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1.気付いたら死んでた

 気が付くと、白い空間にいた。上を見ても横を見ても下を見てもひたすらに白い空間が広がっている。

 こんな場所に覚えはない。とすると


「夢か」


 誰に聞かせるでもなくそう結論付けた。夢であるという自覚がある夢、いわゆる明晰夢というやつであろう。しかし、こんな空間では何もすることがない。さっさと目覚めてしまいたいところだが――


「いいえ、夢ではありません」


 何もなかったはずの背後から声を掛けられる。思わず後ろを振り返れば、そこには絶世の美女と呼んでも差し支えない女性がいた。言い切れなかったのは、その見た目が人間とは異なっていたからだ。人間離れした美貌はまだ人間であるといえるが、背中に3対6枚の羽根が生えていているのは、目の前の女性が人間ではないと判断する十分な理由だ。そもそも急に後ろに現れたことすら、人間には不可能な芸当だ。


「まだ混乱してますか?」


 シミ一つない透き通るような白い肌、白い髪、誰もが見惚れるような綺麗な顔をした女性が続けて問いかけてくる。問われてから、そういえば突如現れた女性に見惚れて返事を返していなかったことを思い出す。


「その、夢ではないと言うのは?」

「そのまんまの意味です。ここは夢ではありません。特に名前がある場所ではありませんが、あえて名前を付けるなら死後の世界や転生の間といったところでしょうか」

「死後の世界? 転生の間? ……ちょっと待ってください。私は、死んだのでしょうか?」


 情報を集めようと会話をしてみると、目の前の女性から死後の世界や転生といった死に関する単語を聞かされる。告げられた言葉の意味が理解できない。いや、できるが理解を拒んでいる。


「ええ、あなたは死にました。そしてこれから転生してもらいます。いわゆる異世界転生です。あなたのいた世界では、物語として流行っていたでしょう?」

「……その、死んだ記憶がないのですが?」


 自分が死んでいたと告げられたが、私に死んだ瞬間の記憶はない。異世界転生の話は流行っていたが、そういった話にはほぼ必ず死んだ瞬間の記憶がある。

 だから主人公たちは、死んだ自覚があり転生の話を聞かされても動揺せずにいられるのだろう。しかし、私に死んだ自覚はない。いきなり自分が死んだと言われても実感が沸かなくて、本当かどうか判断しかねる。


「ああ、そのことなら当然です。あなたは即死でしたから」

「その、私のここに来る前の最後の記憶は、仕事終わりで帰宅している最中なのですが。安全な道で即死要素はなかったはずです」

「ええ、あなたの記憶に間違いはありません。あなたはトラックに轢かれてもいませんし、病気で突然死した訳でもありません」


 そう、私が覚えている最後の記憶は、会社から帰宅している最中のことであった。昨年、新卒として入社した会社からただ帰っていた。安全な道だった。車が突っ込んできて死亡というテンプレな異世界転生はしていないはずだ。死んだ理由に心当たりが無さすぎる。


「なら何故死んだのでしょうか?」

「私が殺しました。こう、後ろから首をザクっと跳ね飛ばして」

「……はっ?」


 思わぬ答えが返ってきて呆然としてしまう。目の前の女性は、こともなげに自分が殺したと告げてきた。その顔に悪いと思っている様子は一切無い。


「いや、本当はあなたが自然に死ぬまで待っているつもりだったのです。でも、つい待ちきれなくて。……せめて苦しまないように即死にした優しさが裏目に出ましたね」


 目の前の女性の言っていることが事実であると直感が告げている。おそらく私は目の前の女性によって殺されている。目の前の女性は見た目通り人間ではないのだろう。段々と理解が進む。人間ではないから価値観が異なり過ぎる。だから自分が殺したことをこともなげに告げる。この女性に何を言っても無駄だ。


「ふぅー-、よし大丈夫です。あなたの言葉に嘘がないと直感が告げています。死んだことは納得はしませんが理解はしました」

「あっ! 本当ですか、良かった」

「しかし質問はさせて貰いたいです。何故、私に目を付けたのでしょうか? そして、あなたは何なのでしょうか?」


 深呼吸して心を落ち着ける。この際、殺されたことはどうでもいい。責めても悪いとは思ってないのだから時間の無駄だ。それよりも気になることがある。

 目の前の女性は、確かに死ぬまで待っているつもりだと言った。それは、つまり何らかの理由で以前から転生させる対象として私に目を付けていたのだろう。その理由が知りたい。そして、女性の正体も。……まぁ、後者は何となく予想は付いているのだが。


「質問ばかりですね、まぁいいでしょう。後者の質問ですが、あなたの思っている通りです。私は神です。女神ですよ」


 予想通りの答えが返ってくる。


「予想通りですね。しかし、神と言うには姿形が人間に近すぎる気がします」

「不届きですね。勿論、あなたの予想通り人間とは程遠い姿の神もいます。しかし、神にもルールがあって、自分と近い世界の魂しか転生させられないのです。その結果、転生させられる者は神の姿と近いものが多いのです」

「なるほど、神にも色々あるのですね」

「分かってくれましたか。やはり、あなたは良いですね。……話を戻します。

 前者の理由ですが、あなたは私の世界でとても才能がある魂なのです。あなたは先ほど生きていた頃の記憶について話していましたが、自分の名前は分かりますか?」

「? 何を言っているのですか、勿論、分かるに決まって……っ!!」


 女神から促されて、自分の記憶を探って気付く。……名前が思い出せない。いや名前だけでなく自分の容姿も思い出せない。両親の名前や姿、友人のことや何をしてきたか等は思い出せるが自分のことだけ記憶から抜け落ちている。


「思い出せないでしょう。それこそ、あなたが私の世界で才能に溢れている証です。名前を忘れるということは前世の執着を無くすことです。……異世界に転生したのに、前世の名前名乗っている人っているでしょう。その名前って、その世界で異物感が凄いじゃないですか。私、そういうの苦手なのです。だから、私の世界で才能に溢れている人は前世の執着が無い人に設定しているのです」

「……成るほど、確かに前世の名前が使われるのは私もなんとなく苦手です」

「そして、あなたのその感性。それが私の求めているものの一つです」


 感性? 私の感性は、自分でいうのも何だが一般からはズレている。今まで褒められたことがないものを評価され戸惑う。


「あなたは人でありながら、私に近い感性をしています。……生きづらかったのではありませんか? 低俗な周りに合わせるのは。だから今自分が死んだと知っても、まぁいいかと思っているのでは?」

「育ててくれた両親に申し訳ないなとは思っていますよ。生きづらかったのは事実ですが、周りの全てを見下してはいなかったです」

「でも思うところはあったのでしょう?」

「まぁ、はい。そこはそうです。でも、不満を持っていない人はいないのでは?」

「もう分かっているでしょう。その不満の抱き方が、あなたは人間のそれではないのです」

「…………」


 考え方が人間ではないと断言されてしまう。確かに目の前の女神の言う通り、私は世の中に不満が多くあった。明確にはしないが優しいだけの考え方が嫌いだった。ここをこうすればもっと良くなるのにと信じていたことはたくさんあった。そして、それが人権団体に批判されそうな内容だったのは事実だ。だけど、合理的な答えだとは今でも思っている。


「そう、あなたは合理的な判断ができ必要とあれば実行もできました。それだけなら只のリアリストかもしれませんが、あなたは上位者の立場になって楽しむことができる。それは私、いや神の考え方に近いのです」

「先ほどから思っていたのですが、あなた私の心読んでいますよね。止めてほしいです」

「嫌です」


 すげなく断れたが、仕方ないと思える。何故なら神にとって人間は明確な格下であると考えているからだ。格下の言うことをいちいち聞き届けるだろうか? そう聞かれたら私はNOと答える。


 神の立場を人間に、人間の立場はまぁ豚にでも置き換えて考えてみるとしよう。ある日、豚が喋れるようになり「私たちにも命がある。もう食料として食べるのは止めてもらおう。これからは人間と同等の権利を与えてくれ。よき隣人として共に歩んでいこうではないか」と言ってきたとしてどれだけの人間がそれを聞き届けるだろうか? 喋ることを気味悪がったとしても、豚は美味しい上に人間にとって明確な格下だ。食べることは止めないだろう。百歩譲って食べなくなったとしても豚に人間と同等の権利を与える? あり得る訳がない。同じ人間同士ですら肌の色の違いで差別が残っているのに、豚に人間と同じ権利を与える訳がない。


 これと同じで神が人間の言うことなどいちいち聞き届ける訳がない。少なくとも私はそう考えている。上位者は下位者に対して、我がままに振舞っていいのだ。だから先ほどから、身勝手にも思える女神の振舞にも仕方ないと思っている。……こう思えることが女神に評価されているのだろうか?

 しかし、上位者の立場になって楽しむ? それはよく分からない。そんなことをしただろうか?


「ふむ、あなたは戦略ゲームで遊んだことがありますよね。その際に、敵味方を選べるそのゲームで仲の良い者同士を戦わせましたね。その方が面白いからという理由で」

「しましたけど、まさかそのことですか?」

「他のゲームでも、あなたは残酷なことをして楽しんでいたではないですか」

「でも、ゲームのキャラクターは生きていませんし、どう楽しもうと勝手では?」

「ええそうです。しかし、それができない者も多くいるのです。あなたには、上位者として下位者を虐げて遊ぶ資質があるのですよ」

「褒められている気がしない……」

「人の世界ではそうでしょう。しかし、神たる私が褒めているのだからそれでいいではありませんか」


 ゲームで残酷なことをするのが、上位者の振舞になるのか。女神の褒める点がよく分からない。ただ何となく話が合う気がする。考え方が近いのは本当かもしれない。


「私と話しが合い残酷な行動を楽しめ才能に溢れた魂。あなたは、今私が最も必要としているものです。……話しましょう、あなたを転生させる理由を」


 そして、女神は私を転生させる理由を語り出した。


主人公は男性想定。


高評価、ブクマを頂けると作者のモチベが上がります。よろしくお願いします。

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