2.女神の世界の現状
「まずは私の世界について説明しなければなりません」
女神がようやく転生させる理由について語り始めた。
「私の世界には人間と魔族が暮らしています。しかし、あなたの世界の人間と私の世界の人間は違います。ヒューマン、エルフ、ドワーフなどを総じて私の世界では人間と呼んでいます。動物はいませんが魔物ならいます。似たようなものですから、大した違いではないでしょう。魔法もありますし、あなたたちの世界で言葉で表すならファンタジーな世界です」
「おお! それは楽しそうですね!!」
「はい、期待していてください♪」
転生先の世界がファンタジーだと聞いてやる気が上がる。剣と魔法の世界、命の危険があろうと行けるなら行ってみたいと思っていた世界に行けるのは行幸だ。女神も自分の作った世界に期待され嬉しそうだ。
「あなたがゲームでよく戦いを行っていたように、私も戦いが大好きです。剣や魔法を使って複数の陣営が殺し合い、感情が複雑に交差する、そんな様を見るのが私の趣味なのです。ですから、私の世界で人間と魔族はずっと争い合うに作り、彼らはその通りに殺し合いを続けてきました。感動するような戦いがいくつもありました」
「場合によっては邪神とか呼ばれそうな所業ですね」
目の前の女神は、優しい女神ではないのだろう。争い合う運命を押し付けられた世界の住民たちは、少しばっかり可哀そうだ。しかし、戦争ゲームを作るのと同じような感覚で世界を作っているだろうから、女神を責める気はまるでない。
私だって、ゲームを作るなら戦争や争いのあるバトルものを作る。だから気持ちは分かる気がする。
「しかし、今代の人間の代表と魔族の代表、勇者と魔王は戦いの果てにあろうことか理を破って和平を結びました。人間と魔族は共存を始めてしまったのです」
「ハッピーエンドですね。何か問題が?」
戦争を続けていた2者が手を取り合って共存を始める。並みの物語ならハッピーエンドだ。ただ女神に取ってそれが不満であることは感じ取れる。ジャンルがいきなり変わるようなものだ。自分が作者なら到底納得できないだろう。
「問題大有りです。私の娯楽が減りました。それに加えてあの世界は、魂を循環させてエネルギーにしていました。そのため戦いが終わってしまって失われる命の数が減った結果、世界はエネルギー不足で崩壊の危機に陥っています。既に地震や竜巻といった災害が世界各地で増え始めています。災害に巻き込まれて死ぬ者もいますが、それだけでは足りません。このままでは後数十年もすれば世界は終わるでしょう」
女神から転生先の世界が後数十年で終わると聞かされる。短過ぎる、なんだ戦争し続けなければ数十年で終わる世界って! 欠陥世界じゃないか。しかし、住民にとっては本当に酷い世界だ。争い合わなければ世界ごと終わってしまうなんて。しかも、争う理由は女神の娯楽のため。神とは我儘なものだと思っている私でも同情を禁じ得ない。そんな世界に転生か。……何だが嫌な予感がしてきた。
「あの世界にはお気に入りです。そう簡単に終わってほしくはありません。そこで私は世界の存続のために動くことにしました。しかし私が直接手を下すことは神のルールでできません。魔物を活性化させたりもしましたが、それでも足りません。なので、次の手を打つことにしたのです」
そこまで言い切ると、女神はじっとこちらを見つめてきた。もう分かっていますね、とでも言いたそうな瞳だ。いや、何となくさせたいことに予想はついているのだが、合っていてほしくはない。
「そう、私は転生者を使うことにしました。彼らに頼んで平和を壊してもらうことにしたのです」
「……やっぱりそうですか。しかし、彼らってことは私の他にもいるんですね。その誘い、乗る人っているんですか?」
最悪な想定が当たってしまう。そして私の他にも転生者がいることが明らかになった。だが、疑問が残る。平和を壊してほしいという願いは、感性が神に近いと言われた私でも抵抗感がある。他の転生者の感性も全員神に近い訳ではないだろう。
となると素直に願いを聞くとは思えない。いくら世界と心中することになろうと人殺しは嫌だと思うものも多いだろう。
「あなたは特別ですよ。私に近い感性を持っていて、才能に溢れているあなたには全て正直に話していますが他の者に対しては違います。そもそもこんなに話しませんよ。まぁ、人間に対して敵意を向けられないような者には、魔族が怪しい動きをしています。平和のために彼らの企てを止めてくださいとか適当に嘘言っていますよ」
「やっぱりあなた邪神なのでは?」
目の前の女神は邪神かもしれない。改めてそう思う。善性に付け込んで利用するなんてやっていることが邪神そのものだ。
「失礼ですね。邪神ではありませんよ。大体何でもかんでも言うこと聞いて騙される方が悪いんですよ。それであなたも協力してくますよね?」
「うーん、いや、したくはないですけど、やるしかないですよね。だって転生に拒否権なんてないでしょう?」
「はい、勿論無いです。あなたには、私の世界に転生してもらいます。これは絶対です」
「じゃあ、やりますよ。せっかく手に入れた第2の生、そう簡単に諦めたくないですからね」
「そう言ってくれると思っていました♪」
心底やりたくはないが、やるしかないらしい。命あっての物種だ。勿論女神の言ったことが嘘かどうかは調べるつもりだが、本当だと判明した場合や嘘だと断言できなかった場合は、私が生きていくためにまだ見ぬ異世界の住民たちには過酷な道を辿って貰おう。
「それで♪ それで♪ 転生者特典として欲しいものはありますか?」
「転生者特典?」
「よくあるじゃないですが、チートスキルとか勇者しか扱えない聖剣とかそういうものですよ。これから異世界に転生するに当たって何か特別な力が欲しくないですか?」
「いやいらないです」
転生者特典、正直貰えるものならば貰っておきたい気持ちもあったが、私の神のイメージとこれまで話してきた女神の人柄、いや神柄か? から判断してか本能が止めておけと警鐘を鳴らしている。だから断った。あと先ほどから女神の雰囲気が変わっているのが凄く気になる。最初は厳格な雰囲気だったが、今は無邪気な子供のような雰囲気だ。おそらくこちらが素なのだろう。
「正解です!! やはりあなたは素晴らしい。そもそも神である私に人間ごときが要求するのがおこがましい行動なのです。気にいった人間ならばともかく、気にいってもいない人間に何かを渡す訳がないですよね。あなたはよく分かっています」
「やはり罠でしたか、あなたも中々いい性格していますよね。……要求した人はどうなったんですか?」
「与えてあげましたよ。ただ最も大切な場面で使えなくなったり過酷な境遇に陥るおまけ付きですけど」
本能に従った結果は正解だったようだ。えげつないことをやるものだ。目の前の女神は残酷なことを楽しんで行っている。やはり邪神かもしれない。だが、邪神であっても夢で在ったファンタジーな世界に転生させてもらえることには感謝している。殺したのが女神で転生する異世界が崩壊の危機だと知っていてもだ。やっぱり私は一般人とずれた感性をしているのだろう。
そんなことを考えていると腕や足が透け始めていることに気付いた。
「あっ! もうそんな時間ですか」
「これは、、一体?」
「転生が始まったんです。転生の開始には時間がかかりますからね。その間に話しておこうと思いまして、あなたと喋っていました。楽しかったですよ、またいずれ逢いましょう」
「拒否権が無い訳です、いいですけど。私も楽しかったです。またいずれ」
透けている身体の部分はどんどん広がっており、もう腕や足は完全に消えている。今はもう、上半身だけ残っているような状態だ。もうすぐ転生するのだろう。目の前の女神は、邪悪な部分もあったが何となく話があって楽しかったのも事実。また会えるなら会いたいものだ。
「あっ、そうです。人型の姿になりたいなら力を着けていけばなれますよ。あの世界で強いものは、神である私と似た人型になりがちですから。頑張ってくださいね♪」
「えっ!?それはどういう……」
最後に女神が告げた言葉の意味を理解しようと、質問を投げかける前に完全に身体が消え私の意識は沈んでいった。
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