おっと、悪くない。
「こいつは『反転』の宝珠。歴代の『管理者』の中でも、特に優れた者が持ったいたとされる『核』よ。」
チミーが腕を構え、大木のような太さの破壊光線を放つ。
だが、やはり破壊光線は『観測者』の目の前で消滅。
「効果は単純、あらゆる概念を反転させる事ができる能力。今の破壊光線も、ね。」
直後に空気が震えた後、先ほどチミーが放った破壊光線が、『観測者』の手からチミーに向かって放たれる。
咄嗟に側転で回避したチミーを見て、『観測者』はケラケラと軽い笑い声を上げた。
「この宝珠にかかればあらゆる概念の裏も表も自由自在。理論上、あなたが私を倒す事は不可能なのさ。」
地上にて、チミーが殴った『6番目の観測者』クルグラとは明らかに違う。
その圧倒的な余裕と『宝珠』の力に、チミーの直感は『勝てない』事を告げた。
「どうすれば.....」
「そこで、だ。」
思わず弱音を呟いたチミーに対し、『観測者』は人差し指をまっすぐに立て、提案するように口を開いた。
その後、持っていた『宝珠』をチミーの元へ放り投げる。
突然放られた『宝珠』を慌てて受け止めたチミーに、彼女は言った。
「あげるよ、その宝珠。」
「......は?」
唐突に『宝珠』を投げ渡され、それを寄越すと言った『観測者』の言葉に、チミーはひどく混乱していた。
真っ先に罠を疑ったが、彼女ほどの人物がこんな見え見えの罠を仕掛けるだろうか。
いや、それすらも彼女の思惑だったら.....?
答えの見つからない思考を、延々と繰り返してしまう。
思い切って、彼女に聞いてみることにした。
「何で急に.....?」
当然のごとく道を開け、続く道を手で示している『観測者』へ、チミーは素直な疑問を口に出した。
それを聞いた『観測者』は一瞬キョトンとした表情を浮かべた後、大きな声で笑う。
「あっはっはっは!まぁ、急にこんな事されたらテンパっちゃうよね。ずーっと私の事を、敵だと思ってたんでしょ?」
ひとしきり笑った後、『観測者』は首を傾げるチミーに視線を戻した。
「そもそも『管理者』や『観測者』達は、人間の敵じゃないんだよねぇ。」
『星の管理者』はこの星を守護する役目を持つ存在。
そしてその補助的な役割を持っているのが『観測者』達だ。
「今回の件は、後継者を失った『管理者』が自身の死後、ギルガンに人類が侵略される事を危惧して行った行為だ。人類側がどう感じているかはさておき、人間の事を思った行動であるのは間違いない。」
『観測者』は一息ついた後、チミーに背を向ける。
遠くに見える、さらに上へ続く階段を眺めながら、話を続けた。
「私は面白い事が好きだ。変わったもの、激しい戦闘。面白ければその内容は問わない。だから手に入れた『暴走の宝珠』で色々実験したりしてた。」
実験、とはライカやヴァルグリーズの件だろう。
結局制御はできないと判断し、ヴァルグリーズの件を最後に『暴走の宝珠』を切り捨てた、と彼女は語る。
再びチミーの方を振り返った彼女は目を細め、薄ら笑いと共に言う。
「そんな私だからこそ、『管理者』のやり方は"つまらない"と思ったんだよね。」
「つまらない.....?」
「だって、『管理者』って人間より圧倒的に上位の存在じゃん。そんなのがアッサリ星を消滅させるよりも、弱いはずの人間が抗ってどんでん返しを起こす方が面白いじゃない?」
星が生きるか、それとも滅ぶか。
壮大な二択を面白いか、面白くないかで決める彼女の価値観に、チミーは半ば呆れていた。
そんなチミーなど気にも留めず、『観測者』は指に挟んであったコインを弾く。
黄金色の光が、回転によって宙を眩しく彩っていた。
「だからさ、私は人類に賭けようと思ったの。」
先程までふざけていた彼女の表情が、一瞬だけ神妙なものに変化した気がした。
すぐに顔を戻し、親指で続く道を指さす。
「たとえ一人の人間だろうと、『宝珠』が関われば絶大な力を得られる事はよく知ってるでしょう?それが『反転』を合わせて計7つ。全ての力を引き出すことができれば、『管理者』にだって勝てるかもね。」
「......アンタの事は好きじゃないけど、今回に関しては感謝しておくわ。」
チミーはそう言って『観測者』の前を横切り、続く土の道路を一気に駆け抜けた。
土煙を舞い上がらせ、あっという間に離れていくチミーの背中を眺める『観測者』。
「...ちょっとマジメにやり過ぎちゃったかな?まぁいいや。」
彼女は己の発言を振り返りながら、手に持っていたコインを弾く。
宙を勢いよく舞い、広げた掌に落ちたコイン。
その向きは、表を向いていた。
「おっと、悪くない。」
コインの面を見た『観測者』は、ニヤリと笑みを浮かべていた。
ひたすらに続く道を走っていたチミーは、突然足を踏んばって急停止した。
「ほう。『7番目の観測者』すら破ったか。」
現れたのは、滝のように立派な髭を伸ばした、3メートルは越えているであろう巨体を持つ老人『1番目の観測者』ホロアレス、20代後半くらいの姿をした金髪の男『3番目の観測者』ラジド、そして『6番目の観測者』クルグラの3人。
「たった一人の人間相手に、『観測者』サマが3人も来るなんて。随分と豪勢な歓迎ね?」
チミーの言葉に対し、ホロアレスが髭を撫でながら静かに返す。
「この『聖なる大地』に足を踏み入れた人間は、初めてだからのう。」
「それに、『7番目』ですら突破される始末。」
「この期に及んでたかが人間と侮るほど、我々も馬鹿ではありませんよ。」
3人の発言から、チミーが相当な警戒を成されている事が伺える。
しかし、彼らには見落としているものがあった。
チミーでさえ、直前まで気付かなかったほどである。
「あー.....初めて足を踏み入れた人間って言ってたっけ?どうやら"団体客"みたいだけど。」
チミーの発言と同時に、ホロアレスの肩から血が吹き出した。
「ぬうっ.....!?」
開いたのは、抉れるような傷跡。
ホロアレスが顔を上げると同時に、チミーの背後から煙が爆発する。
「曇乱。」
煙が晴れ、現れた『団体客』。
"忍術師"伊蛾山。
"魔法使い"結。
"改造人間"胡麻原。
"呪術使い"島本。
"煙星四天王"岸山。
そして"座標使い"桜。
6名の戦士が、そこに立っていた。
「伊蛾山流.....『雲隠』!気付かなかっただろう?闇にて暗躍する伊蛾山の忍にかかれば、造作も無き事よ。」
「.....一気に7人も!こりゃあ間違いなく、大失態だな。」
冷や汗と共に苦笑いを浮かべる『3番目の観測者』ラジド。
心底不愉快そうな表情のクルグラが、舌打ちと共に2人の『観測者』へ提案した。
「...この数の人間と、あの女を同時に相手するのは無理ですよ。」
「となると、1人あたり2人かの。」
「あの子自体は最悪、『4番目』が止めてくれるしな。」
3人の『観測者』が話し合った後、チミーを通して残りの6人と対峙する事に。
一緒に戦おうとしたチミーだったが、桜がそれを許さなかった。
「行って、チミーちゃん!私達は大丈夫だから。」
その言葉を聞いたチミーは決心したように口を結び、大きく頷く。
「......パパッと世界、救ってくるから!それまで、死なないでね。」
6人にそう告げたチミーは、『観測者』達を通り抜けて先へ進んだ。
チミーを見送った6人の人間と、3人の『観測者』とが睨み合う。
3人の『観測者』を皆に任せたチミーに残っている相手は、最後の『観測者』と『星の管理者』。
この2名のみである。




