16.初心者狩り
「うおおおおお!!!」
気迫の篭った叫び声と共に振り下ろされる渾身の一撃をあえて腕で受け止める。
ザクッと音がして、軽く切り裂かれる。
痛い、が確認したかったことは確認できた。
斬りかかってきた男を蹴り飛ばす。男の皮鎧の上から骨の砕ける感触がして確かな手ごたえを感じる。
「……ごほっ、ごほ、……ガハっ!!」
蹴られた男は息苦しそうに咳込み、血を吐いている。甚大なダメージを受けたのは明らかだ。
しかし、私が感知した情報ではこの男の強さは、先ほどの蹴りを受けたら即死する程度のものだった。私に攻撃を行ってもダメージなど与えられない筈だった。
やはり装備と技だな。
そう結論付ける。ドラゴンと3人組の戦いを見て思ったが、人間種と魔物の強さの測り方は変えた方がいい。私は体内に保有している魔力量を感知して強さの目安としている。魔物は魔力が多い方が強いからそれで問題なかった。
しかし人間種の強さは魔力量と必ずしも関係ないらしい。3人組は、魔力量はドラゴンに比べ遥かに低かった。魔物であれば戦いにはなるが勝つことはできないくらいだった。けれど勝ったのは、3人組だった。
私はその勝利の理由が知りたかった。
そこで、商隊を尾行して見つけた町の近くの森に潜み、訪れた人間種と戦いその理由を探ろうとしていた。ちなみに尾けた商隊は、町を見つけたらもう用済みだったので到着前に襲い殲滅した。護衛もいたが3人組よりも遥かに弱く倒すことはできたが、思ったよりも苦戦した。
そして今町から出てきた男と戦い、その理由が分かった。
分かってみればなんてことはない、当たり前の理由だった。
人間種は武器や防具を身に纏い戦う。この装備の性能が高いのだ。本人の強さに加え、装備の分強さが加算され魔物にも対抗できるのだ。武器や防具にも魔力が含まれるものはあるみたいだが、私には感知できない。そのせいで強さを見誤ってしまう。
また技の練度も高い。魔物も技は使うが、基本的に人間種が使用する技は魔物が使うものより練度が高く威力も大きくなりやすい。と言うか魔物は下手に基礎が強い分、ごり押しになりがちで色々雑なんだ。知性も人間種よりも低いから仕方ないかもしれない。
私も多少技の練度を高めたつもりだったが、やはり独学ではきつかった。
そうでなければ、この程度の敵にダメージは受けない。
「オラァ!!」
男が立ち上がり全力で剣を振るってくる。今度は受ける必要がないので回避する。
あのダメージでよく動けるものだ。
感心、感心。
武器を次々と振るってくる男だが、骨が折れているせいでかなり辛いらしい。動くたびに口から血が溢れている。私が止めを刺さなくても勝手に死にそうだ。
せっかくなので、思いついた技の実験台になってもらおう。
剣を持っている右腕を掴みそのままへし折る。
「あ、あ、ああああああ……ぐむっ!?」
痛みに叫び声を上げる男の顔面をアイアンクローで捉え、男ごと空中に浮かび上がる。
魔力を溜めて急加速。地面に向かって自分の身体ごと男を叩きつける。
地面にぶつかる直前で霊体化して私だけは衝撃から逃れる。
ドン、という衝撃音がして気配が消える。経験値を得たことが感じられる。格下相手でも人間を倒すとそれなりの経験値が得られるみたいだ。
地面から頭だけ出して確認すると、血肉の花が咲いていた。
柔らかい地面にぶつけてもかなりの威力が出るらしい。
霊体化と急加速の組み合わせは、かなりよさそうだ。タイミングを間違えるとこちらも傷付く諸刃の刃だがメリットの方が大きいと判断する。練習あるのみだ。
幸いにも練習台兼経験値には困らなそうだ。
町から出てくるの人間達は、火山で出会った3人組と同じような見た目の人間が多い。すなわち個性豊かな見た目をしている。同じ職業なのかもしれない。
しかし実力的には3人組に遠く及ばず、初心者といった印象を受ける。偶に強そうな恰好をしている人間も見かけるが、ほとんどは初心者だ。
油断すると怪我を負う可能性はあるものの命の危険はないと言ってもないだろう。技も使用してくるが未熟な彼らは練習台には丁度良い。ただあまり狩り過ぎて人が来なくなったり強い人間が送り込まれても困るので、殺すのは1週間に3人までとし定期的に襲撃場所は変える。
人間と戦う以外の時間は、技の修練にあてよう。独学できついとは分かっているが、魔物である私に物事を教えてくれる師匠などいない。どんなものであっても始まりは一から始めた者がいるはず。その開祖になったと考えて独学での特訓を続ける。
まぁ一定の成果は出ていたので、無駄だと言うことはない。それに新たにできることが増えるのは楽しいものだ。魔物に転生してから娯楽などなかったので、自分で楽しめることを探した結果最近は修行と戦闘が娯楽になりつつある。戦闘狂とか呼ばれてしまいそうだ。
ゴゴゴ……
うぉと、震度3くらいか?
急に地面が揺れた。この町についてから、1週間に5日程度の頻度で地震が起こるようになった。かなりの高頻度だ。浮いている間は、関係ないが地面に足をつけている間に地震がくるとバランスを崩してしまう程度には揺れる。普段なら問題ないが、戦闘中なら大問題だ。
こんなに高頻度で地震が起こるものだろうか? そういう土地である可能性もある。
しかしここで思い当たるのが、女神との会話だ。あの女神は世界が崩壊の危機にある影響で災害が増えていると言っていた。ならば、この地震の頻度の高さはその影響によるものである可能性もある。
だとすればいよいよ嫌なものだ。女神の言っていたことが真実に近付いてしまう。
っていけない、いけない。明るくいこう。
暗い考えに引き摺られて気分まで暗くなってしまいそうだ。気分転換に鍛錬でも行うとしよう。
ふっ、ふっ
魔力を込めて拳を振るい、蹴りを繰り出す。前世での格闘技経験などないので完全に独学だが、やらないよりはマシだ。身体を動かすと気分も晴れる。そもそも魔力があり魔法がある異世界で、前世の格闘技を意識すると固定観念に囚われそうだ。
そういう意味では、経験がなくて良かったと思うようにしてる。
はっ!!
岩に向かって拳を撃ちだし砕く。ガラガラ、と大きな音ともに岩が崩れていく。
ふっ!!
今度は蹴りを岩にぶつける。また、ガラガラと音を立て岩は崩れる。物を壊すと気分がすっきりと晴れる。しかしまだだ、まだ全然理想の威力に届いてはいない。
もっと強力な一撃を目指し、近くにある岩山に向かって殴打を繰り返す。
この身体にも疲れはあるが、寝る必要はない。前世で使えなかった睡眠時間も修行に全て充てる。世界の崩壊まで時間はないかもしれないが、焦りは禁物。ゆっくり確実に、それでいて素早く、何か矛盾している気もするが実力をつけていく。
まずは小細工に頼らず、基礎を上げる。今までの私は、姑息な手も多かったが最後に大事だったのは結局フィジカル。相手の技が強力なら、こちらは力で対抗する。中途半端に技を身に着けても約には立たないだろう。魔力を扱いを上手くし身体能力を上げる。
その考えの元、ひたすら魔力で強化し身体を動かす。
こうして今日も夜は過ぎていった。
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