21.人質
(はいはい、人質人質)
ルイングベルに斬り飛ばされた左腕で、事前に捕まえておいた戦士、ルイングベルの発言では冒険者だったか? を拘束する。こちらに気付かせるために、ダメージをあげて大声を出させた。
いやまぁ、正直人質はどうかなぁと思ったから念のために確保しておいただけで、使うつもりではなかった。でもルイングベルによって、用意できた罠は使い尽くしたし私も大ダメージを受けてしまった。
(なら仕方ないよね!)
ルイングベルの大技を魔力障壁で威力を相殺し、急加速で攻撃の軌道から逸れた。進化後はあまり使ったことが無い技で私自身も忘れかけていた技たちだが、窮地の淵に陥り咄嗟に思い出し使用した。おかげで、身体全部が消し飛ぶ所だったが何とか腕一本で済ますことができた。
それだけ努力したにも関わらず続く技で、腹を掻っ捌かれてしまった。
痛ーい。なんて軽く流せない程痛い。
幽霊に内蔵は無いらしく、腸が零れ落ちるなんてグロテスクな事にはならなかった。……食べた物はどうなっているのだろうか? 自分の身体だが、不思議がいっぱいだな。……また話がずれた。
進化してから身体の形をその気になれば、変幻自在に形を変えることもでき、分離させた身体は分身として操れる。それは例え敵に斬られた場合でも同じである。
だから斬られた腕や腹は、後で治せる。そういった点では問題ないんだが、ダメージはしっかりあるんだ。腕を斬られたら、腕を斬られた分は痛い。
つまり私は今大ピンチ。その状態を変えるためなら、見ず知らずの他人の命くらい利用するさ。
「ぐっ……、クソ!!」
ルイングベルが悔しそうに歯がみをする。
思った通りの反応だ。戦う前の口上からルイングベルが同業者想いの優しいやつだということは簡単に予想できた。だからまぁ、人質はよく聞く。特に反応から見てこの人質の女は、知り合いだから尚更だろう。物語を読んでいても、善人ほど人質に取られて苦しんでいるものだ。
(取引は信頼できる相手とだけするべきだと思うんだけどな)
こういう展開を自分で作っておいて何だが、前から疑念があった。
人質を取った悪人の言うことに、正義側の人間は従う選択肢を取ることが多い。それはそうしないと人質の命が危ないからなのだが、よくよく考えると、いやよく考えなくても正義側が要求通りに行動したとしても悪人が約束を守るとは限らない。
約束を反故にされ、人質も正義側も命を落とす可能性だってある。そんな最悪の結果になるよりは、人質を犠牲にしてでも悪人を攻撃し殺した方が良いんじゃないかと思ってしまう。そこで、悪人を殺しておけば、そいつが未来で殺したかもしれない人が確実にいなくなる訳だから悪くはないだろう。……そもそも信頼の出来ない相手と取引はしないべきだし。
(……だが、そう割り切れはしないのだろうな。愚かなのか、何なのか……)
先ほどの勢いそのまま攻撃を続けていれば、もう私を倒せたかもしれないのにルイングベルはこちらへ攻撃できないでいる。上手く喋れない私のこの女の命が惜しければ、大人しくしていろと言うメッセージは伝わっているようで何よりだ。
「おい!! 意味が理解できるかは知らんが告げておく。リーリーを殺せば俺は容赦無くお前を殺すぞ!!」
ルイングベルが警告してくる。が、まぁそれは当たり前の事だろう。人質は生きているから意味があるんだ。死んでいたら意味が無いので、殺すつもりはない。少なくてもルイングベルが生きている内は。
(でもどうしようかな?)
人質で相手の行動を封じることは計画通りだが、ここから先の行動は特に決めていなかった。こちらを攻撃できないルイングベルを一方的に攻撃できれば、それが一番楽だが自分の命が惜しくなって人質を見捨てて攻撃に転じられたら摘みかねない。
となれば一方的な攻撃は避けるべきだろうか? チキンな戦法だが、そうしよう。
ここは、少しでも回復に専念し身体を癒す。そもそも私は、時間稼ぎを稼げればそれで良かったりもするのだ。
移動し人質を取っている左腕と合流する。これでルイングベルは、よりこちらを攻撃しにくくなった。
(そう睨まないでよ)
人質の女がこちらを強く睨んでくる。この女は中々の強さの魔法使いだった。火山の3人組には流石に及ばないが、この町で戦った中では一番の魔法使いだった。魔法が覚えたい私としては、惹かれるものがあった。だから彼女が所属していたパーティーは壊滅させて彼女だけは生け捕りにした。
でも、暴れられても困るので適度に痛めつけ私への攻撃や脱走はできないようにした。それから毎日食料を差し入れ観察していた。観察することで魔法の仕組みを解明しようと思ったのだ。……できなかったが。当然人質としての価値も最初から考えていた。
(うん。恨まれて当然だな)
彼女にした所業を思い返すと、睨まれても文句は言えなかった。反省はしないが、睨むことくらいは許そう。私は器が大きい人でありたいのだ。……今は魔物だった。
ともかく回復だ。魔力は消耗するが、身体のダメージが大きい。傷口が開いたままだと継続ダメージがある。
意識を集中させ、傷口を閉じる。ルイングベルがその様子を舌打ちしながら見てくる。
(ふぅ、これで一先ず大丈夫)
左腕は流石にすぐにはくっつかないので、くっつけることは諦める。新たに生やすのは、魔力の消耗が大きいので避けたい。このまま放置だな。
とそんなことを考えていると、人質の女が喋り始めた。心なしか顔付きが先ほどまでと違って見える。
「ルイングベルさん、いつも私が困っている時には力を貸してくださってありがとうございました。あなたのアドバイスが無ければ私は今日まで生きてこれなかったでしょう。感謝してもし足りません。
この魔物の知性は、想像以上です。野放しにすると、被害はこの町では済みません」
こちらを睨みながら、女性は語り続ける。私も最期の話を邪魔する程無粋ではない。話させてあげようではないか。
「私ごと攻撃してください、と言っても優しい貴方はできませんよね。
だから、こうするしかないんです」
(ん? 少し怪しい流れになってきたな。何する気だ、この女?)
女性の身体の中に魔力が集まっていく。あの生を諦めたような顔、集まる魔力。もう嫌な予感しかしない。急いで拘束を外し、女性の元から距離を取ろうとする。
が、女性から手が伸び信じられない力で掴まれる。
「待て、何をする気だリーリー!」
「勝ってください。
今までありがとうございました。自爆」
瞬間、周囲を閃光が包み込み破壊の嵐が吹き荒れた。
最後の魔法名は皮肉。
最近捜索意欲が沸いて、別の話を2本書いているため執筆ペースが落ちてます。
高評価、ブクマを頂けると作者のモチベが上がります。よろしくお願いします。




