7.進化
ガツガツ
はい、現在私食事中です。いやー、ドワーフいいね!
ドワーフの子供だが生きたまま食べられるのは、流石に可愛そうだと思い喉を噛みちぎって止めを刺した。この際、少し皮膚の頑丈さに手間取ってしまい苦しめてしまったのは、悪かったと思っている。私は人殺しに抵抗が無いだけで残酷なことがしたい訳ではないのだ。
が、その後流れ込んできた経験値が莫大だった。一気に強くなったことが実感できる。というか得られた経験値が余りにも膨大だったのかまだ力の吸収が終わっていない。これ程の力が得られたのは、ドワーフの方が格上だったこともあるだろうが、女神の性格を考えると魔物と人間という種族の違いが関係している可能性もある。
あの女神のことだから、命が回りやすいように争いを誘発する仕組みを入れていることだろう。つまり魔物が積極的に人間を襲うような仕組みがこの世界にはある気がする。実際今食べているドワーフの肉もとてもおいしい。精霊以外で初めて味がするものだ。一度この味を知れば、本能に忠実な魔物が人間を積極的に襲うようになっても不思議ではない。
その争いを誘発する仕組みの一つとして経験値に関するものがある気がする。魔物を食べたときよりも人間を食べた方が得られる力が大きくなるとかそんなのが。おそらくこの仕組みは人間側にも適用されているのだろう。
やっぱりあの女神は邪神かもしれない。仕組みとしては凄く興味深いが、女神の世界に産まれ落ちたものは大変だな。私も無関係ではいられないが、今は助かる。この哀れなドワーフのおかげで、うさぎの集団は勿論、二首犬だって倒せるようになるかもしれない。
さらに力を得るべく、ドワーフの肉を食べ進める。止めを刺した時程ではないが、どんどん力が増していくのを感じる。
ウマいウマい。
半分程食べ進めた時のことだった。
「◇●ー-!!」
崖の上から声が聞こえたと思ったら、何かが落下してきた。
「お▼◇子■◎*+¥・!!」
そのまま謎の落下物は、何事か叫んで私に向かって殴りかかってきた。
痛い。
私の食事を邪魔しやがって。
誰だ?
拳がぶつかる直前で、振り向かれる方向と同じ方向に飛び、威力を殺したが痛いものは痛い。以前までの私だったら直撃を受けたであろう攻撃を躱せたことは嬉しいが、ご馳走を食べていたのに邪魔されたことは腹立たしい。
襲撃者を睨みつけその正体を明らかにする。
その正体は大人のドワーフだった。もの凄く怒っている。今にも飛び掛かってきそうだ。
あっ、勝てないなこれは。
判断すると同時に撤退する。子供のドワーフも瀕死だったから食べることができたのだ。大人のドワーフに勝てる訳がない。逃げてばっかりで情けなくなってくるが、生き残ることが最優先。いずれ勝てればいい。逃げることが恥とは思わない。
てっきり追ってくるものと思っていたドワーフだったが、追ってくることはなかった。遠目から様子を伺うと、子供の死体を見て泣いている様子が見えた。
一般人ならこんな光景を見た時どう思うだろうか? 罪悪感で胸が締め付けられるのかもしれない。だが、私は何も思えない。可哀そうだなと声にすることはできる。けれど、心の底から可哀そうに思っている訳ではない。合わせているだけだ。
元より弱肉強食の世界だ。弱いものが死ぬのは自然の節理。私も自然の一部である以上これは適用される。だからこそ強くなろうとしているのだ。それに私は魔物を大量に捕食してきた。中には自分と同じ種族の精霊もいた。私の中でドワーフと魔物の命の価値に差などない。いまさら殺したことに対して何も思いはしない。
……一体、私は誰に対してこんな胸の内を明かしているのだろうか? 初めて人を殺したことに対して実は心のどこかで罪の意識があるのだろうか? 無いと思うんだけどなー。
どうも転生してから、意識が少し変わったような気がする。前はもっと慎重な性格だった気がするしその他にも色々変わった気がする。最近の私は以前からは考えられない程積極的だ。転生でテンションが上がったのかと思っていたが、魔物になった影響かもしれない。前は考えても実行できなかったことも、今は躊躇無く実行できる。
悪い気はしていない。自分を構成する確かな核はそのままであることが確信できるし、新しい自分になれるのは楽しみでもある。
ふぁーあ
難しいことを考えていたからか大きなあくびが出る。何だか眠くなってきた。
ん、眠い? おかしいな。
転生してから眠ったことなど意識を失った時のみである。なのに急に眠気が襲ってきた。これはおおかしい。私の身体に一体何が起きているのだろうか。意識と魔力を集中させ身体の内を探る。
う、うーん。
こ、これは身体が作り変えられている?
体内を探ると、高濃度の魔力の塊が渦巻いているのが見つかった。その魔力の渦によって身体が作り変えられていくような感じがする。
これはいわゆる進化ってやつかな?
今までの身体の変化は成長だったのか。
前世で読んだ魔物転生ものは進化していくことで強くなっていった。積み重なった経験値によって私にもその機会が訪れようとしているのかもしれない。
しかし、身体の巨大化はともかく羽が増えていたから、既に進化したと思っていたのに違ったらしい。どこまでが成長に分類されるのであろうか?
そんなことよりもなんか気分が悪くなってきた。思っていたよりも進化の際の感じが気持ち悪い。車に酔った時のような気分だ。眠気も急加速していく。
や、ヤバい。
無防備な状態で寝るのだけはヤバい。
どこかに隠れなければ。
そう思うものの眠気によって上手く飛行することもできない。遠くに行くことも隠れ場所を探す時間もない。眠ってしまえば私は無防備だ。せっかく進化するというのにその最中に食べられてしまうかもしれない。そんな悲しいことは避けたい。だから、どこかに隠れなければいけない。
しかし、突発的に発生した事態だ。事前に用意でもしていない限りそうそう絶好の隠れ場所など見つかる訳がない。悪運の強さに期待してみたが、運は答えてくれなかった。
私は仕方なく近くにあった茂みに身体を突っ込ませて無理やり隠れた。
そして、隠れた直後についに眠気に耐えきれなくなりそのまま意識を失ってしまった。
一応異世界言語の文字数だけは、現実と揃えているので何言っているかは予測できるようにしてます。
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