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18.もしもし美人で可愛い女神です

「あ”あ”あああ」


 一見すると、悲鳴のようにも聞こえるが、これは悲鳴ではない。

 これは私の声だ。自分の口から言葉になっていない呻き声が洩れる。

 強いやつと戦うと決めてから、私は今まで守っていた週2~3人しか人間を襲わないという縛りをなくして見かけた人間をとにかく襲っていた。人間たちが同じ組織に所属しているかは疑問だが、短期間の内に何人も行方不明になれば話題にはなるだろう。


 戦うことを職業にしている人間が何人もいなくなれば、その捜索に出るのは近くにいる実力者たちと考えるのは何もおかしくはないだろう。

 まぁ、それだけでは実力者を引き出すのには不足かもしれないとも思ったので、襲撃した人間が複数人のパーティーだった場合は、あえて1人だけ生かして返したりしている。


 生き残った者が私のことを報告すれば、より実力者を引き出せる可能性も上がるというものだ。

 そうした活動を始めてから既に1週間が過ぎている。犠牲者の数は30人以上になり今はもう町から毎日のように出入りしていた人間たちが、ほとんど出てこなくなった。


 町の様子は探れないが、おそらく私のことが広まっていると考えてもいい。これ以上犠牲者を出さないために外出禁止令か何かが出されたと考える。

 とは言えいつまでも引きこもっている訳にはいかないので、何らかの対処は取る筈だ。となるともうすぐ予想通りに実力者が出てくると思う。……予想が外れた場合は逃げようかな。


 あっ、そうそう。それ程多くは無かったが、襲撃したパーティーの中に人間と魔族が混在しているパーティーがあった。最初に出会った人間と魔族の組み合わせが、下衆な男と被害者の女性だったせいでいまいち魔族と人間が仲良くなったと女神が言っていたのが信じられなかったが、やはり仲良くやっているみたいだ。


 連携も上手かったし、仲間を傷つけたら凄く怒って立ち向かってきた。本心から大切な仲間だと思っているのが伝わってきてとても良かった。ああいう種族を超えた絆って心惹かれるものがあるんだよね。良いものが見れて大満足だった。それはそれとして、殺しはしたけど。……魔族も中々美味しかったです。


 さて、そんな風に襲撃し食べることを繰り返していたある日、ふと喋ることのコツが分かった気がした。そして今その衝動に従って発声練習をしている。


 流石にいきなり流暢に喋ることはできず、言葉になっていない唸り声が出るだけだったが、今まで出てただ鳴くことしかできなかったことを考えると大した進歩だ。思えば人間の言葉を理解し始めたのもドワーフを食べた時辺りからだった。

 

 私は食べることによって力や経験値だけでなく、食べた対象が身に付けていた知識も吸収することができるのかもしれない。魔物も相当数食べた筈だが、何も身に付けれたものを実感できないのは人間よりも効率が悪いのか、人間からしか知識は吸収できないのか、あるいは身に付ける能力が魔物にはないのか、どれでもないのか今の私には分からない。


 確かなのは人間を食べたことが原因と思われるタイミングで、新たにできることが増えたことだ。人間を食べ続ければもっと色々できることが増えるかもしれない。魔法なんか使うことができるようになれば、最高に嬉しいのだが得られる能力は何でもいい。


 喋れなかったことをそんなに気にはしていなかったが、喋ることができそうになるとつい喜びを抑えきれず1日中発声練習を続けた程だ。今は気持ちも落ち着き抑えることができるが、正直とても嬉しかった。


 ただ喋ることができるようになっただけで、こんなに嬉しいのだからどんな能力を得ても嬉しいと感じることができそうだ。


「あ”あ”あ”~~~~♪」


 喜びを解放させ辺りを飛びまわる。さっき気持ちも落ち着いたと言ったが、話していたら喜びが復活してきた。


さっ、楽しんだし準備に戻ろっと


 一通りはしゃいだら気持ちも落ち着いた。もっとはしゃぎたい気持ちもあるが、これから実力者と戦おうというのに浮ついた気持ちでいる訳にはいかない。


 理想としているのは誘き出しての戦い。相手はこちらを捜索するはずだから、戦う場所はこちらで指定できる。今は戦いの場に罠を仕掛けている最中である。


 古典的な落とし穴や落石トラップ等を仕掛けてみたが、まぁこれで仕留められるとは微塵も思っていない。あくまでこれらは状況を有利にするためのものだ。最終的には真面目に戦う必要があるだろう。


 ……万が一のための用意もあるが、これは使いたくないな。

 流石に卑怯かな? と疑問を抱いてしまう。戦いに卑怯も何も無い気もするが、気は進まない。


(あっ、もしもし美しくて可愛い女神です)


……うわぁ!!


 頭にいきなり聞き覚えがある声が直接響いてくる。驚愕だよ、もう。

 自分でも名乗っていたが、女神の声だ。懐かしい。


(返事くらいしてください)

あっ、すいません。お久しぶりです


 転生してからもう随分経つ? いやどうだろ、まだ短いかな? とにかく転生してから音沙汰なかった女神だが、何の用だろうか? あと素の性格を隠さなくなってきたな。信頼してくれてるなら嬉しい。


(ええ、あなたには楽しませてもらいましたからね。気に入っていますよ)


見てたのですね


(ええ、ええ、ドワーフたちとの闘い、「吹雪の牙」との闘い見ていてとても楽しめました)


吹雪の牙?


(あなたを追い詰めた3人組の冒険者ですよ。あなたを逃がして後、ドワーフに謝る彼らの姿は惨めで、滑稽で、楽しかったです♪)


いい趣味してますね、相変わらず。それで結局何用ですか?


(話がずれてしまいましたね。あなたに伝えたかったのは……)


*****


「これで35人……」


 冒険者ギルドの受付嬢マリーナは、その知らせを受けて暗い気持ちになる。35人、それはここ1週間の間に行方不明になった冒険者の数である。おそらくもうこの世にはいないだろう。

 ここフィラティスの町は、それほど大きくもないが周りに強力な魔物も少なく冒険者になったばかりの初心者に人気の町であった。


 冒険者は魔物と戦うことを主な生業としていることも多く、危険な職業だ。命を落とすこともざらにある。フィラティスの町も危険は少ないとは言え、亡くなってしまう冒険者も出る。

 しかしこの数は異常であった。しかもこの被害は、同一の魔物によってもたらされているものだと考えられる。行方不明になった者とパーティーを組んでいた冒険者が4人生き延びており、その全員から同じ魔物の目撃証言が出た。


 思えば数ヶ月前から予兆はあった。1週間に数人が行方不明になった頃から被害は出ていたのかもしれない。


(ギルドとして調査をすべきでした。そうしたらここまでの被害は出なかったかもしれない)


 マリーナは後悔していた。

 彼女の脳裏に行方不明になった冒険者の顔が思い浮かぶ。問題はあっても根は良い人ばかりであった。死んでいい人なぞいなかった。


 既に町長とギルドで相談した結果、町全体に外出禁止令に出されてから新たに被害は出ていない。だが、いつまでもこの状態を維持してはいられない。


 ギルドは平和を取り戻すためこの町に在籍している最強の冒険者に、魔物の討伐を依頼していた。


「待たせたな、準備に時間がかかった」

「ルイングベルさん!! お待ちしていました」


 ギルドの扉が開き、マリーナの元に大剣を背負った壮年の男性が歩いてくる。待ち望んでいた人物の来訪に、マリーナの顔に笑顔が戻る。


 ルイングベル、フィラティスの町に在籍する最強の冒険者。ランクはBで冒険者全体から見ても1流に入る。御年75歳にも関わらず実力は健在で、現在S,Aランクになっている冒険者にも彼にお世話になったことのある者も多い。ベテランの冒険者だ。


「報告にあったゴーストの討伐に向かう。祝宴を準備して待っていてくれ」

「無事の帰還をお祈りしています」


 手早く情報の入手を終えたベテランが、町の危機に今立ち向かう。

 マリーナは彼の帰還を祈って、その背中を見送った。

女神と主人公は仲良し


高評価、ブクマを頂けると作者のモチベが上がります。よろしくお願いします。

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