!!」
代わりに私に噛み付かれたのは、親の方だった。
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