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22.決着

「リーリー!!!」


 ルイングベルが叫んでいるのが聞こえるが、こちらはそれどころではない。

 爆風から投げ出されて岩場に叩きつけられる。


(クソ!! あの女自爆しやがった。信じられない!!

命が大事じゃないのか!? 教育はどうなってやがる!? 命は大事にと学ばなかったのか!?)


 咄嗟に全魔力を防御に回し、何とか生き延びることができたがダメージが大きい。左上半身が消し飛んだ。我ながらよくこれで生きているな、と思う。多分、痛めつけたおかげで魔力が少なかったから、助かったのだろう。あの女の魔力が万全なら吹き飛んでいたな。


 だが、状況は最悪だ。回復するつもりだったのに、むしろ前よりもダメージが大きくなった。

 しかも爆発の範囲はあの女の周囲の僅かな範囲だけだ。ルイングベルには、爆風くらいしか危害がない。直接爆発を浴びた私とはダメージが違い過ぎる。


「クソぉおおおおおおおおおおおおおおおおお、よくもリーリーを。許せん、殺す!!」

(それ、私のせいかー!?)


 ルイングベルが怒り狂って、こちらに突撃してくる。仲間が死んだのが、悲しいのは分かるがその責任の押し付けは止めてほしい。あの女の死は自爆。責任はあの女自身のものだろう。責任転嫁は良くないぞ。


 (流石にこの負傷では勝ち目がないか。ここは引く)

 

 残った翼と浮遊能力で急いで距離を取ろうとするが、負傷のせいか速度が遅い。そんな私と正反対にルイングベルは怒りで身体能力が上がっているのかどんどん距離を詰められてしまう。


「おおおおおおお!!」


 そのまま接近を許してしまい、攻撃が繰り出される。ルイングベルの剛腕から繰り出される一撃は、技名が叫ばれていないことから特に技とかではないようだが充分に脅威だ。

 攻撃の当たった地面が粉々に砕けて小さなクレーターができる。


「おおおおお!!」


 一度接近を許してしまえば、そう簡単に距離を取ることは許されない。ルイングベルは絶え間なく攻撃を繰り出す。その様はまるで竜巻の様だ。

 このまま避け続ければ、そう遠くないうちにルイングベルはスタミナ切れを起こしそうだ。が、こちらが既に重傷を負っている身に対して、ルイングベルも傷を全身に負ってはいるがそのどれもが浅い。そんな状態では、ルイングベルのスタミナ切れの前にこちらがさらにダメージを負うことになりそうだ。


 では、より接近することで却って攻撃させにくくする方法はどうだろうか? それもまた負傷で難しい。加えて攻撃の間隔が狭すぎる。先ほどから接近する隙は、伺っているものの全く見当たらない。つまり――


(これ、詰んだか?)


 そんな考えが頭に浮かぶ。いやしかし本当に詰んでいるかもしれない。今は避け切れているが、段々回避も難しくなってきた。逃走もできない。このまま時間をかけて殺されるしかないのか? 何か反撃の手段は―


「お”っ!?」


 ――不意に地面が揺れた。地震だ。普段ならなんてことのない現象だ。この町に来てからよく観測していた。だが、今このタイミングは不味い。


「貰ったぁ!!」

「ぐがぁ”あ”あ”あ”あ”」


 地面についていた足は、もろに地震の影響を受けた。バランスを崩し産まれた隙を見逃してくれる程ルイングベルは甘くなかった。

 大剣の一振りを胴体にくらい、胴と足が泣き別れになる。人間ならグロ画像になってるな。思わず声も出してしまった。痛みは一周したのか、あまり感じない。


(これは死んだか。あーあ、二度目の人生意外と短かったなぁ。あっ、人生じゃないや)


 左上半身は消し飛び、下半身も消し飛ばされた。もう魔力もあまり存在していない今、完全な身体の再生は行えない。ヤケクソで攻撃を行ってもルイングベルには通じないだろう。つまり詰んだ。


 完全な敗北。それが理解できるからか案外あっさりと諦めがついてしまう。二度目の生だと言うのも関係しているのかもしれない。近付いてくる死を受け入れて、目を閉じる。最期に周囲の景色でも感じ取ろうと、気配探知の応用で周囲の景色を手に取るようにして楽しむ。


(―ん? この気配は―)


*****

<ルイングベル視点>


 ぜぁはぁ、と乱れる息を整える。戦いは終わった。目の前の魔物は瀕死で抵抗してくる気配もない。まだ生きているのが信じられない傷だが、ともあれ完全な勝利だ。後は近付きとどめを刺すだけで良い。だが、達成感は得られなかった。


「リーリー……」


 目の前で死んだ同業者の名前を呟く。フィラティスの町に存在する冒険者は、そのほとんどがルイングベルの弟子のような存在であった。冒険者の基礎をルイングベルから教わり、それぞれの道に向かって進んでいく。ルイングベルは彼らのことが大切であったし、できるだけ平等に接することにしていた。


 だが、贔屓にする者はどうしても出てくる。リーリーもその内の一人だった。子供ができない体質だったルイングベルにとって、自分を慕ってくれるリーリーは孫娘のような存在であった。

 行方不明になった冒険者のリストに名前が載っていた時に死んでいることは覚悟していた。


 けれど、死んでいたと思っていた少女は目の前で人質という形で現れた。歪な形の再会だったが嬉しかった。救えると思った。だが、リーリーはルイングベルの足手まといになることを望まず、自らその人生に幕を下ろした。


 リーリーがその命と共に作ってくれた好機のおかげで、ルイングベルは勝てた。だが、その勝利を喜ぶことはできなかった。リーリーにも共に勝利を味わってほしかった。


「……何か言い残すことはあるか? 殺してきた者たちへの謝罪は?」


 倒れている魔物の側まで歩き愛剣を突き付け問いかける。真龍など一部の高位の魔物であれば喋ることもある。だがゴースト系の魔物が喋ったと言うことは聞いたことがない。


(俺は何をしているのだろうか……)


 ルイングベルは自分でも馬鹿な行動を取っていることを自覚していた。だが、このイレギュラーにイレギュラーを重ねたような魔物なら喋ることができるかもしれないと感じていた。戦闘終了間際に確かに叫び声とは違うような声を発したように感じた。


 目の前の魔物が喋れるなら、聞いておきたかった。今まで殺した冒険者に対しての謝罪を、殺した事に対してどう思っているのかを。


 この時、ルイングベルは戦闘の疲労とリーリーを救えなかったショックで注意力が散漫になっていた。目の前の魔物以外に注意を払っていなかった。―だから気付けなかった。


 倒れ伏す魔物の口が動く。何か発言するのかもしれない、聞き逃さないように耳を立てる。万が一攻撃してきた場合に備え、魔物に対する注意も怠らない。


「ざん”ね”ん」


 聞き終えると同時に、身体に衝撃が走る。身体が燃えるように熱くなり、自分の意志で動かせない。


「はっ?」


 斬られた、そう理解するのに時間はかからなかった。視界が徐々に移動し上半身が崩れ落ちる。意識も急激に失われていく。


(何だ、あいつは――)


 ルイングベルが最期に見た景色は、両断された己の身体といつの間にか背後に立ち自分を切り裂いた鎧の魔物の姿だった。

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