15.そう言うのは違うじゃん
新天地を目指すと決めたもののどこへ行こうか。
当てもなく移動しても良いが、魔物よりも人間の方が経験値効率が良い以上早く強くなりたい私としては、人の居る近くを目指したい。
だが当然私はこの世界で人が住んでいる位置など知らない。3人組はドワーフの住人ではないので外部から来たと考えられる。彼らをつければ人の居る場所に辿り着けるかもしれないが、関わりたくないのでスルーだ。
となるとやはり適当に歩き回るか、空を飛んで道を見つけるのが今考え得る中では現実的か。
人がよく通る場所には道がある筈だ。この世界の文明レベルは知らないが、道くらいあるだろう。道を辿れば人が居る場所に繋がっているのは当然だ。その考えの元、道を探すことにする。
この辺りの空には、私を害するレベルの危険な魔物はいないので飛行して道を探す。
取り合えず見渡せる範囲には、道らしきものは見えないっと。
まぁ、そう上手くいかないか。気長にいこう。
*****
それから数日が経った。
結局まだ道は見つかっていないものの気配探知に魔物とは違った反応があったので、地上に降りてきた。以前は人間と魔物の区別など付かなかったが、進化して感知の精度が高くなり詳細な情報を得ることができるようになった。
そして今私の目の前には、
「へへっ、もう逃げられないぜ、お嬢ちゃん」
「お頭、俺にも楽しませてくださいよね」
「ひひっ、上玉じゃねぇか」
「ひっ、た、助けて……」
絵に描いたような悪人と傷ついた少女がいた。
少女を襲っている3人は、ヒューマンで汚らしい身なりをしており剣や斧で武装している。襲われている少女は、背中に翼が生えており人間ではないことが分かる。女神の言っていた魔族だろうか?
悪人の1人が言っているようにスタイルがいい銀色の髪をした美人だ。片翼、片足に傷を負っており逃げられないらしい。
違う違う、違うんだよなぁー。
目の前の光景を見て、そう思う。
道を探していたのは、結局は人間を見つけるためで見つけた人間は殺して食べるつもりだった。だから他者が人殺しをすることに対して責めるつもりは一切ない。
けれどこれは別だ。今目の前で行われようとしているのは、明らかな性犯罪だ。まぁ前世での事だが、こちらの世界でも罪でなければ法を疑う。
許せぬ一線というものは、私にもある。
と、言う訳で
即座にお頭と呼ばれた男の後ろに回り、全力の貫手を放つ。
心臓を貫かれた男はゴホッと血を吐き出しそのまま絶命する。突然の出来事に驚愕して固まる手下2人も翼で頭を切り落として殺す。
呆気ないものだ。
数秒にも満たない時間で3人も殺せた。悪人達がドワーフの戦士よりも弱いのもあるが、進化した私の攻撃力が素晴らしい。怪力なのは与えられた知識で分かったが、刃物のように翼や手足で斬れることは使ってみて初めて分かった。
しかし、どうしようか?
思わず魔族の女性を助けてしまった。そのことに後悔はないが、そもそも出会った者は基本的に殺して食べるつもりだった。人を助けることなんて端から考えていなかったので、どうしたらいいか分からない。
「あっ、あの……?」
女性も突如現れた魔物が自分を襲おうとしていた者を殺し、そのまま何もしないから困惑している。
いや本当に困る。一度助けた以上、襲うのはなんか違う気がする。見捨てるのもなぁ、違うような。
この女性は私の中で、攻撃対象から外れてしまった。彼女がこちらを攻撃してくれば攻撃対象になり、殺しておしまいなのだがそうする気配はない。
先にこの男達を食べるか?
でも汚そうだよな、端的に言って食べたくない。
思考を一度女性から外し、殺した男達のことを考える。殺した人間はできるだけ食べるつもりだったが、こいつら不潔だ。転生当初で全然力が足りない頃ならば、食べたかもしれないがそれなりに力の付いた現在、こんな汚いものは食べたくない。
止めとこ。
そう判断し死体は放っておく。
大した時間稼ぎにはならなかった。再び女性の対処を考えると女性に向き直る。
すると女性がおずおずした様子で質問を投げかけてきた。
「あっ、あの、その死体貰ってもよいですか?」
首を縦に振って肯定の意を示す。
「えっ!? 言葉が通じてる?
あ、ありがとうございます」
異世界でもジェスチャーが通じるかどうか不安だったが、どうやら通じたらしい。
でも自分から話しかけておいて、言葉が通じて驚くのはどうかと思う。
了承を得たことを確認すると女性は死体に手を向け、引き寄せるような動作をした。
ゾッゾゾ……
不気味な音ともに死体から血が女性の元に集まってくる。
そのまま集まった血を女性が口に含むと、彼女の傷がみるみる内に治っていった。
病気とか大丈夫だろうか?
そんな心配をしてしまう。しかしそこまで深い傷ではなかったとは言え、あの速度で回復するとは驚きだ。魔法を使っている様子もなかったし技か何かだろうか? 興味深いが異世界言語は話せないので聞く手段がない。残念だが諦める。
けれどこれで大丈夫みたいだ。ここまで自力で来たのならば、帰りも自分で帰れるだろう。
彼女が来た村や町を教えてもらうことも考えたが、助けてしまった相手から得た情報を悪用するのは気分が乗らない。自分の中で折り合いが付かないことはしない主義だ。
彼女が無事回復したことを見届けて、再び空に飛翔する。下から呼び止めるような声が聞こえたが、無視する。一度助けた手前最後まで見届けたが、本来人間も魔族も対立させるべき相手であり状を持つような積極的な交流は避けたい。
情を持ってしまえばドワーフに行ったような行動ができなくなってしまう。それは私にとって最悪の結果を引き寄せかねないので、同じ志を持つもの以外と交流する気はない。まだ先ほどの男達のようなゴミと交流した方が、使えなくなった時処分するのに何も惜しむ必要がなくて助かる。
いかんな、もう決めたことだ。
あまり心配事は考えないようにしなければ。
意識を切り替え、道を探す。人がいたということは、この近くに住居がある可能性が高い。先ほどの男達は山賊か何かだろうし人が通る場所に拠点を構えていてもおかしくはない。
……見つけた。
視界の端に小さめの町が移る。距離的に考えてあの女性が住んでいる町だろう。あの町は襲わない。しかし町を見つけたら後は町の出入りを監視するだけだ。商人か何かはいつか必ず町に寄る。私はそれを尾行し、着いた先の町の住人を狙えばいい。これならば私の良心も痛まない。
こうしてしばらく小さな町を監視していたが、監視を始めて数週間ようやくその機会がやってきた。
町に全部で合わせて10人程の小さな商隊が入っていった。護衛が6人いたが、いずれもドワーフの地で私を襲った3人組と同じような印象を受けた。騎士といった堅苦しい装備ではなく、もっとこうカジュアルな感じの装備だった。案外この世界では、一般的な仕事なのかもしれない。
彼らが町を出発するのを確認し、私も後ろからついていく。万が一にもバレないように感知射程ぎりぎりまで距離を取っているため、気付かれている様子はない。
そんな日々が15日程続き、流石に飽き始めてしまった頃ようやく前方に次の町が見え始めた。
大きな町だ。
いよいよ私の新天地での生活が始まる。
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