『賭け』は、成功だね
チミーの素早い連撃を捌き切り、その巨大な剣の面部分を使ってチミーを吹き飛ばす。
大きく後ろに吹っ飛んだチミーは空中で姿勢を整え、脚を突き刺すほど地面に踏み込んで勢いを殺した。
地面から足を引っこ抜き、再び接近戦に持ち込もうと走り出す。
しかし、最強の観測者であるディフォールがそう何度も接近を許してくれるはずが無い。
華麗な足さばきでチミーとの間合いを調節し、横薙ぎ一閃を放つ。
薙いだ剣の通った後が一瞬だけ真空になるほどの勢いに、チミーは思わず足を止めてしまった。
「ッ!」
急停止したチミーの頭上から、振り上げられたディフォールの大剣が襲いかかる。
横に転がってチミーが回避した先へと足を踏み込んだディフォールが、さらなる追撃を放った。
「くうっ!」
心臓を押しつぶすかの如き覇気を纏った突きを、上体を反らせて何とか回避。
脇下を潜って接近を仕掛けるも、踏み込んだ足を戻して再び距離を取ったディフォールの剣に牽制されてしまう。
『永遠なる供給源』を全開に発動した状態のチミーと、ディフォールの速さはほぼ同速。
速さが同じなら、次に有利不利を左右する要素は何か?
『射程距離』である。
下からすくい上げるような切り上げを剣で防御するチミー。
その圧倒的な一撃の重さによってチミーの体が一瞬、宙に浮いてしまった。
「やばっ.....!」
慌てて空中で姿勢を整え着地したチミーだが、そこで生まれた一瞬の隙をディフォールは見逃さない。
大きく足を踏み込んで手を伸ばし、チミーの腹部に手を押し当てた。
「『壊撃』。」
ディフォールの手を伝って、チミーの体に『気』が勢いよく流れ込む。
「───────ッ!?」
チミーの全身に、骨の折れるような激痛が駆け巡った。
指先まで痛みが伝わり切った所でようやく衝撃波が発生し、チミーは勢いよく後方へと吹き飛ばされてしまう。
「痛ッ.....ぐっ...!!」
地面を転がり、腹部を押さえながら歯を食いしばって痛みに耐えるチミー。
上体を起こす事さえできないほどの痛みに苦しむチミーへ、ディフォールがゆっくりと歩みを進め始めた。
『壊撃』。
なんて威力だ。
体に力が入らず、ただただ痛みだけがのしかかってくる。
「ぐっ....うぅ......。」
「力は相当なものだろうが、無駄だ。人間に、私を傷付けることはできない。」
地面に横たわり、ほとんど動けないチミーの状態などお構い無しなディフォールが、剣を構えて追撃を仕掛ける。
「っ.....!」
『永遠なる供給源』を使用し、体を横方向に吹き飛ばす事で振り下ろされた剣を回避。
だが体が動かない事は変わらず、時間を稼いだだけに過ぎなかった。
再び、チミーに接近するディフォール。
腹を押さえて蹲っていたチミーは、片手を開いた。
「....だぁっ!!」
顔を向け、手のひらに生成したエネルギー弾をディフォールの顔面に向かって投げ付ける。
至近距離での不意打ちを、まともに食らったディフォール。
チミーはその手を止めることなく、さらに2発、3発と投げ続けた。
数度の爆発が巻き起こり、辺りは煙で真っ黒に。
しかしチミーの表情は厳しいままだった。
「くっ...そ......。」
痛みが続いている事もあるが、何より煙の中に、動く大きな影が見えたから。
「言っただろう。」
煙を手で割き、デォフォールが煙の中から出現する。
煙の尾を引く純白の鎧に、傷はたったの一つも付いていなかった。
「私に傷を付ける事など、不可能だと。」
残る力を振り絞って放ったエネルギー弾。
それをまともに食らったにも関わらず、ディフォールは蚊に刺されたほどにも感じていなかった。
チミーの胸ぐらを掴み、持ち上げる。
もはやチミーには、抵抗する力さえ残っていなかった。
ディフォールは、チミーを掴んでいない方の手で大剣を逆手に取る。
おもむろに地面へ突き刺し、柄を握った手から『気』を流し込んだ。
「『壊撃』。」
『気』は剣を伝い、突き刺さる地面へ。
次の瞬間、突き刺した部分にヒビが入った。
凄まじい爆発音と共に、『聖なる大地』が激しく揺れる。
剣を始点に、前方の地面が崩れていく。
『壊撃』の凄まじい勢いを受け、『聖なる大地』の一部が崩壊したのだ。
直径数メートルの穴が開く。
ディフォールに掴まれたチミーは、その上に浮く形となっていた。
抵抗する力も残っていない、ただの人間同然なチミー。
今ここでディフォールが手を離し、この高さから落下すれば。
助からないだろう、確実に。
「さらばだ、勇敢なる人間よ。」
そう言い残し、ディフォールはチミーを掴む手を離した。
朦朧とした意識の中で、風の触れる感覚だけが僅かに感じ取れる。
チミーは自由落下に身を任せ、ただただ『聖なる大地』から落下していた。
[おい......おい!]
チミーの意識に、『知識の宝珠』が呼びかける。
[このままじゃ、君は地面に打ち付けられて死ぬぞ!]
「あ、そ...っか。」
『知識の宝珠』に呼びかけられ、僅かに意識を取り戻したチミー。
軋む体を何とか動かし、絞り出すように最後の『永遠なる供給源』を発動した。
ふわっ。
墜落寸前。
チミーの体が僅かに浮いた後、背中から落下する。
落下の衝撃で土や砂が飛び散る中、チミーは動かなかった。
『永遠なる供給源』の力を使い切ってしまった今の彼女は、普通の女子高生と何ら変わらない。
『聖なる大地』に穴が開くほどの威力を持つ『壊撃』を受けた人間に待っているのは、死だけだ。
僅かに聞こえる地上の喧騒さえ、だんだんと遠のいていく。
チミーは自身へ確実に忍び寄る、『死』という概念を実感していた。
だが、しかし。
チミーの指先が、僅かに動く。
手のひらが無い力で地面を掴み、その目は薄らと開かれる。
「そう....か.....。」
今にも消えそうな大きさで、チミーが何か理解したように声を発した。
身体を持ち上げようとする力はだんだんと強まっていき、ついに上半身を起こす事に成功する。
「アイツは...人間には傷つけられない、って言ってた......。」
『人間に、私を傷付けることはできない。』ディフォールはチミーにそう言っていた。
チミーはその言葉の意味を、朦朧とした意識の中でずっと考えていたのだ。
最初は単に技術差の話かと思っていた。
だが残っていた少ない力とはいえ、相当の威力を持つエネルギー弾を食らっても傷一つ付かなかった部分に、チミーは大きな違和感を抱いた。
あれほどのエネルギー弾が全く効かないのなら、チミーの剣をわざわざ避け、防御する必要が無かったはず。
つまり、チミーの持っていた剣は彼に通じるのだ。
エネルギー弾は効かず、剣が通じるのは何故か?
答えは簡単。
剣は『創造の宝珠』を使って作成したものだからだ。
「人間である私のエネルギー弾は効かなくて、『管理者』の核である『創造の宝珠』から作り出された剣は効く。.....『人間には傷付けられない』ってのは、そのままの意味だったんだね。」
片膝を立て、ゆっくりとその身体を持ち上げていく。
その目は、ルビーのように透き通った赤い色をしていた。
チミーのその目を見た『知識の宝珠』が、何かを察してしまう。
[まさか.....君は。]
「ええ、人間を『越えた』のよ。」
立ち上がったチミーからは、これまでとは別次元の覇気が放たれていた。
これこそが、『7番目の観測者』コインの女が『賭け』を行った理由。
『管理者の核』と呼ばれるほど強大な力を持つ『宝珠』。
そしてそれに匹敵する力を生み出す呪術『蠱毒』。
その両方を持つチミーなら、7つの『宝珠』の力を引き出せば。
『人間』という枠組みを超越し、『星の管理者』にさえ迫る存在となるかもしれない。
『聖なる大地』で座っていた『7番目の観測者』は、ビリビリと地上から伝わってくる覇気に思わず口の端を緩めてしまう。
「『賭け』は、成功だね。」
そして今、彼女の賭けた通りに。
チミーは人間を、超越したのだ。




