12.怒りの代行者
うーん? 何が足りないんだ?
ドワーフの町を襲撃してから数日が経った。あの襲撃で得た莫大な経験値の吸収が先ほど終わった。さぁ、進化だと思っていたもののまだ進化ができない。進化に必要な経験値は溜まった感触がするのだが、何かが足りないらしい。森の中で隠れていた甲斐がない。
転生してから色々なことが感覚で分かるようになって便利だが、重要なこと程分からないのは困ったものだ。
それに想定していたよりも力の上昇が無かった。今の身体の限界値に達してしまったのかもしれない。
どうしようかな?
でも、また襲っても進化できなそうだよな。
襲撃計画は失敗することも考慮していたが、襲撃が成功しても進化できないことは考えていなかった。このまま別の土地に行っても進化の条件が満たせる保証はない上、新たな地では危険も伴う。できるなら進化して強くなってから移動したいものだ。
うーん、だけどここに居てももうできるないな。
移動するしかないか。
しばし頭の中で状況を整理したが、やはりここでやれることはもう無さそうだ。森と火山の魔物は粗方片付けたし、ドワーフも食べた。ドワーフの戦士とは戦ってないが、わざわざ戦う意味もない。今なら4人1組くらいなら倒せると思うが、総員40名の集団と連戦になったら流石に死んでしまう。火山のドラゴンは桁違いすぎて万が一にも倒せない。
やはり移動するのが一番良さそうだ。そこで進化の条件でも探そう。
意見を決めた私は、移動を始めようと飛び上った。
と、その時、
「風の刃」
声が聞こえ、声がした方向から私のいる位置までにある木が物凄い勢いでなぎ倒されていく。目に見えにくいが何かが確かに迫ってきている。
グッ……!
急上昇して躱そうとしたものの避け切れず、羽を1枚切り落とされてしまう。痛みに呻くが、飛行に問題はない。
「アイスランス」
また別の声が聞こえ、今度は氷の槍が飛んでくる。中々の速度だが今度は警戒していたため避けることができた。と、ここでようやく襲撃者達が姿を現した。
「あれが依頼にあった精霊か。確かに黒いな」
「ええ、それに強いわね。私達の不意打ちを受けて生き残るなんて」
「あっ、あれは不吉の象徴とも呼ばれるアビススピリットです。強くて当然かと」
1人は身軽そうな鎧を身に纏った戦士の男性、1人はローブと大きな帽子を被った魔法使いの女性、1人は宗教服を着た僧侶の女性といった出で立ちの3人組が歩き出てきた。ドワーフではなく全員、前世の人間と同じ感じだ。ヒューマンだろうか?しかし――
分かりやすいな。
彼らのあまりにも分かりやすい恰好に思わず笑ってしまいそうになるが、すぐにそんな場合ではないと意識を切り替える。彼らから感じる力は、ドワーフの戦士よりも遥かに大きい。こんな力の持ち主なのに気配探知に全く反応がなかった。明らかにやばい奴らだ。とても勝てる相手ではない。さっさと逃げることにする。
「あっ! 逃げるぞ風の刃」
「させません、神の目」
「アイスランス」
こちらの動きに気付いた彼らが逃亡を阻もうと数々の技を繰り出してくる。その全てを避け切ることはできずに僧侶の女性が放った光に当たってしまったがダメージはない。気にせず飛行をして距離を取る。
飛行最高ー-!!
思わずそう叫びたくなる。あれ程の相手でも飛行能力が無ければ、私を捉えることはできない。この能力が無ければとっくに命を落としてしまっていたことだろう。飛行さまさまだ。
しかし羽を1枚切り落とされてしまった。このままでも飛行は可能だが少々影響はある。未知の土地に行くのにこれでは頼りない。見知ったこの土地で隠れて魔力を操作すれば数時間で完全回復する。まさかその僅かな時間で、またあの3人組に見つかることはないだろう。
******
そんなことを思っていた時期が私にもありました。
どうなってんだ!?
どこに隠れてもすぐ見つかる。
あの後傷を癒そうと茂みに隠れていたら、声と共にまた斬撃が飛んできた。その時は被弾せずに回避しまた別の場所に退避したが、退避した先もすぐに見つかりまた攻撃が飛んでくる。30分もしない内に見つかって攻撃が飛んでくるため、傷を癒すどころではない。
しかもそんなことを繰り返している内に回避しきれずもう1枚羽を切り落とされてしまった。
流石に2枚も羽を失ってしまえば、飛行性能もガタ落ちする。今はまだ逃げることができているが、もう間もなく逃げきれなくなる。今も徐々に逃げることのできる距離が縮まっている。
ヤバいな。
どうして場所が見つかる?
相手が何らかの手段で私の位置を把握しているのは間違いない。補足を外さなければ見つかり続けてしまう。どうにかして補足から逃れなければいけない。一番早いのは、相手を返り討ちにすることだがそんなことができたらそもそも逃げてはいない。
そう言えば、最初に遭遇したときダメージのない技くらったな。
あれ攻撃じゃなかったとか?
解決策を探して記憶を漁っていて思い出す。僧侶が出してきた謎の光。あれは被弾してもダメージがなかった。威力の低い技だと思っていたが、そもそも攻撃技じゃなかったのかもしれない。あんなに強そうな人間の技をくらってダメージが無い時点で警戒しとくべきだったな。
あの技は当てた敵にマーキングを施す技だったのかもしれない。自分の楽観さに嫌気がさしてくる。だが今は反省は後回し、どう切り抜けるか考えよう。
魔力で身体の内を探る。
変化なし。
自力でマーキングを外すことは不可能。
全力飛行で追いつけない程遠くへ行く。
羽の負傷で不可能。
思いついたアイデアを次々と実行または実現可能か検討していく。だが、中々有効そうなものが思い浮かばない。
不意打ちで僧侶だけでも殺せば、どうにか、いや危険すぎるな。
ブレスくらいしか通じそうにないし、確実に当てるには近付かないと。
こっちの場所を把握している相手に不意打ち? 無理だろ。
決まったとして、その後どう逃げる。近付けば逃げることはできないよな。
「風の刃」
ああ、もう!!
しつこいぞ!!!
思考の最中だが、また追いつかれた。斬撃が飛んでくる。注視して回避する。
技を出すにはいちいち叫ばないといけないらしく、攻撃されることは事前に分かる。だがこの風の刃と言う技はとにかく見づらい。注視すれば分かるが、声が聞こえてからその方向に注目し飛んでくる斬撃を見極め回避するのはしんどい作業だ。
「待て!! 善良なドワーフをあんなに殺しておいて逃げられるとでも思っているのか!!」
「無駄よ、リンド。相手は魔物よ、こちらの言葉が分かる筈ないわ。アイスランス」
「お、お二人共早いですー。待ってください~~」
追いついてきた戦士と魔法使いが遠距離攻撃をバンバン飛ばしてくる。僧侶だけは他の2人よりも体力がないのかぜぇぜぇ言いながら、他の2人に合流している。
しかし魔法使いはともかく、戦士が遠距離攻撃をこんなに使うのは反則だろ。
前世のゲームでもこんな遠距離攻撃ばっかりする戦士なんていたかな!!?
あまりの攻撃の激しさに恨み言しか言えない。こんな相手に近付いてブレスを当てるのは、どう考えても無理。
痛っ!!
攻撃を避け切れず、また1枚羽が半分程切り落とされる。
自分でもよく飛べるなと思う姿になってきたが、まだ飛べる。
だがいよいよヤバい。もう無事な羽は1枚だけ。この1枚に傷でも入ればもう飛べない。
逃げ続けている内にまた火山に来ちまったしよー。
もうー、うざいぞ。
いい加減諦めてくんねぇかな。
心の中の口調が荒くなってしまう。
何とか振り切ったものの、またすぐ見つかってしまうだろう。火山は魔物も森よりも強い。万全の状態なら平気だが、今の状態では他の魔物にも見つかりたくはない。
んっ?
火山、火山ねぇ。
そう言えば、あいつがいたな。
かなり危険な賭けだが、やってみるか。
そんな時ふと打開策が思い浮かぶ。普段の私なら絶対に取らないようなリスクの高い作戦だが、このままだと死ぬ現在、何もしないよりは絶対にいい。
私に勝てない強者を倒すのは、何も私じゃなくてもいい。
強者には強者をぶつければいいのだ。
書いていると自分のネーミングセンスに疑問が沸いてくる。悲しい。
そんな作者ですが高評価、ブクマを頂けると作者のモチベが上がります。よろしくお願いします。




