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少し、寄ってもいいかな

下風は、続けて2つ目のファイルを差し出した。


「そして、その中でも特に危険な人種が.....これ。」


下風が指差したのは、見た目だけで見れば平凡な人とあまり変わらないような人物の写真。

しかし彼曰く、()()はバケモノなのだという。


「『吸血鬼』。元々は遥か古代の生物として海外の資料に幾つか載っている程度のものだったんだけど、『それ』の遺伝子が何故か混ざってしまった人が居たんだ。」


吸血鬼.....人の血を食糧として生きる怪物。

チミーは色んな漫画を読んでいるため、その単語はよく知っていた。

創作の世界の生き物だと思っていたが、実際にモデルが.....どころか、それと混ざったものが存在しているとは。


「.....そういえば!」


チミーはそこで、ある事を思い出した。

『マスク』と一緒に学校へ現れた、二坂と戦っていた大男の事を。

凄まじいまでの再生能力を有し、黒田に光を当てられた際には異様なほど動揺していた、あの男だ。


「それは、本当なのか?」


チミーからその情報を聞いた下風は、目を丸くしてチミーに聞き直した。

その後、鋭い眼差しに変わり、虚空を眺める。


「.....もしかしたら、そいつは『吸血鬼』かもしれない。だとしたら大変だ。」


『吸血鬼』は人の血を食糧としている。

そんな怪物が人の集まる学校に現れたという事は、かなり良くない状況なのだろう。

手がかりが掴めたと思ったが、素直に喜べない。


「光を当てると煙が出る、って特徴は吸血鬼以外だと今のところ無いからね.....。」


そう呟いて何かを考えるように俯く下風。

チミーは次の言葉を、ただ黙って聞いていた。


「吸血鬼は、さっき言ってた通り光.....厳密には紫外線に弱く、当たると肌が過剰反応を起こして燃焼を起こす。どれだけ傷を加えても再生する吸血鬼の、唯一の弱点だ。」

「めちゃくちゃ不便ですね...。」

「そう、今まで人の被害があまり表に出ていなかった大きな要因は、そこにあるんだと思う。」


下風はソファから立ち上がり、机に手を置いた。


「とにかく『吸血鬼』が現れたとなれば、一刻も早く見つけ出さなきゃならない。あまり日中動き回りたがらない生き物だとはいえ、今回と同じような事を再びやらないとは限らないからね。」


そこで下風は、チミーにある『お願い』を頼んだ。









「って言われてここまで来たんだけど...」


自転車を止めたチミーは下風から預かったメモを片手に、目の前にそびえる大きな門を見上げた。


ここは、『鏡町』と呼ばれる場所。

文字通り、地面が鏡のように反射している不思議な場所である。

数年前にとある魔法使いが引き起こした現象による産物だと言われているが、チミーはあまりその辺に詳しくはない。


鎧姿の門番に手荷物検査を受けた後、門が開けられる。

大きな門をくぐった先には、噂通り美しい鏡の道が存在し、人々が行き交っている。


その幻想的な景色から、観光地としても人気の場所であるこの町。

チミーはそんな光景に胸をときめかせながらも、自分に課せられた用事を思い出して頭を少し振った。


「...よし。」


チミーは小さく呟いて気合いを入れた後、近くの建物の戸を叩く。

ここはいわゆる案内所のような場所で、下風は既に話は通している、と言っていた。


「はい?」


建物の戸が開き、全身を鎧に身を包んだ、まるで西洋騎士のような格好をした人が現れる。

普段あまり見ないような変わった格好に少し焦りつつも、チミーは目の前の騎士に要件を伝える。


「あの、下風さんに頼まれて来たんですけど。」


背の高い騎士の兜を見上げながら、チミーはそう伝えた。

騎士は下風の名を聞いた途端、納得がいったように頷いた。


「あぁ〜...なるほど。下風さんの!了解了解。『神の目(ゴッド・アイ)』の所まで案内するよ。ちょっと待っててね。」


そう言って騎士は建物の中に戻った後、数秒もしないうちに扉を開け戻ってきた。

騎士の手早い支度に、チミーは少し驚く。


「じゃ、行こうか。」






騎士は鏡の地面を歩きながら、隣を歩いているチミーにどんどん町の景色を紹介していく。

観光地という事もあり、こういうのには慣れているのだろうか。


「僕はシスニル。ここ、鏡町の騎士をやっているんだ。君は?」

「染口チミー...です。えっと、何でそんな格好なんですか?」

「あぁ、この甲冑かい?」


チミーは一番気になった質問を、ようやく聞くことができた。

シスニルと名乗った騎士はそんな疑問を、すらすらと答えていく。


「この鏡町の周囲にはギルガンが多くてね。時々侵入してくるんだ。だからあちこちに武装した騎士がいて、市民を守る活動をしてるんだ。まぁ、普段はこんな感じで、道案内とかばっかりだけど.....あえて甲冑にする事で、観光地としての側面を引き立てる役割もある。」

「へぇ〜、大変なんですね。」

「ここでの仕事を何年もやってるから、僕もそろそろ腰とか痛めないか心配だよ。」


シスニルは腰をさする動作をしながら、冗談ぽくそう返す。

甲冑を着ているため表情は分からないが、話し方や仕草を見る辺りそこまで歳を取っているようには見えない。


しかし何年もここで働いているらしいので、ある程度ベテランの雰囲気が漂っている。

町を歩いていく中で、何かを見つけたシスニルが、思い出したかのように手を叩いた。


「少し、寄ってもいいかな?」






シスニルが指さした先には、アクセサリー類を販売している露店が立っていた。

大小様々で煌びやかなアクセサリーが所狭しと並んでいるが、チミーはファッションなどにあまり詳しくない。

キラキラ輝く小物から自然と目を逸らし、同じように並んでいる他の露店をキョロキョロと眺めていた。


シスニルもチミーと同様、あまりこういった店に慣れていないのだろう。

並べられたアクセサリーを片っ端から見つめては、困ったように体を固めている。


「プレゼント...とかですか?」

「あぁ、そうなんだ。」


隣の露店で買ってきたホットドッグとコーラを両手に持ちながら、シスニルの背中越しにアクセサリーを覗き込んだチミーが尋ねる。


「騎士の見習いで、君と同じくらいの歳の女の子がいてね。もうすぐ一人前の騎士になれるから、その時のために祝いの品を買ってあげようと思って。」

「なるほど...」


質問に答えることで、少しリラックスできたのだろうか。

シスニルは再び顔を動かし、やがて1つのアクセサリーに目を付ける。


シスニルが選んだのは細いチェーンに、長方形のストラップが付いたシンプルなペンダントだった。

店主に包装してもらっている間、独り言のように選んだ理由を語る。


「あの子は結構大人しい子でね、派手なのは好まないかなと思ってこれにしたんだけど...果たして気に入ってくれるだろうか?」

「大丈夫だと思いますよ。何であれ、贈り物って貰うだけで嬉しいものです。」

「うむ....そういうものか。」


励ましの相槌を打ったチミーに、だいたい納得がいったように顎に指を添えるシスニル。

そうこうしているうちにペンダントの梱包は終わり、代金を払って店を後にした。



その瞬間だった。



凄まじい破砕音が鳴り響く。

その衝撃に露店が少し揺れ、小物のアクセサリーが踊る。


ホットドッグを口に咥えたまま固まった状態のチミーが、シスニルの顔を見る。

表情は見えないが、張り詰めた空気を纏っているのが分かる。

つい先程とは全然違う、戦闘体勢の空気だ。


シスニルは張り詰めた空気を纏いながら少し頷いた後、何が起こったのかを簡潔に呟いた。



「.....ギルガンだ。」

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