20.おじさん頑張る
「ふんっ!!」
背後から分身による奇襲を仕掛けるも、すげなく躱される。その上、大剣による一撃で分身は粉々に砕け散らされた。これでもう5体目の分身が消された。予め用意していた分身は、後3体しか残っていない。
けれど、分身の犠牲のおかげで僅かに隙はできた。距離を取り手の平に集めた魔力をルイングベルに向かって放つ。これは、進化前に使ったブレスの発展だ。手から出しているため最早ブレスとは呼べなくなり、放出の形も変化させることができるようになり、今はビーム状で攻撃している。
(そらよっと!)
「むっ!?」
攻撃の合間の僅かな隙を突いたため、回避は間に合わない。この技は、威力の調整も可能だがかなりの元々かなりの高威力だ。ブレスから形は変わっても、私の切り札のままだと言える。
当たればいくらフィラティス? の町の最強のルイングベルと言えどただでは済まないだろう。勝負はこちらに一気に傾く。
「おおおおお!!!」
まぁ、当たればだが。
ルイングベルは持っていた大剣を盾にし、こちらの攻撃を防ぎつつ更に接近してきた。
「怒りの……!?」
そのままこちらに技を繰り出そうとしてきたルイングベルだが、そこは仕掛けた落とし穴の場所だ。ルイングベルは技を強制的にキャンセルされ、穴に落ちていった。
ちなみに穴の底には、この辺で捕まえた毒を持っていそうな魔物を大量に入れておいた。今見ると仕掛けた時よりも数は少ないが、この数の魔物だ。落ちれば負傷は免れないだろう。
「天覇っ!!」
だがルイングベルは、落下している途中で技を繰り出してその反動で空を飛んで落とし穴から脱出してきた。ついでと言わんばかりに落とし穴に入れておいた魔物の数も削られた。
「おおっ!!」
荒々しい声を出しながらルイングベルは、とんでもない速度で大剣が振るってくる。太刀筋がこの町に来てから、戦ったやつらと似ているから回避はできるがもし事前知識が無かったらを考えるとぞっとする。
(この爺さん、無茶苦茶するなぁ……)
ルイングベルと戦っている感想は素直にそれだ。どう見てもいい年なのに、本当に無茶苦茶しやがる。力こそパワーみたいな豪快な戦い方だ。それでいて頭も回る。
(本当に戦いにくいなぁ!!)
あまりの苛烈な攻めのせいで近付くことができない。サマーソルトの要領でバク転をしながら、翼で攻撃し強引に距離を取る。
こちらの攻撃も決まるが、決め手に欠ける。長期戦になりそうだ。魔物に転生して得た膨大なスタミナの出番だな。
*****
<ルイングベル視点>
魔物がルイングベルに驚愕している一方で、ルイングベルもまた目の前の魔物に驚愕していた。
(こいつ、ゴースト系の魔物にしては知能が高過ぎる。見た目も通常のゴーストとは違う。やはり変異種か!)
変異種。魔物の中に稀に産まれる突然変異の個体。基本的に通常の個体よりも強く見た目も異なっていることが多い。発生が確認されれば最優先討伐対象となる。過去には通常1体では最下級の強さのゴブリンの変異種によって、ゴブリンの軍団が組織され大勢の被害者が出たこともある。
戦闘開始の岩落としの罠といい、先ほどの落とし穴といいゴーストが使ってくるなど聞いたことがない。報告にあった見た目も聞いたことがないものだった。頭に角があり、翼が生えているゴーストなど長年冒険者を続けてきたルイングベルも見たことが無かった。今回の依頼を受けるに当たって事前に調べても該当する情報は見当たらなかった。
「おおらぁ!!!」
渾身の力を込めて愛剣を振るう。が、その一撃は魔物に当たることはなく、ぎりぎりの所で回避される。ぎりぎりの所で回避されたのは、相手の運が良かったからではない。ルイングベルにはそのことが分かっていた。
(戦闘の時間が長引くに連れて、動きが洗練されていっている。始めに比べ回避に無駄な動きもなく、攻撃の頻度も増えている。
……まずいな、まだ押し切れる今の内に勝負を決めなければ。おそらく被害はこの町に留まらない。多くの町で似た惨劇が起きかねない。刺し違えてでも、ここで確実に討伐する!!)
目の前の魔物の動きからはつたないながらも、武術の心得が感じられる。罠を使う魔物はゴブリンやクモの魔物等いないことはないが、武術を使う魔物はその存在が確認されたことがない。
魔物と人間、いや魔族の間にさえ隔絶した身体能力の差がある。その差を覆し人間や魔族が魔物に勝つための手段が、武術や魔法といった戦闘技術だった。魔物が身体能力に任せて適当に暴れているから人間や魔族は魔物に勝てるのだ。
もし、その戦闘技術を魔物を使うことができたら。ぞっとするものがある。
ルイングベルの知識を以てしても、目の前の魔物の脅威は精確に測ることはできない。しかし、摘んでおかなければならない脅威であることは分かる。そして今は成長の途中であり、未来の脅威を消し去る絶好の機会であることも。
ルイングベルは、この戦いで命を落としてでも目の前の魔物を討伐することを固く決意した。
(ケイ、ヒカリ、ユーレシア、他にもたくさんの未来ある若者と会ってきた。彼らの未来を脅かさせはしない!!)
向かってくる翼での攻撃を避け、愛剣に力を込めて大技の準備をする。魔物も不吉な予兆を感じてか距離を取るが、この技はその程度の距離なら射程範囲。
「くらえ!! 怒りの剣!!」
自分が使える最強の技を繰り出す。剣が飛び出た衝撃波によって目の前にあった大地が割ける。流石に変異種の魔物とはいえ、完全に回避はできなかったらしく腕が片方千切れている。
(攻め時!!)
瞬時に判断し追撃をかける。ゴースト系の魔物は魔力の塊で身体が構成されているため、時間が経つもしくは意図的に失った四肢くらいならば再生することができる。
長時間になってきた戦闘に加え、大技を出したばかりの身体は息切れを始め休息を訴えてくるが、この好機を逃す訳にはいかない。スタミナ勝負となれば、魔物の身体能力に人間は勝てない。御年75のルイングベルには尚更だった。
「ぐっ……、まだまだぁ!!」
片腕を失った魔物は、翼での攻撃を激しくする。刃物のような翼によって、ルイングベルの身体に幾筋かの切り傷が刻まれる。
が、そのどれもが浅い。痛みはあれどルイングベルを止めることなどできない。お返しといわんばかりにルイングベルもそれまで以上に激しく愛剣を振るう。ルイングベルに更に接近し、間合いを潰そうとしていた魔物は、その勢いの前にそれ以上の接近ができない。
どころかその余りの迫力に堪らず、それまでの戦いと同じように距離を取ろうとした。
――その動きこそ、ルイングベルが狙っていたものだとは知らずに。
「大切断っ!!」
愛剣の勢いそのまま周囲を薙ぎ払う。この技も当然斬撃が飛び出るおまけ付きだ。ルイングベルの使う技の中でも比較的発生が早いこの技は、魔物の腹を深く切り裂いた。
「―――っ!!?」
魔物が腹を抑えてうずくまる。致命傷とまではいかないが、勝負の流れはルイングベルに傾いた。魔物が動けない今の内に止めを刺そうと、ルイングベルは己の最大の技を準備する。
「怒りの「あ”あ”あ”ああああああ」……っ!?」
ルイングベルが技を発動する寸前、突如として第三者の声が戦場に響く。突然の出来事を前にルイングベルは技を中断し、目の前の魔物を警戒しつつ声のした方を見る。
「リーリー……?」
そこにあった光景は、死んだと思っていた冒険者の女子が先ほど斬り飛ばした魔物の腕に拘束されている姿だった。
視点を変えたくなるのは悪癖か?
高評価、ブクマを頂けると作者のモチベが上がります。よろしくお願いします。




