10.なんか捜索されてません?
「■ー---!!!」
私に噛み付かれた親が痛みで悲鳴を上げる。戦士でもない女性の肌では私の歯を防ぐことができない。歯が肉に食い込んでいく。この傷では、回復魔法等がない限り、もうまともに歩けないだろう。
私は親を放っておいて、呆然とした様子でこちらを眺めている子供に狙いを変えようとする。
ガシッ!!
しかし、親が腕を使って私を抑え込んでくる。肩に深々と傷を受けたのに、よくもまぁこんな力が出るものだ。あまりの力に離れることができない。
「サ◎、逃■◆▲▼!!」
「◇!! お●◎んを◇▼▽いけ○◇!!」
親子が叫びながら会話を行う。耳があるか知らないけど、耳元で叫ぶのは止めてほしい。煩い。聞こえてくる言葉は、あまり聞き取れないが言い争っているようだ。
しかし、親の力が強い。先ほどから子供を襲いに行こうと、親の元から離れようとジタバタしているがまるで動けない。羽で殴打しても全然変わらない。もう骨も何本も逝っていると思うのだが、火事場の馬鹿力あるいは愛の力というやつだろうか。
「行き▽▲○!!」
親がそれまでよりも一際大きな声を出す。すると、子供が涙を溜めた目でこちらを見た後親を置いて走り出してしまった。しばらく言い争っていたが、結論が出てしまったらしい。
あっ、クソ。逃げる。
離せよ、もう。
追いかけようとするものの全然離してくれない。羽での殴打を激しくするが、むしろ力が強まっていく。絶対に離さないと言う意志が伝わってくる。ブレスを撃てば引き剥がせるだろうが、密着している今、ブレスを撃てば爆発して私まで危ないかもしれない。
殺した方が早そうだ。
そう判断すると再び親に噛り付く。歯が徐々に深く沈み込み肉を切断せんとその距離を縮める。
「■ー---!!!」
親は再び痛みで絶叫する。凄く煩い。
そしてついに私の歯は、親の身体を齧り取り親は地面に崩れ落ちた。
「サラ、○して▲」
最期に親は小さくそう呟くと、もう二度と動くことはなかった。
そして親が死ぬと同時に私に莫大な経験値が入ってくる。やはり魔物とは比べ物にならない程の量だ。ぐんぐん力が増す。人間種は獲物として最高級品質なのは間違いないようだ。
しかし、親にはしてやられた。たっぷりと時間を使われた結果、もう子供の姿はどこにも見えない。気配を探っても見つからないので、相当遠くに行ってしまったらしい。今から探してもこの広い森の中、再び見つけることは困難だろう。行先はドワーフの町であることはほぼ間違いないので、先回りも可能だろうが他のドワーフや魔物と出くわすリスク、そして何より仕留めた親を離れた隙に盗まれるリスクを考えると諦めた方が良い。
全く敵ながら天晴。あなたは親の鏡だったよ。名も知らぬドワーフよ、せめて安らかに眠れ。その死体は決して残しはしない。
仕留めた親ドワーフを食べ終えると、食べる前に比べ力が増したことが感じられる。しかし、進化にはまだ足りないようだ。やはり子供を逃がしたことが痛い。あのドワーフを食べられればもっと力を得られたのに残念だ。親の執念に負けたな、本当に。
結局その日は別のドワーフを探し回っても見つけることができず一日を終えた。まぁまだ収穫シーズンは続くし、いつかはドワーフに会えるだろうと思いその時は大して気にせずにいた。
異変が起きたのは翌日からだ。確かにドワーフには会えました。でも会えたドワーフは戦士ばかりだった。しかも異様に数が多い。それまで見かけたドワーフは、多くても1日に2組、3組くらいだったのに今はその3倍以上の10組くらいのドワーフを見かけた。
しかも、彼らは異様に殺気だっていることが分かる。ピリピリしているせいで魔物達が本能に従って避けている。避けていないのは、そんなことを考える頭もない精霊だけだ。そしてドワーフ達は気のせいか精霊を探し回っている気がする。精霊の集団を見つけると、臨戦態勢を取って彼らに近付いていく。そして警戒を解かずに、その集団を見つめるとお目当ての獲物がいなかったのかその場から離れるという行動を繰り返していた。
うん、気のせいじゃないな。ドワーフ達が探しているのは精霊で間違いない。さらに気のせいじゃなければドワーフが探しているのは私のような気がする。精霊の中で見て分かる特別な個体なんて私くらいだろう。私の知らない所で別の特殊個体が発生した可能性もあるが、そんな楽観的な意見は捨てるべきだ。
クソー、私が何したって言うんだ。
心当たりは……あるな。うん。
思えば生態系を乱したり、ドワーフを2人食った場面を目撃されてたわ。最初に食べたドワーフを見つけた者や逃げた子供が町で私のことを報告したのであろう。その結果、討伐隊が結成されたと言ったところか。
私がドワーフを食べたのは自然の営みで、悪いことをしたとは全く思わないが、同種を食べられたドワーフが私を危険視するのは当然の権利だな。また狙おうとしていたのも事実だし、彼らが私を殺そうとするのは間違っていない。
しかし、殺されてやる気などさらさらない。1対1ならともかく複数人の戦士ドワーフと戦っても勝ち目は無いので戦いはしない。けれど彼らが私を見つけるよりも私が彼らを感知する方が早い。通常ならば見つかりはしないだろう。
ここに留まる理由も進化するためにドワーフを食べたかっただけだし、危険度が上がった今無理に留まる必要もない。さっさとここを離れてドワーフ達には見つかりもしないものを探してもらうのも良いが、また良いアイデアが浮かんだ。いや、悪いアイデアが。
正直そんなに成功する気もしないが、失敗しても構わない。その時はこの場所を去って新しい場所に行くだけだ。
私はさっそく行動に移すことにした。
まずは、ドワーフ達の行動を観察することが大切だ。ドワーフ1人1人をよく観察し区別できるようにする。私は顔を覚えるのが苦手だから装飾品や武器に注目して覚えることにしよう。お気に入りなのか、彼らは滅多に装備を変更しない。
数日間の観察の結果、ドワーフの討伐隊は全部で10グループ40人いることが分かった。昼間私の捜索を行い、夜になると町に帰っている。また全部のグループが捜索を行っている訳ではなく交代で2グループは町に待機しているらしい。
町の中に捜索に出ていない戦士ドワーフがもっといる可能性もあるが、気配を探る限りはいない。2グループ程度なら計画を止めるまでではない。
続いて計画を第2段階に移すべく、私は意図的にドワーフの前に姿を現した。これで彼らが探しているのが私でなかったら勘違いで恥ずかしかったが、そんなことはなく彼らが探していたのは私だった。彼らは憤怒の表情で私に向かって攻撃を繰り出してきたが、私は空を飛んでいる。彼らの攻撃はほとんど当たらなかったし当たったとしても進化・成長した私には耐えられるものだった。
そうして私は、全てのグループの前に姿を現し彼らのヘイトを買うことに成功した。欲を言えば町に待機しているグループにも捜索に出てきてほしかったが、それはできなかった。彼らは町の防衛も兼ねているのだろう。
こうしてドワーフ達が私の捜索に躍起になって、森を動き回るようになったことを確認した私は計画を実行に移すことにした。
現在はまっ昼間、ドワーフ達は森の中で私を探し回っていることだろう。だけど私は森にはいません。私の前には今、この世界で初めて見たドワーフの町があった。
次の話から1週間に1話かなぁ。
異世界語は、推測してください。
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