19.フィラティスの町の最強
目の前から歩いてくる男からは、立ち昇るオーラのようなものが見える。
凄まじい力だ。町を観察していた時は、見なかった男だが間違いなくあの町最強の存在。今まで殺してきた奴らとは別格。武器は背中に背負った大剣で間違いなさそうだ。
(でもじじいかぁー、おいしくないんだよな、老人は)
基本的に人間は若い方がおいしい。既に何人も人間を食べてきた私の経験談だ。勿論、体型や健康状態、保有魔力によっても変わってくるが、10代後半から20代後半の人間が一番おいしい。女性だと尚良い。中でも美人で魔力の豊富な女性は格別だ。吸血鬼が若い女性の血を好んで吸っているイメージが定着するのも頷ける。
まぁ、これは私が転生前は男性だったからもしれないが。
転生後の今、性別はあるんだろうか?……少なくても今現在、男性の象徴は無いが。……心は男性のままだから男性でいいかな。
どうでもいい、……いやどうでもよくはないな。自分の性別は大事にしたい。とにかく思考がずれた。
私は言いたかったのは、じじいはおいしくないってことだ。実力者程、保有している魔力が多いものが多くおいしそうだったから、期待していたんだがあのじじいでは味に期待できなさそうだ。
「お前がそうか」
距離にして20mくらいだろうか? そこまで距離を詰めると、男は立ち止まりこちらを睨んでくる。
「ハモンは女好きだが、気遣いができて周囲をよく気にかけていた。酒にもよく付き合ってくれたうよ。
カサンドラは、負けん気の強い良い女だった。冒険者という危険の多い職業で彼女の気の強さに救われた者は多い。
リーリーは少し前に冒険者になったばかりの才能溢れる女子だった。少し前に新しく購入したローブを自慢げに見せてくれた。
メイロは長年冒険者を続けたベテランだ。才能が無くランクがDから上がらないが、若い者には負けんと張り切っていた。フィラティスで一番長く過ごした友人だった
カイロウとマテは、フィラティスでも有名なバカップルだった。いつも2人寄り添って仲良くしていたよ。近々プロポーズをしようと思っていると相談を受けた」
男は次々と誰かの名前と思い出話を聞かせてくる。その名前に聞き覚えはない。
当然だ。こちらに来てから私は誰の名前も聞いていない。
だが誰の名前か推測は容易だ。むしろ違ったら驚く。
しかし長い。話を聞く義理はないが、隙も無い為襲い掛かれない。
男の位置も丁度良いし、仕込んでいた罠の発動のため分身を遠隔操作して起動に向かわせているが、辿り着くまでにまだ時間がかかりそうだ。
「―ディエルゼルは魔族だが人間に敵意はなかった。戦争で父を人間に殺されたが、平和のために復讐心を抱かなかった。……これからの時代にはあのような者が必要だった。
……今名前を挙げた者たちが誰か分かるか? お前に殺された犠牲者たちだ!!」
しばらく聞いていたが、ようやく話が一区切りついたらしい。
予想通り挙げられた名前は、私が殺した者たちの名前らしい。
しかしそれを聞かせてどうするのだろうか? まさか反省を促したいとか言わないよな。人間の転生体とは言え、私は魔物なんだが? 人間に反省を促すのなら、まだ分かる。
だが私が元人間ということを知る筈のないこいつが何を伝えたいのか全く分からない。まさか魔物に人間を襲うな、とでも言うのだろうか? 魔物と人間が同じルールで生きられる筈はないだろうが。
「魔物のお前に、こんなことを言っても無駄かもしれない」
うんうん、その通り。魔物に聞かせても話など通じないのが普通だ。……私は例外だが。一々反省するくらいなら端から襲っていないし、この話は私には聞かない。
私は、お前が死んでほしいと思っている相手も、誰かに大切に思われてるんだぞ、と言われても知るかそんなこと、と考えるタイプなんだ。誰かに大切に思われているとしても、私に不快な思いをさせてもいい理由もなければ、私の思考を制限される謂れもない。……少々乱暴な性格なのは自覚してる。
「だが言わずに居れなかった! 反省はしなくていい!!
俺がお前を殺して、皆の仇を討つ!!」
おっと、反省を促している訳ではなかったらしい。言い切れる態度は好感が持てる。
そして、こちらの準備も終わった。分身が罠まで辿り着いた。すぐに発動させる。
ゴゴゴッ、という轟音を響きかせながら岩が、男に向かってなだれ落ちていく。
落石に注意というやつだ。
単純な質量攻撃だが、かなりの総重量にした。生半可な攻撃や防御ではしのぎ切れずに潰される。その攻撃を―――
「怒りの剣」
――背中に背負った大剣の一振りで男は防ぎ切った。剣から飛び出した斬撃が降り注いだ岩の全てを粉砕した。粉砕された岩が、小さな破片となって辺りにパラパラと降り注ぐ。
「覚えて逝け、私の名前はルイングベル。フィラティスの町で最強の冒険者だ」
大剣を軽々と肩に担ぎ直して男が名乗る。随分と様になっている。最強を名乗るだけのことはある。
まいったな、かっこいいじゃないか。イケおじと言うやつだな。強い老人キャラは好きなんだ。立場が違えば、ファンになっていたかもしれない。
(それでも勝つのは私だけどね!!)
男に接近する。あの大剣の威力は、先ほど見た通り飛んでもないものだ。まともにくらってしまえば、一撃で勝負が決まりかねない。遠距離から攻めることができるならそうするが、できない以上仕方ない。
それに前襲ってきた戦士は、遠距離攻撃もばんばん使ってきた。目の前の男がそうしてこないとも限らない。加えてああいう大きな武器は、近づくとかえって安全だというイメージがある。
「地走り」
男、いやルイングベルがこちらに向かって剣を振り下ろすと斬撃が向かってきた。
(やっぱりあるんだな、遠距離攻撃)
さっそく使われた遠距離攻撃だが、難なく回避する。だが何度も使われると鬱陶しい。
道すがら地面を粉砕して砂埃を起こす。気配の感知でおおよその位置は、把握できるだろうがやはり目視されるよりも攻撃の精度は落ちる。
二度目の攻撃は回避するまでもなかった。
「小賢しい!!」
ルイングベルはすぐに大剣を薙ぎ払い、剣圧で砂埃を晴らす。
だが、その時に私はルイングベルの懐にまで入り込むことに成功していた。
魔力を纏った拳をルイングベルに振りぬく。命中。腹に決まった。
けれど手応えは薄い。頑丈な身体だ。
「ぐっ……」
ルイングベルの口から微かに血がこぼれる。今の一撃は、岩も粉々にする威力でそんなダメージで済むのは、流石の一言だがまるで効いていない訳で安心した。彼は倒せる相手だ。
距離を取ろうとするルイングベルだが、怒涛の連撃でそれを防ぐ。が、かすりはするもののまともには攻撃が決まらない。
「おらぁ!!」
(ちっ……!!)
攻めあぐねている内に、蹴りをもろにくらってしまい強制的に距離を取らされてしまった。しかも、蹴り自体の威力も結構痛い。ルイングベルは距離を確保すると、すぐに飛び上がり追撃をかけてきた。
「覇剣!!」
(うぉ……!!)
振り下ろされた一撃が、辺りを大地ごと吹き飛ばす。直撃は回避したものの、衝撃波でダメージを受けてしまい飛ばされてしまった。
(このじじい、滅茶苦茶動けるじゃないか。今の動きで息一つ乱れていない)
ルイングベルは間髪入れずに攻撃してくる。町の中でとは言え、最強の名は伊達ではないようだ。
戦闘描写は難しい。頭の中の光景をそのまま文字に書き出す力がほしい。
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