11.こうして惨劇は起こりました
後半別視点あり
ドワーフの町は、全周を石の壁で囲まれている。出入りに使えるのは、表門と裏門だけでありそこには待機している戦士ドワーフが居る。通常の魔物対策ならこれでも問題はないだろう。あの壁を飛び越えたり登ることは、火山に住んでいるリザードマンにはできない。門から入ろうとしてもドワーフに蹴散らされておしまいだ。
空に対する警備は甘く簡単に入れるが、それは仕方ないと思う。魔法で防壁を張ることもできるのかもしれないが、この町はそれほど大きくない。お金とか足りないんだろう。それに空から魔物が入ってもこの町には戦士ドワーフが40人もいる。彼らが追い払ってくれそうだ。
しかし今、戦士ドワーフは私の捜索で麓の森にまで降りていっている。そして私は空を飛べ中に入ることができる。ドワーフはおいしく魔物と比べて莫大な経験値が手に入る。私は進化のために経験値が欲しい。なら、これから起きることは一つだ。
石壁を飛び越え町の中に入る。たくさんのドワーフがいる。まさかこれから惨劇が起こるなんて考えてもいないのだろう。当たり前だ。普通暮らしていてそんなことは考えない。
今回はスピード勝負だ。肉を食べることよりも仕留めることを優先する。
遊んでいる子供の集団が目に入る。
イタダキマス。
すかさず子供の1人に飛び掛かる。首に噛み付き、そのまま噛み千切る。血が吹き出し、生命が急速に終わりに向かう。
「◇ーー-!!」
近くにいた子供達がその光景を目撃し大きな悲鳴を上げる。襲った子供は放っておく。どうせすぐ死ぬ。散り散りに逃げた子供達に狙いを定め、次々と襲いかかる。一撃で致命傷を与え、狙いを別の子供に変える。
悲鳴を聞きつけた大人達が駆けつけてくる。子供達を庇い積極的に前に出て私に向かって武器を振るってくる。良い大人だ。
ドン!!
振るわれた武器によって地面に陥没ができる。流石の膂力だ。戦士でなくても侮れない。
だけど戦闘技術はお粗末だ。隙を突きやすい。攻撃を回避した後、首を狙ってカウンターを返す。
命中。血が噴き出す。
すぐに離れまた首を狙ったヒット&アウェイで次々と仕留めていく。時々マジックアイテムによって攻撃が阻まれることがあるがもう1度攻撃すればよいだけの話だ。問題はない。
1人のドワーフが懸命に負傷したドワーフに魔法を施している。おそらく回復魔法だろう。首の致命傷が徐々にだが治っている。あのドワーフは助かるだろう。だが負傷者が積み上がる方が早い。救えるのは数人だけだ。
だが数人と言えど経験値が多いものを救われるのは困る。仕留めさせてもらう。流石に回復魔法を使うドワーフの周りは、人が集まり厳重に守られているが逆に都合が良い。
襲ってくるドワーフ達の攻撃を躱しながら、魔力を溜める。
1,2,3,充填完了。
ファイア!!
口を開けてブレスを撃ちだす。避けられないことを悟ったドワーフ達が自らの身を盾にして回復魔法使いを庇おうとする。だが、ブレスは無情にもその全てを貫いて回復魔法使いを消し飛ばした。周囲のドワーフが絶望した顔になる。
それまでに経験したことがない莫大な経験値が流れ込んでくる。今消し飛ばした7人に加え、最初に襲った子供達も死んでいっているみたいだ。……凄まじい力だ。この力があればドワーフの戦士隊にだって正面から打ち勝てそうだ。
だけど今はまだ無理だな。あまりにも多くの経験値を一度に得たことで吸収が間に合っていない。しばらく待たないと力が身に付かない。数日はかかりそうだ。こんな経験は初めてだ。
騒ぎを駆けつけた戦士が駆けつけてくる気配がする。門からはかなりの距離があった筈なのに大したものだ。出くわすと厄介だ、ここはさっさとお暇するとしよう。
私は大人子供合わせて30人程のドワーフを仕留めたところで町を出た。
いやー、しかし経験値ウマウマだったな。
あんまり期待してなかったが、良かった良かった。
*****
<ドワーフ視点>
「クソっ!! あの魔物はどこ行った!!」
討伐隊の1人、戦士のドワが怒りに満ちた怒鳴り声を上げる。今回の探索結果に満足いかなかったのだろう。
「落ち着け、ドワ。奴は定期的に見つかっている。いずれ仕留められるさ」
「落ち着ける訳がないだろう、隊長!! やつは息子の仇だぞ!! それに見つかったから何だって言うんだ。皆逃げられているじゃないか!!」
隊長がドワを落ち着けようと声を掛けるが、ドワは隊長の言葉に耳を貸さない。討伐隊の空気が悪くなるから止めてほしいが、強くは言えない。
今回、討伐対象となったのは黒い精霊。ドワはその精霊が息子を食べている所を目の前で目撃している。そんな彼の心情を慮ると強く注意することなどできるはずがなかった。
精霊は魔物だが無害な存在で、ただそこにいるだけの存在だ。そんな精霊がまさか人間種を襲って食べるなんて信じられなかったが、サラまでもが同じ精霊に襲われたと報告してきた。さらにサラの母であるイルは、サラを逃がすため精霊に立ち向かいそのまま戻ってこなかった。
報告してきた時のサラの様子は見るに耐えなかった。全身がボロボロで精神も不安定だった。生き残るためとは言え、10歳の子供が親を見捨てて逃げるしかなかったのだから当然だ。
俺たちは仲間を2人殺されたことに怒り、この町の全戦士が討伐隊に志願した。
報告にあった精霊は、捜索開始して間もなく見つかったが上空を飛んでいたため攻撃が全然当たらず討伐できなかった。また連日姿を見せていた精霊が今日は姿を見せなかったため、ドワのイラつきがかなり溜まってしまっている。
町の近くまでくると、何やら町の方が騒がしい。
「どうしたんでしょうか、隊長? 町の様子がおかしいですね」
「……警戒しとけ。嫌な予感がする」
隊長に尋ねると、いつになく険しい顔で警戒を促される。こんな顔をした隊長は初めて見た。
町に近付くにつれ音が大きくなってくる。そして、微かに血の香りが漂ってくる。……嫌な想像が止まらない。先ほどまで怒っていたドナも嫌な予感がしているのか黙ってしまっている。
町まで辿り着くと門に控えているはずの戦士がいなかった。
「入るぞ」
隊長の言葉に従い、門を開け中に入る。
人が全然いない。町の中央の方から声が聞こえてくる。
「中央に向かう。急ぐぞ!」
隊長が言葉と共に町の中央に向かって駆け出す。その声に余裕はない。俺達も嫌な予感がどんどんしてきて冷や汗が止まらない。
町の中央に辿り着いて広がっていたのは地獄だった。
顔に布を掛けられた死体が大量に整列されていた。その側には、被害者の家族が泣きながら座り込んでいる。中には俺の友人もいた。
「一体何が……」
「襲撃じゃよ、黒い精霊が襲撃してきたんじゃ」
思わず呟いた言葉に返事が返ってくる。返事を返したのは、この町の町長だ。その目は暗く沈んでいる。
「町長! それはどういうことでしょうか?」
「ワシらは侮っていたんじゃ、あのイレギュラーを。やつはお前達討伐隊がいなくなり、手薄になったこの町を襲ったのじゃ。待機していた討伐隊が駆けつけるまでの僅か数分で34人が殺された」
「そんな……」
掛けられた言葉が理解できない。上位の魔物なら確かにその程度の知性はあることもあるが、精霊にそんな知性があるなんて話聞いたことがない。
「レニ、お主の妻と子供も……。すまぬ」
「っ!? 嘘ですよね!!? 嘘だと言ってください!!」
「すまぬ……」
町長が指さす死体に急いで駆け寄る。布を剥がして確認するとそこにいたのは確かに、最愛の妻と娘だった。
「っー-----!!!」
声にならない悲鳴が洩れる。目の前の現実を受け止めたくない。
「皆聞いてほしい!! 本日をもって精霊の探索を中止する」
そこに町長のとんでもない宣言が聞こえてくる。俺はおもわず町長に掴みかかってしまった。
「何言ってやがる、この老人が!! 見逃せってのか、……こんな、こんなことされておいて」
「おい止めろ、レニ!!」
「離せ、ドワ!! 何故お前が止める!!?」
町長に掴みかかった俺をドニが羽交い絞めにして止めてくる。まさかこいつに止められるなんて想像してもいなかった。いきなり掴みかかられた町長は苦しそうにしていた。
「何か理由があるんでしょう、町長」
「う、うむ、奴は危険すぎる。またこんなことが起きてはいけない。そこでお前達には町の防衛に専念してもらうことにしたのじゃ」
「じゃあ、あの精霊はどうするんですか!!?」
「プロに任せる。既に冒険者ギルドに依頼を発行済みじゃ。自分で仇を討ちたい者も多くいるじゃろうが、これ以上被害者を出す訳にはいかないのじゃ。……本当に済まない」
ドニが理由を促すと、町長は苦しそうにしながらも答えを返してくれた。その理由は納得できるものだったが、同意はしたくなかった。しかし、町長の拳が震えているのを見て、町長の側にいつもいる一人娘がいないことに気付き察してしまった。……町長にとっても苦渋の決断であったことを。
悲劇は物語のスパイスだと思います。
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