6.boy meets monster
痛っ!!
全身を襲う痛みで目が覚める。と、同時に意識を失う前に襲われていたことを思い出す。急いで辺りを見渡すと、周辺が薄暗いことに気付いた。襲撃してきた魔物達の姿も見えない。
ここは……?
奴らはどこに?
疑問が湧き上がる中、自分の置かれた状況を把握しようと飛び上ろうとした。
っ!!
痛い!
だが、全身を襲う痛みのせいで、上手く飛び上がることができない。いや、飛ぶこと自体はできるのだが、よく見ると羽が1枚丸焦げになっておりバランスを取ることが難しい。そのうえ、飛んでいる間ずっと激痛が続く。
結局私は飛行を諦めて地面に降り立つ他なかった。
痛い。この怪我治るよな?
回復魔法とかは使えないけど、薬草とかどこかに無いかな?
無いよな、知ってる。
あまりの痛みに耐えかねて自問自答をしてしまう。この怪我は放っておいてもすぐ死ぬことは無さそうだが、回復魔法や薬草が使えない今、自己回復力に任せる他ない。おまけに今は、痛みのせいで集中できず気配を探ることもできない。あまりの状況下に心細くなってしまう。
しばらくすると目が慣れてきたのか、起きた直後よりも周辺の様子が見えるようになった。……目が無いのに、目が慣れるとは不思議な表現だ。
見えてきた景色によると、ここには天井があるらしい。周辺は全て岩や石で構成されており、洞窟かどこかにいるみたいだ。おそらく火の玉の直撃を受けた勢いで、弾き飛ばされて入ったのだろう。周辺には襲撃してきた火の玉やリザードマンは勿論、他の魔物の姿も見えない。
あんなに執拗に私を追ってきていた火の玉とリザードマンが、ここには追ってこなかったことが気にかかる。しかし、私は今重症で上手く動くことができない。このまま外に出ても今度こそ食べられてしまっておしまいだろう。休めるものなら休みたい。ここが今だけでも安全ならぜひ休ませて貰おう。
こうして私は、洞窟の中で傷を癒すことにした。
そうして早3日、、うん多分3日くらいが経った。洞窟の中が暗くて、光がほんの少ししか届かないおかげで経過時間が上手く分からないが、体感と微かに入ってくる光から判断して3日が経った。
私の怪我は完全回復していた。この間全く魔物に襲われることはなく、少し拍子抜けしたが何事もなくて助かった。魔力で身体が構成されている魔物だからか、丸焦げになった翼も魔力を集めると完全に復元された。魔力を集めることは、怪我している間動けなくて暇だったから色々試している内にできるようになった。
感覚として深呼吸に近い。魔力を集めることで自然治癒力を高めることができた。しかし、一気に回復する感じではないので致命傷には使えないだろう。油断はできない。
そして怪我が回復して気配が探れるようになってから、何故あんなに執拗に追跡してきた魔物達がこの洞窟に入らなかったのか分かるようになった。
……洞窟の奥からとんでもない気配を感じる。これまで遭遇してきた魔物達とは比べ物にならない気配だ。この火山の主かもしれない。こんな気配を漂わせている場所なら危険を察知する力の強そうな魔物が近付いてこない訳だ。
気になる。凄く気になる。この奥にどんな魔物がいるのかが凄く気になってしまう。頭の冷静な部分は、絶対に止めておけと警鐘を鳴らしているが好奇心を抑えることができない。
一目見るだけ、一目だけ。
私は自分自身にそう言い訳し、洞窟の奥に進んでいった。
洞窟の奥には、途中段差があり降りる箇所があったがそのまま真っすぐ進んでいったら辿り着くことができた。最奥部には広い空間があり天井はなく空が広がっていた。そして、空間の真ん中には巨大なドラゴンが鎮座していた。
どうやら眠っているようだ。姿は、西洋の竜のイメージに近く4本足でしっかりした体格をしている。洞窟の通路は通れないサイズなので、上空から出入りを行っているのだろう。
改めて目にすると、とんでもない迫力だ。絶対強者のような貫禄を感じる。魔物は倒した方が経験値が手に入るが、食べることでも経験値は手に入る。これ程の魔物ならば、食べるだけでもそれまでとは比べ物にならない力が手に入りそうだ。
とドラゴンをしばし観察していた私だったが、不意にドラゴンと目が合った。……そう目が合った。
起きてる。
先ほどまで確かに寝ていたドラゴンだが、原因は分からないが起きてしまった。そして、ドラゴンはこちらを見つめると口を開けて力を溜め始めた。
嘘だろ、嘘でしょ!
ちょっと待って、ドラゴンさん。
それブレスですよね、弱小の私に撃つものではなくないですか!!
ごめんなさい!!
誰がどう見ても分かるブレスの準備を始めるのを見て、急いで洞窟に逃げる。そしてそのまま洞窟から抜け出す勢いで飛行を続ける。あんなドラゴンのブレスなんてオーバーキルにも程がある。食らってしまえば文字通り消し炭も残らないだろう。
ドッ!!
後方で音がして、何かとてつもない気配が迫ってくる。確認する余裕はないが、ブレスで間違いないだろう。全力で飛行しているにも関わらず、徐々に距離が詰められる。火山にいても平気だった身体がブレスが近付くだけで焼けていく。飛んでもない熱量だ。
ヤバい、ヤバい!!
最近こんなのばっかりだけど、ぶっちぎりでヤバい!!
ブレスはそれなりに広い攻撃範囲らしく洞窟の天井付近を飛んでいても、余裕で被弾することが分かる。もうブレスとの距離は30cmもない。終わったかもしれない、そう諦めかけた瞬間、突如天井が開け目の前には壁が出現した。
うわっ!!
いきなりことで驚いたものの、すぐに上へ移動する。その直後、私の真下をブレスが通過していった。
どうやらここは、洞窟の中で唯一段差があった部分らしい。天井付近を飛んでいたおかげで、開けたことに気付いたから助かったものの別の場所を飛んでいたら、目の前に現れた壁に絶望しそのままブレスの餌食になっていたかもしれない。
その後は何事もなく、洞窟の出口に辿り着くことができた。一応気配を探って出口でドラゴンが待ち構えていないかも確認したが、いなかったためそのまま出口を出た。洞窟の方を振り返れば私が入ってきたであろう入口とは別の入口が新たに増えていた。
どうやら私に撃たれたブレスはあのまま壁を溶かして突き進み、外にまで到達したらしい。ドロドロに溶けた石がしたり落ちている。
ブレスの威力に改めて驚愕した私は、危険がいっぱいな火山地帯からすぐさま撤退した。
しかし全然力が足りなかったな。やはりしばらく精霊を食べ続けるしかないのか? でも、以前よりも得られる力の量が減っている感じがするんだよな。
格上や同格の相手を倒した方が効率が良いのか、以前よりも精霊を食べた時に得ることのできる経験値が減っていることを感じる。しかし、格上や同格の相手は狙えない理由があった。
しかし、今の私に狩れる丁度良い獲物っていないんだよな。
完全に勝てない格上か格下しかいない。
弱った獲物に止めだけさせないかな。
ぐっす
ぐっす
そんなことを考えていたら、微かに泣き声が聞こえてきた。タイミングがいい。私は早速泣き声が聞こえてきた方向に向かった。
ぐっす
ぐっす
泣き声は継続的に聞こえてきて位置を探るのは用意だった。
そしてすぐに泣き声の主が見つかった。発見したのは、火山と森の中間にある岩が多い場所だった。泣き声を上げていたのは、ドワーフの子供だ。怪我をしている。特に足の怪我が酷く通常ならばあり得ない方向に両足が曲がっている。あれでは歩けないだろう。血も多く流れており、このままだと血の匂いを嗅ぎつけた魔物に襲われることは想像に難くない。まぁ、魔物に襲われる前に死にそうな感じではあるが。
子供の背後には、切り立った崖がある。高さは30mくらいか。おそらくあそこから落ちたのだと推測できる。
「■◇!!」
ドワーフの子供は、こちらの姿を確認すると同時に悲鳴を漏らした。動けない状態で魔物が現れたのだから、怖くて当たり前か。
しかし、ドワーフの子供ねぇ。ドワーフは子供でも、私は絶対に勝てない程に力の差がある。そんな相手が私でも勝てそうなくらいに弱っている。
これは逃がす手はないな。
前世なら忌避した行為だが、今世の私は魔物。しかも、強さが生存に直結する世界で大いなる力が手に入りそうな獲物が目の前にまるで用意されたのように存在している。取るべき行動は決まっているようなものだ。
恨むなら、崖から落ちた間抜けな己を恨め。
私は、ドワーフの子供に近付いていった。
この辺からちょっと残虐描写が増えるかも。
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